[KATARIBE 29269] [HA06N] 小説『曼珠沙華の声』

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Date: Mon, 26 Sep 2005 23:32:13 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29269] [HA06N] 小説『曼珠沙華の声』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年09月26日:23時32分13秒
Sub:[HA06N]小説『曼珠沙華の声』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@なんかねむい です。
一応、2005年文化祭の一環としての話、なんですが。
エピソード形式じゃないので、名前を変えてます。
フォークダンス特訓の風景です。

***************************************
小説『曼珠沙華の声』
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登場人物
--------
  関口聡(せきぐち・さとし)
   :周囲安定化能力者。高校一年生。見えないものが見える。
  蒼雅巧(そうが・たくみ)
   :霊獣使いの家の一員。高校二年生。非常に真面目。
  秋芳(しゅうほう)
   :巧と生涯を共に生きるパートナーの霊鷹。 
 
本文
----
 フォークダンスの特訓二日目。
 校舎裏のごろた石を、多少蹴っ飛ばして、足元を見ないでも転ばないくらい
にして。

 必要は発明の母であるというけど、多分記憶力の兄くらいにはなるんじゃな
いかと思う。その証拠に、巧先輩の記憶力は相当に高い。昨日練習した曲の、
かなりのステップを覚えているみたいだ。

 ただし。

「ストップ」
「はい?」
「その曲、右足からです」
「……あ」

 前奏部分を聞いているうちに、どっちが最初の足だか忘れる、と、先輩は困っ
たように言う。

「最初の一歩が判れば、あとはほぼ判るのですが」
「うーん」
 そこはもう、慣れるしかないのかなあ……。
「じゃ、次の曲流してみますから、最初の足どっちか思い出して見て下さい」

 カセットのボタンを押すと、前奏が流れる。先輩がえらい緊張した顔で音楽
を聞いて……
 …………ん?

 先輩の肩の上には、大概秋芳君が止まっている。当然現在も……時折『何だ
これは』みたいな顔をしながら、練習しているのを見ている。
 のだけど。

「ちょーっと待った、秋芳君、そこでカンニングしないっ」

 次の曲は、これも右足から、なんだけど。
 それまで先輩の左肩に止まっていた秋芳君が、ぴょいっと先輩の頭を飛び越
えた。とんとん、と、右肩の上で撥ねると同時についっと先輩の髪を引っ張る。

「そやって教えない」

 こら、と、わざと眉をしかめてみせると、秋芳君はそっぽを向いて、ぴぃっ
と一声鳴いた。
 口元から朱と金の色が、ぱん、と、広がった。

「……ん?巧先輩?」
「何でしょうか」
「先輩が誘った方って、秋芳君見えないんですか?」
 いや、見えないならカンニングしてもまあいいかなって思ったんだけど。
「見えるようです」
「……そんじゃやっぱりまずいですね」

 秋芳君が右に左にと飛ぶようじゃ、カンニングはいっぺんでばれる。

「にしても、秋芳君、ステップ覚えたんだ」
 すごいな、と思って言ったんだけど、途端に巧先輩が……凹んだというかな
んというか。
「……聡殿」
「は?」
「私の覚えは、やはり遅いのでしょうか……」
「いや、先輩、憶えるの早いですよ。最初の出が判ったら、後は大概踊れるじゃ
ないですか。一日でそれだけってすごいです」

 全く初めて、の状態から、もう既に『去年踊ったけど忘れたなあ』のところ
まで覚えているのだもの。
 ……やっぱり必要は記憶力の兄だ。

「じゃ、先輩、今の曲最初から流しますから。今度は僕も一緒に踊りますね」

 てか、実際のところ、こちらがついてゆけない気がする。フォークダンスな
んて、中学の授業で何度か踊らされたくらいだし(そしてその時も確か、人数
が足りないとかで女の子の列に入れられた記憶がある)。
 カセットテープを確認して、ボタンを押して。
 前奏を聞いて……
 最初は右の足。正解。


「今日はこんなとこでしょうか」
 足を止めて、手をほどいて、音楽を止めて。
「先輩、ほぼ大丈夫だと思いますよ」
「そうでしょうか」
「最初の足も、大分憶えたんじゃないでしょうか」
「……だと、良いのですが」

 何か先輩、妙に弱気っぽい。
 秋芳君がまた、ぴいっと一声鳴いた。
 深い朱の色が、また花のように広がった。

 ……あ。

「曼珠沙華だ」
「え?」

 何かに似ていると思ったんだ。
 黄金色の目に、何となく『しょうがないなあ』みたいな色を浮かべたまま、
ぴぃっと鳴くその声の色。

「秋芳君の声は……曼珠沙華だ」

 あれ以来左目は、常に感情の色や形のみを映している。
 右目と重なって、それは時に奇妙な映像となる。

 だけど、秋芳君の、口元から胸元へと開く花。
 
 曼珠沙華。

「秋の花だ」
「…………」

 先輩は、肩に止まった秋芳君を見上げて、少し笑った。

「ええ、私の生まれは秋ですから……」
 
 こくり、と、頷いた秋芳君にやはりこくり、と頷いて。

「私が生まれた時から、秋芳は私と共にありましたから」

 金茶の羽。金の色の目。
 鳴く声は曼珠沙華。

「…………本当に綺麗な秋ですね」

 思わずそう言うと、秋芳君は少し首を傾げて。
 そして高く空を見上げて、ぴぃっと一声、鳴いた。
 

 艶やかな曼珠沙華の花が、虚空にふわりと広がっていった。


時系列
------
 2005年9月。文化祭数日前。

解説
----
 フォークダンス特訓中の一幕。
 曼珠沙華見て、思いついた話です。
***********************************:

 てなもんで。
 であであ。
 


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