[KATARIBE 29277] [HA06P] エピソード『無明の天使:紅い羽

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Date: Tue, 27 Sep 2005 02:38:25 +0900 (JST)
From: Makoto KURUWANO <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29277] [HA06P] エピソード『無明の天使:紅い羽
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年09月27日:02時38分25秒
Sub:[HA06P] エピソード『無明の天使:紅い羽:
From:Makoto KURUWANO


真琴@さぼり魔 でっす。

それでは裏のお話を始めるとしましょう。
その御心に報いるためにも。


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[HA06P] エピソード『無明の天使:紅い羽』
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登場人物
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桜木達大 (さくらぎ・たつひろ):http://kataribe.com/HA/06/C/0365/
 本業はシステム運用管理者だが、何者とでも会話が成立する異能を見込まれ
 対怪異専門の交渉人を副業としている。
 通称を若旦那、通り名を猫回しと言う。

遠野響 (とおの・ひびき):http://kataribe.com/HA/06/C/0438/
 巫女の家系に生まれた姉御。放浪癖があり、へビィスモーカー。
 神道の作法や行に通じ、発火能力者でもある。


胡乱なお誘い
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 それは、一通の封書だった。
 切手も差出人も書かれていない白地の封筒。なかに入っていたのは一枚っき
りの半紙。

 達大     :「(あのひとらしいといえばいえますが。困ったひと
        :だ)」

 書かれていたのは呼び出しの文。一文、明日夜半に、ここにある打ち捨てら
れた社までこられたしという内容と――響、というおざなりな署名。

 だから、達大はいまここにいた。
 古く、朽ち果てかけた建物。荒れ果てた鳥居はかしぎ、境内は草のはびこる
荒地のごときさまをさらけだしている。
 ……だからこそ。

 達大     :「(神社とは。つまり、響さんも本気だ、ということなん
        :でしょうね)」

 あの風来坊が神道の家の出だ、というのは知っていた。そんな人間が会談場
所に社を、捨てた過去を選ぶ意味は、きっと軽くない。
 すっと。思わず襟をひとつ正した。


鎮めたもう喰らいたもう
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 響      :「またせたねぇ、若旦那」

 その声が聞こえたのは社の中からだった。ほどなくその姿が見える。
 いつもの、人の視線など気にしないラフな服装。ただ目を引くのは、その左
手に巻きつけられた大仰な包帯。

 達大     :「いいえ、いまきたところですから。それで響さん、わざ
        :わざこんなところまでお呼び出しになるご用件はなんです
        :か?」

 笑顔で応じる。交渉の基本は笑顔。そのスタンスは崩さない。
 一度は決裂した交渉。相手がなにをもちだしてくるかわかったものではない。
 響もまた、あのいつものふてぶてしい笑顔で切り出す。

 響      :「なぁに。手を引けばいいのにわざわざがんばっちゃって
        :る若旦那に、やさしいお姉さんからいたづらのお誘いだ 
        :よ」
 達大     :「お断りします」

 笑顔のまま一蹴。響のあの笑顔は間違いなくろくなことを考えていない顔だ。

 響      :「おやまぁ、残念。あんたの弟子の声は一生戻らなくても
        :いいってことか」
 達大     :「……どういうことですか」

 居住まいを正す。
 この風来坊の考えはさっぱりわからないが、それでも嘘吐きではなかったは
ずだ。
 軽々しく、こんなことをいう人ではない。

 響      :「聞いてるよ。あんた、あの天使を鎮めて奉ろうとしてる
        :みたいだけど……いまのままじゃ、無理」

 笑顔を消して、きっぱりと言い放つ響。
 その顔に、いつものふざけた色は、ない。

 達大     :「お聞きしましょう」

 達大も、それに応じる。カードは相手が一枚切り出した。ならば自分はそれ
を見極める番。そしてそれは交渉役の土俵だ。

 響      :「こないだやりあってみて、直感した。あれは喰らい続け
        :て、そして力にする底なし沼だ。祝詞なんか奉ろうにも、
        :それを喰らいこんで己の力にしちまうだけさ」

