[KATARIBE 29290] [PWN]小説:戻るべきもの

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Date: Thu, 29 Sep 2005 02:33:28 +0900
From: Paladin <paladin@asuka.net>
Subject: [KATARIBE 29290] [PWN]小説:戻るべきもの
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 ぱらでぃんです。

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小説:戻るべきもの
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 始祖の窟では詠踊が絶え間なく続いている。
 彼がここに入って同朋を結ぶ絆の樹となったその日から、岩に染み入るよう
に低くうなる詠唱と、かがりに照らされ浮かぶ踊り手たちと二重になって舞わ
れる踊りのとぎれた日は無い。
 油をよく含んだ枯れ木が弾け、火勢を強めると共に舞い上がった火の粉が木
ならぬ大樹を照らす。
 この世を作り上げたのち、壊れて飛び散ったもののかけら。それらの一つ一
つが思い思いに光をあやつり、石窟を照らす光に妖しさをそえる。
 たくさんの、しかし全てには遥か及ばないかけらを身に纏い、彼はここで同
志を導く。いつか再び、全てのかけらを始まりの一つへ戻すために。
 かがりの照り返しと、本来踊り手たちしか起こさないはずの風が変化したこ
とを悟り、彼女自身も優秀な戦士であったろうが、今は祖霊に詠唱を捧げる巫
女となった老婆の白濁した隻眼が振り向き、何枚も重ね合わせた長衣の肩口か
らのぞく風見の道具が動く。
 隧道の終わりには、一族が継ぐ枝の先に七彩の輝きを放つ円盤を掲げる男が
不敵な面構えで立っていた。それを喰っていた獣にやられたのか、革服の腹が
やぶけ地肌には赤黒く固まったものがこびりついている。

 捧げよ。

 樹とかがりが震え、窟を震わす声をあげる。
 老婆は杖代わりにしていた枝でもって、帰り来た戦士を祈りを捧げる壇へい
ざなう。男は神妙な面持ちで巫女の横まで歩みを進め、腹の傷が痛むのか少し
顔をゆがめて枝を両手で高く上げひざまずく。
 男の動きで乱れた風がおさまるのを待ち、老婆と若い戦士は岩壁を震わす声
で詠唱を始める。

「我らふたたび一つへ戻すべく」
 われふたたび一つへ戻るべく。

 壁と樹の間を響き、天へと駆け登る中で詠唱はもう一つの声をつむぐ。

「ここに新たなかけらを捧げる」
 ここに失ったかけらを見出す。

 高く差し上げられた枝の先に掲げられたかけらは樹に触れ、樹はそれを歓迎
するかのように幹にまとったかけらを震わせ応じる。

「我ら、今こそ充足の時」
 われ、今こそ充足せり。

 新たなかけらを受けいれた歓びに打ち震える樹に応えるかのように、力を増
した光の中を激しく踊る闇が、鎮めの舞を舞う。

 充足、いまだならず。

 最後の反響が音を紡ぐと樹の震えは停まり、窟の中にいつもの韻律が戻る。
男はそっと立ち上がると閉じていた二つのまなこを開け、聖所を辞す。
 新たに始祖へと戻ったかけらのしるし、七彩に輝く虹彩を光らせながら。

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