[KATARIBE 29229] [HA06N] 小説『泣き上戸』

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Date: Thu, 22 Sep 2005 23:45:54 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29229] [HA06N] 小説『泣き上戸』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年09月22日:23時45分53秒
Sub:[HA06N]小説『泣き上戸』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@まだだ、まだ諦めねえだ(謎)です。
ログから拾った、日常話、第二弾。
毎度の如く、先輩とべたずお借りしてます>ひさしゃ

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小説『泣き上戸』
===============
登場人物 
--------
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。ヤク避け相羽。 
 軽部真帆(かるべ・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。ネズミ騒動以来相羽宅に移住。
  赤&青ベタ
      :ベタの姿のあやかし。ぷくぱたと宙を飛ぶ。怖がりであまえっこ。


本文
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 テーブルに肘ついて、目をこする。
 グラスの中の透明な液体。
 匂いが……少し、しつこいように残る。

 9時を廻って、そろそろ9時半。
 相羽さんからの連絡は、まだない。
 
 グラスをあおる。
 
 ふ、と、視線の先に淡い色合いが過ぎった。
「……ん?」
 ベタたちかな、と思ったけど……いや、ベタなんだけど。
 何となく遠慮がちにこちらを覗きこんでいる、メスのベタを手招きする。
 つーと滑るように、メスベタが寄ってくる。
「……呑む?」
 軽く揺すったグラスの中の水面を、つくつく、とメスベタがつついた。

 泡盛。度数30。
 少し匂いに癖がある。

「やっぱ泡盛よりは、焼酎が合うかなあ、あたしには」

 言ってるうちに、メスベタがくるっと引っくり返った。そのままふよふよと
上昇して、そのうちふいっと消えた。

「……あら酔っちゃったか」

 苦笑が、苦笑になりきれずに崩れる。
 ほんと……今日は最低だ、自分。


 泡盛の瓶を左手で引き寄せる。
 瓶は空になりかけている。
 何だかえらいスピードで呑んでるな、と、頭のどこかでのんびりと思ってる。
 
 さて、どうしよう。
 今から買いに行くと、相羽さんが途中で帰ってきそうだけど。
 でも、まだ酔うに足りてない。

 最後の一杯を、一気に喉にこぼして。
「…………追加、買ってこよっかな」
 ……まだ、酔いが来ない。


 ベタ達が、隠れてしまった。
 いつもの怪談話。無論『都市伝説』級の怖い話はしない。そんなの話したら
あの二匹とも引っくり返るから。
 だけど、今日に限って。
 二匹とも、一度はぱったりと倒れた。けれどもすぐに起き上がって、ぴゅーっ
と逃げてしまって。

 そして、それから出てこない。
 逃げたのが3時。
 もうそろそろ……6時間。

 
「……ただいま」
 追加の焼酎を買って帰ってきて。
 やっぱりそこには誰も居ない。
「ま……いっか」
 蓋を開けて、グラスに注いで、氷を二つ。
 ころころ、と、グラスの中で氷が動くのさえ、何だかあの二匹みたいで。
 
 氷が動かないように、酒を飲み乾した。
 残った氷は、何となくいびつに溶けて。
「…………」

 やっぱり少し、ベタに似ていた。

 
 と。
 ひとっと冷たいものが首にくっついた。
「……あ」
 思わず声をあげてしまう。
 ひんやりとした小さな二つの塊。そしてひらひらと首の辺りでそよぐもの。
 ぱたた、と、小さな鰭がたてる音。
 思わず涙が出てきた。

「……ごめんね」
 呟くと、二匹はするすると目の前に並んで、じっとこちらを見上げた。
 丸い目を……それでもやっぱり心配そうにこちらに向けて。
「ほんと、ごめんね」
 そっと撫でる。やっぱりぷくぱたと忙しく動きながら、二匹の魚はこちらを
見ている。

