[KATARIBE 29330] [HA06N] 小説『一線〜 Side A 』

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Date: Sun, 9 Oct 2005 23:29:32 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29330] [HA06N] 小説『一線〜 Side A 』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年10月09日:23時29分32秒
Sub:[HA06N]小説『一線〜Side A』:
From:久志


 久志です。
『一線』先輩サイドです。
こう、どーしてお前達はいつまでも落ち着きませんか……

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『一線〜Side A』
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登場キャラクター 
---------------- 
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。ヤク避け相羽。
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0483/
 軽部真帆(かるべ・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。ネズミ騒動以来相羽宅に移住。
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0480/

重い足取り
----------

 あの猫騒動から丸二日。
 結局、未だに真帆とはまともに顔をあわせることなく。急に入った仕事の為
にまるまる家を空けていた。

 県警を出掛けに、電話でこれから帰ると伝えてから。
 自宅へと向かう足取りが、少々重い。だからといって家に帰りたくないわけ
じゃない。
 このまま帰って、あいつは自分と顔をあわせられるだろうか。

 無理だろうな、とは思う。

 恥ずかしさと申し訳なさで、顔もろくにあわせず、話もできない。だた謝っ
て逃げるの繰り返しで。

 あの状況からして、自分の取った行動がまずかったのは自覚してるし、だか
らといって謝ったりしたら余計あいつは恐縮するだろう……悪循環だ。
 顔を見れるでもなく話ができるわけでもなく、こちらからはどうしようない。

 結局、何一つ打開案は浮かばぬまま、家のすぐ前まで辿り着いていた。

 ともあれ、ゆっくり休みたい。

 ひとつ息を吸って、ドアノブに手をかける。


それる視線
----------

 ただいま、と自分の声。
 一瞬遅れて、おかえりというあいつの声。

 そのやり取りはいつもと変わらずに。
 ふよふよと飛びついてくるベタ達を軽く指で撫でて、上着を脱ぐ。

「ごはんできてるよ」

 そう言うが早いかついっと視線が逃げる。そのまま俺の返事を待たずにぱた
ぱたと逃げるように台所へと駆け込んでいく。
 遠ざかる真帆の背中を見て、小さくため息をつく。

 やっぱり、まだ無理か。

 箸でほぐした秋刀魚の塩焼きを口に運びながら、ちらりと目線を送る。やっ
ぱり真帆は俯いたまま、ずっと目を合わせようとしない。

「お茶どうする?熱いのと冷たいのと」
「冷たいの」
「……はい」

 蚊の鳴くような声で、踵を返す。

 その行動が、この間の猫騒動が後を引いてるせいなのか。
 それとも……その後の。

「どうぞ」

 差し出されたグラスを受け取って、そのままテーブルに置く。そのまま引っ
込めようとした腕を捕まえる。

「……まだ、気にしてる?」

 掴んだ腕を通じて、ぴくりと震えるのがわかった。そのまま覗き込んだ顔が
小さく下を向く。
 捕まえた腕がひどく頼りない、手を離したらこのまま消えそうな……

 ぽつん、と。閉じた真帆の目から涙が落ちた。
 腕を掴んだ、だたそれだけなのに、なんだか酷く傷つけてるような気がした。

 そこまで、嫌なものかね?

 思わず、小さくため息をつく。
 指先で涙の伝う頬を撫でた。

 そしてこの次に出てくる言葉が、大体予想がついて。

「……ごめんなさい」
 いい終わらないうちに、抱きしめた。
「……大丈夫に、なるように、するから」
 そうじゃない、とは言わなかった。多分そう言っても、それが余計にこいつ
を悩ませるだろうことも理解できた。

「……無理しない程度に、ね」
「無理してない」
 きっ、と。言葉が鋭くなる。
「だって相羽さんは、何もしてないじゃないか」
「そういう問題じゃないって」
「……あたしが悪い」

 だから。
 お前は悪くないし、謝ることじゃない。

 体を離して、下を向こうとした顔を両手で包むように押さえる。

 見つめる目。
 浮かんだ涙と、微かに怯える影。

「…………怒ってない……?」
「怒ってないよ」
 どうすれば、お前は自信が持てる?
「元に戻ってよかったし」
「相羽さんに、全部、助けて貰ったのに」
「……そりゃ、さあ」
 思わず苦笑する。
「惚れた女助けるくらいやるでしょ」
「…………っ」
 一瞬で耳まで真っ赤になるのがわかる。
「…………ずるい……」
「……ずるい?」
「何だか良く判らないけど、ずるいっ」
 まあ、ずるいか。確かに。
「……まいったねえ」
 どうしてこうも情けない男になったもんだか。

「だから、さあ……悪いなんて言わんでいいよ」
「…………はい」

 でも、と。小さくつぶやく声が聞こえた。
「ん?」
「……気にして、ごめんなさい」

 すぅっと。
 自分の中で何かが冷える。

 頬を撫でる手をゆっくり下ろして、顎を持ち上げる。それでも戸惑うように
怯えた目がこちらを見る。

 どうして、通じない?

「…………ごめんなさいっ」

 ずきり、と。
 胸が痛んだ。

 顎を持ち上げた手に力がこもる。背中に手を回したまま、もう片方の手で体
をゆっくり引き寄せる。びくりと肩をすくめて怯えるように目をつぶった。
 そのまま唇を重ねて顎を持ち上げた手をそのまま後頭部へ回し、力を込めた。

 触れた唇は微かに熱を持っていた。

 時間にしてみたら、3秒ほどだろうか。
 凍りついたように動かなかった真帆の体が、糸を切れたようにふらりと力が
抜けた。頭をなでていた手を背中に回してふらついた体を支えてながら唇を離
した。

「……真帆」

 前髪が額に微かに触れている。
 驚いたような、ぽかんとした顔がぼんやりとこっちを見上げている。
 その頬を撫でながら、小さくささやく。

「……言ったっしょ」
 自分でも、ほんと莫迦みたいなほどに。
「惚れてるって」

 だから。
 と、思わず言葉を続けようとして止まる。

 だから。

「……不服、かね?」

 答えを聞くのが怖い、と思う。
 そんなことを怖いと思うこと自体が、まるで考えられないことで。

 慌ててふるふると首を横に振る姿に、やっと安堵感を覚える。

「そう……」

 ほっとしたのと同時に、するりと真帆の体から力が抜けた。そのまま、こと
んと胸に倒れこんで目を閉じた。

「真帆?」

 その問いに答える余裕もなく。真帆は腕の中で静かに寝息をたてていた。

「負荷、かかりすぎたのかねえ……」

 少なくとも、こいつの中ではついていけないことだったのだろうということ
はわかる。
 苦笑して、頭を撫でて抱き上げる。
 部屋のベッドに寝かせながら、ふと思う。

 明日はまともにこっちの顔を見るだろうか?
 逆かもしれない、むしろその方がありえそうな気がする。

 眠ったままの真帆の額を撫でて、一息。

 しかしまあ、俺もヤキがまわったね。


時系列 
------ 
 2005年9月初め。『一線』の先輩バージョン。
解説 
----
 お互いを想いつつ考える方向が難儀すぎる二人。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。



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