[KATARIBE 29461] [HA06N]小説『一円玉の労働』

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Date: Fri, 28 Oct 2005 01:40:11 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29461] [HA06N]小説『一円玉の労働』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
00:46 <Role> rg[hukira]HA06event: 一円玉がカップアイスのスプーンをくれた ですわ☆

時間オーバーの上、ちょっとお題の処理の仕方、というか話の展開に難有りと
いう感じです。
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小説『一円玉の労働』
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登場人物
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 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

本編
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 確かに秋よりは夏の方がアイスを食べるのに向いているだろう。
「しかし、だからといって秋に食べてはいけないというわけではあるまい」
 神羅はコンビニのアイス売り場で立ち止まった。新発売と書かれたポップの
下には栗味のカップアイスが置かれている。
「栗か……」
 しばらく手に持ってくるくると回しながら買うべきかどうか考える。
「そういえば、最近甘いものを食べてへんな」
 必要もない言い訳を自分でしつつ、昼食のサンドイッチなどを選んで一緒に
レジへと持っていく。
「いらっしゃいませ」
 無愛想な店員が黙々と品物をスキャンしていく。
「合計で536円になります……はい、丁度お預かりします……ありがとうござい
ました」
 店員の表情が変わるのを見ることなく、コンビニをあとにして、研究室へと
向かった。
 午前中の研究室に人がいることはほとんど無い。神羅が所属する研究室は6階
にあり、講義の声も届かず静かなものである。
 研究室にある古い冷凍庫に先ほど買ってきたアイスを入れようとして、あるこ
とに気付く。
「スプーンがない」
 コンビニの袋から買ってきた物を全部出してみても、普通は付けてもらえるア
イスのスプーンはなかった。
「おのれ、あの店員め……」
 とはいえ今からもらいに行くのも面倒ではある。
 研究室を見回してみても、スプーンはない。インスタントコーヒーはあるの
に、スプーンがないのである。
「よく考えてみると、スプーンがないというのは問題やな」
 そう呟くと、神羅はポケットから小銭入れを取り出した。あいにく中には、先
ほどのコンビニで丁度払ったせいで、一円玉しか入っていなかった。
「ま、スプーンくらいやったら運べるやろ」
 神羅は一円玉を取り出して指ではじいた。宙を舞う一円玉が虫の形を取り、神
羅の周りを円を描くように飛ぶ。
「悪いねんけどな、大学生協の入ったところに確かアイス用のスプーンが置いて
あるはずやから貰ってきて」
 そう言って研究室の窓を開ける。虫はその窓から飛んでいった。
「まあ、今は誰もおらへんやろ……」
 放ってから、人に見られたときのことを心配しても既に遅い。無事に一円玉が
返ってくることを祈りつつ、神羅はコーヒーを作る。
 コーヒーが猫舌でも飲めるくらいの温度になった頃、スプーンをくわえた虫が
ふらふらと帰ってきた。窓から中に入り、神羅の机の上に着地すると一円玉の姿
に戻る。
「お疲れ。せめて五十円玉当たりにしとけばよかったんやろうけど」
 苦笑いを浮かべながら、いそいそと冷凍庫からアイスを取り出して自分の席へ
着いた。
 持ってきてもらったスプーンでアイスをすくい口に運ぶ。しばらく、舌で味
わって飲み込んだ。
 眉をひそめてコーヒーを一口。そして、大げさにがくんと項垂れた。
「失敗した……」
 これは、というほどのおいしさでもなく、何とも形容しがたい味がまだ口に
残っている。
 神羅はもう一口食べて、溜め息をついた。

時系列と舞台
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2005年10月

解説
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新商品に手を出すというのはある意味で賭けなのです。

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