[KATARIBE 29396] [HA06N]小説『幽霊の存在意義』

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Date: Mon, 17 Oct 2005 02:16:02 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29396] [HA06N]小説『幽霊の存在意義』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
三十分一本勝負。お題は

01:35 <Role> rg[hukira]HA06event: 透質な雰囲気の巡回販売の幽霊に遭遇する ですわ☆

でした。

かなりおいしい題なのでとりあえずここで切ってますが、しばらく続けます。
……たぶん
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小説『幽霊の存在意義』
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登場人物
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 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

一白(いっぱく):
 津久見神羅の式神。

本編
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 秋の夕暮れは日が落ちるのが早い。つい先ほどまで夕焼けが西の空を染めて
いたと思っていたら、もう既に辺りは薄暗くなり、空は紫色へと変わってい
た。
 一白と神羅は二人で帆川神社から少し離れた通りで立っている。
「ねえ、こんなところで何してんの?」
 一白が退屈そうな顔で尋ねた。
「待ってる」
「何を?」
「分からん」
 素っ気ない神羅の答えに一白は思わずこけそうになった。
「分からないのに待ってるって……で、何で僕まで一緒にいなきゃいけないん
だよ」
「まあ、もうすぐ分かるから」
 そう言って神羅は少し離れたところにある辻を指さした。一白がそこをじっ
と見ていると、しばらくして空間が少しだけ歪んだ。
「え?」
 気がつくとそこには石焼き芋の屋台を引いている老人がいる。その向こうが
うっすらと透けているので老人が幽霊ということが分かる。しかし、よく見な
いとそこにいるかどうかが分からない。
 老人は重そうに屋台を引きながら、ゆっくりとこちらへと向かってくる。普
通の人には聞こえないが、神羅と一白の耳にはあの石焼き芋の独特のメロディ
が聞こえてきた。
「あのおじいさんがどうかしたの?」
「……後で説明する」
 二人の側に屋台が来たとき、神羅は老人に声をかけた。
「すいません」
 老人がにっこり笑って二人の方を向く。
「ああ、いらっしゃい。久しぶりのお客さんだよ」
「焼き芋二つ貰えますか?」
「いいよ。ちょっと待っとくれな」
 そう言って老人は屋台の後ろに積んである釜から芋を取り出そうと中を覗き
込む。
「ありゃ」
 そう言って彼は申し訳なさそうな表情を浮かべて、二人の方を向いた。
「すまんねえ。もういもが無くなっておったわ。せっかく買いに来てくれたの
にのお……」
 老人は何度も何度も頭を下げる。
「いや、なかったら良いんですよ。また今度にします」
「本当にすまなかったねえ。今度はちゃんと二つ取っておくから」
「ええ」
 老人がゆっくりと屋台を引っ張っていくのを見送る。彼が反対側の辻に着く
と、来たときと同じように空間が歪み、かき消えるようにして姿を消した。
「……ねえ、なんだったの?」
 神羅は一白の方を見た。心なしか寂しげな顔をしている。
「あの人はだいぶ前に亡くなってるんや。生前はあのように石焼き芋の屋台を
引っ張っていた」
「で、死んでからも……?」
「そう。大体、この時間になるとああいう風にして現れる。普通の人には見え
へんけど、時々ワシらのように見える人から注文を受けることもある。でも、
さっきのように芋はもうないから売ることはできない。そんなことを何度も繰
り返している……らしい。爺さんからそう聞いた」
「何かかわいそう……」
「でもな、ああやって石焼き芋の屋台を引けるってのは本人にしてみれば嬉し
いことやないかな?」
 そう言われて一白は難しい顔を浮かべる。
「生きている連中に何かしら悪いことをするんやったら祓うけど、あの人はそ
うやないしな」
「……うーん。でも、本当のことを教えてあげた方が良いと思う」
 一白の言葉に神羅は少しだけ微笑んだ。
「やっぱ、お前もそう思うか。……ほんじゃ、祓ってあげるかなぁ」
 それでも何かしら引っかかるものがあるのか、難しい顔をしている。
「どっちが良いんだろうね……」
 一白がしんみりと言う。
 神羅も心の中ではまだはっきりと答えを決められないでいる。
 二人の耳には先ほどの屋台から流れていたメロディーが微かに残っていた。

時系列と舞台
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2005年10月。どこかの通りにて。

解説
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彷徨う幽霊だから祓っても良い、というわけではなくて。

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