[KATARIBE 29313] [HA06N]小説『金木犀対秋桜』

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Date: Wed, 05 Oct 2005 01:21:27 +0900
From: "Hikaru.Y" <hukira@blue.ocn.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29313] [HA06N]小説『金木犀対秋桜』
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ふきらです。

三十分一本勝負。二回目にして黒星。今回のお題は、

00:19 <Role> rg[hukira]HA06event: 微笑ましい花びらが突進してきた ですわ☆

でした。
何か『金木犀の香る頃』と続いています。
花びらじゃないけど許して……

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小説『金木犀対秋桜』
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登場人物
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 津久見神羅(つくみ・から):http://kataribe.com/HA/06/C/0077/
  何げに陰陽師な大学院生。

 少女:帆川神社にある金木犀の精。秋の花を咲かせる時期に現れる。

本編
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「おう、また今年も来たか」
 社務所も兼ねている自宅に戻ると、縁側で本を読んでいた神羅の祖父が金木
犀の精である少女の姿を見て右手を挙げた。
「また、しばらくよろしゅうね。お爺ちゃん」
 少女はそれに応えるように左手を大きく振った。右手は神羅の服を握ったま
まである。
「ところで、フィルは?」
 体を揺らされながら神羅が尋ねる。祖父は立ち上がると、家の中に探しに
行った。
「フィルって誰? ……はっ、まさか私の知らない間に新しい女を!?」
 少女は掴んでいる神羅の服を引っ張って、芝居かかった調子で言う。
「違う……てか、そもそもそんな言い回しをどこで覚えるんやねん」
「あははー」
 ごまかすように笑うと、少女は神羅から手を離し、縁側の先ほど祖父がいた
場所に腰掛ける。
「また、どこかに遊びに行っておるようじゃな」
 家の奥から戻ってきた祖父が言った。
「さよか……まあ、夕飯までには帰ってくるやろう」
 神羅はため息をつく。
「おう。それで思いだした」
「ん?」
「冷蔵庫が空っぽでな」
「なんと」
「そんなわけで、よろしく」
「やっぱり?」
「やっぱり」
 二人の会話を端から見ていた少女が身を乗り出した。
「どっか出かけんの?」
「ん。買い物にな」
 すると、少女は再び庭に降りて神羅の袖を握った。
「ついてく」
「……やっぱり?」
「やっぱり」
 嬉しそうな笑みを浮かべて少女が頷く。
「こうして見ると、年の離れた兄弟みたいじゃの」
 祖父がニヤニヤとした笑みを浮かべた。神羅が本日何度目かのため息をつい
た。

 太陽はもう西の空を朱く染めている。神社の石段を下りると、周囲の家から
夕飯の匂いが漂ってきた。
「さて、今日は何にするかな」
 学校帰りの学生たちとすれ違いながら、二人は商店街へと歩いていく。
「激辛のカレー」
「……ワシを殺す気か。第一、お前は飯はいらんだろうが」
「ええやん。カレーのあの匂いが好きなんやもん ……あ」
「ん?」
 少女が立ち止まってあるところを指さした。神羅が視線を移すと、そこには
秋桜でいっぱいの田があった。
「ああ、秋桜。お前と同じ秋に咲く花やね」
「えへへ」
 照れ笑いを浮かべる。そして、神羅から手を離すと、そっちに向かって走り
出した。
 神羅もその後をゆっくりと追う。秋桜の前まで来ると少女はすっと息を吸い
込んだ。
「やっほー」
 こんなところでヤッホーはないだろう、と神羅が苦笑していると、その声に
応えるように秋桜の間から、ひょこひょこっと子どもたちが顔を出した。
 彼らに向かって手を振る少女。彼らは少女の方を見ると、いきなりジャンプ
して飛び出してきた。
「きゃっ」
 驚いて神羅の後ろに回り込む少女。そうなると、突っ込んでくる子どもたち
の直線上に神羅がいることになるわけで。
 ドスン、とまず一人、神羅の腹に頭をぶつける。他の子どもたちも同じよう
な感じで神羅に突っ込んでいく。しかも、律儀にぶつかった子供はちゃんと脇
に避けるのである。
「ぐふ……」
 さすがに5人の突進を受けるときついらしく、神羅はうめき声を漏らした。
 子どもたちはあらためて少女の方を見る。
「なんだよ、見かけない奴だなー」
「なんだ、金木犀かよー」
「すごい匂いだよねー」
 子どもたちが矢継ぎ早に声をかける。
「そういう、あんたたちは秋桜やないの」
 少女が負けじと応戦する。
 神羅はその光景を苦笑しながら見ていた。言っている内容はともかくとして、
端から見たら本当にただの子供のケンカである。
「ほら。そんな不毛な口げんかはやめなって」
 ほっておくといつまでも止まりそうにないので、神羅が仲裁に入る。
「まあ、どちらも一年でこの時期しか会えへんのやから、ケンカする時間も勿
体ないやろ?」
 うー、と秋桜の子どもたちが唸る。うー、とこっちの少女も唸る。
「はいはい。もうすぐ日も暮れるし、続きはまた今度。帆川神社に来たらおる
から」
 神羅がそう言うと、子どもたちはしぶしぶ秋桜の中へと帰っていった。
「なんやねん、あの子ら」
「はいはい。文句は後で聞くから、はよ買い物を済ませるで」
 渋い表情を浮かべている少女の手を引いて、神羅は再び道を進んでいく。
 太陽は半分ほど西の彼方に沈み、空がますます朱く染まっていた。東の空は
もうほとんど夜である。 

時系列と舞台
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2005年10月。『金木犀の香る頃』と同じ日。

解説
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 初日からこんな感じだと、しばらくの間、帆川神社は色々騒がしくなりそう
です。

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