[KATARIBE 29207] [HA06P] エピソード『道場へ行こう! Final 〜 Last Battle 〜』

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Date: Tue, 20 Sep 2005 00:55:40 +0900 (JST)
From: 葵一  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29207] [HA06P] エピソード『道場へ行こう!  Final 〜 Last Battle 〜』
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2005年09月20日:00時55分39秒
Sub:[HA06P]エピソード『道場へ行こう! Final 〜Last Battle〜』:
From:葵一



 こんにちは葵でございます。

 父娘の戦いは、荒海のご如く浪々と響き渡る津軽三味線がよく似合う(マテ
 と言うわけで長かったシリーズもようやく完結(いや、ほんとに長げぇ)
 お届けします「道場へ行こう! Final」いってみよー


まとめwiki:http://hiki.kataribe.jp/HA06/?LetsGoDojo
元ログ1:http://kataribe.com/IRC/HA06/2005/07/20050726.html#200000
元ログ2:http://kataribe.com/IRC/HA06-01/2005/07/20050730.html#230000
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[HA06P]エピソード『道場へ行こう! Final 〜Last Battle〜』
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父と娘
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 視聴が有料だと言われても、誰も文句を言わないであろう名勝負を終えて。
 チラリと道場正面にかけられた時計を見やった中村。

 中村     :「次が最後だ、他に誰か、俺と……誰か手合わせする奴は
        :いるか?」
 相羽     :「史の字との試合見せられちゃねぇ……(苦笑)」

 誰もいないでしょ、と言いかけた時。

 蓉子     :「わたし、やりますっ!(挙手)」
 秦弥     :「えっ!」
 真帆     :「……ほう(ちょっと目を丸くして)」
 中村     :「……蓉子」
 蓉子     :「わたしと手合わせ、してくださいっ」
 中村     :「むぅ……」
 相羽     :「こりゃ、また」
 尊      :「無茶な……」
 和久     :「え!? ほんとに?」

 既に、先ほどの試合で中村、蓉子、双方の実力は自明となった今、一見、無
謀とも見える組み合わせに息を呑む場内。

 史久     :「蓉子ちゃん……(ううむ)」

 そして、それだけでは無い関係者の表情。

 真帆     :「……あらら(何となく察して微妙な表情)」
 蓉子     :「……お願い……します」
 中村     :「……いいだろう、準備しろ」

 暫く見つめ合い、背を向ける中村。

 尊      :「蓉子ちゃん……大丈夫?」
 蓉子     :「大丈夫、やれます……」

 きゅっ、と唇を引き結び、熱い闘志を胸に秘める蓉子ちゃん。

 蓉子     :「(お父さん……)」

 立ち上がって竹刀を掴む蓉子の手が微かに震えていた。

 和久     :「(蓉子ちゃん……震えてる……)」
 真帆     :「(何となく難しい顔してる)」
 中村     :「史久、試合のすぐ後ですまんが審判を頼む(面を着けて
        :ゆっくり立ち上がる)」
 史久     :「わかりました」

 静まりかえった道場に、中央に歩み寄る二人の足音だけが響く。

 中村     :「……」
 蓉子     :「……(どきどき)」
 史久     :「始めっ」

 竹刀を正眼に構えゆっくり立ち上がる二人。

 秦弥     :「………が、頑張れ……蓉子……(小声で)」

 応援するのはいいのだが、秦弥君、声が小さいぞ。

 中村     :「せいっ(面をねらう)」
 蓉子     :「やぁっ(面をねらう)」

 SE:ガキィッ!

 さすが親子と言うべきか。
 全く同時に、全く同じ箇所を狙いに行き噛み合う竹刀。
 中村の怒濤のパワーと体重差に吹っ飛ばされる蓉子。

 蓉子     :「きゃっ」
 尊      :「蓉子ちゃんっ!」

 奥歯を噛みしめて踏ん張り、何とか転倒を免れる蓉子。

 蓉子     :「まだまだっ(ぎりっ)」
 中村     :「来いっ」
 蓉子     :「たぁっ!(お父さん……負けないっ)」
 真帆     :「…………(眉根に皺を寄せて見てる)」
 蓉子     :「(秦弥さん……みててくださいっ)」
 秦弥     :「蓉子っ……がんばれ……」

