[KATARIBE 29215] [HA06N] 小説『窓の向こうに』

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Date: Wed, 21 Sep 2005 01:30:16 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29215] [HA06N] 小説『窓の向こうに』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年09月21日:01時30分16秒
Sub:[HA06N]小説『窓の向こうに』:
From:久志


 久志です。
 へろっと思いついた本宮兄弟の過去話。

 霊感が強い:3、霊能:13持ちのゆっきー。
難易度4までは自動成功で霊視可能。難易度10でも結構な確立で見えますな。
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小説『窓の向こうに』
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登場キャラクター 
---------------- 
 本宮史久(もとみや・ふみひさ)
     :本宮家長男、のほほんお兄さん。霊は見えない。
 本宮友久(もとみや・ともひさ):
     :本宮家次男、クールな人。霊はなんとなく見える。
 本宮幸久(もとみや・ゆきひさ):
     :本宮家三男、やんちゃもの。霊が見えすぎる。
 本宮和久(もとみや・かずひさ)
     :本宮家四男、きまじめくん。霊はなんとなくわかる。

幸久 〜ある見え方
------------------

 たとえば、そこにいないはずの何かがいるとき。
 人によって色々な見え方がある。

 さっぱり見えない奴。
 姿は見えないが、なんとなくいることはわかる奴。
 うすぼんやりとは見えても細かい姿まではわからない奴。
 うちの家族の中で言うと、父さんと史兄は一番目。母さんと和久は二番目。
もういない友兄は三番目にあたる。

 そして、姿かたちからすべてハッキリ見える奴。
 俺が属してるのはこの部類だ。

 その事実を知るまで、俺はそこいら中にいる普通は見えないものが当たり前
のように皆にも見えているものだと思っていた。

 そこにいる者が見えても見えないふりをする。
 気づいているのに気づかないふりをする。

 俺の目に見ているものが、他の奴らに見えないものだということを理解して
から、俺はずっとそうしてきた。恋愛面はさておき、そういう対外的な社会面
でいえば俺は結構立ち回りがうまいほうだという自信はある。
 人に見えないものが見える。それをできるだけ周りに悟られないよう見えな
い振りで繕う。
 誰もが俺と同じものを見ているわけじゃないし、周りが見えないものをわざ
わざ見えると主張して孤立するよりは、見えないふりをして周りと同化したほ
うが波風も立たないし、あらぬ差別を受けることも無い。
 まあ、だからって見える奴を邪険にするつもりはなかったし、それなりにう
まくやっていけてると思う。

 俺には見えて認識できること。
 人には見えずわからないこと。

 最初におぼえたのはそういう線引きの仕方。
 わかってはいるけど、たまにちょっとしんどいと思う時もある。

 それと、あともうひとつ。
 他はどうかしらないが、俺にだけわかる、ある嫌な見え方がある。


 誰かに殺された奴は――白目が血でぬめったように赤い。


 それを最初に知ったのは、小学五年の祖父の葬儀から数ヶ月後の事だった。


史久 〜当時1989年
------------------

 外はもうすっかり日も落ちて。
 食卓ではもう夕飯の食事もあらかた終わり、テーブルの上に並んだ食器はほ
とんどが空になっていた。

「ごちそうさま」
「はい、食器はちゃんと重ねておいてね」
「はーい」
 返事だけはいいがさっぱり手伝わない三男とこっちが何も言わなくてもすぐ
に食器を片付け始める末っ子とが妙に対照的だ。
 重ねた食器を流しに運んで水につける。ふと顔を上げると、テーブルを拭い
てる末っ子とゴミをまとめてる次男、三男はとっとと居間のテレビを見に行っ
たみたいだ。しょうがないやつめ。

「史兄、父さんは今日も遅いの?」
 末っ子の問いに答えたのは、僕でなく次男だった。
「さっき電話あった。今日も少し遅くなるって」
「……うん」

 子供達だけの食卓。
 末っ子の和久が幼稚園を出て小学校にあがったくらいの頃から、割としょっ
ちゅう見られる光景でもあった。
 無用心だということは両親も僕らもわかってはいるけれど。もともと少し体
の弱い母さんは療養の為に度々入院を繰り返していたし、父さんも法律事務所
所長という責任ある立場上、事務所に数日泊り込むこともしばしばだった。
 それでも、僕が中学に上がる前までは本家の叔母さんや父さんの古い友人の
小池さんが時折様子を見に来てくれていたけど、僕と上の弟の友久が中学にあ
がってからは、保護者がいなくても僕らだけでやっていけるようになった。
 昔は多少なりとも寂しいと思ったこともあるけれど。下の弟連中が大きくな
るにつれ何かと世話の焼けるようになり、あれこれ面倒を見る手間がかかる分
寂しさもまぎれるようになった。

 流しに溜まった洗い物を全部片付けて、エプロンをはずす。
 三男は居間でテレビだろうね、末っ子と次男は姿が見えないけど、父さんの
書庫かな?

