[KATARIBE 29432] [HA06N] 小説『金木犀とカナブン』

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Date: Fri, 21 Oct 2005 22:09:47 +0900
From: EasyPost <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29432] [HA06N] 小説『金木犀とカナブン』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <20051021220551.16E7.FURUTANI@mahoroba.ne.jp>
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2005年10月21日:13時33分46秒
Sub:[HA06N]小説『金木犀とカナブン』:
From:ふきら


ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は
<Role> rg[hukilabo]HA06event: 綺麗に光るカナブンがつぶらな瞳で見つめてきた 
ですわ☆

でした。
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小説『金木犀とカナブン』
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登場人物
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 金木犀の少女:金木犀の精。

 火川猛芳(ひかわ・たけよし):http://kataribe.com/HA/06/C/0580/
  帆川神社の宮司。

本編
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「つまんない……」
 橙を基調とした色の着物の少女が縁側でぼんやりと座っていた。平日の昼間
はまるで面白くない。テレビを付けてみても、訳の分からないものばかり。
 家には彼女一人しかいない。神羅とフィルオナはそれぞれ大学と中学校に行
き、猛芳は用事があるからといってつい先ほどから出ていった。神羅の式神で
ある一白は朝から姿を見ていなかった。
「せっかく少しの間しかおらへんねんから、もっと遊んでくれてもええのに」
 文句を言いながら、足をぶらぶらさせているうちに勢いがついて、草履が少
女の足から飛んでいった。
 草履は少し低い放物線を描いて彼女から3メートルほど先のところに落ち
る。
「ありゃりゃ」
 少女は飛んでいった草履を見つめた。もっとも、見つめたところで勝手に戻
ってくるわけでもないし、誰かが持ってきてくれるわけでもない。草履はぴく
りとも動かず、依然としてその場にある。
「しゃあないな……」
 あいにく、縁側には他の履き物は置いていない。となると、あそこまで片足
で行かねばならなかった。
 彼女はとりあえず、ぴょんと一歩前に跳んだ。しかし、草履までの距離がや
けに長く見える。その場でしばらく考えて、
「あかん…… 私には無理や……」
 あっさりと諦めてしまう。少女は一歩戻って、再び縁側に座った。
 それでもどうしたものかと考えながら、少女は再び草履をじっと見つめる。
 やがて、どこからか一匹のカナブンが草履の近くへやって来た。カナブンは
草履の上をしばらく飛んでいたが、彼女の草履の上に降りた。羽をしまった背
中の殻が太陽に当たってきらきらと光っている。丁度、鼻緒の部分に止まって
いるので、まるで草履のアクセサリのように見えた。
「できれば、持ってきてくれへんかな」
 少女が何となく草履の上のカナブンに呟く。それが聞こえたのか、或いは分
かったのか、カナブンは少女の方へ頭を向けて、彼女の方をじっと見た。
「そう。こっちの方へ……って、まあ無理やわな」
 自分で言っておいて、苦笑する。
 カナブンは少女の方を向いたまま、じっと草履の上に止まっている。
 そんなに時間が経たないうちに、境内の方から人の足音が聞こえてきた。少
女がそちらの方向を見ると、片手に何かが入った袋を持った猛芳がこちらに向
かっていた。
「おかえりー」
 彼女は座ったまま、手を大きく振る。
「おうよ」
 猛芳が空いている手で小さく振り返す。そして、落ちている草履の前まで来
て首をかしげた。
「これはお前のか?」
「うん。持ってきてくれると嬉しいねんけど」
 猛芳は草履の上に乗っているカナブンを驚かさないようにそっと草履を拾い
上げると、ゆっくりと歩いてきた。
「ほれ」
「ありがとう」
 少女はカナブンをそっとつかむと、手のひらにのせた。それはしばらく彼女
の手のひらの上でもぞもぞと動いていたが、やがて羽を広げて飛んでいった。
「あ……」
 カナブンの体が日光を反射して、一瞬だけ輝いた。

時系列と舞台
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2005年10月。帆川神社境内にて。

解説
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金木犀のいる日々、ちょっとした一こま。

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