[KATARIBE 29423] [LG02N] 小説『 Pull The Break 』続き

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Date: Thu, 20 Oct 2005 01:00:57 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29423] [LG02N] 小説『 Pull The Break 』続き
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2005年10月20日:01時00分57秒
Sub:[LG02N]小説『Pull The Break』続き:
From:久志


 久志です。
ぜるっちの国連軍時代のお話。
以前書いた『Pull The Break』を修正して追加してみました。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『Pull The Break』続き
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登場キャラクター 
---------------- 
 ゼバルト・カール・フォルクラート
     :通称ゼル。国連軍所属。戦闘機パイロット

紅の空
------

 ――お前はブレーキを引く。
 ――お前に逃げ場はない。

 太陽系第四惑星火星にある衛星の一つであるフォボス。
 その表面にある巨大な隕石跡に地球系国際連合(UNE)の火星防衛拠点と
して作られたスティックニー基地。
 木星――火星間の小惑星帯を抜け火星へと迫るアトランティス軍を迎え撃つ
為の火星宙域前線基地の一つであり、フォボス表面のあちこちにある、隕石衝
突跡の溝や空洞を利用して様々な軍用施設が設置された自然の要塞。
 基地からは細かい炭素の粒い覆われた黒いフォボスの地表と、空の向こうに
眼前に迫るほどの迫力で赤く輝く火星が望める。

 黒い穴ぐらと赤く輝く火星。

 古来より、赤い色は人の意識を覚醒し、興奮させると言い伝えられている。
 だが、スティックニー基地で過ごす者達の多くがそれを嘘だという。

 赤は心を落ち着ける。

 衛星フォボス。
 激しい戦いの最中でスティックニー基地に過ごす者たちの目を和ませるのは、
地球の澄んだ青空でなく、赤い砂の舞う火星だった。


迎撃
----

 小惑星帯監視中の宙空警戒管制機から緊急入電。
 地球系外思念駆動反応あり、感知した配下監視機撃墜。アトランティス系大
型戦闘艦による陽光集束エネルギー砲によるものと判断される。

 緊急出撃の命を受け、スティックニー・クレーター発進路から宙空へ飛び立
つ五つの機体。
 国連火星宙域防衛軍、特殊電子戦迎撃部隊バイパー小隊。
 赤く輝く火星と黒いジャガイモのようなフォボスをはるか後方に残し、V字
型に編成をとったまま小惑星郡へと向かって行く。

 目前に広がる宇宙、一見何もない虚無の空間に見えるがそれは間違いだ。
 宇宙にも天気がある、太陽風が荒れていると通信障害が起きるし、流星群の
時期は下手な小型運輸船などは外装が穴だらけになる程度ではすまない。

「You Pull The Break...」

 IR――イマジネーションリアクター
 思う心、想念を利用して駆動する愛機に揺られながら、バイパー小隊四番機
パイロット、ゼルは小さく口ずさんだ。

「You Pull The Break...」

 想念により機体と全身の感覚がリンクする。自らの目と手足となって飛ぶ機
体を通じて、吹き付けてくる太陽風が頬を撫でる感触すら感じる。こめかみの
通信ポートを通じて、視界に直接反映するディスプレイには僚機が探知した敵
の情報が細かに表示された。

 漆黒の宇宙空間の中、きらきらと輝きを放ちながら飛ぶ、まるで立体神殿を
思わせる荘厳な大型戦闘艦。オリハルコンでコーティングされた外装と、神殿
前部に設置された眩しい輝きを宿した巨大な結晶が不気味に光っている。
 想念触媒の先駆であるアトランティスでもっとも多く見られる、大口径砲台
を据えた駆逐艦。
 ヘッドディスプレイにリーダー機からの通信メッセージと音声が同時に脳内
に響いた。

[V5-Patrick] お前達、今日のランデブーはアトランティス大型戦闘駆逐艦。
       全身総オリハルコン張りのゴージャスな美女だ。迂闊に近づく
       と大口径の陽光集束エネルギー砲のビンタをお見舞いされるぜ。
       ルーク、ヘクトアイズ(百眼)で敵艦攻略ポイントを分析。
       ユンロン、聴勁で敵攻撃予測及び、航行感知。
[V2-Luke]   V2、ルーク了解。
[V3-Yunlong] V3、ユンロン了解。

[V5-Patrick] フジタ、ゼル、敵艦攻撃範囲内に突入後、ヘクトアイズの攻略
       分析に従い各自行動へ移れ。ゼルは強襲、フジタは援護しろ。
       ユンロンの攻撃予測と連携を怠るな、一発喰らったら一瞬で消
       し炭だ、いいな?
[V1-Fujita]  V1、フジタ了解。
[V4-Sebald]  V4、ゼル了解。

