[KATARIBE 29176] [HA06N] 小説『誕生日』

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Date: Thu, 15 Sep 2005 20:56:53 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29176] [HA06N] 小説『誕生日』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年09月15日:20時56分53秒
Sub:[HA06N]小説『誕生日』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@さぼりっぱ です。
少し根性入れないとあかんがね(手をわきわき)

というわけで。まあそういう季節もの。

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小説『誕生日』
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登場キャラクター 
---------------- 
 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。ヤク避け相羽。 
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0483/ 
 軽部真帆(かるべ・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。ネズミ騒動以来相羽宅に移住。
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0480/ 


本文
----

 全国津々浦々、この国にしては珍しく、選挙の話題が飛び交う頃。

「あ、その日誕生日だったわ」

 あっけらかんとそう言ってくれる大家さんが居るわけで。

        **

 ぽん、と、テーブルの上に箱を置く。
 流石にああいう店の包みってのは、包み紙からして見事である。

「何?」
「誕生日用の和菓子ってなんかわかんなかったから、秋っぽいの買ってきた」

 いや、やっぱり誕生日なら欲しいもの尋ねるべきだよな、と訊いたところが
『甘すぎずくどすぎず、美味しい和菓子』ときたもので。

「どーぞ」
「ん?ああ、ありがと」
 以前から思ってたけど。
 こういう時の相羽さん見てると、芥川龍之介の短編の一部を思い出す。女は
欲しいものを目にすると、妙にあどけない顔になる……みたいな内容だったと
思うけど。
 男性でもそうだよなあ、なんて思ってる間に、相羽さんは箱をあける。
 濃い目に出したお茶を、こちらは湯呑みに注いで。
「はい」
「ありがと」

 開けた箱の中に、行儀良く並んだ和菓子が五個。
 しかし流石だ。誕生日用に持って行きたいんですが、見栄えのするように出
来ませんか、と頼んだ所、綺麗に五つ、それもきちんと色合いを考えて並べて
ある。

「……で、あんたらのは別にあるからっ」

 突進しかけたベタ達をとっつかまえる。こちらはかなり簡易包装だけど、同
じような練り切りを二つ、お皿の上に並べる。
 明月を象ったお菓子と、菊を象ったお菓子と。
 ベタ達はそれっとばかりにお菓子にとびついてる。


「…………34才、だっけ」

 それはそれは嬉しそうに、相羽さんは和菓子を食べている。相変わらずこの
うちに一つだけのお菓子用のフォークでつつきながら。

「ああ、そだね」

 あっさりと……言ってくれるものだよなあ。

「酒呑みよか経済的じゃん」

 こちらの表情を読んだように、相羽さんが言う。
 まあ、確かに多少不機嫌な顔になってたかもなんだけど。

「それは全面的に認めるんだけど」

 ……そうじゃ、なくってさ。

「……なんか相羽さん見てるとさ」
「なに?」
「…………馬齢を重ねて実になってないなって思うんだよね、自分が」

 県警の刑事部の『ヤク避け相羽』。相当無茶な捜査を行って、まずは生き延
びて、その無茶を周囲に認めさせるだけの実力があって。
 後輩達の育成も……まあ、多少無茶ながら任されてる。
 そんであたしよりか歳が下ってのがなあ。

「…………そーいえば」
 ぱく、と、和菓子を食べてから相羽さんがこちらを見た。
「いくつだっけ?」
 うあ、薮蛇。 
「………足す、3」

 三年、と思う。
 生きるでもなく死ぬでもなく、確かにこちらは五年ほど無駄にした。
 でも、無駄にする前と思っても。
 ……あたしはこの人以上に有能かつ必要な人間になれたろうか。

「ああ、年上だったんだ」

 あっけらかんと、相羽さんは言う。


 これは微妙なところだと思うけど、若く見られるのには程度問題があると思
う。友人で、当時30歳、子供一人をかかえてた子が一度20歳に見られたこ
とがあるんだけど。
『あたしそこまで幼いかねっ?!』
 そのくせ25歳に見られたー、あたし若いっとか言って喜んでるから、こち
らもわけがわからんのだが。
 つまりがとこ……歳をとり損ねるってのは、あまり良いことではないと判り
だしている。そういうことかもしれない。

「………………どーせ」
「何」
「真っ当に年取り損ねてますよっ」
 自覚は、一応ある。
 憮然としていると、相羽さんがくっくっと笑った。
「俺も人のこと言えない自信あるけどね」

 何となく……本宮さんが頷きそうな気は、した。

「てっか……要するに年上には見えてなかったわけでしょ?」
「見えてないってか、あまり人の年齢気にしてないし」
「………………いいけど」
 確かにそういうことを一切気にしないようには見える。
「それに、まあ」
 何時の間にか和菓子は半分以上減っている。それをつつきながら相羽さんは
けろっとして言い足した。
「お前さんはお前さんだしね」

 ……何か最近、その一言で誤魔化されてる気がしないでも無いし。
 誤魔化される自分がそらー悪かろうって気にもなるし。

「不服?」
 不意に手が伸びて、つん、と額をつつかれた。

「……不服じゃないけど」

 ベタ達がそろってこちらを見てる。
 皿の上は、案外綺麗になっている。
 追加のお菓子いる?と訊くと、揃ってうんうん、と頷いた。
 ……流石に飼い主に似るものだ。

「歳ほどに積み重なってない、ってのはよく聞く話だよ」
「……そだけどね」
 まさにその、よく聞く一例なんですがね。
「でも、それって自分じゃわかんないしね」
「……それは、そう」
「いくつになったからどのくらい積み重なってなきゃダメとかないし」

 そこまで言うと、相羽さんは苦笑した。

「多少は重ねとけって思う奴もいるけどさあ」
「う」

 時折……思う。
 外面が変化することは、それこそ時間に任せれば問題がないけれども。
 外面に対応するような中身を、どうやって形成すればいいのやら。
 精神が育ったかどうかってのは、どうやって知ることが出来るのやら。
 ……考えてると、何だか滅入ってきたので、慌てて湯呑みにお茶をついだ。

「……どぞ」
「ああ、ありがと」

 精神の成熟度を計る秤なんて、無い。
 無くて残念なのか……無くて幸いなのか。

 あ。

「言うの忘れてたけど」

 不審そうな顔をした相羽さんに、一礼して。

「お誕生日おめでとうございます」
「ありがと」


 冥土の旅の一里塚にも、似ているような気もするし。
 渡ってゆく橋の欄干の、玉飾のようなものかなとも思い。

 ……まあ、でもそういう日。


 お誕生日、おめでとうございます。


時系列
------
 2005年9月11日

解説
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 誕生日なんて言われても、有難くなくなってくるといえば確かにそうなんですが。
でも、やっぱり……越し方行く末を考える日でもあったりします。
*********************************************:

てなわけで。
ではでは。



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