[KATARIBE 29395] [HA06N] 小説『十年一日』

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Date: Mon, 17 Oct 2005 02:04:24 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29395] [HA06N] 小説『十年一日』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200510161704.CAA78369@www.mahoroba.ne.jp>
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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2005年10月17日:02時04分24秒
Sub:[HA06N]小説『十年一日』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
30分一本勝負、がちんこです。
本文20分。現在まだ30分たってませんので大急ぎ。
お題は、『HA06event: 透質な雰囲気の巡回販売の幽霊に遭遇する ですわ☆』
です。

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小説『十年一日』
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登場人物
--------
 軽部片帆(かるべ・かたほ)
  :目立たない毒舌大学生。姉のこととなると顔色が変わる。

本文
----

 長く長く、変わらないものというのがある。
 例えば幽冥界を異にしても。

 その程度の期間では、変わらないもの。

        **

「あーもうっ」

 すこん、と、足元の石を蹴っ飛ばす。
 蹴飛ばした勢いは相当だったのだが、多少目測が(小さすぎるために)ずれ
て、上手く当たらなかったのだろう。何だかへろへろと転がるのを、片帆はい
まいましげに見やった。
「……ちぇー」

 秋。
 勉強も順調、バイトもすっかり順調。
 だけれども、ただ一点。

「ちっくそーっ」

 こうなると、酒にやたら強い体質さえ怨めしくなる。

「真帆姉の、ばっかあっ」

 電話を、したのだ。
 久しぶりの電話で、それなりに話したいこともあったのだけど。

(あ……片帆)
(えっと……ききたいんだけど)

「ああもう、ちっくしょうっ!」

 かこん、と、今度は路傍の石相手に、クリーンヒットをかましたところで。


 遠くから、エンジンの音。
 そして。

「たーけやーあ、さーおだけー」

 片帆は思わず腕時計を見る。
 時刻は……11時を回っている。
 無論、夜である。

「もーのほしーーのっ、さーおだけーーーっ」

 片帆は、目を細めた。

 夜中の11時にさおだけを売っているのがおかしいかどうかは、これは微妙
である。自分を筆頭に、夜しか家に居ないのが学生だったりする(時には夜に
もいないが)。そして朝は居てもぐっすり熟睡中だったりして、さおだけ売り
の声では起きるまい。だからここら辺、大学生も多い場所を、今の時間走り回
るのが不思議とは……まあそこまでは思わない。
 それにしても。

「たーけやーあ、さーおだけー」

 その、声が妙なのだ。

 普通、この手の声は、おじさんなりおねえちゃんなりの声を録音した上で車
のスピーカーから放送する。当然その声はマイクなりなんなりを通した……あ
まり上等でもない『録音音声』となる(当たり前だ、物干し竿売りがそんなに
凝ったことをするわけがない)。

 で、あるのに。

「もーのほしーーーのっ、さーおだけーーーっ」

 その、声は。

 女性のもの、と、片帆の耳には届いた。
 それもプロで食べられそうな、豊かな声量と、透明度の高い声。

 ……で、なんでそれが「ものほしーの」なのだ。

「わけ、わからないなあ」

 ふっと振り返ると、通り過ぎてゆく車の窓から、ひょい、と、頭が覗いた。
遠目にも色白の、可愛らしいと同時に、どこか邪気の無い顔立ち。特に目元の
泣きぼくろが巧まずして妙にいろっぽ

「……え?」

 そこまで考えて、片帆は一瞬固まる。

 目元の、泣きぼくろ。
 んなもん……見えるわけが、無い、のだ。
 この距離で。

 思わずもう一度振り返って眺めた、その視線の先で。

「もーのほしーの」

 彼女の口が、柔らかく開いて。

「さーおだけー」

 ふわ、と、柔らかく笑んだ彼女の顔。

 そして。

 ふい、と。

「…………っ?!」

 一度まばたきをした、その隙に。
 彼女はトラックごと、消えうせた。



「たーけや、さおだけー……か」

 とんとん、と、片足ずつ弾むようにしながら。
 片帆は、苦笑を浮かべる。

 十年一日。自分が知っている限り、竿竹売りの声はいつもあんな風だった。
 そして、姉が知っている限り、でも。

 五年間。
 絶望して、苦しんで……

 ……でも、あの人はその間、自分に一番近かった。

(ねえ、片帆、お父さん達の予定とか……知ってる?)

 片帆の唇が、笑いとも皮肉ともつかない形に捻じ曲がった。


「もーのほしーの、さーおだけっ」

 十年一日。
 あのあやかしは、それ以上の長い期間を、その台詞だけを後生大事に抱えて
移動していたのだろうか。

 それは、ある意味……無惨だけど。
 ある意味……いとおしいものかもしれない。


 かこん、と。
 足元の石をもう一度蹴っ飛ばして。

 片帆は一つ溜息をついて、また歩き出した。

時系列
------
 2005年9月末〜10月はじめ。

解説
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 30分勝負の、お題は『HA06event: 透質な雰囲気の巡回販売の幽霊に遭遇する ですわ☆』
に拠ります。
 巡回販売つーたらこれでしょう(笑)

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実際、夜の夜中に、にたよーな巡回さんがいたのはしみつだ。
ではでは。
 


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