[KATARIBE 29430] [LG02N] 小説『お人よし』

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Date: Fri, 21 Oct 2005 11:01:36 +0900 (JST)
From: nagisame <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29430] [LG02N] 小説『お人よし』
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2005年10月21日:11時01分35秒
Sub:[LG02N]小説『お人よし』:
From:nagisame


三十分一本勝負〜、失敗orz
一時間かかりました。敗因は前半部ですね、はい。

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小説『お人よし』
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登場人物
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キーファ・オーキッド:
 スカード・スパイダー号甲板長のカマキリ娘。
ハルマサ・ヤマモト:
 機動兵器製造企業の社員。おじさま。

招待
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 ペルセウス腕の地球系惑星では有数の交易星、コーベ。
 そこには、様々な人や物が集まる。もちろん、それを扱う人間も。
 そして、その物資を様々な星に運ぶ運送屋にとっても、この星は
 特別な意味を持っている。
 そんな星の一角に、一人の女が居た。
「あとどれくらいかかえるでしょうかね」
 バスの二人掛け座席に座っているのは、緑髪をさらりと流した若い女。
 白いワンピースを纏い、窓の外の風景を見る姿は、
 そのまま絵にしてしまいたいほどに決まっている。
 ただ一点、その両手に生える鎌を除けば。
「相変わらず、視線が痛いです」
 誰に言うとも無く呟く女の両手には手はなく、代わりに、白く輝く大鎌
 が伸びている。鎌の切っ先には小さな鈎があるが、その程度では細かい
 作業は無理であろう。
 しかし、彼女の一族ではそれが普通である。蟷螂(カマキリ)の性を
 その身に宿した、誇り高き戦士の一族では。
「そう、気にしない」
 いちいち視線など気にしていては面倒。そう思っても、どう見ても目立つ
 大鎌や、白いワンピースに見える外骨格。外骨格から谷間を覗かせる
 豊かな胸に、容赦なく視線があびせかけられる。
 これが嫌で、いつもなら空いたバスを使うのだが、今日だけはしかたがない。
 このバスに乗り込んでいる全員が、同じ場所へ向かっているのだから。
「新作展覧会ですか、面白そうですね」
 発端は、女の乗る輸送船の乗組員に、機動兵器を買ってやったことから
 始まる。そのメーカーが、オーダーメイド商品購入者に向けて、新作機動兵器
 の展覧会をするという。それに、彼女も招かれたというわけだ。
「アディの分まで、見ておかないといけませんね」
 機動兵器を買ってもらった当の本人は、当日までにはしゃぎすぎて熱を出して
 倒れている。仲間ながらに子供っぽいと呆れてしまうが、そういうところも
 あの少女の魅力なのだろう。
 そして、自分には、それは無理だ、と思う。
 周囲の奇異の視線を跳ね返すようにして生きる自分には、そういう生き方は
 できない、そう、静かに思う。
『到着シマシタ』
 合成音とともに、バスが止まる。ぞろぞろと降りる客を横目で見つつ、
 女は招待状の文言を思い出していた。
 ――たまには、気を休めるのも管理職の勤めですよ。
「余計なお世話です」
 誰に言うともなく呟いて、女は座席から立ち上がる。
 その鎌が誰もひっかけていないことを確かめてから、女は歩きだす。
 ――楽しい時間を キーファ・オーキッド様へ。
「本当に楽しい時間に、なるのでしょうかね」
 ぽつりと呟いて、キーファはくすりと微笑んだ。