 だから、声小さいってば。

 中村     :「そんなものかっ!」
 蓉子     :「小手ぇぇっ!」

 蓉子が打ち込み、中村が打ち返す。
 気合い十分に一合、また一合と交わされる竹刀。

 和久     :「中村さんも……蓉子ちゃんも……凄い……」
 秦弥     :「(今日の蓉子はかっこいいなぁ……)」


親子の対話
----------


 と。

 尊      :「あ……れ? なんか……」

 不振げに首をかしげる尊。

 相羽     :「(尊を見やって) あぁ気づいた?……中村のダンナ、
        :つくづく不器用だねぇ(くっくっく)」
 尊      :「あたしの予想が正しいなら……確かに……不器用な方み
        :たいですね、蓉子ちゃんのお父さん(苦笑)」
 真帆     :「どういうこと?」
 相羽     :「いやぁ、ああでもしないと父娘の触れ合いが出来ないって、
        :とことん不器用だと思うよ?」
 尊      :「……さっきから、中村さん……ギリギリ一本に『ならな
        :い』位置に打ち込みがズレてるんです(苦笑)」
 真帆     :「え?」
 和久     :「ああ……それで(審判の史久の方をみながら苦笑)」
 史久     :「(中村が打ち込む度に旗を上げそうになるが、苦笑しつ
        :つ旗を降ろす)」

 それが何を意味するか。
 一同が理解したとき、真帆がぽつりとつぶやいた。

 真帆     :「不器用……なんだね(苦笑)」

 そして。

 蓉子     :「めぇぇぇぇぇんっ!」

 一旦切った間合いのまま、全力をもって打ち込む面。
 遠距離からの大技、蓉子の相手が並の相手なら決まったろう鋭い切れ味の面。
 だが。

 尊      :「いけないっ」
 相羽     :「遠いな(スッと刃物みたいに目を細めて)」

 SE:ドンっ

 蓉子     :「っ……」
 尊      :「決まっ……た」
 真帆     :「(腕組みして難しい顔してみてる)」

 蓉子の胸当てに突き刺さるように決まった中村の突き。

 蓉子     :「……けふっけふっ」

 突きによる酸欠で意識が遠のき、がくり、と膝をつく蓉子。

 秦弥     :「蓉子っ!」

 静まりかえった道場内に思わず立ち上がった秦弥の声が響く。

 中村     :「……」

 膝をついて、咳き込む蓉子にゆっくり近づく中村。

 蓉子     :「けふっ……ぁ……」

 スッと伸びた中村の手が蓉子の喉当てにかかり、面がはずされる。

 史久     :「一本! それまで」
 秦弥     :「あ……」
 蓉子     :「……まけ……た」
 中村     :「……立て」

 蓉子の両肩を掴み、自分の前に立たせる中村。
 ぽんと、頭の上に手を置いて。

 中村     :「……腕を上げたな」

 くしゃっと、蓉子の髪を無骨な手でかき回してから、見上げる蓉子を残して
転がる自分の竹刀を拾って戻っていく。

 蓉子     :「お父さん……」

 大きな父の背中を見送る蓉子。

 真帆     :「…………相羽さん」
 相羽     :「ん?」
 真帆     :「帰ってから、質問予約しとくわ」
 相羽     :「いいよ」


試合終了
--------


 で、一方、こちらは観覧席。

 秦弥     :「蓉子……あ(汗)」

 じんじんじん。
 正座が得意な人でも道場の板の間で長時間正座したらそりゃ痺れる訳で。

 秦弥     :「あたっ……たったった(じんじん)ううう……」

 急に立ったらねぇ、そりゃ痺れます。

 相羽     :「にしても……修行させてあげよっかねえ(和久君を眺め
        :つつ)」
 真帆     :「……って?」
 相羽     :「史の字はともかく、豆柴はももちっと免疫つけさせない
        :とねえ(にやにや)」
 真帆     :「どんな免疫だよ……もしかして、おネエちゃんの群れの
        :中に叩き込む?」
 相羽     :「それは刺激強すぎるから、婦警さん連中の稽古に放り込
        :むかね」
 真帆     :「……どうしてそこで、真っ赤になった豆柴君しか連想で
        :きないんだろう(汗)」
 相羽     :「まあ、妙にウケてるからねえ、豆柴くん(くっくく)」
 真帆     :「うん……そうなんだけど(ちょっと考え込んで)」
 真帆     :「なんつか……本宮さんも、ウケるってことに関しては、
        :豆柴君に勝るとも劣らないんだよね」
 相羽     :「まあ、あいつはウケもいいけど要領もいいからねえ」
 真帆     :「うん……」
 真帆     :「てゆか、勝負事の時に、相手に自然と侮られるなら」
 真帆     :「それって……隙だと思うんだよね」
 相羽     :「だったらきっちり叩き込んであげないと、ね」
 真帆     :「うん」
 相羽     :「……まあ、奴はそのつもりらしいけど」
 真帆     :「……ああ(苦笑)」

