[KATARIBE 29416] [KMN] 小説『碇』

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Date: Wed, 19 Oct 2005 01:45:39 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29416] [KMN] 小説『碇』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年10月19日:01時45分38秒
Sub:[KMN]小説『碇』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
30分一本勝負、有効活用編(有効かあ?)。
久方ぶりの、おやみとめやみ、そして美晴の話です。
話自体は23分くらいで書きました。

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小説『碇』
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 登場人物
 --------
   坂梨美晴(さかなし・みはる)
    :記憶の無い幽霊。ある意味あやかし未満。
   おやみ(おやみ)
    :人蛇の、蛇体状態の場合の名前。男性らしい。

本文
----

 ゆっくりと日が長くなり。
 そしてまた少しずつ短くなる。

 日の長さの移り変わりで季節を見るのも、風流かもしれないねとおやみは笑
う。
 無論のことおやみは、夏のほうが好きなのである。

「美晴は、今日は何をするのかな」
「……え?」

 最近、一日に一度、そうやっておやみは尋ねる。
 そしてあたしは一日に一度、間の抜けた返事をする。

 ここに来て三年。
 何も変わらず、何もせず。

 あやかしとしても半端、幽霊としても半端。
 莫迦らしいねとめやみは言う。
 いらいらするのですかと尋ねると、けれどそんなことは無い、と、断言する。

「いらいらってのはね、もう少し覇気のある奴に感じると思うよ」

 いらいらさえしないくらい呆れかえってるの、と、酒の入ったグラスを片手
に、めやみは妙に丁寧に説明してくれたっけ。

 ……に、しても。

「何も決まってないのかね」
「……はあ」

 おやみがひなたぼっこをしている時は、あたしも一緒にひなたぼっこをして
いる。居なければ居ないで、やっぱり公園のブランコに座ってぼんやりとして
いる。
 でも流石にそれを『決まってる』というほどには……あたしも恥知らずには
なりきっていないようで。

「じゃあ、ね」

 おやみが少し首を傾げる。

「ちょっと……おいで」

 言うなりするすると動き出す。慌ててその後を追うと、おやみは一箇所窓ガ
ラスを開けたところから外に滑り出た。
 そのまま、神社のほうに向う。

 一応おやみは神社に棲んでいて、ここの神様の『お使い』代わりらしいのだ
けど、それにしてはあまりそちらに行かない。どちらかというとめやみのほう
が、やれ掃除だ何だと神社で忙しくしていることが多い。

 何だろう一体。

 と、思っていると。

「これこれ」

 おやみが神社の中の、恐らく社務所にあたるところから、何だか小型の茶筒
のようなものを鼻面で押しやってくる。

「ちょっとこれを振ってご覧」
「……え」

 簡単に言われるけれども、覇気の無い幽霊としては、そもそも持てない。

「無理なら転がすだけでもいいから」
「……はあ」

 畳の上に置かれたそれを、両手で抑える。
 よいしょよいしょ、と触れていると、何時の間にか少しずつだけどそれが揺
れて。
 
「そう、その調子」

 目の錯覚じゃなく、はっきりと揺れているとわかるくらいに揺れて。

 何だか妙に嬉しくなって、えいえいと押していると。

「あっ」

 何の弾みか、それがぱかりと開いた。

「……これ、なに?」

 中には、容器の形なりに曲がった紙が入っている。

「出してみてごらん」

 言われるままに、よいしょ、と紙に手をかけて。
 よいしょよいしょ、と、頑張って。

 ようやく引っ張り出した時には、それこそ頭が痛くなってたけど。

「……おみくじ、これ?」

 中吉の、黒々とした文字。そして。

『時に及んで正に勉励すべし。励むだけ進歩は確実也』

 そして、筆で一筆。

『近くの本屋でも行って、立ち読みするも良し』

「…………これ」
「神社だからね、おみくじくらいあるものだよ」

 
 ほんとうに小さいことだけど。
 自分で容器をあけて。
 自分でおみくじを取り出して。

 ……そんなことさえずっと、やってきてなかったんだなって気が付いた、気
恥ずかしさと。
 いつのまにおやみとめやみがこんなものを用意してくれたのかなって、その
嬉しさと。

「……うん、今日は立ち読みしてきます」
「そうかい」

 琥珀の目を細めて、笑みの形にして。

「もし、何か気を引くものがあったらそれを教えてくれないかな」
「あ、はい」
「美晴は今、何にも執着してないだろう。それではすぐにまた消えてしまう」

 大きな蛇は、こくりと首を傾げる。

「何か、現世に留めるものを持たねば……ね」

 その声の、どこかが。
 言葉にしない以上に、とてもとてもあたしを心配していてくれたのだな、と。
 そんな響きがあって。

「……はい、何か見つけてきます」
「そうしなさい」


 神社の鳥居のところで、おやみと別れた。
 何ヶ月かぶりに、たった一人で外に出る。

 なんだかどきどきするのが……おかしい。あたしは幽霊なのに。もう死んで
いるのに。
 これ以上怖いことは……無い筈なのに。


 それでも。

 おやみから聞いた道を辿って、あたしは本屋に向った。


解説
----
 30分一本勝負のうちの一つ。
 お題は、『ふたを開けるとゆっくりとした丸められたおみくじが入っていた ですわ☆』
 でした。
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 相当忘れてて、以前の話をへこへこみながら書いたのはしみつだっ<おい

 ではでは。
 


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