[KATARIBE 29227] [HA06P] エピソード『無明の天使:鳥籠』

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Date: Thu, 22 Sep 2005 22:25:27 +0900 (JST)
From: Saw <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29227] [HA06P] エピソード『無明の天使:鳥籠』
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2005年09月22日:22時25分27秒
Sub:[HA06P]エピソード『無明の天使:鳥籠』:
From:Saw


Sawです。

さあ始めよう。先生の言葉に報いるためにも。

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[HA06P] エピソード『無明の天使:鳥籠』
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登場キャラクター
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前野浩(まえの・ひろし):
桜居津海希(さくらい・つみき):
煌(こう)
煖(なん)


鳥籠
----

 西日の差し込む部屋に備え付けられたオークデスク。天板に書き込まれた呪
紋。羊皮紙を貫き打たれた六本の楔。結ばれた鋼線はダビデの星を形作る。楔
は囁かれる言霊と共鳴し、燐光を放ち、鋼線を振るわせる。
 此処は無道邸、そこかしこに呪具や魔道書が転がる前野浩の工房。
 呪陣の中央にある鳥籠が光の波紋を吸い込み、燃えるリンのような淡い光を
たたえ、やがて冷たい真鍮の檻の中に滲みるように消えてゆく。
 前野は、その光が完全に消えるのを見届けると長く深く息を漏らして頭を押
さえる。そしてそのまま作業用の机からベッドに向かって倒れ込んでしまう。
その顔は蒼白で口をだらしなく開けたまま全身で呼吸をする。汗一滴かくこと
を許さない寒気が前野を蝕んだ。

 しばらくして、肩からケープをかけた津海希と、スーツに身を包んだ煌と煖
が入ってくる。

 煖      :「マスター。こちらの用意は整いました」
 煌      :「うわ、旦那ぁ……だいじょぶ? 真っ青じゃん」
 前野     :「まぁ、思っていた以上に力を遣った……ちょっとばかり
        :気合を入れて調整したって事もあるんだろうがな……」
 煖      :「霊薬(おくすり)でもお持ちしますか?」
 前野     :「いや、いい。それより津海希ちゃん──」

 前野はベッドに腰掛けたまま上半身だけ起こし、視線を机の上の鳥籠にやる。
 津海希は頷くと鳥籠の前に立ち、籠の上部についた輪っかに指を通して持ち
上げる。その輪っかには鎖が結びつけられていて、鎖の末端では懐中時計が静
かに時を刻んでいる。
 それは、以前前野が津海希に贈った懐中時計だった。

 前野     :「説明はこの間の通り。最大50m四方の存在を閉じこめる。
        :鳥籠の発動者も含めて、ね」

 息を深く吸い、そして吐く。

 前野     :「そこに入るのは籠の鳥……入れる事は出来ても、中のモ
        :ノは出られない。『籠の鳥』は逃げられない。まぁ、そう
        :そう破られない強度と『仕掛け』は施したつもりだ」

 津海希はフレーム一本一本に綿密に焼き付けられた呪印を指でなぞり、前野
を正面から見据えてゆっくり頷いた。

 前野     :「今更止めはしないけど、桜木さんの言うとおりに動くん
        :だよ……この間のような無茶はけしてしないこと」
 煖      :「大丈夫ですよね。もう津海希お嬢様は自分が痛い目を見
        :ると言うことがどういう事か、これ以上ないほどご存知の
        :はず──」

 そう言って煖が微笑む。
 津海希はその笑顔から視線を逸らし、居心地悪そうに口元に手をやる。

 煌      :「じゃー、そろそろウチらは行きますよ。旦那は、まぁ大
        :船に乗ったつもりでゆっくり休んでて下さいな」
 前野     :「ああ、くれぐれも……頼んだぞ」

 そう言って煌と煖は部屋を出て行く。
 一瞬煌は、一緒に付いてこない津海希に声をかけようとするが、その背を煖
が軽く押して扉は閉められる。
 西日は徐々にその光を赤く染めていき、部屋に残った津海希と前野の横顔に
濃い影を落とす。雑然と並べられた物言わぬ器物達が醸し出す沈黙の中、津海
希の持った懐中時計だけが律儀に音を紡いでいる。
 津海希は前野の隣に腰掛け、手に持った懐中時計を指さす。

 前野     :「ああ、言われたとおりにしたよ。首の封印を完全に解け
        :ばきっかり三分後にその時計は津海希ちゃんの肉体を仮死
        :状態にする」

 津海希は手帳からさっとメモを取り出し、『ウルトラマン作戦』と書かれた
それを見せておどけたように微笑む。

 前野     :「縁の深いものだからね、効果は覿面だと思う。それだけ
        :に、なるべくなら使うべきじゃない」

 津海希は手帳の背表紙に差してあるペンを抜き取り、『わかってます』と書
き出す。そして少し考え、またペンを走らせる『自分が危なくなった時だけ、
でしょ?』
 前野は溜息を漏らす。顔色は相変わらず蒼白であったが、呼吸だけはすっか
り落ち着いていた。

 前野     :「身体への影響だけが懸念なわけじゃない。食性の問題も
        :ある」

 それは津海希にとって最も重い問題だった。
 津海希は少し目を閉じると手帳にペンを走らせ、『その為の鳥籠と時計。も
う間違えは起こさない』と書ききると前野のサングラスの奥を真っ直ぐ見据え
る。

 前野     :「その時計はこんなことのために贈ったんじゃあないんだ
        :けどね。何度でも言うが、正直言えば行って欲しくないと
        :思っている」

 前野の少し拗ねたような横顔を見てしまい、津海希は困ったような笑顔にな
る。
 津海希は白紙の手帳に何を書くか考える。ゆるやかに時間は流れていく。
 結局、津海希は手帳を脇に置く。そうして横に座る前野の首に腕をまわして
そっと唇を重ねる。子供の頃彼女の母親がそうしてくれたのと同じように。
 困憊していた前野は、それを受け入れるしかなかった。

籠目
----
 ドアの向うに恋人を見送ったあと、前野はベッドに倒れこむ。暫く、起き上
がれそうも無い。

 前野     :「だが……」

 支援をしよう。あの娘の為に。
 そのための仕掛けは此処にある。

 前野     :「鳥籠は檻にて……護り手也」

 乱れる呼吸を押さえつつ手を伸ばす。

 前野     :「捕らえるもの、縛るもの、逃がさぬもの、護るもの……
        :護り手の加護は愛しき鳥に、加護の執りにて仇為すモノを
        :禁ずる也……」

 震える指で番号を押し、電話をつなぐ。

 前野     :「あぁ、みかんか……すまないが手伝ってくれ……
        :うむ……津海希ちゃんは出陣した」

 総力戦で……潰してやる

解説
----
 決戦当日。無道邸。 



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