[KATARIBE 29297] [HA06N] 小説『曼珠沙華』

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Date: Fri, 30 Sep 2005 23:26:48 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29297] [HA06N] 小説『曼珠沙華』
To: kataribe-ml@trpg.net
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Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
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2005年09月30日:23時26分47秒
Sub:[HA06N]小説『曼珠沙華』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
30作は無理でしたー(えぐえぐ)<こんじょなし。
せめてもってことで、25番目のこの話。
実は、キャラチャットの『ぷろぽをづ』の後の話です。
赤ペン先生(=ひさしゃ)が、ごろごろ転がったあたりから……お察し下さいええ(汗)

**********************************
小説『曼珠沙華』
===============
登場人物
-------- 
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。ヤク避け相羽。
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0483/
 軽部真帆(かるべ・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。ネズミ騒動以来相羽宅に移住。
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0480/

本文
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 おおたか静流という人の、『Repeat Performance』というCDの一曲。
 花は、曼珠沙華。
 その一言の、凛然とした響きを。
 あの、鮮やかな朱の色と共に思い出すことがある。

          **

 春の花は桜。
 秋の花は曼珠沙華。

 どちらも留学している時に、これだけは見たい、と夢にまで見た花だ。桜は
それでも似通った花があったけど、曼珠沙華については、それこそ一切似た花
を見たことが無い。
 日本に帰ってきた年の秋、バスの中からその年初めての曼珠沙華を見た。
 もう少しでバスから飛び降りるところだった。

 あの鮮やかで、そのくせどこか毒を含んだ朱色の花を見るたびに、その時の
ことを思い出す。
 そして……やはり夜の中、その花を見に行きたくなる。


「……相羽さん」
「ん?」

 時刻は夜の10時。御飯を食べ終わって、眠るまでのしばらくの間、相羽さ
んは大概新聞か本を開いている。こちらも片付けが終わったら、本を読んだり
肩を揉んだりしてるのが普通なんだけど。

「外……行ってきて、いいかな」
「……何しに?」

 相羽さんの目が、一瞬時計の方に向く。
 まあ……外に出るのには、一般的には遅い時間だけど。

「曼珠沙華見に」

 相羽さんがもう一度時計を見て……手元の本を閉じた。

「行こうか」
「……本は?」
「一旦休み」

 言葉と一緒に手が伸びて、頭をくしゃりと撫でる。

「いこか」
「……うん」

 時折、本当に自分はこの人に甘えているなと思う。甘やかされてる、そのこ
とに慣れてるんじゃないかって、自分でも。
 それでいいのかな、と、一度尋ねた。
 いいよ、と、一言で返って来た。

 色々と、考える。
 それでも。


 相羽さんの家からほど近いところの一角に、田圃が広がっている。その縁に
ずらっと、この花が並んでいる。
 買い物帰りに一度、ベタ達と一緒にここに来た。その時にはまだ、半分くら
いは花が咲いていなかったのだけど。
 今は……本当に、一面に花が開いている。

 どうかすると桜よりも、寿命の短いその花。

「昔、さあ……」
 立ち止まっていたら、ふと、相羽さんが口を開いた。
「張り込みで三日三晩、一面に曼珠沙華が咲いてるとこで潜んでたんだよ」
「……え」
 思わず顔を上げると、相羽さんは少しだけ肩をすくめた。
「そんときは、見ていたのに花なんかさっぱり頭に入ってなかった」

 それはそうだろうな、と思った。多分この人のことだろう、仕事で頭が一杯
だったんだろうな、と。

「咲いていたっていう記憶はあるし」
「うん」
「どんな風だったとかいう情景もちゃんと覚えてる」
 けど、と……呟くように。
「届いてない」
 ぼんやりと、相羽さんは花を見ている。