 審判終了後。
 和久、尊と並んでる後ろに、穏やかに微笑みながら腕組みして立ってる史久
さん。
 目が……。

 真帆     :「今の豆柴君には、千夏さんの尋問して欲しくないもんね
        :(ぽつり)」
 相羽     :「……そりゃこっちだって人選するよ」
 真帆     :「そう、なんだけどね」
 相羽     :「まあ、カンと素質は悪くない。 あとは心理面をもう
        :ちょっとなんとかしてやらないと、刑事には無理だね」

 目標らしいけどさ、と優しい目で和久君を眺める相羽さん。

 真帆     :「……やっぱりお兄さんが……ってのがあるのかな(笑)」
 相羽     :「まあ、一番人気の花形だし……実情はともかく、白バイ
        :と並んで刑事は人気だよ」
 真帆     :「……成程(苦笑)」


そして始まる……
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 戻ってきた蓉子ちゃんを出迎えて。

 秦弥     :「……蓉子」
 蓉子     :「秦弥さんっ」

 なんと言うか。
 尊によると、このときの蓉子ちゃんの表情は。
 「スイッチ切り替えたみたいに、パッと明るくなったよ?(くす)」だった
そうで。
 てててっと駆け寄ってきて。

 蓉子     :「あ、あのっ、秦弥さん。退屈しませんでした?」
 秦弥     :「いや、そんなことないよ……蓉子のかっこいいところが
        :見れたし(ぼぅ)」
 蓉子     :「……え(赤面)」

 喩えかなわないと解っていても、立ち向かって行く。
 かっこいい、凛々しい蓉子ちゃんを見ることが出来ました。

 中村     :「(道場の反対側からチラリとみている)」

 パパに目をつけられていますが。

 秦弥     :「いや、ほら。学校だと、剣道とかやってる姿見れないし。
        :蓉子が得意だってのは知ってたけど。実際に見たことは無
        :かったし」
 蓉子     :「……は、はい……普段は学校じゃなくて、こちらの道場
        :で稽古してるから」
 秦弥     :「僕は、剣道とか出来ないしなぁ……」
 蓉子     :「で、でも秦弥さんは射撃とか、そのっ」

 うっかり人前で「魔術も」と言いかけて口を押さえる蓉子ちゃん。

 秦弥     :「ん〜、でも、そんなにかっこいい物でも……」
 蓉子     :「……で、でも、こないだの遊園地の時かっこよかったで
        :す」
 秦弥     :「えと、うん。ありがとう。」

 で、それを眺める大人たち。

 相羽     :「いやあ、初々しい(にや)」
 史久     :「……そんなにジロジロ見ないように」
 真帆     :「…………(ぺしっとな)」

 真帆さんの「しつけチョップ」が相羽さんの後頭部に炸裂。

 相羽     :「いてっ」
 真帆     :「思春期の少年少女をからかわないの」

 若いカップルをチラリと見つつ、苦笑して釘を刺す真帆さん。

 秦弥     :「そ、そう言えば蓉子……」
 蓉子     :「え、な、なんですか?」
 秦弥     :「あの人って……蓉子のお父さん……なの?」

 威圧感と威厳が防具をつけて歩いているような、蓉子パパを横目でみつつ。

 蓉子     :「あ……あの、ごめんなさい、言いそびれちゃって……父
        :なんです」
 秦弥     :「……えーっと、結構怖くない?」
 蓉子     :「……あの、うん。ええと、ちょっと、だいぶ、かなり怖
        :いんだけど、その」

 一生懸命フォローを考える蓉子ちゃん。

 蓉子     :「でも、その、すごく真面目で」
 秦弥     :「……そ、そーなんだ」
 蓉子     :「……うん……あの……怖い、かなあ。うちのお父さん」
 秦弥     :「正直な感想を言うと……あれで、怖くないんだったら。
        :怖い物なんか無いと思う」
 蓉子     :「……やっぱり、あのっ! でもっ! 怖いけど……でも、
        :理屈に合わないことで怒ったりしないから!」
 秦弥     :「……うん、悪いお父さんだったら。蓉子が帰ってきて欲
        :しいなんて思わないと思うしね」
 蓉子     :「……うん」
 秦弥     :「……うん」