 もう二度と出てこなかったらどうしよう。
 そんな風に。
 本当に、不安だったのだな……と。

 何か他人事みたいに、頭の片隅で思った。


「……って……なんも食べてないよね」
 二匹を見た途端、ようやくそのことに思い至った。と同時に何だかおなかが
すいて。
「相羽さんの御飯も作らな…………っ」
 うわ。
 立った途端、ぐらっと身体が廻った。
 ぱたたた、と、赤と青が目の前をめまぐるしく駆け回る。

「……あ、安心したら、酔いが廻った」
 心配そうにこちらを見る二匹を、そっと撫でて。
 テーブルに手をついて、ゆっくりと身体を起こす。
 確かに……泡盛一本、4合瓶を空にして、それに焼酎一杯呑んだのだ。そら
普通は酔うだろうなあ、と。

 ……今まで微塵も、酔いなんか廻ってなかったのに。

「……鶏つくねと豆腐のスープでも作るか。早いし」
 冷凍庫から鳥のひき肉を出して、電子レンジで解凍して。
 豆腐はかなり適当に切って、水を張ったなべに放り込む。
 これだと刻むのがネギだけだし、手を切る危険性はそれだけ減るし。
 あとは、この前片帆が教えてくれた(片帆も友達から教わったらしい)サラ
ダを作る。水菜と万能ネギ、シラス干しとガーリックスライス。
 要するに、これも包丁を殆ど使わない。
 てか、今使うとまじに、自分の指が危ない。

「…………あーまじに酔った」

 おなべにスープ完成。ボールにサラダ完成。
 味見代わりにスープをおわん半分飲んだら……なんだかもっと酔いが廻った
気がする。
 ひんやりと、首筋に二匹のベタ。

 目が、廻る……なあ…………


 そして、わしゃわしゃ、と、髪をかき回す手に、目が醒めた。

「お前さん、なにやってんの」
「…………ふにー」

 あーなんかまだ酔いのほうは醒めてない。
 時計を見る。まだ11時……というかもう11時。
 酔いが醒めるには、でも確かに時間が足りてない、よなあ……

「どうしたの」
「……べたずがいなくなって、呑んだら酔わなくて……」
 あ、何かすごく……足りてない言葉が。
 でも、どう説明したらいいのか……ああなんかぼーっとしてる。
「出てきたら酔った」

 溜息が、頭の上で聞こえた。

「……あ。スープさめてるね」
「いいよ、冷めてても」
「……ごめんなさい、今用意します」
 よいしょ、と、テーブルに手をかけて立ち上がる。相羽さんはまだ帰ったま
まの格好。着替えてないなと、どこかで判断して。
「おなべあっためないと」
 立った途端、ぐらぐらと廻る視野を調節してガスコンロに向う。コンロの隅
に手を置き……かけてもう一度指差し確認。火傷はしたくない。というか下手
にこの状態で火傷したら、痛みが酔いでまぎれてしまって、充分に水で冷やす
前に手を離して、結局水ぶくれになりそうだな……って何考えてるんだ自分。
 改めて、点火。傍らのおたまを取り上げて、まぜよう、として。

「…………あれ」
 すぽっとおたまが、手をすり抜けて床に落ちる。
「おたまがにげた」
 慌てて拾おうとして、ガス台に頭をぶつけかける。
 でもおたまをつかまえる。これ逃げたら困るし。
 いやおたまは普通逃げないし。カエルにもならないし……ってほんと自分、
何を考えてるんだ…………って。
「?」
 何か服の首のとこをつままれて、引っ張り戻されてる。膝に椅子が当たって
よろめいたところで両肩に手が置かれた。弾みですとんと椅子に座ってしまう。
「…………おなべがにげた」
 盛大な溜息が、耳元で聞こえる。
「ってか……あかんー、酔ってるわ、流石に」
 目が、廻りっぱなしだ。

