[KATARIBE 29458] [HA06N]小説『腹を空かせた布きれ』

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Date: Thu, 27 Oct 2005 01:52:31 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29458] [HA06N]小説『腹を空かせた布きれ』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
一日一三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は

01:04 <Role> rg[hukira]HA06event: ふたを開けると腹を空かせた布切れが入っていた ですわ☆

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小説『腹を空かせた布きれ』
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登場人物
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 高瀬夕樹(たかせ・ゆうき):http://kataribe.com/HA/06/C/0581/
  高校生で歌よみ。創作部所属。

本編
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「変なのが入ってるから開けないでねー」と、二年の先輩が裁縫箱を部室に置
いてどこかへ出かけて行ってから、2時間が経過しようとしていた。
 部室には夕樹を含めて三人しかいない。
 夕樹は相変わらず句集を読み、一人は小説を書き、もう一人はやけに古めか
しい革の表紙の分厚い本を読んでいる。誰も言葉を発さず、部室には鉛筆が原
稿用紙を走る音とページを繰る音が響いていた。
 そんな静かな部室に、不意にガサリと物音がした。 
「ん?」
 顔を上げて辺りを見回す夕樹。他の二人も同様に辺りを見回している。
 部室に誰かが入ってきたわけでもなく、何かが動いたような形跡もない。
「気のせいか?」
 一人が言う。
「でも、三人とも聞いてるってことは気のせいではないのでは?」
 夕樹が答える。
「あれが動いたんじゃない?」
 もう一人が裁縫箱を指さした。三人の視線が、その裁縫箱に集まる。しばら
く見つめていると、裁縫箱がガサリと震えた。
「……動いたねえ」
「動きましたねえ」
 三人は裁縫箱の方にそっと近づく。見かけは普通の小学校の家庭科の授業で
使ったような普通の裁縫箱だ。
「そういや、あいつ何か言ってたな」
「確か、変なのが入ってるから開けるな、とか言ってませんでしたっけ?」
「言ってたような気がする」
 三人は顔を見合わせる。
「開けるか」
「開けるか」
 夕樹以外の二人の意見は一致していた。
「……開けるんですかあ?」
 夕樹だけが嫌そうな顔をする。
「だって気になるだろう?」
 そう言われて渋々頷く。
「じゃ、開けるぜ」
 一人がゆっくりと裁縫箱の蓋をそっと開けた。中は二段構造になっていて、上
の段には針やはさみが入っている。この段には別に動くようなものは入ってな
かった。
「この下か」
 上の段を持ち上げて、中を覗き込んだ。
「……あ?」
 変な声を上げた部員につられて、夕樹ともう一人も裁縫箱を覗き込む。
「あ?」
「は?」
 中を見て二人とも同じように変な声を上げた。
 裁縫箱には一枚の布といろんな色の糸が入っていた。布には途中まで仕上がって
いる犬の刺繍がある。
「動いてる」
「動いてますねえ」
 その刺繍の犬が布の上でグニグニと動いていた。それに併せて布が動き、その結
果、先ほどの変な音がしていたのだった。
「……なんか糸を食べてるみたいですよ」
 夕樹は刺繍の犬の口当たりを指さした。確かに、複数の糸がスルスルと犬の口の
中へと消えている。ご丁寧にちゃんと咀嚼しているようで、犬は口をモグモグと動
かしていた。
 犬の中へと糸が消えていくに従って、作りかけの犬の体が作られていく。
「自分で自分を作ってんのか」
 呆れているような、感心しているような口調で一人が言った。そして、指でその
犬の頭を軽く叩いた。
 食事の邪魔をされたのが気に障ったのか、犬はその指に食らいつこうとする。布
が裁縫箱から出ようとしていたので、夕樹は慌ててふたを閉めた。
 裁縫箱はしばらくがたがたと揺れていたが、やがて犬が諦めたのか静かになっ
た。
「……とりあえず、何も見なかったということで」
 指を咬まれそうになった方が言った。夕樹ともう一人も無言で頷き、元いた場所
へと戻る。
 そして、再び部室にはページを繰る音と鉛筆を走る音しかしなくなった。 


時系列と舞台
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2005年10月。創作部部室にて。

解説
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触らぬ神に祟りなし、ということです。

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