 頬を染めつつ見つめ合っちゃったり。


黒の系譜は健在なり
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 尊      :「(くすくす)……なんだかいいカップルねぇ」
 和久     :「ほんとに(笑)」

 こちらも、微笑み合ったりしちゃってるんですが。
 しかし、そこに背後から迫る黒い影。

 史久     :「和久」
 和久     :「え?はいっ」
 史久     :「僕が言いたいこと、わかるよね(ほんのり笑み)」

 同じ微笑みでも。
 春風と真冬の剃刀ぐらい違う微笑みを浮かべた史久さん。
 別に大きな声とか、ドスの聞いた声とかそういう訳ではないのだが。
 それこそ、地獄の鬼が裸足で逃げ出すような迫力を持ってるわけで。

 和久     :「…………はい」
 尊      :「史久さん……(こ、こわっ)」
 史久     :「当分、ここで稽古のやり直しをしてもらおうか、ねえ?」
 和久     :「はい。すいません(滝汗)」
 真帆     :「…………(さ、さすが(汗))」
 尊      :「あ、あのっ(汗)」
 史久     :「どうしました、尊さん?(微笑)」

 まさに、雲散霧消。
 真冬の吹雪が、春のそよ風ぐらいにコロっと変わる史久さん。
 ここらへんは本宮家の血がなせる技か。

 尊      :「(な、なんか調子狂うなぁ……)あたしも……稽古つけ
        :てもらえませんか?」
 史久     :「尊さんが?……(ふむ)」
 尊      :「はい、久しぶりに竹刀もって、やっぱりレベル落ちてる
        :し……」
 史久     :「じゃあ、折り入って尊さんにお願いがあるのですが」
 尊      :「はい?」
 史久     :「こいつを鍛えなおしてやっていただけませんか?

 ぽんと、和久君の方を叩きつつ、それこそ人参一本買ってきて。
 のように気軽にのたまう史久さん。

 和久     :「え!?」
 尊      :「あ、あたしが……ですか?(滝汗)」

 思わぬ展開に、思わず顔を見合わせちゃう二人。
 目と目が合った瞬間に、二人とも真っ赤になって顔背けちゃうあたりはご愛
敬。

 真帆     :「うわー……本宮さん凶悪(汗)」
 相羽     :「……やれやれ、荒療治だねえ」

 生傷に芥子で練った粗塩をすり込むような荒療治に内心冷や汗の外野。

 和久     :「……み、尊さんに……稽古?」
 史久     :「色々な意味で、鍛えられると思うよ(微笑)」

 だから、怖いですってば(汗)。

 真帆     :「あたし絶対、本宮さんだけは敵に廻すまい……(妙に真
        :剣)」
 相羽     :「県警で一番敵にしちゃいけない奴だよ、あいつ(真顔)」
 真帆     :「納得しました、今すごく」
 秦弥     :「(漏れ聞いて)だ……大丈夫かなぁ……あの二人……」
 蓉子     :「あはは(滝汗)……本宮さん……さすが」

 昼行灯と名の付く人はだいたい「剃刀」の二つ名も持っています。

 尊      :「判りました、微力ながら頑張ります(いろいろ決心)」
 史久     :「ええ、お願いします。不肖の弟ですが」
 尊      :「そのかわり」
 史久     :「はい?」
 尊      :「本宮君はあたしに格闘を教えて」
 和久     :「えっ!? 尊さんに……格闘を?」

 まっすぐに、一切邪念の無い「退魔師」としての顔があった。

 真帆     :「…………(ふむ)」
 秦弥     :「……本宮さん……尊さんを倒せるんかなぁ……(ぼそっ)」
 真帆     :「受けて立てるかな、ほんとの意味で(小さな声で)」
 尊      :「体重、筋力が低くても出来る技と体裁きを教えて下さい」
 史久     :「丁度いいね、お互い得るものがあるならそれに越したこ
        :とはない」
 相羽     :「こらまた、きっつい稽古になりそうだねえ(くっくっく)」
 真帆     :「てーか、彼女のほうはまじだもん、あれ」
 和久     :「……(心に色々決めた)……わかりました、俺の教えら
        :れる限り指導します」
 尊      :「……強く、なりたいから……よろしくね(にこ)」
 蓉子     :「……(尊さん……すごいなあ)」
 和久     :「……はい(真顔で礼)」


