[KATARIBE 29160] [HA06N] 小説『半身』後編

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Date: Mon, 12 Sep 2005 01:19:23 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29160] [HA06N] 小説『半身』後編
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年09月12日:01時19分22秒
Sub:[HA06N]小説『半身』後編:
From:久志


 久志です。
リミッター解除後編……ああ、埋まりたい。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『半身』後編
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登場キャラクター 
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 相羽尚吾(あいば・しょうご) 
     :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。ヤク避け相羽。
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0483/
 軽部真帆(かるべ・まほ) 
     :自称小市民。多少毒舌。ネズミ騒動以来相羽宅に避難。
     :http://kataribe.com/HA/06/C/0480/

嫉妬
----

 閉ざされたドアの前。
 立ち尽くしたまま、その場を離れるでもなくただ眺めている。

 声は穏やかだった。
 その立ち居振る舞いも、いたって普通だった。

 だが。
 その目の色は、なにかただ事でない何かがあった。

 ゆっくり手を伸ばして、二回ノックする。

「真帆」
「…………来るな」
 ドアの向こう、くぐもった声が聞こえる。
「なんで?」
「くるなっ」

 ドアの前にたってノブに手をかけて、ひとつ息を吸う。

「真帆、どうした?」
「なんでもないから……」

 それは嘘だろう。

 半分だ、と言った。
 どちらがいなくなっても立ち行かない。

 がちゃりとノブを回す。

「真帆?」

 部屋の中は明かりも消したままで。
 薄暗がりの中、壁にもたれかかるように真帆が座り込んでいた。その場に崩
れたようにしゃがみこんで、両手で頭を抱えたまま震えている。

「どうしたん?」
「…………」

 答えはなく小さく頭を横に振った。
 傍らにしゃがんで肩に手をのせる。

「……何が辛い?」

 唇を噛んでうつむいたまま、頭を横に振るだけで。

「真帆?」
「……違う」
「じゃあ何?」
「違うんです」

 両手で肩を掴んでこちらに向かせる。それでも俯いたまま目を合わせようと
しない。

「お前、どうしたんだ?」
「これ以上追い詰めないでくれっ」
「俺が、追い詰めてる?」
「…………」

 追い詰めている。
 何を?

 さっきまでの会話を反芻する。
 あの会話の中で、何がこいつをここまで追い詰めるのか。

「是か否かだけでも、教えて欲しい」

 自分が追い詰めているのなら、せめてその理由を知りたい。
 何が?

「……もっかい、言うよ」
「…………」
「俺は、お前にいて欲しい」

 俯いたままの真帆が、ようやくゆらりと顔をあげた。

「……あたしも、ここに居たいです」
「なら、どうして?」
「…………でも」
「何?」

 肩をつかむ手に少し力がこもった。

「相羽さんが、今度はあたしを斬る」
「…………」
「だから追い詰めないで」
「斬らないよ」
「斬る!」
「斬れないって、わかったから」
「…………違うっ」
「それでも必要だって理解したからさ」
「違うっ」
「何が?」
「友人なら、斬られない。必要でも半分でも斬られない」

 だから、と言いかけてそのまま顔を伏せた。

 ふと、止まる。

 友人ならば、斬られない。
 だが、友人でないならば?

 友人以上で、半分と言える相手で。
 それは……

 言わんとしたことを、理解する。

 友人として必要ならば、いい。
 それ以上ならば?

 自分にとって、こいつがどの位置にいるか。

 ……ああ。

 そうか。

「真帆……」

 俺にとって、こいつは。

「……斬れないよ」
「斬る」
「相羽さんはずっと斬ってきた」
「……でも。もう、できない」

 両肩を掴んだ手を引き寄せて、こちらに向かせる。

「やっと、さあ。理解したよ」
「…………」

 意外と、その言葉は抵抗なく出てきた。


「愛してる」


 するりと掴んだ肩から力が抜けて、見上げた目から涙があふれ出てきた。

「……斬られるって……思ってた」
「斬れないよ」

 指先で頬をなでて、抱き寄せる。

「……これ以上は、近づいたら斬られるって」
「不信に思わせてた原因、俺だから」
「怒らない……?」
「言ったっしょ、俺が必要だって」
「だって、おネエちゃんは斬る人だから」
「お前は、半分だから」
「でも……言ったら、斬られると思った」
「できないよ」

「……言えなかったことって、何?」

 一瞬、腕の中で身体が震えた。

「…………愛してます」
「ありがとう」

 くしゃっとかき回すように髪を撫でて。
 腕の中で袖をきつく掴んだまま、真帆が小さく笑った。

「…………千夏さんに、殺されるなあ……」
「……手、出させないよ」
「殺されて当然」
「お前殺されたら……俺人間辞めてるね」

 上嶋にも、他の誰にも誰にも。

「絶対に、手ださせない」
「……お願いして、いい?」

 こつん、と胸に額をつけて。

「…………護ってね」
「護るよ……約束する」
「流石にちょっと……今、あたし勝てないから」
「絶対に」
「でも、死にたくないから」
「おネエちゃんにも、俺のこと狙ってくる輩にも、指一本触れさせない」
「……いいよね?」
「ん?」
「千夏さんが死ねって言っても、死ななくて良いよね?」
「死なせないよ」
「千夏さんが正しくても?」
「俺にとっては、お前のほうが正しいんだよ」
「…………お願い」
「わかった」
「……死にたく、無いから」
「お前さん言ったね、俺が死んだら自分も生きてると思うなって」
「……うん」
「俺もね、お前が死んだら修羅になるしかないから」

 こいつがいなくなったら。

「人間やめたくないんでね」
「……やめさせない」

 ほ……っと、小さくため息をついて。
 そのまま、腕の中の身体が崩れ落ちた。

「……真帆?」

 返事の代わりに、小さな寝息。
 前髪を払って、額に唇を寄せる。

「……おやすみ」


時系列と舞台
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 2005年8月下旬。小説『伝言(改訂版)』の後日。
解説
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 やっと自分の中の答えを出した相羽。リミッター解除
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以上。



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