[KATARIBE 29351] Re: [HA06P] エピソード『吹利学校高等部学園祭 2005   Never Forget Memories 』

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Date: Thu, 13 Oct 2005 01:36:49 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29351] Re: [HA06P] エピソード『吹利学校高等部学園祭 2005   Never Forget Memories 』
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2005年10月13日:01時36分48秒
Sub:Re:  [HA06P] エピソード『吹利学校高等部学園祭 2005  Never Forget Memories』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ようやく聡の『書きたかった話』に行きかけてます。
……しかしこう……
一応銘記。「写真ほしいよ!」と叫んだのは、赤ペン先生ひさしゃんです。
あ、津山先輩と沖田先輩、お借りしました>そーにゃにれあなん

エピソード『吹利学校高等部学園祭2005 Never Forget Memories』
=============================================================
登場人物
--------
  関口聡(せきぐち・さとし)
   :周囲安定化能力者。現在片目は常に意思と感情を色として見ている。
  蒼雅巧(そうが・たくみ)
   :霊獣使いの家の一員。高校二年生。非常に真面目。 
  桐村駿(きりむら・しゅん)
   :野球部の主力投手。クラス一、もとい学校一のちびっこ。
  中里嘉穂(なかざと・かほ)
   :姐御肌の同人誌作成者。上二人と同じクラス
  中村蓉子(なかむら・ようこ)
   :SS部所属。秋風秦弥の彼女。関口とは同じクラス。
  沖田勘九郎(おきた・かんくろう)
   :服飾文化研究部部長。コスプレマニア。
  津山三十郎(つやま・さんじゅうろう)
   :地下探検部部員。猫耳着用のかなり変人。

迷路陣
------

 そして午後は、聡の自由時間である。

 歩      :「はい、交代」
 嘉穂     :「さーんきゅ」

 総責任者たる嘉穂も、流石に今日の午後だけは、自由時間として動くらしい。

 嘉穂     :「あ、そいでね、メイド服は着替えないこと!その服がそ
        :のまんま、宣伝になるんだからねっ」
 メイド軍団  :「げーーーー」

 それでも案外その声は小さい。これまでの経緯を見るに、そうくるだろーな
と、大概の面子が諦めていたふしがある。

 蓉子     :「い、急がなきゃっ」
 聡      :「へ?」
 蓉子     :「クラブのほうも活動してるから」

 もし良かったら後で来てね、と言い置いて、ぱたぱたと蓉子は走ってゆく。

 駿      :「関ちゃんはどこにいくんだ?」
 聡      :「巨大迷路に行ってみるよ」
 駿      :「ああ……」

 何やら言いかけて、駿が窓の外を見やる。
 つられて聡も外を見やる。

 駿      :「台風、まだ来てないからいいけどさ。明日になったらや
        :ばいかな、迷路」
 聡      :「……うん、それ、ちょっと考えてた(苦笑)」

 下手に台風が直撃したとして、その後にあの迷路が残っているかどうか。
 ……はなはだ、心許ないものがある。

 駿      :「オレも後で行ってみよ。じゃね、関ちゃん」
 聡      :「うん、また後で」

 右と左に別れて……なのだが、互いにメイド服なのが笑えるといえば笑える。

 聡      :(これ、風の中だと結構大変じゃないかなあ(汗))

 スカートの裾をちょっと手で抑えて、聡は空を見上げる。
 空は、鈍色に染まりつつある。

           **

 聡      :「こちらが、入り口ですか?」
 巧      :「はい、そうです」

 弱小部が幾つも集まって作成した、と、評判の迷路は、その前評判のとおり
人気があるようだった。黒幕で隠れた迷路の内部、そのずっと奥のほうから笑
い声とも悲鳴ともつかない声が聞こえてくる。

 聡      :「途中……何かあるんですか?」
 巧      :「そんなに危険なものはありませんよ(苦笑)」

 まあ、普通に道に迷うくらいです、と、巧は言う。

 聡      :「じゃ、行って来ます(ぺこり)」
 秋芳     :「ぴいっ」
 聡      :「うん、頑張ってくる」

 黒いドレスに白いエプロン。白のヘッドドレス。それに白い靴下と黒の靴。
 どちらかと言えば小柄な姿が迷路の入り口に消えてから、やはり迷路入り口
に詰めていた沖田勘九郎がぽん、と膝を叩いた。