 大きく一息。

 響      :「ましてや鎮めなど――とてもとても。人の身の所業では
        :ない」

 沈黙。
 猫回しは、自分でも無駄だろうなと思っていることを口にする。

 達大     :「では、壊れるまで待つというのは? あれがもうすぐ壊
        :れるというのは響さん自身の見立てでしたよね?」

 ころころと、鈴の音のような笑い声でその茶番に応じる、狐。

 響      :「ご冗談いいなさんなよ、どこの世の中に、死ぬ前に自分
        :のいままでに食ったもの全部吐き出す老人がいるかね。そ
        :んなのいたら、餅でのどつまらせる老人はいなくなるよ」
 達大     :「でしょうね」

 あっさりと首をすくめる。そんなことはわかりきっていたことだ。だから自
分でも最初に却下した。
 響はなおもつづける。

 響      :「だから。あれからあんたのかわいい弟子の声を取り返し
        :たければ。まず食ったものを吐かせて、それからのどに餅
        :を詰め込んでやる必要があるのさ。これ以上食えないよう
        :にね――おわかりかい?」

 達大は、ただ無言をもって答える。
 響のいうことにきっと嘘はないのだろうと思うのと同時に、わかっているこ
とがひとつあった。
 この女狐は、ただ絶望だけを伝えにくるような、そんなかわいらしい相手で
はないと。


紅い羽
------

 秒とも極ともつかぬ、その沈黙ののち。
 口をひらいたのは響だった。

 響      :「……遠野の家は。その筋ではすこしは知られた神道の名
        :門ってやつでね。その伝える儀式のなかには、魑魅魍魎に
        :対するものも少しはある」

 そして、胸元からひとつとりだす。

 響      :「だから猫回し。あたしはあんたにこれをあげる。……そ
        :うしなければいけないって、あたしの過去が叫んでいるか
        :ら」

 とりだしたのは、巻紙で巻かれ朱紐でくくられた数枚の羽。その大きさから
して、おそらくはあの天使から抜け落ちたものなのだろう。

 達大     :「これは?」
 響      :「餅さ。もっとお堅い言い方をすれば、これは贄であり依
        :代。余計なものを吸い込ませ、欲しいものを吐き出させる、
        :そんな毒だよ」

 ふむ、とひとつうなる達大の目を引いたのは、しかし。
 白でも黒でもなく、紅いその羽の色。

 達大     :「それで、この色は……」

 もちろん聞くまでもないことだった。
 染めたのだ、響が。おそらくは己の血で。
 あの左手の包帯はそういうことかと合点する。

 響      :「血は供物であり、呪物でもあるのさ。あいつから抜け落
        :ちた羽に意味をもたせるための、ただの彩りだね」

 そして、ふっと響の表情がおちる。

 響      :「ただし。これが実際どんなことを引き起こすかは、あた
        :しにも読みきれない。あいつは全部吸い込むかもしれない
        :し、綺麗に吐き出すかもしれない――周りのすべてを吸い
        :込む可能性もあるね」

 再び訪れる沈黙。達大は考え、響は計る。

 響      :「だから、あんたにまかせるよ猫回し。使うも使わないも、
        :すべてをね」

 そして差し出されるその羽を。
 達大は一瞬顔をしかめ、そして受け取る。

 達大     :「……わかりました。少し考えてみますよ」

 そしてもうひとつ気になっていたことを口にする。
 いつもの、交渉役の笑顔で。

 達大     :「それで響さんはどうするんですか? 燃やし尽くすって
        :いうのはやめになされたので?」

 そして、響の顔にはあの笑みが戻る。ふてぶてしい、底意地の悪い笑顔。

 響      :「わかってないねぇ若旦那――二枚目ってのは、舞台が一
        :番盛り上がるところで花道からあらわれるもんさ。それが
        :決まりだろ?」

 たまらないな、そう思って達大は苦笑を浮かべた。



時系列 
------ 
決戦前、達大を呼び出す響。その真意は。 

解説 
---- 
狭間06Wiki:無明の天使 
http://hiki.kataribe.jp/HA06/?HA06P_DarkAngel 
長編エピソード『無明の天使』シリーズのtopic速報サイト。 

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響、お前がなに考えてるかPLはさっぱりわからんよ……



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