[KATARIBE 29145] [HA06N] 小説『 Masquerade 』

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Date: Mon, 5 Sep 2005 21:56:50 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29145] [HA06N] 小説『 Masquerade 』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年09月05日:21時56分50秒
Sub:[HA06N]小説『Masquerade』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@へろり です。
話を一日一つ……ですな(へろへろ)
えっと、流しますー
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小説『Masquerade』
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 登場人物
 --------
  軽部真帆(かるべ・まほ) 
      :自称小市民。多少毒舌。ネズミ騒動以来相羽宅に避難。
  赤&青ベタ
      :ベタの姿のあやかし。ぷくぱたと宙を飛ぶ。怖がりであまえっこ。
  相羽尚吾(あいば・しょうご) 
      :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。 

本文
----

 昔、こんな話を聴いたことがある。

 あるとこに、二人の息子の親がいた。
 上の息子は神童と呼ばれるような子であったが、下の息子は愚鈍と評された。
 でも、親は両方とも、等しくかわいがった。
 理由を聞かれて、親は答えた。
 「上の子は、その才を愛します。でも、下の子は、その存在を愛します」 

 つまり、人が愛されるのに、理由なんて無いって、教えてくれた人はそうい
う意味で話してくれたのだ、とは思うけど。

 当時中学か高校生。一番ひねくれていた頃のあたしは思ったものだ。

 上の子がもしも、二十歳過ぎて唯の人になったら、親は愛さなくなるのか?

 いや、愛さなくなることは流石に無いだろう。無くなった才の代わりに、そ
の存在をやはり愛するのだろう。
 でも。
 でも、親であっても人であるなら。
 期待を裏切ったと罵らないか。
 今ままでその才にかけてきた愛情を踏み潰された、と、怒らないか。


          **


 ただいま、と言ってドアを開けたら、すっ飛んできたのはベタ達だった。
「待っててくれた?」
 ぷくー。ぱたたた。
 ヒレが千切れそうなくらいにぱたぱたと大きく振って。

 彼等なら、あたしがどこに堕ちようとも、こうやって迎えてくれそうな気が
する。
 どれほど愚かな真似をしても。
 どれほど情けない姿を晒しても。

 ……だから、お帰りなさいと迎えられても、怖くないのかもしれない。


 鞄を部屋に放り込んで、お土産の包みだけ持って台所に戻る。
「……お菓子買ってきたから、一緒に食べよっか」
 宙返りする勢いで、ぱたぱたと跳ね回るベタ達の。
 赤と青と。

 お湯を沸かして、お茶を淹れて。
 お皿に出したお菓子を、ベタ達がつくつくつつくのを見て、ほっと息を吐く。

『……まあ、帰っておいでよ』

 何時の間にかここが、帰ってくる場所になっているのだと、思う。
 思うと同時に……怖くなる。

 

 五年前、確かに一度、自分は斬り払われた。
 否、斬り払われたと認識した。

『上の子に才が無くなっても親は必ず愛し続けるものだよ』
 確かにそうなのだとは、思う。
 ただ、同時に……そのことをどれだけ子供が知っているかは、わからない。

 死んでしまえ、と言われたこともあの時の自分には衝撃だったけれども。
 後から『どうしてそれを本当に死ねという意味に取るか』と言われたことの
ほうが驚きだったから。
 この人がどうして、義よりも子供を優先するのか。
 この人なら何があっても、子供より義を優先するに決まっているではないか。

 あのとき。
 この人はまた、自分が元気になったら同じ難題を突き付けるだろうと思った。
 本当にあたしが死ぬまで、追い詰め続けるだろうと思った。
 ……絶対の善意と愛情の上に。


 相羽さんはここに居ていいと言う。
 
『期待になんか答えなくていいし、負担に思わせるような期待なんかしない、
何かできるできない関係ない……居ればいい』

 多分その言葉一つで、あたしはここに居るのだと思う。
 その言葉を疑ってはいない。

 …………だけれども。



 ふと気が付くと、ベタ達が揃ってこちらを見てた。
 お皿の上のお菓子。ベタ用に出した分は既につくつくに突っつかれて、相当
に崩壊している。自分用に出した分に、どうやら二匹は突進して……そして、
ちっともこちらが反応しないから、不安になったらしい。

