[KATARIBE 29421] [HA06N]小説『赤提灯での出来事』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Wed, 19 Oct 2005 23:16:49 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29421] [HA06N]小説『赤提灯での出来事』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200510191416.AA00092@hikaru-h8akl379.blue.ocn.ne.jp>
X-Mail-Count: 29421

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29400/29421.html

ふきらです。
三十分一本勝負(http://hiki.kataribe.jp/HA06/?OneGameMatchfor30Min)。
お題は

22:33 <Role> rg[hukira]HA06event: 眠そうな赤提灯帰りの会社員が金が足りない ですわ☆

せ、切ない……
**********************************************************************
小説『赤提灯での出来事』
========================

登場人物
--------
 火川猛芳(ひかわ・たけよし):http://kataribe.com/HA/06/C/0580/
  帆川神社の宮司。

本編
----
 夜の駅前は昼間とは違う喧噪に包まれている。
 猛芳はその中をゆっくりと、少しふらふらしながら歩いていた。
「む……少し、酔ったか」
 自分のほおを二度ほど軽くはたく。昔はあれくらいで足に来ることはなかっ
たのに、と思い苦笑いを浮かべた。
 まだ帰るには少し物足りない。どうせ家には晩酌の相手もいない。正確に言
うと、晩酌してくれる若い女性が、だが。
「若すぎるのはおるんだがな……」
 人ではないとは言え、みかけが未成年の子に相手してもらうのは何となくま
ずい。
「久しぶりに、あそこに行くか」
 そう言って猛芳は人の多い通りから一本外れた、寂しげな道へ入っていく。
電灯が急に少なくなり、進むにつれて夜の割合が増していく。
 目的地はそんな寂しい通りを少し進んだところにある。ぽっかりと浮かんだ
赤提灯が目印だった。
 ここら辺まで来ると先ほどの通りの喧噪も小さくなっている。店の中からも
大きな声は、
「なにー! 金が足りないだとっ」
 ……普段はしない店のはずだった。いぶかしげな顔をしながら、猛芳は暖簾
をくぐる。
 店の客の入りはまずまず。カウンターにはスーツ姿のサラリーマンが店の主
に凄い形相で睨まれていた。
「なんじゃなんじゃ」
 猛芳の声に気付いて、店主は慌てて照れ笑いを浮かべる。
「おや、火川さん。いらっしゃい」
「久しぶりじゃの……はさておいて、どうしたんじゃ?」
 店主がそのサラリーマンを指さす。彼はカウンターに突っ伏していびきをか
いていた。
「起きろって」
 店主が激しく男を揺らして起こす。彼は一応目を覚ましたものの、目は開き
きっていない。
「こいつが持ち金がないって言い出すんですよ」
「ですからぁ、カードで払うって言ってるじゃないですかぁ」
 へなへなとした口調で男が言う。
「だから、うちはカードは使えねえんだって言ってんじゃねえぁ」
 周りの客はニヤニヤしながらそのやりとりを見ていた。
「ずっとこんな感じですよ……」
 店主が溜め息をついた。
「さよか。また後日持ってくるというのはいかんのか?」
「後日来るという保証はないですからねえ」
「そんなことない……」
 ですよ、と言おうとしたのか、しかし、その前に男は再び眠ってしまう。
「ちなみにいくらほど足りへんのや?」
 店主が金額を言う。
「そんなもんか…… そいつのしている腕時計でも預かっておくか?」
「ああ、それは良いですね」
 あながち冗談でもない口調で店長が言う。
「本気か」
「や、やですよ。冗談じゃないですか」
 猛芳は苦笑いを浮かべた。
「それくらいやったらワシが立て替えてやるわ」
「え、火川さん。この人とは知り合いでも何でもないんでしょ?」
「うむ」
「なのに払ってあげるんですか?」
「払ってやるんじゃないぞ。立て替えてやるだけじゃ」
「……まあ、火川さんがそう言うなら」
 そう言って店主は寝ている男を再び揺り起こした。
「おい。良かったな。この方が立て替えておいてくれるんだってよ」
 その言葉に男はガバッと体を起こした。
「え、良いんですか?」
「ちゃんと返してくれるならな」
「返します返します」
「さよか。まあ、念のため名前と住所を教えてもらっとこか」
「あ、じゃあ……」
 そう言って男は自分の名刺を取り出して、猛芳に手渡した。
「どうもすみません。明日、持ってきますから」
 何度もお辞儀をして店を出て行く。
 その男が店を出て行くのを見送ってから、店主と猛芳は溜め息をついた。
「やれやれじゃわい」
「すいませんね…… って、あいつ火川さんの住所も名前も聞かずに行ってし
まったじゃないですか」
「おう。そういえば…… まあ、どうせここに持って来るじゃろうて」
「……なんかそれだったら良いけど。来るんですかね?」
「来なかったら、こっちから徴収に行くわい」
 そう言って猛芳は先ほど渡された名刺をくるくると回した。
「さて、飲むか」
「そういや、良い地酒が入ったんですよ」
 店主の言葉に猛芳はにやりと微笑んだ。

時系列と舞台
------------
 某月某日。夜の居酒屋にて。

解説
----
 結局、ツケにしてやったのと変わりないことになっているとかいないとか。

$$
**********************************************************************
 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29400/29421.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage