[KATARIBE 29391] [HA06N] 小説『お碗叩いて』

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Date: Sun, 16 Oct 2005 22:03:24 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29391] [HA06N] 小説『お碗叩いて』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年10月16日:22時03分24秒
Sub:[HA06N]小説『お碗叩いて』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
30分間一本勝負、あとだしっぽいですが、とりあえず。

お題は、
「HA06event: 腹を空かせた手の怪が音を立てた ですわ☆」
でした。

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小説『お碗叩いて』
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登場人物
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 六華(りっか)
  :元冬女。現在佐上雑貨店の店員としてバイト中。

本文
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 恐らく、年を経てもう少しでアヤカシとなろうとするモノには、意思のひと
つもあるのであろうし、だから自分の存在し易い場所に集まろうともするのだ
ろう。
 そのことについて、とやかく言う権利なぞ、誰にも無い。
 ただ……願わくば、多少なりともこう……

「…………控えめって言葉を知ってもいいと思う」

 思わず、六華は呟いた。


 佐上雑貨店。
 店長は他に本業を持つため、最近よく六華がこの店の『店番兼唯一の店員』
となることが多い。
 品揃えも見たところも、少し昔に良くあった雑貨店。ガラスの引き戸の外に
並べた台の上にはシャベルやバケツ、ガラスの中には粘土からジュースから、
それこそ様々な品が少しずつ並んでいる。
 ただ、店長の本業の影響なのか、時折だが『アヤカシ一歩手前』のモノが紛
れ込んでいることがある。耳を傾ける者に話し掛ける菓子の器。時折ことこと
と、退屈そうに揺れる筆架。そして。

「……あのね、お客さん居ないからいいけどね」

 目の前に置いてあるのは、生成りの色を基調とした……碗である。
 恐らく手作り、少しいびつな感じに味のある……そういう意味では古道具屋
や骨董市場あたりが似合いそうな品なのだが(骨董としてはちょっとB級っぽ
いなというのが六華の見立てではある……無礼である)。

 が。

 その碗が、現在とても妙な音を立てている。

 ちゃかぽこ。
 ちゃかぽこ。

「お客さん来たら、ここがオバケ屋敷って言われるんだけど?」

 碗の内部から、にゅっと手が伸びている。それが何故か隣に置いてあったお
箸をしっかと握って、やはり隣のお碗(これは普通のご飯茶碗)を叩いている
のである。
 ちゃかぽこちゃかぽこ。
 妙にリズミカルなのが、不気味と同時に……妙に腰砕けで。

「もう……何がやりたいのよ」
 
 腰に手を当てて、じとっと睨んだ六華の目の前で、手は、握ったお箸をぶん
ぶんと振って見せた。
 先刻いつものとおり、店を開けようとこちらに来たときには、こんな手は無
かった筈なのだ。一体何時こんな手が、にょきっと出てきたものやら。

「お箸振っててもわかんないでしょ……もう、向こうの部屋にやるよっ?」

 と、手はお箸をことんと落とした。慌てて拾い上げる六華に向って、片手拝
みのポーズを作ってみせる。

「何がしたいの……それとも何か欲しいの?」

 ぴしんっ。
 手は、指を鳴らした。なーいす、くらいの意味かもしれないが、弾みで茶碗
が倒れかけ、やっぱり慌てて六華が抑えることとなる。

「……なによいったい……」

 六華にしても困る。こんなものがあった日には店が開けられないではないか。

「そこでおなかすいたーとかそういう莫迦な」

 言いかけた言葉が、途切れる。
 ぴしんぴしん、と、手が指を鳴らしている。それそれ、それなんだよ、に近
い勢いで。

「……どやって食べる気よっ」

 指が、自分の生えて(?)いるお碗を指す。

「そこに、入れろっての?」

 ぴしんぴしん。

「…………」

 非常に疑わしげな顔になりつつ、六華は自分のお弁当箱を開ける。中に入っ
たおかずを暫く眺めて、卵焼を一つ取り出して、お碗に入れる。

 と。

「……げっ」

 しゅるん、と手が消える。その途中で手はしっかと卵焼を握り……結果、卵
焼ごとどこぞに消えてしまった。

「何だろう一体……」

 と、ぼやいたところで。
 またもや、しゅっと手が出てくる。

「何っ。ご飯あげたでしょ?」

 ちゃかぽこちゃかぽこ☆

「……もっととか言う?」

 ぴしんぴしん☆

「だーめっ!これ美絵子さんが作ってくれたお弁当なんだから、駄目!」

 がたごと。

「……ここのお菓子買ってあげるから、このお弁当は駄目っ!」

 ちゃかぽこちゃかぽこ。


 アヤカシ一歩手前の連中がここに集まるのは……まあ、類は友を呼ぶという
ことで仕方が無いのかもしれない。
 しかし。

「お弁当まで取られて堪るもんですかっ」
 
 ぷん、と、ふくれながら六華はお菓子を落とし込む。
 さっきの卵焼が余程魅力的だったのか、なーんか気の無い動きで手がお菓子
を吸い込んでゆく。

 
 佐上雑貨店。開店前の……風景である。

時系列
------
 2005年10月初め

解説
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「HA06event: 腹を空かせた手の怪が音を立てた ですわ☆」
 30分間一本勝負のお題の一つです。

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 文章自体は24分でした(ちーん)

 ではでは。
 


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