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Date: Sat, 1 Oct 2005 23:46:02 +0900 (JST)
From: いー・あーる <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29299] [Ha06N] 『一線〜 Side B 』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200510011446.XAA79456@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 29299
Log: http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29200/29299.html
2005年10月01日:23時46分02秒
Sub:[Ha06N]『一線〜Side B』:
From:いー・あーる
ども。いー・あーるです。
へれってます。
……ええと、流します。ええ。
題名は……その題名の、絵に対応(滅)。
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小説『一線〜Side B』
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登場人物
---------
相羽尚吾(あいば・しょうご)
:吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。ヤク避け相羽。
:http://kataribe.com/HA/06/C/0483/
軽部真帆(かるべ・まほ)
:自称小市民。多少毒舌。ネズミ騒動以来相羽宅に移住。
:http://kataribe.com/HA/06/C/0480/
本文
----
理屈では良く判っていることと、実際の自分と。
どうしてこうも乖離せねばならないんだろうと思う。
どうしても合わせられない視線。
どちらが悪いわけでもないことは良く判っているのだけれども。
**
人参を千切りにして、玉葱を薄切りにして、南瓜をやっぱり千切りにして。
ベタ達が肩の辺りから覗き込んでる。
(ひきずってるよなあ)
二日ほど、何だか献立に千切りやらささがきが増えてる。無心に手を動かす
だけの作業が、どうも無性にやりたくなって困る。
鍋の水が沸いたところで、南瓜の千切りを放つ。鮮やかな橙の色が視野にぱ
んと弾けた。
引きずれば引きずるだけ申し訳無いと判っている。
せめてちゃんと御飯を作りたいと思ったけど、あの日から二日、相羽さんは
帰ってきてない。
『今日は、帰るから』
少し疲れたような声で、電話があったのは一時間ほど前。
相羽さんが帰ってきたら、普通にせねば。
そう思う辺りが……自分も本当に……情けない。
つくつく、と、耳の辺りをつつかれて振り返った。
赤と青のベタが、心配そうにこちらを見ている。
「……ごめんね」
呟いて……ふと思い出す。
『姉さんのごめんねは、何も変わらないから嫌!』
あれ言われたの、何時だっけな。
腰に手を当てて、ぷんぷん怒った片帆がそう言ったのは……まだかなり小さ
い頃だったと思うんだけど。
今更ながら。
……本当にそうだ、と、自分でも思うのだけど。
**
ただいま、と届いた声に、お帰りと返しながら。
相羽さん疲れてるな、と、思った。
すっとんで飛びついてゆくベタ達を、ぽんぽんとあやすように撫でる手。
「あれ?」
「あ……ごめん、こっちにある」
片付けのついでに動かしてしまったハンガーを手渡して。
「ごはんできてるよ」
家政婦代わりやってて、本当に良かったとこんなときに思う。話題一つ思い
つけなくても、喋ることは出来る。
うん、と、頷く気配だけを片耳で聞いて、台所に戻って。
秋刀魚に塩して、グリルに放り込んで。
冷蔵庫に入れておいた大根おろしとすだちを引っ張り出す。
やっぱり顔を見れないままであると確認。
……確認したって偉くない。
**
仕事で数日空けた後は、相羽さんはあまり話さない。仕事の話をするわけに
もいかないのだろうし、何より草臥れてるからだろうと思うけど。
「お茶どうする?熱いのと冷たいのと」
「冷たいの」
「……はい」
冷蔵庫から作りおきのお茶を出して、グラスに注いで。
「どうぞ」
手渡したグラスが、すい、とテーブルの向こうに置かれる。動かした手はそ
のままこちらに伸びて、肘のすぐ下を掴んで。
「……まだ、気にしてる?」
数日前と殆ど変わらない言葉が。
数日前と少しも変わってないことを見抜いているように。
気にしていないといえば嘘だと思う。