暴走
----
 飛び交う怒声。甲高い悲鳴、逃げ惑う人々。
 その人の群れをかきわけて、キーファは先へと進んでいた。
 こういうときには役に立つ鎌を盾のように使い、群集の逃げる方向とは
 逆の向きに飛び出した。
 そこには、見知った男の姿がある。
「ヤマモトさん、なにがあったんですか!」
 甲板仕込みの大声を張り上げるキーファに、ヤマモトが慌てて振り向く。
 その顔には、確かな焦りの色があった。
「キーファさん、どうして逃げていないんですか!」
「ヤマモトさんが逃げていないからですよ」
 ヤマモトの隣に並んだキーファは、ようやく、その場の状況を理解する。
 飾り立てられた展覧会会場は、無残に破壊されようとしていた。
 展示されていた機動兵器が倒れ、さながら戦場の跡のようになっている。
「これは……」
「等身自律機動兵器“アシガル”が暴走してしまいまして。若手の社員
 が、状況プログラムを間違えたんですよ」
 ヤマモトが説明している間にも、機動兵器の残骸越しに、破壊の音が
 響いている。このままでは、展覧会会場自体が危ういだろう。
 迷っている時間は、ほとんどなかった。
「ヤマモトさん、敵の数は」
「一体ですが……まさか、機動兵器相手に生身で戦うつもりですか!」
 無茶だ、と言わんばかりのヤマモトに、キーファは微笑んでみせる。
 しかし、実際、無茶ではあるのだ。キーファの鎌ももってしても、
 鋼鉄を切り裂けるほどの威力はない。それだけの威力を持つ奥義は、
 何度も使えるものではない。
 しかし、この場から逃げれば、危うくなる人間がいる。
「ヤマモトさんは、逃げてください」
「それはできません。ここの責任者は、私ですから」
 やはり、と内心苦笑した。こういう、無駄に責任感が強い人間ほど、
 貧乏籤を引かされるのだ。
 そして、それに付き合う自分は、貧乏籤を自分で引く大馬鹿者だろう。
「機動兵器の弱点は」
「……頭部のクリスタルを破壊すれば、動きは止まります」
 諦め顔のヤマモトに、一つうなずく。その間にも、破壊の音は続いて
 いる。残された時間は、それほどない。
「行ってきます」
 その声を残して、キーファーは飛ぶ。機動兵器の残骸を一飛びで
 越えれば、そこに広がっていたのは、破壊されたブースと、散乱した
 武器、そして。
『敵、感知、感知、感知』
 そこに居たのは、人型を模した等身大の機械だった。その手には
 ビームガンが持たれ、もう片手からはビームソードが照射されている。
 そのビームガンの銃口は、こちらにむいていた。
『ファイアー!』
「甘いですよ!」
 発射されたビームガンを、キーファは直前に横に飛んでかわす。
 直線にしか飛んでいかないビームガンを避けるのは、その射線を
 見切ってかわせば良い。しかし、時間をかければかけるほど不利になる。
「はァ!」
 ビームガンの再照準が終わるその隙をついて、キーファはアシガルに
 接近し、鎌を振り上げた。
 振り下ろされた鎌は、狙い違わずアシガルの額に吸い込まれる。
 何かを破壊した感触とともに、ジィン、と腕が痺れた。
『ガ、ガガ……』
 ヤマモトの言った通り、アシガルは行動不能に陥った。その代わり、
 キーファの腕も、しばらく痺れが取れないだろう。
「……全く、何してるんでしょうね、私は」
 痺れた右腕をさすりつつ、キーファはかぶりを振って苦笑した。

帰還
----
「いや、すみませんね」
「いえ、勝手にやったことですから」
 車の後部座席に座ったキーファは、運転席のヤマモトに小さく頭を
 下げる。その腕には、ヤマモトが調達してくれた湿布が張られて
 いた。
 あの機動兵器は、結局、ラボ送りになるらしい。せっかくの展示品
 を破壊してしまった形になるが、さすがにお咎めはなかった。
「でも、二度とあんな無茶はいけませんよ、キーファさん」
「それはお互い様でしょう」
 キーファの思わぬ反論に、ヤマモトは沈黙してしまう。
 でもね、と呟くヤマモトの声は、なぜかとても優しかった。
「キーファさん。管理職のあなたが危険に飛び込むのは、いただけ
 ません」
「それは」
「お互い様、ですけどね。私だって、本当は逃げるべきだったかも
 しれない。でも、とね。貴方の気持ちは、わかります」
 ヤマモトの声は、キーファの心に、静かに染み入ってくる。
 今度は、キーファが沈黙する番だった。
 たしかにあのとき、アシガルに倒されていれば、輸送船の運行に
 支障をきたすところだっただろう。
 しかし、キーファには、友人を一人残して逃げるような、そんな
 考えはとうてい抱けなかった。
「お互い、人が良すぎますね」
「……はい」
 相槌をうちつつ、窓の外に目をやる。
 惑星コーベの海は、やけに眩しかった。

時系列と舞台
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アディ専用機搬入後。惑星コーベにて。

解説
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新機動兵器展覧会に誘われたキーファ。
そこで起こった事件と、お人よしの二人。

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