 僕もテレビでも見ようかと居間へと足を踏み入れた時、飛びつくように体当
たりしてくる影がひとつ。
「ん?」
「…………」
 視線を落とした先、腰にしっかり手をまわしてしがみついているのは。
「幸久?」
 やんちゃもので問題児の三男、のはずだがどうにも様子がおかしい。
「……こわい」
「え?」
 いつも生意気そうに見上げているはずの目にうっすらと涙を溜めて。しっか
りと両腕をまわしてしがみついている。

「どうしたの?」
 くしゃっと髪を撫でて、落ち着かせるように声をかける。
 その問いに返事はなく。
「幸久?」
 両腕でしっかとしがみついたまま、幸久が後ろを向く。その視線は少し空い
たカーテンの先、窓の向こうを見つめている。
「窓の外がどうしたの?」
「…………」
 腰に回った腕が微かに震えているのがわかった。

 半分空いたカーテン。
 窓の向こうは暗い庭がぼんやりと見える。
 短く刈った芝生と、母さんの趣味で植えられてるミニバラの鉢、水道の蛇口
が部屋の明かりで鈍く光っている。

「何もいないよ?」
「…………」
 でも、しがみつく手は緩まずに。
「幸久、大丈夫だよ」
 答えはなく、訴えかけるような目で見上げてくる。

 窓の向こう。
 そこに何かがいる。

 無言の幸久の目は、雄弁に語っていて。
 だが、僕にはそれがわからない。

「幸久」
「……こわい」
「大丈夫だよ」
 そう言いながらも、それがなにかすら僕にはわからない。

「兄貴?」
 と、背後から肩を叩かれた。振り向くと、目の前に青い光がよぎる。
「友久」
「どうした?兄貴も幸久も……」
 見透かされるような深く青い目がこちらを見る。
「……友久、窓見てみて」
 微かに眉を寄せて、友久の視線が移る。

 と。
 一瞬、友久の動きが止まった。

「…………」
「友久?」
「いや、大丈夫」

 きゅっと口を引き結んで。

「兄貴」
「何?」
「二階行ってて、書庫に和がいるから一緒にいて」
 その視線はずっと窓を見ていて。横顔は真剣そのものだった。
「幸久は?」
「ちょっとだけ……話聞く、すぐに二階にいかせるから」
「……わかった」
 訳をききたかったけど、何がいるか問いただしたかったけど。
 幸久の頭を一回くしゃっと撫でて、身体を離す。

 窓の向こう。
 何かがいる。

 幸久には見えて、友久にも見えて。
 僕には見えない。


幸久 〜赤い目
--------------

 ぬめったような、赤い目。

 両手を窓につけて。

 必死に。

 訴えている。


 史兄が二階に行くのを見送って。

「友兄!」
「幸」
 友兄の両腕をつかんで、そのままくずれおちそうになる。
「幸、何がいた?」
 腕を支えたまま青い目がじっと見つめる。深くて澄んでて、見ているだけで
落ち着いてくる不思議な瞳。

