[KATARIBE 29363] [HA06N]小説『寝違えに一発』

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Date: Fri, 14 Oct 2005 01:14:56 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29363] [HA06N]小説『寝違えに一発』
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ふきらです。
三十分一本勝負。今回のお題は

00:36 <Role> rg[hukira]HA06event: セールスマンの前で寝違えた ですわ☆

でした。前回と似ているようですが、続いていません。

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小説『寝違えに一発』
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登場人物
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 火川猛芳(ひかわ・たけよし):http://kataribe.com/HA/06/C/0580/
  帆川神社の宮司。

本編
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「ここか……」
 帆川神社へと続く石段を見上げて一人の男が呟いた。
 びしっと決めたスーツ。右手にはアタッシュケース。平日の昼間、神社とい
う状況ではまず見かけることのない出で立ちである。
 男は石段を一段ずつゆっくりと上がっていく。境内が近づくにつれて、金木
犀のほのかに甘い香りが香ってきた。
 秋とはいえ、昼の日光はまだ衰えていない。境内に到着する頃には男の額に
うっすらと汗が浮かんでいた。
 境内は彼の他に誰もおらず閑散としている。男は周囲を見回しながら奥へと
進んでいった。
 やがて、本宮の前まで行くと賽銭箱の前に紙が貼ってあるのに気がついた。
紙には、
<ご用の方は社務所まで>
とあり、その下に矢印が書いてあった。
 男はその矢印に従って、進んでいく。その先には社務所というより木造の一
戸建てがあった。その縁側では老人が一人横になっている。
「ひょっとして……」
 老人の孤独死、という言葉が彼の脳裏をよぎる。男は駆け足で近づいていっ
た。
 老人はピクリともしない。男は体を揺らそうとゆっくりと手を伸ばした。
「あれ。お客さん?」
「うわっ」
 不意に後ろから声をかけられ、男は伸ばしていた手を引っ込める。
 振り返ると、小学生ぐらいの男の子がいつの間にか立っていた。
「爺さんに用なの?」
「いや、この神社の宮司さんに……」
「じゃあ、爺さんに用なんだ」
「え、この人が……」
「何じゃい。人が寝ておるのに」
 後ろから火川猛芳が不機嫌そうな声をあげる。男はゆっくりと振り返った。
「……生きてた」
 その言葉に猛芳は眉をひそめた。
「勝手に殺すな」
「す、すいません」
 男は萎縮する。
 猛芳は一つのびをすると、胡座をかいて座った。
「……ん?」
 再び眉をひそめる。
「爺さん首が斜めー」
 男の後ろにいた少年が笑いながら言った。
「む……寝違えたか」
 猛芳は首を反対方向に傾けようとするが、そのままの角度から動かない。両
手でもって無理矢理ねじろうとするが、やっぱりだめだった。
「まあ、ええわい。で、何の用じゃ?」
 傾いた首のまま、猛芳は男に尋ねる。
「いえ、こちらでお祓いをしてもらえると伺ったのですが」
「ああ、やっとるよ。で、今やるのか?」
「できれば……」
 その返答に猛芳は溜め息をついた。
「じゃあ、しゃあないか。痛いからやりたくないんじゃがなあ……」
 そう言って、右手を拳骨にして自分の真横に構える。
「一体何をするん……」
 男の問いが終わる前に、猛芳は力一杯自分の頭を殴った。
 ゴツン、と鈍い音がして彼は顔をしかめる。つられて、男と少年も顔をしか
める。
「つつ……」
 猛芳が首を左右に傾ける。今度は何の抵抗もなく動いているようだ。
「よっしゃ」
 そう言って彼は立ち上がった。
「準備するから先に神社の方へ行っといてくれ」
 あっけにとられた表情のまま男は頷いて、神社へと向かっていった。
「……だ、大丈夫なんだろうか。お祓いっていって殴られたりしないだろうか」
 男の心の中で、一つの疑念がわき上がってくる。
「さ、さすがにそんなことはないよな」
 自分に言い聞かせてハハハ、と乾いた声で力なく笑う。
 しかし、彼は数分後、それに近い状況になるとは知るよしもなかった。


時系列と舞台
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 某月某日。秋の頃。帆川神社にて。

解説
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 知らず知らずに客を脅している爺さん。

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