えぴろーぐ1
------------


 あっちもこっちも一段落して。

 真帆     :「で……相羽さんどーすんの?」
 相羽     :「ん?」
 真帆     :「まだ練習すんなら、見捨てて帰るけど」
 相羽     :「見るもん見たしね、後は大して面白くなさそうだから帰
        :るわ」

 おっぽとかれた他の部署の若い連中の立場が全く無いんですが、それはさて
置き。
 道場出て、てろてろと歩きながら。

 真帆     :「なんつかさ、試合って人間関係……というか、その相手
        :との付き合いが端的に出るようで」
 相羽     :「……ああ、でるねえ」
 真帆     :「そんで……本宮さんと相羽さんで、あーなんだな、と」

 いっぺん、羨ましげに相羽さんの顔眺めて。

 真帆     :「長い友人なわけだ(苦笑)」
 相羽     :「まぁ……強敵と書いて『とも』とも読むわな(くくっ)」
 真帆     :「なにそれ(笑)」
 相羽     :「……にしても……やれやれ今日は風呂でしみるねえ」

 腕を回したり、首を動かす度にヒリヒリズキズキとあっちゃこっちゃに痛み
が走ります。

 真帆     :「……薬とか買っとく?」
 相羽     :「ああ、頼むわ」
 真帆     :「りょーかい」
 尊      :「相羽さん」

 道場から出て建物に移動する渡り廊下の中程で、後ろからかかる声。

 相羽     :「んあ? ……ああ」
 真帆     :「あら、どしたの?」
 相羽     :「……ちっと先行っててくれる? 道場少し片付けてくるわ」
 真帆     :「……解った、先いっとく」

 何となく得心出来ないながらも、ぽてぽてと建物に入っていく真帆さん。

 相羽     :「これでいいかい?」
 尊      :「……お上手、ですね(苦笑)」
 相羽     :「これが商売でね、で?」

 さすがは、県警きっての敏腕刑事、話をしたいと目で訴えた尊の表情を一瞬
で読んでの行動。

 尊      :「駆け引きは無駄みたいですから……単刀直入に伺います」
 相羽     :「はいよ」
 尊      :「片帆さん、ご存知ですよね?」
 相羽     :「ああ、あの妹さんね」
 尊      :「相談を受けました、お姉さんのことで」

 一瞬、どこかに棘が刺さったように目を細めるが。

 相羽    :「……ああ(納得)」

 いかな和久の知り合いとはいえ、練習当初から初対面の彼女がかなり至近距
離で観察するような視線を向けてきた理由をやっと得心した。

 尊      :「相談内容、お解りですよね?」
 相羽     :「俺、随分悪党って言ってたでしょ」
 尊      :「人の感情のフィルタのかかった情報を鵜呑みにしちゃ、
        :いけないんじゃないですか?刑事さん」
 相羽     :「まあね、でもあの子に俺にフィルタかけるなってのは無
        :理な注文だし」
 尊      :「だから、私自身で確かめたいんです。 一つだけ、確認
        :させてください。」
 相羽     :「いいよ」
 尊      :「真帆さんは、貴方が必要としてるのですか?それとも仕
        :事の上で必要としているのですか?」

 躊躇いもてらいも無く。

 相羽     :「必要だよ、俺が」

 さらりとまぁ。

 尊      :「し、シンプル……ですね(苦笑)」
 相羽     :「わかりやすいしね」
 尊      :「片帆さんは、納得してくれないでしょうけどね(苦笑)
        :……真帆さんを泣かせないでくださいね」
 相羽     :「そのつもりだよ」
 尊      :「ん、よろしくお願いしますね、もし泣かせたら(にっこ
        :り)」

 道場で竹刀握っている時には決して漏れなかった、冷たい闘気が遠慮無く相
羽に叩きつけられる。

 相羽     :「やれやれ、怖いねえ(目を細めて余裕で受ける)」
 尊      :「(ふっと気を緩めて)……本宮君の先輩がそんな人じゃ
        :無いとは思ってますけどね(くすっ)……それと」
 相羽     :「それと?」
 尊      :「どうせ、あたしの正体、もう薄々気づいてるんでしょ?」
 相羽     :「実戦のほうが慣れてそうだよね(にやり)さっきから、
        :誰もこの廊下を通らないのも?」
 尊      :「ええ、軽い人払いの陣、張らせて貰いました(くす) 
        :その内、現場でお会いするかも……しれませんね?」
 相羽     :「……まあ、俺の本来の相手はそっち系より、ホントに怖
        :い奴らだからね」
 尊      :「了解、怖い方々は任せします(苦笑)あたしはあたしの
        :領分で」

