[KATARIBE 29426] [KM01N]小説『古本市に探偵』

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Date: Thu, 20 Oct 2005 02:22:27 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29426] [KM01N]小説『古本市に探偵』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/kataribe/?OneGameMatchfor30Min)。

お題は

01:40 <Role> rg[hukira]HA06event: 探偵が追いかけてくるのに出くわした ですわ☆

……なんか普通の日常ですね。
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小説『古本市に探偵』
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登場人物
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来間貴彦(くるま・たかひこ):
 古本屋「孤隠堂」店主。正体は文車妖妃。

本編
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 古本市はいつ来ても良い。貴彦は両手一杯に本を抱えてほくほくとした笑顔
で会場を後にしようとした。
「あ、孤隠堂さん」
 声をかけられて貴彦は首をやや後方に捻った。声をかけてきたのは知り合い
の同業者である。貴彦と違って彼は本を買っていないようだった。
「かなりお買いあげですね」
「ええ。うちにはない分野が多かったもので」
「なるほど。で、このうちご自分用はどれくらいで?」
 同業者の問いに照れ笑いを浮かべる。
「実は半分以上でして……」
 それを聞いて、その同業者は笑った。
「そのうち、自分の店の本も自分で買いそうな勢いですな」
「ええ、本当に」
 今度は貴彦も笑う。
「ああ、そういえば」
 同業者が笑顔を引っ込めて、顔を貴彦の方に近づけた。
「最近、ここらへんの古本市に変な人が来てるらしいんですよ」
「変な人?」
「何でも探偵らしいんですけどね」
「探偵? そりゃまた何でです?」
「それが分からんのですよ。遭遇した奴が一度尋ねたらしいのですが、守秘義務
があるって言って教えてくれなかったらしいのです」
「やな奴ですねえ」
「本当に。ひょっとしたら、この市にも来ているかもしれませんよ」
「うわ。会いたくないなあ」
 貴彦がそう言うと、同業者は気の毒そうな表情を浮かべた。
「でも、それだけ本を持ってますからねえ…… ま、気をつけて」
 挨拶を交わし、二人はその場で別れた。
 貴彦は駐車場まで他人にぶつからないようにゆっくりと歩いていく。
 駐車場に出たとき、後ろから近づいてくる足音が聞こえた。振り向いてみると、
黒いスーツ、黒い帽子、黒いサングラス…… まるでいつかの探偵ドラマのよう
な出で立ちの人間が近づいてきていた。
「ちょっとあんた」
 いきなり、「あんた」呼ばわりで、サングラスも取らないその彼の態度に貴彦
は眉をひそめる。
「その本見せてもらっていいかな?」
「……どうしてです?」
「ちょっと探しもんがあってな」
「何を探してるんです?」
「それは言えない」
 そう言って、男は貴彦が持っていた本の束を掴もうとした。
 不安定だった束が崩れて地面に落ちる。
「何するんですっ」
 貴彦の言葉に耳を貸そうともせず、男は本を見ては「違う」「これも違う」と
繰り返している。
 貴彦はその男は放っておいて、散乱した本を拾い集めた。
 やがて、全ての本を見終える男。目的の本はなかったのか、溜め息をついて立
ち上がった。
「悪かったな」
「ちょっと待ちなさい」
 その場を立ち去ろうとする男に貴彦は声をかけた。
「勝手に人の本を漁って、謝りもしないんですか」
「ああ。悪かった」
 そう言って片手で拝む仕草をする。
「じゃあ」
「まあ、待ちなさいって」
 貴彦が再び男を呼び止めた。
「今度は何だよ」
「本を探してるんでしたら、そんなやり方じゃ駄目です」
「……なんだと?」
「どんな本を探しているのか知りませんが、本を探すんだったら本職に任せた方
が良い」
「本職って?」
「古本屋ですよ」
「古本屋?」
 ええ、と貴彦は頷いた。
「古本屋も色々とネットワークを持ってますからね。それを使えば……」
「じゃあ」
 男が貴彦の方に身を乗り出す。
「言っておきますが、私は嫌ですよ」
「なんだと?」
「それでは失礼」
 貴彦は本を抱え直すと車へと歩いていった。
「ああいう人間は嫌いですねえ」
 地面に落ちたときにできたと思われる本の表紙の傷を悲しげに見つめて、貴彦
は呟いた。

時系列と舞台
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某月某日。古本市にて。

解説
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本好きの妖怪、本を傷つけられて悲しむのこと。

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