[KATARIBE 29169] Re: [HA06N] 『よすがの時間・1』

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Date: Wed, 14 Sep 2005 00:47:28 +0900 (JST)
From: gallows <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29169] Re: [HA06N] 『よすがの時間・1』
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2005年09月14日:00時47分27秒
Sub:Re:  [HA06N] 『よすがの時間・1』:
From:gallows


gallowsです。れあなさんチェックありがとうございます。
修正版流します

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 

小説『よすがの時間・1』
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登場キャラクター
----------------
九折因(つづらおり・よすが)
    :吸血鬼。少女。
六兎結夜(りくと・ゆうや)
    :吸血鬼。青年。

本編
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 因が目を覚ますと同居人の六兎結夜がのけぞり気味に立ちすくんでいた。
 真夏だというのに黒い長袖を着て、とうに日も落ちているというのにサン
グラスをかけたその青年は、そろりそろりと横歩きで因の寝ているベッドの
周りを移動して再び立ちすくむ。それほど広くない部屋に大量の本の並ぶ本
棚やPCラック、ベッドなどが林立しているので距離をとろうとするとこのよ
うな動きになる。
 因が上半身をもぞもぞと起こし大きく伸びをすると、「お、おお?」など
と感嘆とも動揺ともとれる声を漏らす。

「あら。おかえりなさい、結さん」
「……ええと、誰?」

 はて、と因は首をかしげる。
 因が結夜に引き取られてすぐ、彼は海外に仕事があると言って家をあけた。
 それが五日前。聞いていたよりもずっと早い帰還であったが、因にとって
それは悪いことではない。同居人が帰ってくるということは一人でいるより
はずっとマシな時間を過ごせるということだ。しかし、結夜は因が誰かわか
らないと言う。いくら知り合って間もないからといって居候の顔を忘れると
いうのはいささか考えにくい。
 六兎結夜という男、ちょっと変わり者ではあった。真夏に黒染めの外套を
羽織り、室内でも黒眼鏡をかけ、口を開けばしばしばまともでないことを言
う。そして曰く、吸血鬼である。彼の良識的で口の悪い友人達に言わせれば
尋常でない。
 それはおなじ吸血鬼である因にとっても大差ない印象である。返事に困り
「はぁ、それはそれは」などとよくわからないことを言ってみる。そして思
い当たる、ああ、これはごっこ遊びなのだと。テーマは記憶喪失。
 因は十一歳の時に吸血鬼になり、それから5年経つが十一の姿のままだ。
青年から見れば子供であろう。ゆえに結夜はこう言った他愛のない遊びをふっ
て楽しませようとしてくれているのであると因は考えた。
 少なくとも記憶喪失というオチよりはずっとありそうな話だ。記憶喪失な
んていうのはお話しの中にしかでてこない。あれは吸血鬼やヴェアヴォルフ
よりファンタジーな存在だと因は聞いていた。

「まったく、結さんはぁ」因はまだ眠い目をこすりながら布団から這い出て、
ベッドに正座する。「よりにもよって私のこと忘れてしまうなんてあんまり
や」
「ああ、いや──」
「はじめまして、九折因です。遠路はるばるごくろうはんでした。おかえり
なさいまし、結さん」

 因が手をついて旅館の若女将のような態度で改めておかえりを言う、結夜
もつられて同じような姿勢でただいま戻りましたと返す。
 寝間着姿の少女と黒一色の男が現代的な部屋の中で手を付き合ってる姿は
間が抜けていたが、今そこにそのことを指摘する者はいなかった。
 結夜はしばし因を観察する。長い黒髪、赤い瞳、白いワンピースの寝間着
からは筋張った脚がのぞいている。そして口を開くと時折のぞく大きな糸切
り歯。間違いなく同族だと思う。が、まったく見覚えはない。

「ええと、私はその、因さんのお世話をしているわけですか。見たところ同
族のようやし、SRAの関係者で?」
「はぁ、あれは二月前のことになります。島原の遊郭でうちと結さんが出会
うたのは」
「いや、遊郭て……いつの時代の話やねんな。それに、あなた子供みたいで 
すし」 
「そうは言いましても、なにしろうちら吸血鬼やさかい、そういうこともあ
るわけやないですか」
「マジですか?」 
「マジです。酷い、何もかも忘れてしもたのですか。」因は大げさに口元を
掌で押さえる。
「いやいや、いくらなんでもそれは。えぇっ?」
「でも、覚えてはらないのやろ?」
「いや、覚えてないっていうか──」
「結さん、私をえらい気に入ってくれてなぁ。毎晩のように私のとこ来て、
身請けする約束までしてくれた。おとんがうちにかけた借金も家財売ってで
も返す言うてくれてな。そらあもう大層な惚れっぷりで他の妓らにも嫉妬さ
れたもんや。普段恐いおかみさんもあの時ばかりはあの人についていけば安
心やと優しくしてくれました。せやけどなぁ」因はここで一息ついて雨戸を
閉めきった窓のほうを見やる「二人の蜜月は長くは続かんかったんや」
「なんやねんなそれは」
「まあまあ、話はこれからやねん。仲むつまじうやってきたうちらやったけ
ど結さんは悲しいかな下級武士に過ぎひんやんか。お上の意向で遠く離れた
海の向こうへ行かなならなくなってしもた。お役目やな」
「いやいや、武士ちゃうし。下っ端なのは認めるが」 

