[KATARIBE 29403] [HA06N]小説『まるで子供のような』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Mon, 17 Oct 2005 23:47:28 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29403] [HA06N]小説『まるで子供のような』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200510171447.AA00086@hikaru-h8akl379.blue.ocn.ne.jp>
X-Mail-Count: 29403

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29400/29403.html

ふきらです。
えらい勢いの三十分一本勝負。
今回のお題は

23:11 <Role> rg[hukira]HA06event: 綺麗に光るカナブンが片方だけの靴をくれた ですわ☆

でした。
**********************************************************************
小説『まるで子供のような』
==========================

登場人物
--------
 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

 一白(いっぱく):
  津久見神羅の式神。

 火川猛芳(ひかわ・たけよし):http://kataribe.com/HA/06/C/0580/
  帆川神社の宮司。

本編
----
 神羅が家に帰ると、一白が居間の隅で体育座りをしていた。非常に落ち込ん
でいるらしく、時々溜め息をついては膝の間に顔を埋めている。
 神羅は首をかしげて、テーブルで本を読んでいる祖父の猛芳に尋ねた。
「何かあったん?」
「林の奥で遊んでたら、靴をなくしてしまったんじゃと」
「それで、あれ?」
 祖父は呆れたように頷いた。
「うー」
 不意に一白が立ち上がり、玄関へと向かっていく。
「どこ行くねん」
「靴を探してくるっ」
 その答えに神羅は慌てて一白を止めに行った。
「もう、外は真っ暗やろ。探すんやったら明日にしとけって」
「いや、今から探すっ」
 一白の目には涙が浮かんでいる。よほど気に入っている靴らしい。神羅はそ
んな一白を見て少し微笑むと、一白の頭をぽんと叩いた。
「聞き分けの悪い子だ」
 そう言うと、一白が元の姿である人型の紙に戻る。地面にひらひらと落ちた
その紙を拾い上げると、居間へと戻った。
「ちょっと見といて。ひょっとしたら戻るかもしれんから」
 猛芳が頷くのを確認してから、神羅は再び玄関へと向かった。
「どこ行くんじゃ?」
 今度は猛芳が神羅に尋ねる。
「分かってるくせに」
 笑いながら答える。
「気をつけろよ」
「あいよ」
 外に出ると辺りはもう真っ暗になっていた。境内にある蛍光灯だけがぼんや
りと光っている。運悪く今日は新月。月の光は当てにならない。
「……しまった、どこら辺でなくしたか聞いておくべきやった」
 そう思ったが、後の祭り。一白を再び人の形に戻したらもう探すと言ってき
かないだろう。
「人海戦術でいくか……人やないけど」
 神羅はポケットから小銭入れを取り出すと、何か呟いてから放り投げた。
 空中を舞う小銭がいろんな虫へと変わっていき、林の奥へと消えていく。
「さて……何円戻ることやら」
 しばらく待っていると、ポツリポツリと虫が帰ってきた。一匹ずつ手のひら
に乗っては小銭に戻っていく。
 やがて、一匹のカナブンが戻ってきた。他の虫とは違い少し光っている。
「そういや今年発行の硬貨があったな」
 そのカナブンは神羅の手のひらに止まらず、辺りをぐるぐると飛んでいた。
「見つけたか」
 神羅の言葉に反応して、カナブンは林の奥へと飛んでいく。小さな懐中電灯
を付けて神羅はその後を追った。
 草むらをかき分けていくと、やがて小さな沼がありその岸辺に泥で汚れたス
ニーカーが片方あった。
 カナブンはその靴に止まると、元の硬貨へと姿を戻す。
「ごくろうさん」
 そう言って神羅は硬貨を拾い上げるとポケットに戻した。
 家に戻ると、居間では予想通り人の姿に戻った一白がいた。但し、すやすや
と寝息を立てている。
「どないしたん?」
「探しに行くと言ってきかなんだから」
「なぐった?」
「あほか……押さえとったら、疲れて寝てしまったわ」
「さよか」
 寝顔の一白を見て、神羅は苦笑を浮かべた。
「これで式神やからなあ」
 つられて猛芳も苦笑する。
「人間と変わらんわな」
「ほんまに」
 洗った靴を新聞紙の上に置いて、寝ている一白の側に置いてやる。
 一白の口元が少しほころんだような気がした。

時系列と舞台
------------
某月某日。帆川神社にて。

解説
----
お題は「綺麗に光るカナブンが片方だけの靴をくれた」
……それにしても、なんなんだこの式神は。

$$
**********************************************************************
 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29400/29403.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage