[KATARIBE 29384] [HA06N]小説『迷子の手』

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Date: Sun, 16 Oct 2005 15:51:19 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29384] [HA06N]小説『迷子の手』
To: kataribe-ml@trpg.net
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ふきらです。
三十分一本勝負。お題は

15:14 <Role> rg[hukira]HA06event: 腹を空かせた手の怪が音を立てた ですわ☆

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小説『迷子の手』
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登場人物
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 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

本編
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「ふむ。道の真ん中に手が落ちている…… って、手?」
 研究室からの帰り、帆川神社の石段の前の道で神羅は立ち止まり、言った。
 確かにその視線の先には手が落ちている。自分の手よりは少し小さいくら
い。手首の辺りで切れていた。
「いや、それはいくら何でも唐突すぎるやろう」
 そう言いながら、手に近づく。
 断面から血が流れている、ということはなくゴム製の間接らしきものが見え
る。どうやら人形か何かの手らしい。それでも、結構リアルに作られていて、
遠くから見たら本物に見えそうだった。
 しばらく見ていると、ぴく、とその手が動いて地面をカリカリとひっかきだ
した。
「普通の人が見たら驚く光景やな」
 神羅の声に反応して手は動きを止めた。そして、神羅に向かって手招きをし
た。
「何や?」
 声をかけると、手はせわしなく色々と指を折ったりしている。どうやら手話
で話そうとしているらしい。
「悪いけど手話は分からんねん」
 すると手は再び動きを止めて、今度はペンで何かを書く仕草をする。
「ああ、字は書けるんや。と、ここじゃ何やからうちに来てもろてもええやろ
か?」
 手が親指を立てて、いわゆる「グッド」のジェスチャーをする。神羅はその
手を持ち上げると石段を登っていった。
 家の中はみんな出払っていて誰もいない。居間のちゃぶ台の上に手を置く
と、紙とペンを持ってきてやる。
 手は「すまんね」という感じで拝む仕草をして、ペンを持った。
「ふむ。なになに……」
 書いている紙を覗き込む。手はまず「腹が減った」と書いた。
「腹が減った、といってもなあ……何を食べれんの?」
 神羅の問いに再びペンを動かす。
「そう言えば、食べる必要はなかった」
 書かれた文字に神羅は「どないやねん」と突っ込む。
「しかし、腹は減っている」
 ふむ、と神羅はあごに手を置いて思案する。手はちゃぶ台をコツコツと叩き
始めた。最初はゆっくりだったテンポが次第に速くなってくる。
「あー、うるさいっ」
 神羅が怒鳴った。手は叩くのをやめると、神羅に向かって震えながら拝む仕
草をした。
「まあ、ええわ」
 その仕草を見て、溜め息をつく。 
「多分、本体と離れているから腹が減っているように感じるんやろな」
 人差し指で神羅を指す手。どうやら、「それだ」と言いたいらしい。
「ほんじゃ、探しに行くか……というか、連れてってもらおか」
 そう言って神羅は先ほど手が書いていた紙を人型に切ると、右手部分をち
ぎってそこに手を貼り付けるようにしてちゃぶ台に置いた。
 そして、口の中で何か呟いて息を吹きかける。すると、人型の紙が大きくな
り人間の姿をとった。
 姿は全く人間だが、右手だけは先ほどの作り物の手のままである。
「なんとなく、どこに本体があるかは分かるやろ?」
 神羅の言葉に頷いて、外に出る。その後ろを慌てて神羅が追いかけていく。
 彼は商店街を抜け、人通りの少ない道をゆき、やがてあるところで立ち止
まった。
 そこは、ゴミ収集所だった。そこにマネキン人形が一体捨ててあった。
「あー、なるほど」
 そう言って神羅は再び何か呪文のようなものを呟いた。人が紙に戻り、手だ
けがその場に残る。その手は指を使って進んでいくと、そのマネキン人形の右
手部分に収まった。
 ぴくり、とマネキン人形の体が動く。そして、ぎこちない動作で起きあがる
と神羅に向かって無表情なまま深々と頭を下げた。
「いや、ええってことよ」
 神羅が答える。マネキン人形はもう一度頭を下げると、逃げるようにして駆
けだしていった。
 その場に残された神羅が困ったような表情を浮かべる。
「……怪奇現象を生み出してしまったか」
 後日、動くマネキン人形の噂が広まったとか。

時系列と舞台
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某月某日。

解説
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勝手に怪奇現象を作ってはいけません。

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