 特殊電子戦迎撃部隊バイパー隊リーダー指示を受け、各機行動開始。
 五つの機体のうち二機が敵艦攻撃範囲内へ加速、残る二機は敵艦から距離を
とりつつ偵察と分析を継続。リーダーは各機と敵艦との状況をつぶさに把握し、
敵の攻撃をかわしつつ各機に指示を出せる位置を割り出しすみやかに移動。

 バイパー隊五機のうち、実際に敵艦と近接戦闘に持ち込むのは、重装強襲機
である四番機ゼルと、この援護機である一番機フジタのみ。リーダー五番機は
司令塔として全体の戦局を監視、戦術指示とミサイルによる援護射撃。ヘクト
アイズ(百眼)の愛称で呼ばれる二番機は遠距離視覚と敵艦攻略の為の分析に
特化し、聴頸という敵の動きを読み取る能力を持つユンロンの駆る三番機は攻
撃予測、敵移動予測を読み取り隊員全体に瞬時に伝える。

 ヘッドディスプレイを彩る、神々しく光を放つ円柱神殿。この巨大艦を相手
に特殊電子戦迎撃部隊の五機のみでこれに相手をせねばならない。

 想念技術として先を行き、大型艦を駆り想念触媒を用いた大火力の兵器を操
るアトランティス。
 全体よりも個人個人での想念力が高く、想念力の極めて高い少数精鋭で個人
小型機で能力を生かしてこれに対抗する地球系。

「You Pull The Break...」

 ――お前に逃げ場はない。

 スティックを握る手に微かに力がこもった。

連携
----

 敵艦、接近。
 先に小惑星帯に突入したV2のレーダーがヘッドディスプレイに映る。

[V2-Luke]   敵艦捕捉、タイプ:ケステイウス円形神殿D型、中心部に設置
       された巨大水晶による想念触媒により陽光集束超高エネルギー
       砲撃、近接防衛レーザー装備も確認した、留意しろ。
[V3-Yunlong] 敵艦速度、攻撃パターン識別完了。移動予測位置と攻撃予測ポ
       イントを展開する。

 V2偵察戦術機の把握した敵艦情報とV3戦術分析機の攻撃予測と誘導情報
を確認し、すぐ傍らを飛ぶV1分身援護機と通信。

[V1-Fujita]  まもなく敵艦の攻撃範囲内に突入する。鏡反体作成、攻撃を引
       きつける。
[V4-Sebald]  了解

 V1の機体が二機に分かれる、一方の鏡反体としてオトリとして敵艦の攻撃
を引きつけながら、本体は短距離ミサイルでV4重装強襲機が敵艦に接近する
為の援護を行う。

 敵艦、接近。
 ヘッドディスプレイに映る、黄金に輝くオリハルコンの神殿。等間隔で並ぶ
柱の向こう、巨大なアーモンド型の結晶が煌いている。

「You Pull The Break...」

 スティックを握る手に微かに汗がにじむ。

 一定間隔ごとに無機質に光る巨大結晶、中心部に一点まばゆい光点が映る。
陽光の充填が高まる毎に中央部の光点の輝きが増す。
 陽光集束砲撃。巨大結晶を想念触媒に用い、太陽エネルギーを結晶内に充填
し、超高エネルギーを撃ち出す。アトランティス大型戦艦のほぼ八割が搭載し
ている決戦兵器。充填時間に多少の難があるとはいえ、無尽蔵で強力な砲撃を
安定して撃ち出すことのできる驚異的な武器だ。

[V3-Yunlong] 来るぞ、二時。ミラーを捕らえた。

 V3の高速通信が瞬時に全機に伝わる、同時に反射的に体が反応する。砲撃
によるの余波回避の為に機体を移動。

 その一瞬後。
 閃光が走った。

 陽光収束砲撃。
 まるで眩い光の柱が突き抜けていくようにV1鏡反体を飲み込んで一瞬で蒸
発させる。自動的にシャッターがかかったヘッドモニタが

『喰らったら一瞬で消しズミだ』

 ゼルはスティックを握り締めたまま、リーダーの言葉を反芻する。

「Don't pull...」

 引くな、お前に逃げ場は無い。
 恐怖に呑まれブレーキを引いた時、お前は死ぬ。
 恐怖はお前を生かしもするし、殺しもする。

 V1再び鏡反体を展開し、敵艦を撹乱。V3敵艦エネルギー充填のカウント
開始。V2敵艦攻撃ポイント分析完了、即時V4の情報に反映
 IR駆動、敵艦へ加速。近接防御攻撃に備える。

「You Pull The Break...」

 恐怖を飼い馴らせ、お前に逃げ場は無い。


-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
まだ終わってない。

 いつになったら敵艦と戦うねん。



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