 沖田     :「Alice In Mazeland……」
 巧      :「……あ」

 言わずと知れた、"Alice in Wonderland"のもじりであるらしい。

 沖田     :「中に、猫の御仁も居る筈」
 巧      :「ねこ……」

 はて、と首を傾げている巧に。

 沖田     :「先程、津山が迷路に入って行きましたのでな」

 津山三十郎=猫。
 その等号に頷くべきかどうか、巧が考え込んでいる間に。

 ばさばさっ。

 巧      :「!」
 沖田     :「ああいかん、そちらの幕が!」
 
 慌てて飛びついて、まくれ上がりついでに迷路の『壁』を一部飛ばしかけた
暗幕を抑える。大きく風を孕んだ暗幕が、一瞬手の中でうねるように動く。
 それでも何とか押さえ込んで、被害皆無のまま幕を定位置に戻す。ほっと息
をついて、巧は空を眺めた。
 鈍色の雲が、どんどんと流れてゆく。
 台風は……近いのだろうか。


            **

 聡      :(相当凝ってるなー)

 迷路の中を歩きながら、聡は内心呟いた。
 黒幕や柵。まさか迷路全体の壁を賄えるほどの黒幕はなかったろうが、それ
にしても要所要所、ここを見通せたら先がわかって面白くない、という部分を
上手く布で囲ってある。
 その布が、時折風にあおられてばたばたと鳴る。
 結構細かく区切られているのだろう、迷路のあちこちで声は聞こえるが、姿
は見えない。ことに数分前から、声さえもとりたてては聞こえない状態になっ
ている。互いの距離がある以上に。

 聡      :(風が……強い)

 内心呟いた途端、ばたばた、と、横手の暗幕があおられるようにはためいた。
 
 聡      :(え?)

 迷路の内部。無論この布や柵では完全に風を塞ぐことは出来ない。それにし
ても通路に沿って流れるのが、恐らくは風にとって『合理的』なのだろう。通
路の行き先から、どう、と風が吹き込んできたのだが。

 が。

 聡      :「……え?!」

 音、と。
 尺八や篠笛。どこかかすれるような……けれども、ある意味では『他に聞か
せることをある程度意図したくらいには、はっきりとした音』。

 そう、認識した……途端。

 聡      :「…………っ?!」

 恐怖というものは、時に認識し難いものであるかもしれない。つう、と、胃
の付近から血の気が落ちてしまう感覚。そして手当たり次第に駆け回りたくな
る、そんなどこか切羽詰った。

 聡      :「な、にがっ……」

 そして、これを『怖い』と認識すると、あとは雪崩れが落ちる勢いである。
崩れかけた膝を、かろうじて立て直すと、聡は拳を握り締めた。

 聡      :「で……出ないと」

 つよがりでもなんでも無い。とにかく此処から出ないと危ない、という意識
が、どうあっても頭を離れないのだ。
 怖い。
 ひたすらに怖い。

 聡      :「早く」

 恐怖が強くなりすぎると、時にそれは吐き気や眩暈に繋がるのかもしれない。
否、そういう変調を起こす可能性を感じ取ったからこそ、怖いと認識したのか
もしれない。
 それでも手を握り締めて、次の角を大きく曲がる。二つの道のうち、出口側
に近い道を、殆ど勘で選んで。

 聡      :「早くっ」

 と。

 ??     :「そこなアリスの一年生」
 聡      :「え?」

 目に入ったのは、まず、机が二つ。縦に積み上げられた机の、その上に。

 三十郎    :「死亡半時間前の顔になっておるぞ、サンドイッチの少年」
 聡      :「……どうも、先輩」

 ネコ耳を頭にとっつけた男子生徒は、妙に真面目な顔で、今まで座っていた
机の上から飛び降りた。

 三十郎    :「ふむ……零宿サンドイッチ飯の恩義を、今ここで返して
        :欲しければそのように言うのだ」
 聡      :「ここから早く出る道を教えてくださるって意味なら、は
        :い、返して頂きたいです」
 三十郎    :「うーむ散文的だが……まあ、仕方ないかな」

 顔色の悪さは、どうやら他人から見ても明らかだったらしい。

 三十郎    :「これが、ワープ回廊なのだっ!」
 聡      :「……は?」
 
 ……無理も無い。大威張りで三十郎が示しているのは……縦に二つに重なっ
た机である。

 三十郎    :「この机が見つかったら、入り口側から出口側に向けて抜
        :けるのだ。これだけは全部同じ」

 うんうん、と、頷いて。

 三十郎    :「病人怪我人用の通路だから割と単純なのだよ。恩に来た
        :かね、アリス少年?」
 聡      :「ええ。今日でも明日でも、サンドイッチ一食分、僕がご
        :馳走します。チャシャ猫の先輩」