でも、気にしているというのは……情けない。
覗き込んでくる目を避けようが無くて下を向いた。まさかにここで泣くこと
だけは出来ない。それこそ申し訳ない。
気にしていないといえば、嘘だと言われると思う。
でも気にしているとは、言えないじゃないか。
……この二日、あたしは一体何してたんだろう。
情けなくて眼を閉じて……しまった、と思った。
涙が、こぼれる。
駄目だ、と、思うと同時に。
頬を撫でる手。
何度も、何度も。
「……ごめんなさい」
いい終わらないうちに、抱き寄せられた。
「……大丈夫に、なるように、するから」
相羽さんは何も言わない。
それが……怖くて。
疲れて帰ってきて、挙句まともに顔も見れない奴が居て。
迷惑だろうと思う。思うから。
黙っている相羽さんの、その沈黙が怖い。
ふ、と、腕が少しだけ緩んだ。
「……無理しない程度に、ね」
「無理してない」
頬を撫でる手。多分とても疲れているのに。
「だって相羽さんは、何もしてないじゃないか」
「そういう問題じゃないって」
「……あたしが悪い」
不意に、背中に廻されていた手が離れた。そのまま顔を両手で抑えられて、
真正面から。
見据える。眼。
『真帆ねえさんのごめんなさいは、何も変わらないっ』
やっぱり睨むように、見据えていた片帆。
無表情のまま見据える眼は……どうしてか、とても辛いように思えた。
その辛さを見るのが辛くて、眼を閉じた。
額に触れる気配。背中に廻される腕。
なだめるように、何度も頭を撫でる手。
「…………怒ってない……?」
「怒ってないよ」
その声にも言葉にも嘘は無いけれども。
「元に戻ってよかったし」
「相羽さんに、全部、助けて貰ったのに」
一瞬の、間。そして。
「……そりゃ、さあ」
笑う、気配。
「惚れた女助けるくらいやるでしょ」
「…………っ」
咄嗟に顔を伏せた。
耳にまで血が上るのがわかる。
「…………ずるい……」
「……ずるい?」
「何だか良く判らないけど、ずるいっ」
くく、と、笑う気配。
「……まいったねえ」
何度も何度も、頭を撫でる手。
「だから、さあ」
微かに笑いの残る声で、相羽さんは言う。
「悪いなんて言わんでいいよ」
「…………はい」
『真帆ねえさんのごめんなさいは、何も変わらないっ』
変わらないから?
言っても、何も変わってないから?
「…………でも」
それでもそれしか言葉を選べないならばどうする。
「ん?」
「……気にして、ごめんなさい」
相羽さんの笑いの気配が、立ち消えた。
顎を持ち上げる手。視線の先の無表情に見据える目。
下を向こうにも向けないまま、相羽さんの目を見る。
言っても、何も変わらない『ごめんなさい』なら、聞くだけ腹が立つものな
のかもしれない。
怒るのか、斬られるのか。
無表情の奥が見通せない。
「…………ごめんなさいっ」
一瞬。
相羽さんの表情が動いたような気がした。
ひどく、つらいような、と、思った。
そして。
頭が真っ白になるっていうけど、それは本当だな、と、どこかでぼんやりと
思っていたような気がする。
抑え付けるな手が離れて、そのまま抱きしめられる。
呼吸音。
つらい、と。
自分がではなく、この人が。
どうしてそんな風に思ったろう。
つらさとか、やりきれなさとか。
言葉にしきれない、山ほどの何かを、真正面から切り込まれたような。
……どうしてそんな風に。
「……真帆」
声と同時に。
少しだけ……尋ねるように上がる語尾。
額がつきそうなほど近くから、相羽さんが見ている。
なんで。
変わらない無表情が、少しだけ崩れた。
「……言ったっしょ」
ほんの少し、苦笑しながら。
「惚れてるって」
言葉にならない全てを、真正面から。
そんな、風に。
頬に当てられた手が、少しだけ震えたような気がした。
苦笑の苦味だけが少し強くなった表情で、相羽さんはこちらを見ている。
「……不服、かね?」
…………あ。
慌てて首を横に振ると、相羽さんは一度息を吐いて。
笑った。
……そして多分それが、その日の最後の記憶。
一瞬暴風のようにぶつかった様々な感情。
どうしたらいいのだろう、と、それは思ったような気がする。
……そしてそのまま。
途切れたような、気が、する。
時系列
------
2005年9月初旬。『後悔後をたたず』、『気まずい朝』の二日ほど後。
解説
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猫騒動以来、どこかまだ引きずるものの残る真帆から見た風景。
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てなもんで。
ではでは(脱兎で逃げる)
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