 それじゃ、と、踵を返して道場へ戻っていく尊。
 その背中に

 相羽     :「ああ……そうそう、俺はそっち系は詳しくないから」

 一旦わざわざ区切って。

 相羽     :「豆柴くんのこと、頼むわ(にやり)」
 尊      :「って(すてんとこけて)なんでそーなるんですかー」

 いやあの、真っ赤な顔で竹刀プルプルさせても説得力がねぇ。

 相羽     :「俺も目かけて育ててるからさあ、怪我とかしないで欲し
        :いんだよね(くっくっく)」

 口元は例のニヤリ笑いなんだけど。
 優しげな目で尊と、そして道場からこちらに歩いてくる和久を眺める相羽。

 相羽     :「よろしく頼むよ、ねぇ(くくくっ)」
 尊      :「ぅぅ……(赤面じたじた)」
 相羽     :「(くっくっく)」
 尊      :「こっ……あくにんっ(べーっと)」

 あかんべを一発お見舞いして退散する尊。
 どうやら、相手が悪かったようです。
 ところで、尊が陣を出たことにより解除された人払い。
 そうするとこうなる訳で。

 相羽     :「いやあ、可愛いねえ(くっくっく)」
 真帆     :「…………なにやってんの(呆)」

 遅いんで、戻ってきた真帆さん。
 廊下で尊の後ろ姿を眺めつつ、くつくつ笑ってる相羽さんを発見。

 相羽     :「ああ、ちょっとね、いやあ、豆柴くんに似合いの可愛い
        :お嬢さんだねえ、とさ」
 真帆     :「……(ぺしっ)」

 本日、何回目か解らない真帆さんの一撃。

 相羽     :「いて」
 真帆     :「そこでからかおうとか思ってないでしょうね?」
 相羽     :「そんなことしないよお、暖かく見守る所存だよ(くっくっく)」
 真帆     :「見ながらにやにや笑ってるってのは、見守ってないっての」

 一方こちらは。

 和久     :「あ、尊さん、どこ行ってたんですか? 稽古終わりまし
        :たから帰りましょう、送りますよ(にこやか)」
 尊      :「あ……(真っ赤)」

 そらーねぇ。

 和久     :「どうしたんですか? 顔紅……」
 尊      :「何でもないっ着替えてくるっ」

 まともに顔が見られずに、ダッシュで更衣室に駆け込む尊。

 和久     :「? ……変な……尊さん」

 いや、ちっとは察してあげてください、和久君。


えぴろーぐ2
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 で、その晩。

 真帆     :「多分今頃、本宮さんもあちこち痛いんじゃないかな(苦笑)」

 肩とか二の腕とか、痣だらけの相羽さん。
 真帆さんに湿布張って貰ったり。

 相羽     :「手数はこっちのが多いけどねえ……装甲はあっちのが上
        :だよ……いてててっ……もちっとそっと張ってくれ」
 真帆     :「まあ……御身大切に(苦笑)」


えぴろーぐ3
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 尊      :「い……いたい(涙)」

 蓉子ちゃんの一撃は、全国レベルと言うだけあって。
 あっちゃこっちゃに綺麗な竹刀痕が。

 夾      :「おねぇちゃん、じっとしてるのです(湿布張り張り)」
 尊      :「うう……調子に……乗りすぎちゃった……」


えぴろーぐ4
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 こちらは蓉子ちゃん。
 お風呂入って、鏡に映して。
 肩や首筋、二の腕に残る竹刀の痕。

 蓉子     :「……当分半そでがきれない(うう)これじゃプールも……(あうあう)」



 まぁそんなこんなで、夏休みの熱い一日は無事終わったようです。
 熱き剣士達に幸あれ。

Fin.


時系列と舞台
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 2005年夏休み中、県警剣道場にて。

解説
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 終わった……。
 われながらよくこんな長げぇEP書いたと思います。
 久しぶりに物書き欲を満たせたシリーズでした。

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