 蒼褪めた顔のまま笑って言った言葉に、三十郎はうむ、と頷いた。

 三十郎    :「商談成立としておこう。では行け」
 聡      :「ありがとうございます」

 そのまま、聡は二つに積みあがった机の間を、するりと通り抜けた。


             **

 無論、インチキの方法は、多数あるものである。

 秋芳     :「ピイッ」
 巧      :「わかった」

 それなりにこだわりを持って作成された迷路である。時折人が本式に迷子に
なる可能性もある。また、万が一とは言え、中で転ぶなりなんなりして進めな
くなることがある可能性は無いとはいえない。
 そういう理由から、時折巧は秋芳を飛ばす。高く飛ぶ鷹の目からは、自在に
迷路の中を見通せるから……なのではあったが。

 よろよろと頼りない足取り。時折転びそうになっては危ないところで踏みと
どまる。見知らぬ生徒でも捨て置けない状況にあるらしい相手は、しっかりと
見知った……知り合いである。

 秋芳     :「ピィッ」
 巧      :「……聡殿!」

 何度目かの角を曲がって、駆けつける。
 相手はびくり、と一度足を止め……そして顔を上げた。

 聡      :「……先輩……」
 巧      :「どうしたのですか」
 聡      :「あ……」

 視線の先で、やっぱりメイド服のままの後輩は、怯えたような、同時に安堵
したような表情をその顔に浮かべている。

 聡      :「……巧先輩」
 巧      :「どうなさいました?」
 聡      :「先輩っ……」

 不意に、後輩の顔がくしゃっと歪んだ。知り合ってからこちら、笑顔以外の
明確な表情を滅多に見せない相手の表情に、巧はびくりとした。

 聡      :「……怖いですっ」
 巧      :「え?」
 聡      :「この迷路は……怖い……っ!」

 見慣れた顔を突然見たため、気が抜けたのだろう。そう言ったきり崩れるよ
うに座り込んで、頭を抱え込む。
 歩く気力が尽き果てた、といった姿を数瞬の間凝視した後に。
 
 巧      :「……失礼」

 言うと同時にひょい、と、聡を抱えあげる。小柄でほそっこい少年は、その
見かけどおり、軽々と持ち上がった。

 巧      :「とにかく、迷路から出ましょう。怖いのはこの中なので
        :すね?」
 聡      :「……はい」

 答えるのと同時に、かたかたと細かく身体が揺れる。
 その言葉に……嘘は無い。

 巧      :「秋芳!」
 秋芳     :「ピィィッ!」

 応じると同時に、ふわりと宙に浮いた鷹の目を通して最短通路を把握する。
抱え上げた後輩は、身じろぎもしない。

 と。
 どう、と、一度風が吹いた。
 
 聡      :「…………っ!」
 巧      :「どうされました?!」
 聡      :「おとがっ!」

 おと。音。
 足を止めて、耳を澄ます。
 聞こえるのは風の音ばかりである。

 巧      :「……わかりました」
 聡      :「…………」

 ぎゅっと、両手で耳を押し付ける。その仕草に、やはり嘘も誇張も無い。

 秋芳     :「ピィッ」

 どこか焦ったような、声であった。

          **

 ……とは、いえ。

 互いについては、これは真剣に理由があっての行動であり、そこに全く異心
も問題もないのだが。

 腐女子A   :「きゃあっ!」

 迷路の暗幕から出てきた、軍服姿の男子生徒。それも腕に……所謂お姫様抱っ
こ状態で……メイド服を着こなした生徒を抱えている、という図。

 腐女子B   :「か、かめらかめらっ!」

 それも、相手の具合が悪いことが歴然としているので、巧もそれなりに厳し
い顔になっている。
 ……だからこそ美味しいのよーというのは、恐らく出口付近で待機していた
嘉穂の台詞かもしれない。

 巧      :「すみません、木葉殿。保健室まで行って来ます」
 木葉     :「あ……あ、はいっ(焦)」
 聡      :「……先輩、ご迷惑おかけして……」
 巧      :「いえ、たいしたことではありません」


 とりあえず。
 保健室に行くまでは邪魔をされなかったあたり、腐女子の良識を示すもので
あったのかもしれないが、保健室から出てきた巧がどうなったかというのを考
えるに、その良識にもあっさり限度が来たということかもしれない。

 ……とりあえず。
 文化祭の後も、この一件に関する写真が裏で出回って密かに高値を呼んでい
た、というのは、ある意味公然でありながらの秘密であったりする。



時系列
------
 2005年9月。文化祭一日目の午後。

解説
----
 奇妙な形に組み上げられた迷路と、そこを通る風の音。
 どうやらそれが、奇妙な具合に作用したようですが…………
 とりあえず、腐女子の面々には、非常に美味しい方向に作用したようです。

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 てなとこで。
 ではでは。
 
   


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