「あんたらねー」

 フォークの先でちょん、と突付くと、二匹はひょん、と跳ね上がった。
 
「怒られるって知っててやってるでしょ」

 二匹は顔を見合わせてから、ぷい、と明後日の方向を向いた。

「……んで、人が、こらって言うの、楽しみにしてるでしょっ」

 そこ。あっちゃ向いたままくるくる廻らない。



 元気になったね、と、言われたのだ。
 一月の頃から、かなり元気になったね、と。
 そういえば、親戚一同が集まるのは年に二度、新年とお盆の頃だ。特にうち
の兄弟三人とも吹利に住んでるのに対して、他の親戚は関東に居る。だから滅
多に他の親戚に会うことも無くて。
 この一月から、そう言えばこの叔母には会ってなかったんだっけ。

『だいぶ明るくなったね』
『そうかな……』
『自分じゃわからないらしいのかな』
『かもしれない』

 六華に出会って、約二ヶ月一緒に暮らして。
 彼女の繋がりから友人がころころ出来て。
 今はここに居る。

 
 そう言いたかった。
 でも言えないと思った。

 ……そのことが、とても怖かった。



 片目を閉じる。
 外界に通じる目を閉じる。

 第三者の立場から判断すれば、己の現在は噴飯モノに相違無い。
 否……またあたしは、あの人達を裏切っているのかもしれない。

 これ以上誰にも迷惑をかけたくなかったから、友人も作るまいと思った。人
と付き合うこともよそうと思った。引越して5年間の不義理を続ければ、大概
の友人は離れてゆく。
 そのほうが良いと思った。最後までそうやってゆこうと思った。

 ……でも自分は今現に、ここに居る。



『だいぶ明るくなったね』
『元気になったね』


 その言葉に、振り返ったあの人の。


『姉さんもそう思う?』

 とても嬉しそうな顔の。

(もう大丈夫ね)
(もう、困ることはないわね)
(今度こそ)
(今度こそお前の我侭が)
(今度こそお前の我侭を通して済むとは思うな)

 ……次は、大丈夫ね。
 五年前、その言葉を聞いて、一年間。
 あの人とは一言たりと言葉を交わさなかった。
 
 元気になれば殺される。笑えるようになれば死ぬまで追い詰められる。

 絶対の善意と愛情でもって。


         **

 かたかたと鍵の廻る音。
「あ、おかえり」
 って……えらい早いな。まだ外が明るいってのに。
「あれ、帰ってたの」
「うん、さっき」
 っていかん、御飯の用意なんもしてない。
「ごめん、御飯の用意今からになるっ」
 油断した。この時間に帰ってくるとは(って油断って何なんだろう)。

「そんじゃ、味噌路いこか」
「……あ、それでいい?」
「たまにはいいでしょ」
「こっちは助かる」

 ……とと。
 つん、と、髪の毛を引っ張られる。振り返るとベタ達がえらい恨めしそうな
目をしてこちらを見てる。

「……だって、連れてくわけにもいかないし」

 ぢたぢたぢた。
 
「鞄の中に入ってても、あんたたち出てくるでしょ?」

 ぢたぢたぢたぢたぢた…………た。

「…………あんたらってば」

 魚の丸い目に、こぼれない筈の涙をためて、ぢっと二匹してこちら見てるし。
 ……なんかもう……いいや、見つかったら気のせいですで押し通してやる。

「……約束。じゃ、鞄から出てこないわね?」
 ぷくー。ぱたたたたっ。
 実に当てにならない返事である。
「いこか?」
「ちょい待って」

 大き目の鞄を一度空にして、二匹を放り込む。

「いこ」


 相羽さんの後をついて、玄関を出て。
 一日留守にした間の話を、歩きながら聞いて。

 楽しい、というか……気楽なんだろうと思う。
 このまんまでいいと思う。本当に、このまんまで。

 (元気になれば殺される)
 (笑えるようになれば死ぬまで追い詰められる)

「……相羽さん」
「ん、なに」

 ……それでもまだ、そこまでは追い詰められていないから。

「…………なんでもない」

 
 
時系列
------
 2005年8月下旬。
 
解説
----
 実家から戻った真帆の風景です。

*****************************************  
 てなわけで。
 ではでは。
 
 


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