「……なにやってるんだか」
 呆れたような声と同時に、肩から手が離れた。
「酔いさましときな、適当に食うから」
 声が、何だか遠くに聞こえる。
「…………だって」
 なにやってるんだかったって、だって仕方なくって。
「べたたち居なかったから、呑んでも呑んでも酔わなかったんだもの」
 頭のどこかで、何をむきになってるのか、と、自分が呟いてる。おたま握り
締めて何を主張してるのか、と。
「……いま酔ってるように見えるけど?」
「ベタたちが出てきたから、酔った」
 あのねえ、と、言いながら、相羽さんが左手のおたまを受け取った。

「……いなくなっちゃったかとおもった」
 目蓋が熱くなる。と同時に涙がこぼれそうになる。
「また、いじめたんでしょ?」
 呆れたような顔で、相羽さんが言う。そのことが尚更悲しくて。
 そんなにいじめてたんだ、二匹とも。
「いぢめたし拗ねさせたしいなくなっちゃったし」
 首の辺りに、ぴったりと張り付いた二匹のベタ。
 これだって……怪談が怖いからくっついてるだけかもしれない。
「自業自得、自縄自縛、愚劣極まりない」

 可愛い可愛いって言いながら、そやって嫌がることをやって、いじめて。
 こうやって出てきてくれたけど、それって単に、暗い部屋に居るのが怖くなっ
ただけかもしれない。
 なついててくれたのに。
 一緒にいてくれるのに。

 くつくつと笑う気配と、頭を撫でる手。
 相羽さんが少し笑いながら、こちらを見てた。

「……んで酔っ払って、御飯の用意でけてないし」
 頭を撫でていた手が、そのままするっと肩に乗る。くつくつ笑う気配が少し
近づいて。
「おたまにげるし……」
 不意に、ことんと額に何かがぶつかった。
 目の前に、笑ってる相羽さん。

「…………おかしいね、やっぱり」
 やっぱり笑われるんだ、と思った。
 自分は情けないんだと思った。
 ぐるぐる。頭の中が廻るばかりで。
「なさけない、よねえ…………」
「でも、やっぱりいじめるんだねえ」
 おかしくて仕方ない。そんな表情で。
 くつくつと笑いながら、やっぱり相羽さんがそう言う。
 
 懲りもせず何度もいじめた。
 口で何を言っても、いじめてる。

「それでも言ったよね」
「…………なに?」
「どんだけいじめても、こっちに来る、ってさ」
「…………うん」
 相羽さんは笑ってる。 
「……だから拗ねちゃうんだ」
 それでも悲しくて悲しくて、口に出すともっと悲しくなって。
 涙が止まらなくなって……目を閉じた。
「だから……」
 肩に乗った手が離れて、代わりに頬を撫でてる。これ以上泣いたら、相羽さ
んの手が汚れる……と、どこかで思った。

「……ほんっと、もう……なっさけねー」

 べた達いじめて。
 相羽さんに迷惑かけて。
 ……ほんっと、なっさけねえ。

 そう、思ったことだけは、かろうじて憶えている。

             **

 翌日、相羽さんは何も言わなかった。
 だからあたしも、何も言わなかった。
 御飯作って、お弁当作って、送り出して、玄関の鍵をこちらから締めてから。

「あーーーもうっ」

 何となく玄関先で転がってしまう。
 首筋にくっついていたベタ達が、驚いて宙に飛び上がった。

「あ、ごめんごめん」
 言いながら……自己嫌悪。
 酔っ払うって最近無かったのに。ここに来てから一度もそういうことはして
ないのに。
「みっともないー」
 ごろごろしてる自分の鼻の先で、赤と青がやっぱりひらひらと動いてる。
 起き上がると、ぢっと見ている視線とぶつかった。

「……ごめんね」

 ぷくー。ぱたたた。
 やっぱり小刻みに動く二匹を抱えて。


 情けなかったり何だり。
 あーでも二度と、酔わないようにせねば、と決意。

 ……何時までもつか微妙だけど。


時系列
------
 2005年8月終わり〜9月初めごろ。

解説
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 この頃の日常的風景……と言ってしまって良いのかどうか。
 滅多に酔わないんであまり判らないんですが……案外真帆って泣き上戸かも。

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 てなもんです。
 ではでは。



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