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Date: Wed, 28 Sep 2005 23:50:48 +0900 (JST)
From: いー・あーる <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29289] Re: [HA06P] エピソード『吹利学校高等部学園祭 2005 Never Forget Memories 』
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2005年09月28日:23時50分48秒
Sub:Re: [HA06P] エピソード『吹利学校高等部学園祭 2005 Never Forget Memories』:
From:いー・あーる
ども、いー・あーるです。
文化祭前の風景を書いてみました。
……こういう、何つか、一瞬の風景って書くの好きなんです。
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エピソード『吹利学校高等部学園祭2005 Never Forget Memories』
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登場人物
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関口聡(せきぐち・さとし)
:周囲安定化能力者。現在片目は常に意思と感情を色として見ている。
桐村駿(きりむら・しゅん)
:野球部の主力投手。クラス一、もとい学校一のちびっこ。
中里嘉穂(なかざと・かほ)
:姐御肌の同人誌作成者。上二人と同じクラス
吉野歩(よしの・あゆみ)
:メイド服作成係。中里嘉穂とは中学からの付き合い。
スカートと女装
--------------
スカートを履いたことの無い一般男子生徒にとって、膝下丈のスカート(そ
れも生地はしっかりめ)の恐怖の一つといえば。
駿 :「うわっ」
嘉穂 :「ほーらやったっ(ばたばた)」
スカートを気にせずに方向転換した際の、スカートの危なさであるかもしれ
ない。
駿 :「うっわ、威力あるー」
嘉穂 :「……感心してる場合かっ(べしっ)」
駿 :「いって……カホちゃん乱暴だよっ」
嘉穂 :「それでお客さんの紅茶とか引っくり返したら、笑えない
:でしょうよっ」
それはまあ、確かにそうではあるのだが。
聡 :「……女子とかどうやって、あの狭い所をこのスカートで
:無事に歩いてんの?(小声)」
蓉子 :「……慣れ、かなあ……(小声)」
普通に歩く分には大して困らない。ただ、注文が重複した場合や急ぎの注文
の場合、どうしても方向転換は急になり……スカートがあたりをなぎ倒す確率
は高くなる。
嘉穂 :「動きにくいなら、一旦スカートをつまむなりなんなりし
:てよ……いやそう握り締めるんじゃなくって!」
駿 :「わかんないよっ」
いや、そら、判るほうが変かもしれない。
嘉穂 :「ええっと……わかった。男子達。捌き切れないと思った
:ら、速攻近くの女子に言う。んで変わってもらう。お客さ
:んも、基本は女子のメイドのほーが好きな筈だ!」
……そこで、『基本』と入れる辺り……凶悪である。
嘉穂 :「じゃ……とりあえず男子、ちょっとそっちで歩き方練習」
男子生徒達 :「げーー」
嘉穂 :「そんで、関口君」
聡 :「へ?」
嘉穂 :「スカート、裾がほつれてる」
聡 :「……あれ?」
嘉穂 :「そっちで直してもらっといて。以上それぞれに解散!」
ええと、と振り返った聡の視線の先で、メイド服作成係こと吉野歩が手を伸
ばしている。
歩 :「えっと……服脱いで貰ったがいいよね、その裾縫うの」
**
一旦着替えて、メイド服を渡す。
その間に針と糸の用意を済ませた相手は、教室の隅でそれを受け取った。
教室の向こう半分では、嘉穂がメイド軍団を支持して、机の置き方を変えて
いる。歩き方教室の始まり、というところか。
歩 :「……これ、どっかにひっかけた?」
聡 :「あ、かも……」
歩 :「裏だから大丈夫だとは思うけど……ちょっと時間かかる
:けど、直しちゃうよ。いい?」
聡 :「うん、勿論」
別に急ぐものでもないし、別に用事も無い。受け取ってさっさと縫い始めた
歩の手元を、聡が何となく見ていると、
歩 :「関口君は……平気なんだね」
聡 :「え?」
歩 :「もっと嫌がるかと思ってた」
話しながらも、手は一切止まらない。鋏を取り上げてどうやら残り布らしき
ものを切り取り、ざっと当てる。
聡 :「……別段喜んでもないけどね」
歩 :「前に女装とかしたことある?」
聡 :「ないよ(苦笑)」
やりそうに見えるのかなあ、と、肩をすくめた聡に、歩はちがうちがう、と、
針を持った手を振った。