 因は昔先輩吸血鬼に聞いた話をなぞってみる。ごっこ遊びとはいえリアリ
ティというものは重要だと因は考えた。因がここに来る前世話になっていた
洛中の吸血鬼の中には元々女郎であったという女もいて、彼女は酒に酔った
時などしばしば色めいた悲劇について話した。
 子供には刺激の強い話であるが吸血鬼というのは退廃とか汚辱というもの
に慣れ親しむものだ。因はそう教えられていた。
 そして話は悲劇的変遷を辿りながら20分程続く。

「──第三章、女の戦い」
「……まだ続くん?」 
「せっかちやなぁ」
「いや、普通に長いし」 
「これが京風です。わかってへんなぁ。ほなはしょりますか。そんなこんな
で執拗ないじめの果てに簀巻きにされたりして海の向こうの結さんを思いな
がら哀れ女郎は死を選んだのでした。ああ、あと少しで手に入った幸福は今
どこへ、願わくば海の向こうのあの人にもう一度あいたい、てな」
「因さん死んでるやん」
「あら?」

 因は唐突に苦悶の表情を浮かべ「うわぁ、やられたぁ」などと言いながら
ベッドの上に倒れ伏す。そしてぴくりとも動かない。エアコンの音だけが部
屋の中を支配する時間が流れる。

「満足しましたか?」
「ノリ悪い、そっちから振ってきたんやないですか」と因はむくりと起き上
がる。
 はぁ、と結夜は溜め息をつく。さっきからまるで会話が進まないでいる。
「実際のところ、私本当に知らないんですよ。改めて聞きますけど因さんは
何者?」結夜は少し語気を強めて言ってみた。
「結さん。まさか本気で記憶喪失とかそういう──」
「そういうわけではないねんけど」結夜は自分の考えを整理するために鼻の 
頭を掻く。「話すと長くなるんですけどね。どうも今、私二人いるみたいで。 
半年ほど留守にしてる間にもう一人私がいたというか」 
「なんですの、そのネタ」
「いや、ネタじゃ無しに。因さんの知ってる結夜と私は別結夜なんですよ」
「結さん。銀眼さんに電話かけてもろていいですか。私まだ携帯電話もって
ないねん」
「良いですけど」結夜は携帯電話を取り出すと電話帳から銀眼──二人の上 
司にあたる吸血鬼だ──の名を呼び出し因に手渡す。 
「あ、もしもし。大変や、銀眼さん。結さんがおかしくなってしもた。どな
いしよう!」
「あいや、ちょっと待った」と結夜は速やかに携帯電話を取り上げる。
「あぁ、なにしはりますのん」
「もしもし、金眼です。代わりました。はい、気にしないでください。ええ
と、ちょっと確かめたいことが──ええ。吹利にいる方の金眼です。って、
結構ややこしいな。それでですね、うちにいる九折因さんのことなんですけ
ど──そんだけ? はい。はい。ええ、大丈夫です。それじゃ」結夜はビジ
ネスライクに話を済ますと通話を切る。
「ああ、最初からこうすればよかった」と、溜め息混じりに結夜。
「銀眼さんなんて言ってはった?」因はベッドを降りて結夜の袖を引いて問
う。
「自分のことは自分でしなさいってさ。京都の血族からお預かりしてる九折 
因さんか」 
「あの人がそういうんならほんとなんやろうなあ。私分裂する吸血鬼なんて 
聞いたことない。非常識や」 
「銀眼さんが言ったら信用するのね」 
「きらきらしてはるからなぁ」 
「いやはや、まったく。で、うちの家族とはどう話ついてるのかな」 
「はい。引きこもりの親戚の子が情操教育のためにホームステイしてる言う
ことになってます」
「それ因さんが考えたの?」
「ええ」
「──まあいいか。で私に御鉢が回ってきたわけだ」

 結夜はパソコンラックの前の椅子に腰を落として一心地つく。結夜にして
みればただでさえ面倒な状況であるのに思いも寄らぬところで厄介ごとを増
やされる格好になった。因は私物を入れている箱からスケッチブックを取り
出して広げてみせる。

「結さんみてみて。これな、ベッドの時間割表やねん」
「はぁ。あら、日の出てる時間はほとんど因さんですね」 
「私日光というのはまったくだめなんや」 
「そりゃ私も好きじゃないけど。まあ仕方ないか、棺桶で寝ますよって」 

 割り当てはここに来た日にもう一人の結夜と話し合いで決めたものだが、
これがあっさり受け入れられたことに因は気を良くした。より正確には増長
した。

「あとな、あとな、結さんはいろんな所連れてってくれる言うてはりました」
「いろんな所?」
「カフェとかな、プールとかな、遊園地とかです」
「カフェ、はともかくとして。あなたの起きてる時間にやってるプールと遊 
園地は難しそうですけどなあ。まあわかりました。おいおい」と言って結夜 
は空いたベッドに倒れ込んだ。ほとほと疲れていてどうでもよかった。 
「約束や」
「はいはい」
「結さんもう寝てしまうの?」
「私は疲れたので少し寝るわ、おやすみなさい」 
「ほなおやすみなさい」因はうつぶせになった結夜の下からタオルケットを
引っ張り出し、頭までかけた。

時系列
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 夏。

解説
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 分岐した結夜が自宅に帰り、見知らぬ同居人と出会う。


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