[KATARIBE 29401] [HA06N] 小説『三体の護り手』

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Date: Mon, 17 Oct 2005 23:07:31 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29401] [HA06N] 小説『三体の護り手』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年10月17日:23時07分31秒
Sub:[HA06N]小説『三体の護り手』:
From:久志


 久志です。
過去お題で三十分勝負に挑戦。
つか時間大幅にすぎました、てへ。

題「腹を空かせた手の怪が音を立てた」 

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『三体の護り手』
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登場キャラクター 
---------------- 
 蒼雅梓(そうが・あずさ) 
     :蒼雅家長女、少々ぼんやりした姉。霊狐・穂波を使役する。 
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0530/ 
 弧杖魎壱(こづえ・りょういち) 
     :弧杖家長男、陰陽奏士の青年。梓の婚約者。 
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0518/ 

本文
----

 さわさわと、少し肌寒さを含んだ秋の風が柔らかな栗色の髪を弄る。
 夕暮れ時。日はまだ完全に沈みきらず、黄金色に染まった空が少しずつほぐ
れるように群青に変わりつつある。
 少しずつ翳りつつある空をぼんやりと見上げて、梓は膝の上で丸くなってい
る狐――穂波――の頭をそっと撫でた。

「もう夕暮れ時ですわねえ」
 ふいに思い立って、散歩がてらに家を出たのは昼過ぎ頃。そろそろ弧杖の家
に戻らねば、家の者が心配するかもしれない。のだが。
「お家はどちらだったかしらねえ」
 後先考えず、足の向くまま歩いたせいで、どこをどう通ってこの公園に来た
かがさっぱり思い出せない。既に日も落ちる間際で、そろそろ焦りを覚えても
良いはずなのだが、本人はいたって暢気だった。
「どうしましょうねえ、ねぇ?穂波」
 小さく首をかしげて膝の上の霊狐に話しかける。梓に撫でられながら気持ち
良さそうに目を細めていた穂波が小さく鼻先を上げてきゅう、と鳴いた。
「困りましたわねえ」
 しかしその様子はちっとも困った風もなく。

 少し背筋を撫でるような冷たい風が吹く。
 梓の座ったベンチの側に植えられた木々がざわめくように音をたてる。風に
のってふわりと鼻先をかすめる香り。
「金木犀ですわね」
 見上げた先、濃い橙色の小さな花が風に揺れている。
 春の沈丁花、夏の梔子、秋の金木犀。

「いい香り……」

 沈み込むような。
 吸い込まれるような。

 甘くやわらかい香りに、引き込まれるような眠気を感じて目を閉じる。

「なんだか……眠く」
 穂波を撫でる手がゆっくり止まる。
 ことん、と。首が傾いで長い髪が肩からはらりと落ちる。

 黄昏時、逢魔ヶ時。
 日が沈み、周囲が闇に沈む時。

 この世ならぬものが、微かに忍び寄る。

 かさり。

  かさ。

   かさっ。

 いつの間にか、すっかり人通りの途切れた公園。
 少しづつ忍び寄ってくる……影。

 ぴくりと。梓の膝で丸くなっていた穂波の耳が動いた。眠りに落ちてしまっ
た主の膝からひらりと飛び降り、細めた目を見開いて毛を逆立たせる。

 かさっ。

「シャッ!」

 牙を剥き出して、唸る。
 すぐ側まで忍び寄った影が一瞬ひるむように止まった。
 艶やかな毛を逆立たせ、三本の尻尾が威嚇するように持ち上がりゆらゆらと
揺れる。影を鋭い唸り声をあげながら、動きの止まった影を睨みつける穂波。

 止まる空気。

 全身の毛を逆立たせて影を睨みつける穂波。
 梓の足元ほんの目と鼻の先で止まる黒い影。

 ざわっ。

 張り詰めた一瞬の隙を突いて、黒い影の中から毛むくじゃらのごつごつした
手が伸びた。

 同時に穂波が地面を蹴って飛んだ。

「シャァッ!」

 黒い腕にめがけて飛ぶ影が三つに分かれる。

 伸び上がった手に牙を立てる一体。
 節くれだった肘をに噛み付く一体。
 腕の根元を爪で鋭く切り裂く一体。

 思いもかけぬ複数攻撃に、虚を付かれたように毛むくじゃらの腕がのたうち
ながら地面に転がった。

「シャァァア!」

 梓を護るように傍らに立つ一体。
 その前で臨戦態勢を保ったまま威嚇する二体。

 傷だらけの腕が地面に転がりながら影に沈もうとした瞬間。

「いよっ、と」

 気の抜けたような声と同時に、ぴぃっと鋭い笛の音が響いた。

 がさがさがさがさっ!

 笛の音に呼応するように数え切れないほどの白い毛むくじゃらの――管狐が
一斉にのたうつ腕に襲い掛かった。

「……飢えた鬼か、はたまた邪か」
 ものの数秒もしない間に、黒い腕は跡形もなくその場から消えた。
「いずれにせよ、僕のあずちゃんに手を出すとは、ねえ」
 ひょいと、眠り込んだ梓の顔を覗き込むつりあがった細い目の若い男。
「きゅぅ」
 一体に戻った穂波が若い男――魎壱の足に擦り寄る。
「よしよし、穂波。お役目お疲れ様」
 穂波の頭を撫でて、手にした笛を懐にしまう。
「さあて、お姫様が目を覚まさないうちに帰ろうか、ねえ」

 にっと笑って栗色の髪を撫でる。
 そのまま軽々と梓を抱えあげ、管狐達が周りと取り囲む。

 一陣の風が吹く。

 同時に二人が音もなくその場から消えた。

時系列 
------ 
 2005年10月中旬。 
解説 
---- 
 逢魔ヶ時、謎の手に襲われる梓。寝てますが。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上。 



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