「…………張り込み途中だもの」
 この人ならそれも仕方がないと思う。
「まあね、よそ見してる暇なんざない」
 相羽さんは苦笑して、そう言う。
「……そうだね」

 本当に忙しい人で、何かに集中したらそれだけな人だから。
 そのことが……時折、羨ましくなる。

「……見るゆとりが、あったから、あたしには」
 口の中でもそもそと、言い訳のように呟いたけれど。
 ぽん、と、手が伸びて、一度だけ頭を撫でるように軽く叩かれた。

「張り込みのかいあって、ホシ捕まえて」
 それでもやっぱり相羽さんは、曼珠沙華の朱の花を見ている。
「……そんときやっと気がついた」
 この、鮮やかな花の乱舞する様子に。

「奇麗だねえって、史の奴に言ったら『初日に言ったじゃないですか』って言
われたよ」


 家族になりたいと言って、なってくれと言われて。
 それでも……時折辛いなと思う。
 この人はこれだけ走る人なのに。

「相羽さん」
「ん?」
「……邪魔じゃない?」

 言ってみてから自分でも、何て説明抜きの言葉なんだと呆れたけど、相羽さ
んには意味が通じたようだった。

「いや、今までがさあ、本当に莫迦みたいに余裕なかっただけ」

 こうやってぼんやり花を見ること。
 本を読む手を止めさせてしまうこと。

「…………あの」
「ん?」
「走ってたほうが……良かった?」
「……走ってたら……遠からず、どっかにぶち当たって崩れてたかもね」

 崩れるのだけは見たくないと思う。
 でも……走ってゆくのがこの人の本性であるならば。

「……相羽さんは、走るべき人だし」
 それはどう考えても変わらず。
「あたしは、相羽さんがぶち当たらないように、走るのを手伝うべきなんだね」

 気が付いたら、相羽さんはこちらを見ていた。
 どこか無表情のまま。
 どうしてか……こうやって見られていると、どうしても建前が通用しない。
 だから、思わず付け加える。

「…………理屈では」
  
 時折、そんなに走らないで、と言いたくなる。走れば走るだけ、この人は死
に近づくんじゃないかと思う。
 それでも。

 それでも、それが相羽さんであるなら。

 黙ってこちらを見ていた相羽さんが、少しだけ表情を緩めた。

「こうやって、ゆっくり景色を見て歩くの、サボってたからさ」
 小さく、喉を鳴らすように笑いながら、そんな風に。

「でも……両面あると思うんだよ」

 奔馬のように、何もかもをなぎ倒す勢いで走る人。それが最初の印象で。
 その勢いに見惚れたのも本当。
 ……でも、辛いのも本当。

 それでも。

「こういう風景を見ることも、必要かもしれないけど」

 自分は、見たいと思うけど。
 でも。

「走りぬく邪魔になるなら」

 邪魔になるなら自分から斬られる……と、以前は確かにそう選択していた。
今はそれが出来ない。情けないけど出来ない。
 でも。
 いいのかな。
 それで、いいのかな……って……


「……真帆」
「……はい?」

 何時の間にか落ちていた視線を慌てて上げると、相羽さんは微かに笑った。

「一緒に歩いてくれる?」

 どうして、と思う。
 どうしてこの人に、判ってしまうかなあ、と。

「…………はい」

 くくっと笑って、相羽さんが左手を出す。一瞬迷っていると、ひょい、と手
を広げて、あたしの右の手を包んで。
 そのまま、ゆっくりと相羽さんは歩き出す。一列に並ぶ曼珠沙華の、その隣
を走る細い道を。
 だから、一緒に道を歩いた。
 間遠に並ぶ街灯の下で、やはり艶やかに咲く曼珠沙華の花を見ながら。
 一緒に、見ながら。


 曼珠沙華の花は、桜に負けず劣らずすぐに枯れてしまう。
 見ることの出来る期間は、一年のうち、ほんの数日。

 
「……相羽さん」
「ん?」
「また……見にこようね」

 来年も、そしてその次も。
 言わなかった言葉ごと、相羽さんは笑って、うん、と言った。


時系列
------
 2005年9月末。

解説
----
 曼珠沙華の色は、日本の色だと思います。
 彼岸花の花を見に、夜歩く頃の話です。
 
**********************************************:

 てなもんで。

 …………(ごーろごーろ)<おい
 ではでは。
 


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