 両手を窓につけて。

 叫んでいる。

「おじいさんが……」

 庭で遊んでいる時に、時折顔をあわせたこともある。

 見かけたらちゃんと挨拶して。

 旅行の差し入れを持ってきてくれたこともある。

『……にげなさい』

 優しそうな……裏のおじいさん。

「……赤い目のおじいさんが……」

 でも。

「なんて?」

『……にげなさい、ここにいてはいけない、にげなさい、すぐそこにいる、す
ぐそこにいる……』

 窓についた手は真っ赤に染まっていて。

『……こっちにくる、にげなさい……』

「逃げろ、って!!」
 もう、悲鳴だった。
「わかった」
「こわい……」
「大丈夫だ」

 怖い。

 赤い目が。

 おじいさんは、もう。

「大丈夫だ」
 友兄の手が頭を撫でる。
「二階で兄貴と和と一緒に待ってろ、大丈夫だから」
「……うん」


??? 闇に光る青
------------------

 ちくしょう。
 なんでこんなことになったんだ。

 左手が痛む。
 きつく巻いたはずのハンカチが染み出た血で濡れて緩んでいる。

 くそ、もっとしっかり止血しておけばよかった。

 ちくしょう。
 あのジジイ、暴れやがって。

 そこそこ小金を溜めてそうな一人暮らしの老人。
 下調べもきっちりとすませて、準備は周到だったはずだった。

 ちくしょう。
 ジジイ一人、たやすく押さえられると思っていたはずが、予想以上に激しく
抵抗してきたせいで。

 ちくしょう。
 揉みあった際にナイフでしたたか切った左手の傷が予想以上に深い。

 くそ、あのジジイ……
 これだけやって、奪ったのが財布とタンスのはした金だけかよ。

 ちくしょう。

 左手を極力使わないように、裏手の塀を登る。
 たしか、ここの裏の家は普段ガキだけで留守番してるはずだ、ちゃんと調べ
てある。

「……って」
 転がり落ちるように庭に下りて、あたりを見回す。
 薄暗い庭、少し開いたカーテンの向こうから明かりが漏れている。

「よし」
 右手に握ったナイフに力を込める。

 と。
 視界の隅で微かに何かが光った。

「ひっ」

 薄暗がりの中で、二つに光る青。
 確認しようとした次の瞬間。

 視界が一回転した。

「ひぃっ」

 ふわりと宙を舞う浮遊感。
 一瞬遅れて、引っ張られるように投げ出される。

「ぎゃああっ!」

 そのまま、意識が途切れた。


史久 〜二階で
--------------

 明かりを消した薄暗い部屋の中。
 隅に置かれたベッドの上で弟二人が寝息をたてている。ついさっきまで怖い
怖いとぐずっていた幸久もさすがに疲れたのか、和久にしがみつくようにぐっ
すりと眠っていた。目元にはうっすらと涙の跡が残っている。
 指先で涙の跡をそっと拭って掛け布団を掛ける。そのままベッドに寄りかか
るように座り込んで、ひとつため息をつく。

 幸久、お前は何を見た?
 窓の外に何がいた?

 右手を軽く握り締める。
 幸久を怯えさせたもの……おそらく常人には見ることができない何か。
 母さんの血筋から受け継いだ、人ならぬ力。

 空間を操る魔眼を受け継いだ友久と和久。
 見えぬものを見る見鬼を受け継いだ幸久。

 握り締めた手にゆっくりと力がこもる。

 僕は、何も受け継いだものはなく。
 幸久を怯えさせた何かを見ることも払うことも、僕にはできない。


 その時、軋んだ音を立てて、ゆっくりドアが開いた。
 二つの青い光。

「友久」
「兄貴」
「……外に何かいた?」

 一瞬、友久が微かに目を伏せた。

「もう、いない」
「……そう」
 つまり、さっきはいた、と。
「友久」
 返事の代わりに青い瞳がじっと僕の目を見る。
「何がいた?」
 青い視線が微かに揺らぐ、少し迷ったような雰囲気が見てとれた。
「……よくないのがいた」
「そう」
「もう、大丈夫だから」
「……なら、いいよ」
 これ以上は、聞いても答えてくれないだろう。
 目の前に居る友久が、妙に遠く感じる。

「友久」
「何?」
「……ううん、いいよ。そろそろ寝ようか?」
「うん」


史久 〜真相は
--------------

 その翌日、僕らは父さんの電話で叩き起こされた。
 家の外は数台のパトカーと警察の人達、取材らしいマスコミ関係者と野次馬
でごった返していた。
 何がなにやらわからないうちに、僕らは事務所からタクシーで帰ってきた父
さんに保護されて、わけもわからず事情を聞かれることになった。

 ぽつぽつと警察の人が話してくれた内容。

 家の裏にある一人暮らしのお爺さん方に、夕べの夜強盗が押し入ったという。
もみ合いになった末におじいさんを殺害し、金品を奪って逃亡、塀を越えてう
ちの庭に逃げ込もうとした際、誤って転落して足を骨折した、という。


 その時刻。

 幸久が何かに怯えた時刻。

 友久が一階に残った時刻。

 犯人が逃走し、負傷したという時刻。

 バラバラの点のなかから浮かび上がってくる一線。

 半泣きのまま服の裾をつかんだ幸久と僕のよりかかって寝ぼけた顔の和久の
頭をそれぞれ撫でて、すぐ向かいに座った友久に視線を向ける。

「友久」
「……何?」
 一瞬、視線が下に落ちる。

 それは答えと同じだった。

「ううん、なんでもないよ」
 俯いた友久の頭をくしゃくしゃと撫でる。
「ありがとう、友久」
「……うん」
 すぐ側にいるのに。
 こうして頭を撫でているのに。

 友久が遠い。


時系列 
------ 
 1989年3月
解説 
---- 
 窓の外に怯える幸久。友久の謎の行動と史久が思うのは。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
以上。

 即書きはいかがなものかとおもいました。



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