[KATARIBE 29352] [HA06N] 小説『 Wish Side B 』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Thu, 13 Oct 2005 02:18:31 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29352] [HA06N] 小説『 Wish Side B 』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200510121718.CAA95643@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 29352

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29300/29352.html

2005年10月13日:02時18分31秒
Sub:[HA06N]小説『Wish Side B』:
From:久志


 久志です。
『Wish』先輩サイドです。
こう、どーしてお前達はいつまでも落ち着きませんか……

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『Wish Side B』
====================

登場キャラクター 
---------------- 
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。ヤク避け相羽。
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0483/
 軽部真帆(かるべ・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。ネズミ騒動以来相羽宅に移住。
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0480/

本文
----

 握り締めた手を開いて、もう一度、拳をにぎる。

 涙に濡れた頬を手の平で撫でた感触。
 梳いた髪が指をすり抜ける感触。

『……言ったっしょ』

 握った拳にゆっくりと力を込める。

『惚れてるって』

 その言葉に嘘はない。
 だが、拒否されてしまえば、それまでで。


「ごはん、出来てるよ」
「……ありがと」

 ちらりと見た顔は、先日や先々日のような頑なな表情ではなかったが、呼び
止める前に、すぐさま奥へと引っ込んでいった。

「お茶……もらえる?」
「冷たいの、熱いの?」
「冷たいの」
「わかった」

 冷たいグラスを受け取って、ひと口お茶を飲む。よく冷えた緑茶の苦味が口
にほんのりと広がる。昨日から胸の奥で感じている苦味。

 何か話したいと思いつつ、何を話したらいいか。
 自分が伝えたいことは全て言葉にしているはずなのに、それがどこまで通じ
ているかがまるで分からない。

 それきり、会話もないまま。
 ただ、沈黙が痛い。

 空になった湯呑みをテーブルに置いて。すぐさま片付けようと伸びてきた真
帆の手首を軽く掴んだ。

「……嫌、だった?」

 一瞬、ぴくりと震えるのが分かる。
 じっと見据えたまま、握った手首に力をこめる。

「……嫌、とは言わない。嫌じゃない」
 途切れそうになりながら、ひたすら言葉を選んでいるのが分かる。
「……わかんないだけ」

 少し、拍子抜けした答えに、掴んだ力が少し緩む。

「…………そう」
「だって、わかんないんだよ」
 少し慌てたように、じっとこちらを見たまま言葉を続ける。

「……あのね、あたしにさ、弟分が居るじゃない」
「ん、ああ」
「それも全国あちこちに山ほど」
 そういえば、以前、留守番電話に伝言を残していったのも、留学時代の世話
の焼ける弟分だと言っていた。
 ちょっと、ひっかかる。

「日本人の人口は、最大でも200人を越すことの無い国で、あちこちで恋愛沙汰
の起こる年齢層が集まってて」
「でもね、その中で、あたしには弟分が居たわけ。それも常時複数」
「それが可能なくらい……廻りもあたしも、『こいつは恋愛無関係』って徹底
してたの」

 その言葉に全く違和感を感じないのは、自分でも良く分かる。初めて史に紹
介されてこいつに会った時も、あってからものの五分としないうちに、当たり
前のように素顔をさらけ出した会話をしていた。

 それだけ、素で居られる。
 どこか、緊張を解きほぐすような。

 だから、逆に。
 俺にとって。

「……で、俺がでてきたわけか」
「だって、相羽さんだって、最初は恋愛無関係と思ってたでしょうが」
「そだね」
 さすがに苦笑する。

「…………迷惑?」 
 その問いに、しばし答えはない。
「俺は……正直、嬉しいけどね」
「……え?」
「お前がいて」
「…………あのね」
「ん?」
「だから…………嫌とか何とか言う以前に、わかんない」

 その問いに心のどこかで安堵している。
 少なくとも、拒否されているわけじゃない。

「……なら、わかってからでいい」
「……」
「嫌ならちゃんと言ってくれればいい」
「嫌じゃない」
 答えはすぐに返ってきたが、その目に一瞬迷いが浮かぶ。

「……迷惑じゃないの?」
「俺は迷惑じゃない」
「相羽さんを……縛ってない?」
「縛ってなんかないよ」

 むしろ縛り付けようとしてるのは自分の方だ。
 弟分に妬いてるのも、ここに居て欲しいというのも、全て自分のわがままで。

 それでも。

「そりゃ惚れた女には触りたいし手だしたいよ」
 独占欲とはよくいったもんだ。
「でも、それで嫌がってたり困ってたりしたら、手ださないよ」

 ゆっくりと。
 真帆の手が伸びて、自分の手を軽く叩いた。

「……ん?」
「……平気」
 そのまま、ゆっくり開いた手の上に真帆の手が重なる。少し熱を持った手を
そっと掴んで、目を見る。

「……平気、だよ」

 その言葉に、嘘はないと思う。

 掴んだ真帆の手をゆっくりと引っ張る。当然ながらその先の体ごと、こちら
に引き寄せられる。
 じっと見る目、そらしもせず、真っ直ぐに。

 すぐ目の前、鼻先が触れそうな位置にある顔。

「嫌?」

 答えは。

「……ううん」

 抱き寄せた体は、一瞬びくりと震えたが、逃げなかった。
 もう片方の手で頬を撫でて、ゆっくりと頬から顎に手をかける。顎を持ち上
げた真帆の目が反射的に閉じた。


 ここに居て欲しいと言って、居たいと言ってもらって。
 惚れてるといって、その気持ちにも応えてもらって。
 それでもなお、不安になる。

 何故なのか?

 今まで、自分には何もないと思っていて。
 とどめようという努力を放棄して。

 今は。

 しがみつくように、抱え込むように、抱きしめたまま頭を何度も撫でて。

 ふと。
 真帆の手が服の裾をしっかりと握り締めている。
 その手を包み込むように握る。

 離れていかないように。

 不安に飛ばされないように。

時系列 
------ 
 2005年9月初め。『Wish』の先輩バージョン。
解説 
----
 先輩、難儀です。ええ。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。



 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29300/29352.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage