[KATARIBE 29143] [HA06N] 小説『怪談の本領』

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Date: Sun, 4 Sep 2005 23:14:48 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29143] [HA06N] 小説『怪談の本領』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200509041414.XAA70176@www.mahoroba.ne.jp>
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2005年09月04日:23時14分48秒
Sub:[HA06N]小説『怪談の本領』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーる@一日一作 です。
また、書いてます。
読んでる人がうんざりするか、こちらが勝つか。
勝負はどっちだ!<やめれって。

とりあえず、べたずと先輩お借りしました>ひさしゃん

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小説『怪談の本領』
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 登場人物
 --------
  軽部真帆(かるべ・まほ) 
      :自称小市民。多少毒舌。ネズミ騒動以来相羽宅に避難。
  赤&青ベタ
      :ベタの姿のあやかし。ぷくぱたと宙を飛ぶ。怖がりであまえっこ。
  相羽尚吾(あいば・しょうご) 
      :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。 

本文
----

 きゃーきゃー怖がってくれる相手に話してこその怪談……って。
 それは確かに本当なんだなあ、と、実感することしきりでは、ある。

          **

「こんな夢を見た」

 今日は遅くなるから、軽い御飯頼むわ、と言われたのが今朝のこと。
 現在既に十一時を廻っている。

「六つになる子供を負ってる。たしかに自分の子である。ただ不思議な事には
いつの間にか眼が潰れて、青坊主になっている」

 食卓の上に食事の用意だけしておいて、本を広げる。
 ベタ達は本の向こう、すぐ側に、ちん、と、二匹並んでいる。

「自分が御前の眼はいつ潰れたのかいと聞くと、なに昔からさと答えた」

 ちょっとだけおどろおどろしい声で、読んでみる。
 無論電気はちゃんと付いている。それでなくては、とてもとても、この二匹
に向って怪談めいた話は読めない。
 無論……夏目漱石の『夢十夜』が怪談かと言われれば、かーなり文句が来る
ような気もしないではないけど。
 でも、第三夜については、案外賛成される気もする。怪談って言っても。

「自分は我子ながら少し怖くなった。こんなものを背負っていては、この先ど
うなるか分らない。どこか打遣ゃる所はなかろうかと向うを見ると闇の中に大
きな森が見えた」

 一息に読む。小さな声でとととと、と読むと、ベタ達もととと、と、身を乗
り出してくる。

「『負ぶって貰ってすまないが、どうも人に馬鹿にされていけない。
親にまで馬鹿にされるからいけない』
 何だか厭になった。早く森へ行って捨ててしまおうと思って急いだ」

 青ベタが、赤ベタにぺたっとひっついてきた。赤ベタがちょっとむっとした
ような顔になって……でもすぐに同じくぺたっとひっつきかえしてる。
 ……いや、笑っちゃいかん笑っちゃ。

「『御父さん、その杉の根の処だったね』
 『うん、そうだ』と思わず答えてしまった」

 子供を背負った父親が、夜道を歩いてゆく場面。どんどんと得体の知れなく
なる子供との、やりとり。
 子供の声を出来るだけ軽く、父親の声を焦ったように読んでみる。
 できるだけ。

「『文化五年辰年だろう』なるほど文化五年辰年らしく思われた」

 ふっと、一瞬声を矯めて、ベタ達を真正面から見て。

「『御前がおれを殺したのは今からちょうど百年前だね』」 


 三秒ほどの、沈黙。
 そして。

 ………………ころぱたん。

 二匹のベタは、それぞれ別方向に引っくり返った。

         **

「……何をいじめてんの」
「いや、いじめてはないけどさ」

 結果。
 引っくり返ってふるふるしてたベタ達は、相羽さんの「ただいま」の声と同
時に玄関に突進した。にわか雨で濡れた上着にぺたっと貼り付いてふるふる震
えている図というのは、本人達には深刻なんだろうけど。

「単に、夢十夜、読んだだけな…………」

 いかん、語尾が笑いになってしまう。
 着替えるから、と、押しやられたベタ達が、恨めしそうな目になってこちら
を見た。

「そんなに面白いもん?」
「んーと」
 ここで面白い、とか言ったら、ベタ達相当すねそうだし、怪談読んでも聞い
てくれなくなりそうだし……って、あ。

「えっとですね」
 相羽さんから離されたベタ達は、それでもこちらに寄ってきて、首の左右に
張り付いて、ふるふるしてる。それをそっと撫でながら。

「相羽さんが豆柴君を、おネエちゃん達の群れに放り込むのと同じようなもん
かな?」

 数拍の、沈黙。

「……なるほど、ね」

 ……やっぱり納得するし。


 おネエちゃんの中に放り込んだら、悲鳴をあげて、それでも相羽さんに助け
を求めそうな豆柴君と。
 怪談聞いたら、引っくり返るほど怖がって、それでもあたしのとこに飛んで
くるベタ達と。

 悪趣味、かもしれないけど。
 ……やっぱかわいい、んだよなあ……


 なんて思いながら、御飯の用意をする。
 暖めた豆腐をお碗に取り上げながら、ちょっと下を見た。

 何となく恨めしげな目の赤ベタが、こちらを見上げていた。


時系列
------
 2005年8月

解説
----
 怖がりベタずと怪談。
 これくらい怖がってくれるなら、漱石も草葉の陰で喜ぶんでは(笑)。
なお、夢十夜の部分は、青空文庫を引用しました。

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 てなもんで。
 ではでは。
 


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