[KATARIBE 29312] [HA06N] 小説『微笑ましきは 花びらの』

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Date: Wed, 5 Oct 2005 00:53:27 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29312] [HA06N] 小説『微笑ましきは 花びらの』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年10月05日:00時53分27秒
Sub:[HA06N]小説『微笑ましきは 花びらの』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
30分一本勝負(?)の、話です。
べたずをお借りしました。

*************************************:
小説『微笑ましきは 花びらの』
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登場人物 
--------
 軽部真帆(かるべ・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。ネズミ騒動以来相羽宅に移住。
  赤&青ベタ
      :ベタの姿のあやかし。ぷくぱたと宙を飛ぶ。怖がりであまえっこ。

本文
----

 確かにまあ、こちらもそんなに丁寧に作ってなかったよな、とか思ったのだ
けど。

         **

 へろへろへろ。
 えらく元気の無い様子で、食卓に着地(?)したのは二匹のベタである。

「……どーしたの」
 
 普通なら、丁度お昼の時間を狙って現れて、そうめんだの卵焼だのを突っつ
いては崩すのがこの二匹である。
 こちらも最近は、この二匹が来るのを見越して、お昼のおかずを作るんだけ
ど。
 しかし。

「ね、どうしたの」

 尋ねると、二匹は揃って頭をぴょっと上にあげた。
 涙なんか無い筈の目に、何だかうるうるっと涙が溜まってるあたり……流石
にあやかしなのだあ、とか思ってしまうのだけど。

「なんか……あったの?」

 少し顔を近づけて尋ねると、二匹は互いに顔を見合わせて。
 そして数瞬。

「……わっ?!」

 ぴょい、と、跳ね上がるようにしてこちらの鼻先を通過、そして彼等が生前
生きていたのであろう水槽へとダイブ。

「……どしたの一体」

 水槽を覗き込んでみる。
 彼等の、いわば後輩、現役のベタが一匹、飄々として水の中に揺らめいてい
る。
 なんなんだか、なあ…………

 と。

「うわっ!」

 水槽から、まるで飛び出すように突進してきた二匹は、文字通り目の前で急
停止をやってのけた。

「え?」

 そしてふわり、と。
 彼等の頭上から零れる紅と藍の。

 ……花片?

「……ってそれ、この前作ってあげた、花?」

 こくこく、と二匹が頷く。頷いてこちらをぢっと見上げる。

「えーと……ちょっと見せて?」

 うんうん、と頷いて、赤ベタが前に出てくる。その首の辺りの蝶結びをそっ
とほどいてやると、花の付いたリボンは、そのままふわりと手に沿って流れた。

「あ……落ちちゃったのか」

 以前、二匹と、メスのベタに作ってやった花の飾り。確かにその時点ではそ
れなりに一所懸命に作ったけれども。
 そらまあ、この二匹がぱたぱたするののお供をしてれば、花弁の一枚や二枚、
落ちもするだろうなあ。

「……もしかして、壊れちゃったーとか思ってた?」

 ぷくー、ぱたたたた。

「そんで、怒られる、とか思ってた?」

 ぷっくー、ぱったたたたっ。

 いやね。そこで全身つかって、そういう方向に『肯定』せんでもえーんじゃ
ないかとかこう……

「怒らないよ、そんなことで」
 
 きょと、と二匹が顔を上げた。

「花弁落ちちゃったんでしょ?……直したげるから。ただ、2日くらいは待っ
てね?」

 ……ああ、そこ、嬉しいのはあたしも嬉しいんだけど、そこまで豪快に跳ね
回らなくていいから。

「んで、落ちた花弁、あるかな?」
 二匹はやっぱり一度顔を見合わせて。
 ぴょいっと……水槽に飛び込んだ。


 ……そして。

「……いやあのね、なければあたし、作るから」

 3分後に出てきた二匹は、それこそもう見事に落ち込んでいて。

「見つからないなら見つからないでいいのよ。もしかしたらあたしが掃除の時
に掃除機で吸い取ったかもしれないし」

 何かこう、なだめるのに苦労するくらいしゅーんとしてて。

「……何だったら、最初から、作るから。そんだけ大切にして貰っただけで、
あたしはとってもとっても嬉しいから」

 二匹を手の上にそっと載せて。

「……ね?」

 それで何とか、二匹ともに納得してくれたようなのだけど。


 一番細い針に糸を通し、小さな花弁を集めて縫い閉じる。
 ちくちくちく、と、縫いながら。
 
 何だか微笑ましくて、何だかほっこりと嬉しくて。
 できるだけ早く、出来たのを見せてやりたくて。


「……できたよー」


時系列
------
 2005年9月

解説
----
 「微笑ましい花びらが突進してきた ですわ☆」というお題を頂いて、書いてみました。
 まあ……見事なまでに、一瞬芸の世界です。

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 てなもんです。
 ではでは。
 


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