[KATARIBE 29322] [HA06N] 小説『花魁華』

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Date: Sat, 8 Oct 2005 22:14:08 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29322] [HA06N] 小説『花魁華』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年10月08日:22時14分07秒
Sub:[HA06N]小説『花魁華』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
先日久志さんに描いて貰った六華(雪野太夫)の絵を見て、以前からあった印象が
うわーーっと話になりまいて。
書いてみました、一瞬芸。
絵を、本当に有難うございました>ひさしゃん

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小説『花魁華』
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 登場人物
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  桜木達大 (さくらぎ・たつひろ):http://kataribe.com/HA/06/C/0365/
   :システム運用管理者、かつ対怪異専門の交渉人。
   :通称を若旦那、通り名は猫回し。
  六華(りっか):http://kataribe.com/HA/06/C/0481/
   :かつて花魁であった冬女。現在は依り代の雪兎によって生き延びる。

本文
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 雑貨店のお店番からの帰り道に、曼珠沙華の花を見た。
 懐かしくて涙が出た。



 まだ禿の頃、朱緋太夫と呼ばれるひとが居た。
「ゆきや、見ておいでな」
 抜けるように白いとはこのような、と思う肌。大きく黒目の勝った目。その
目元に紅を差し、頬に淡く紅を載せる。子供の目にも、美しい人が尚美しくな
るのはやはり見ていて楽しく、そのせいか彼女も、時折化粧の様子を見せてく
れたのを憶えている。

「彼岸花を見とうおすな」
 秋になるとその人は、よく、客にそうねだっていた。彼女の名を思わせる、
艶やかな朱をたたきつけたような花。
 好きな打掛には、裾から一面に彼岸花が縫い取ってある。馴染みの旦那が職
人に無茶を言って彼岸花の簪を作らせたという話は、結構後まで残っていた。

「彼岸花……曼珠沙華とも言いんす」
 そうやって貰った花を、まだ禿の自分に一本分けて下さる。まだまだ幼かっ
たからさほどまでには言われなかったが、あとから考えてもかなり可愛がって
貰ったものだと思う。
 それでも、その人が自分から過去を話して下さったのは……さてその一度で
はあるまいか。
「ゆきは見たことがありんすかえ。こなたの花が田圃に沿って咲くのを」
 あるような、無いような、と、答えた自分の頭を、その人はそっと撫でて下
さったっけ。

「こなたの花は、花魁に似てありんすぇ」
 細い指が、すっきりと伸びる茎をそっと撫でて。
「しゃんと茎を伸ばして咲くくせに、花は僅か下を向く。美しいけれども毒を
持つ。彼方と此方の区切りの彼岸に……それも墓場で咲く花や」
 くす、と、紅も無いのにぬれぬれと紅い唇が笑みをこぼし。
「わっちたちと似ていんすぇ」
 なあ、ゆきや、と、笑ったその人の言葉は、その時はさっぱりと意味がわか
らなかったけど。
 何度かの秋を過ごす時に、その言葉を幾度、思い出したことだろう。
 

 苦界に沈んだ買われるこの身に、それでも気概を持てというなら。
 毒の一つも身の奥に持たねば、成り立つものでもあるわけでなし。


 誰もが認めるその美しい人は、それでも最後まで苦界に沈んだ。
 落籍そうとの話があったが、本当になる前に体を壊してそのまま。

 あの華に良く似た、血を吐いて死んだ。



 ゆらゆらと微風に揺れて、華の色が滲む。
 鮮やかな緑の中に、幾つもの朱…………


「……あ」

 その緑の向こうから、見慣れた顔が。

「久しぶりです」

 何とも戸惑ったような表情を浮かべて。


 遥か昔に雪野は死んだが、尚、身の中に残る毒。
 その毒の故に今の自分は顔をもたげており……
 ……その毒の故にこの人を傷つけているのかもしれない。


「……お久しぶりです、達大さん」


時系列
------
 2005年9月初め。彼岸花の季節。

解説
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 花魁に喩えたくなる花は、他にも夜に揺れる桜花。
 帰り道、偶然桜木氏に出会うまでの、六華から見た一瞬の風景です。

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 てなもんで。
 ではでは。

 


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