歩 :「こういうのって、こちらが自信持ってると、案外相手は
:笑ったりからかったりしないんだよね。だって実際、歌舞
:伎の女役を笑う人いないでしょ?」
聡 :「うん、でも……」
歩 :「無論、あの人達はプロだし、比べることじゃないけどさ」
やはりちくちく縫いながら、
歩 :「案外自信持って堂々としてるとからかわれないって……
:やったことある人なら分かると思うんだけど、やったこと
:なさそうな関口君が堂々としてるから」
聡 :「……そういうことかあ」
と、言うからには。
聡 :「もしかして吉野さん、やったことあるの?」
歩 :「これでも中学の頃は、演劇部」
聡 :「え?」
歩 :「……っても、背景と衣装係ね」
こういうの得意だから、と、ちょっと布を持ち上げて見せた。
歩 :「嘉穂ってね、そこら辺分かってるから……ああやってま
:じに特訓させるのよね」
聡 :「……吉野さん、中里さんと知り合いなんだ?」
歩 :「中学一緒(笑)」
ああなるほど、と、聡は頷く。
歩 :「中学の頃、嘉穂って一時期苛められててね」
聡 :「え?!」
歩 :「そんな度胸がある奴が居たのかって、思ったでしょ今」
聡 :「ごめん、思った」
歩 :「変わってるからね、嘉穂って」
それについては、深く頷いてしまった聡である。
歩 :「それでさ、一度、椅子に透明なボンドをべったり塗られ
:て、嘉穂、気がつかないで座っちゃったことがあるの」
怪我も何もなかったそうだが。
歩 :「制服の夏スカートの後ろに、ボンドのあとがべったりよ」
聡 :「……酷いことするね」
歩 :「制服って高いじゃない。それも夏服って着る期間短いし、
:丁度身長が伸びるときだしってんで、嘉穂のお母さん、ス
:カートを買わなかったらしいの」
聡 :「それって……」
洗っても取れないスカートの汚れを、毎日つけたまま学校に来る。
それは……嫌だろう。
歩 :「でも、嘉穂は堂々とその服着ててね。理由を知らない子
:が、遠慮しいしい『糸がついてるよ』って言ったら『ああ
:それ糸じゃないの、莫迦がボンドつけやがったんだよ』、
:って、その度がっつり説明してたよ」
聡 :「…………ああ、それは中里さんだ」
思わず納得した聡を、歩は横目で見た。
歩 :「その時に嘉穂は言ってたよ。こちらが堂々としてると、
:ボンドの汚れが糸に見えて、指摘するのも気が引けるんだ
:ね、って」
聡 :「ああ」
堂々と、汚されたスカートの裾を捌いて、歩いてゆく。
そういう嘉穂ならば。
聡 :「それで、特訓させるんだね」
歩 :「そそ(笑)」
女装メイドの姿を、恥ずかしいと自分で思ってしまうと、多分相手も『変』
と見なして笑うだろう。でも、これは役目だ、と、堂々と振舞うなら。
歩 :「案外、相手が呑まれちゃうんだよね」
聡 :「それは、よくわかるよ」
笑いを取るためではなく、一つの『役目』として。
聡 :「……中里さん、だから皆がそれでもついてゆくのかな」
歩 :「ん?」
聡 :「葛西君の時も……彼女が来るならって」
歩 :「うん。元いじめられっこだからね」
ぷち、と、糸を切って。
歩 :「これ以上はやっちゃいかんってのは、何となく分かるし、
:それ以上はほんとにやっちゃいかんのだろうって言ってた」
聡 :「……ふうん」
どんがらがっしゃん、と、誰かが転んだような音と、うわっという声。
歩 :「はい、でけた」
聡 :「あ、ありがとう」
歩 :「じゃ、関口君も特訓頑張って」
聡 :「…………頑張りたくないけど頑張る」
歩 :「頑張っといたほうがいいよ?」
聡 :「?」
首を傾げると、歩は、なんでもない、と苦笑した。
駿 :「関ちゃん、早くこいよーっ」
聡 :「へ?」
男子生徒A :「共に犠牲者になろうっ!」
聡 :「あー……ちょっとまった。着替えてくるから」
嘉穂 :「じゃ、着替えてる間に、次、誰?」
道理で……と、頷きながら、聡はメイド服を手に取る。
着替えようと席を立ちながら、もう一度嘉穂達のほうを見る。
確かに彼等を包む空気は。
柔らかな秋の陽だまりのような光を帯びている…………
時系列
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2005年9月。文化祭前
解説
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文化祭のほんの一瞬の風景。
実際……知り合いに女装の名手が居ますが、この人が余興で女性になると、
皆一瞬黙ります。並みの女性よりよほど綺麗で。
メイド服係、吉野歩に昇格です(笑)。
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てなもんです。
ではでは。
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