[KATARIBE 29136] [HA06N] 小説『陣中見舞いとお中元』

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Date: Sat, 3 Sep 2005 23:28:37 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29136] [HA06N] 小説『陣中見舞いとお中元』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年09月03日:23時28分36秒
Sub:[HA06N]小説『陣中見舞いとお中元』:
From:いー・あーる


どーも、いー・あーる@莫迦です
また、書いてます(滅)
先日出てきたキャラチャットを、加工しました。
チェックお願いします>ねこやさん、ちたさん、きしとさん。

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小説『陣中見舞いとお中元』
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 登場人物
 --------
  六華(りっか)
   :冬女。現在自立を目指して佐上雑貨店でバイト中
  豊川火狐(とよかわ・かのこ)
   :きつねまわしの女の子。桜木達大の姪。元気な小学生。
  中・ホワイト(あたる・−)
   :顔色の悪い小学生。夏の暑さは相当に苦手らしい。里見マンション在住。
  佐上氷我利(さかみ・ひがり)
   :佐上雑貨店の店員、というか実質店長。佐上家倉庫の道具達の『父』。

本文
----

 吹利、佐上雑貨店。
 流行っているのかいないのか多少微妙な店の前で、小学生くらいの女の子が
二人、立ち止まっている。

「ここかー、六華ちゃんの仕事場」

 赤みがかった長い髪を二つに分けて結んだ少女が、硝子戸から中を覗く。
 隣の灰色の髪の少女は、黙って横に立っている。

「んー」

 硝子戸の奥は多少薄暗いが、それでもレジの前に居るのが長い髪の女性であ
ることがわかる。丁度彼女はレジを打っているところのようだった。

「……はい、消費税込みで1895円です」
「はい」
 客からお金を受け取り、にっこり笑って釣りとレシートを渡す。
「有難うございました」
「どうも」

 出て行ったお客の開けた、硝子戸から。

「あー、六華ちゃんだー」
「……あら?」
 とてとて、と入ってきた女の子達を見て、レジの前の女性は目を丸くした。
「火狐ちゃんと……あたるちゃん?」

 
 佐上雑貨店の裏には倉庫がある。否、収入の多寡から行くと、『倉庫の前に
雑貨店がある』となるのかもしれないが。
 ……とりあえず。
(またお前か、おとなしく倉庫に戻ってろっ)
 店内巡回中に倉庫からの脱走者を発見した氷我利は、声に出さずに呟く。
 店の『表の』作業については、六華がほぼ飲み込んだので、氷我利は主に倉
庫内のモノ達を相手にすることになる。
(全く、油断も隙もない……)
 店の棚の奥の奥。レジから一番離れたところで舌打ちをしていた氷我利は、
それでも少女の声にひょいと頭を上げた。


「こんにちは」
 いつも感情豊かな声を、ことさら淡々と抑えるようにして。
「えっと──」
 記憶を確認するように、少しだけ視線を泳がせて。
「お元気ですかー。そろそろ寂しくなってきたので、かえってきてくれたらう
れしいなー」
「……?」
「──そう言えと言われた」
 ぼそっと、火狐が付け加えた一言に、隣のあたるがやはりぼそっと。
「そう。そう言えと言われた」
 言って、火狐を見る。
「ねーっ」
 にこにこ、と、笑って火狐があたるを見る。
 ようやく六華は頷いて苦笑した。
「……あ、なるほど」
 火狐にしては妙に淡々とした喋り方だと思ったが、どうやらあたるの真似を
していたらしい。

「でもね、ホントに達っちゃん元気ないのー」
「…………」
 少し困ったように眉根を寄せて、六華は苦笑した。

 達大のところを飛び出してから、もう2ヶ月近くなろうとしている。
 割とすぐにこのバイトが見つかり、多少なりと生活費を美絵子に渡せるよう
になって、ほんの少しだけ気が楽になったのは確かだけれども。
 それでもやはり……常に重く沈むように。
 達大のことは、気にかかっている。

「元気、無い……って?」
 苦笑しながら尋ねた言葉に、あたるが答えた。
「壁をたたく。うるさい」
「あら」
 同じマンションの住民の言葉に、火狐が付け加える。
「あとね、一人でいると、ぼけーっとしてることがおおくなったの。年かなー」
「年って……そんなに歳なわけじゃないと思うけど」
 実際に生きてきた年齢だけを考えると、自分の年齢は達大のそれを遥かに超
すのだ。
 (やっていることがどれだけ子供じみていても)
 少し俯いた六華を見ながら、火狐が言葉を重ねる。
「いっしょにご飯食べるくらいしてあげたらー? あのときの達っちゃん、とぉっ
てもみっともなかったから怒ってるのも仕方ないけど」
「桜木さんの事は、よくわからない」
 火狐の言葉が途切れたところで、あたるがまた淡々と話す。
「桜木さんのところにいた人の事は、皆いちように気にかけている」
「あー、それもあるけどー」
「そういう人だね」
 ちょっと不本意そうに呟いた火狐に、やはり苦笑して六華は頷いた。

 飛び出したきっかけも、ネズミのことだった。
 住み分けることは出来る筈、別に追い出すことはない……と。
 一様に、気にかける。そういう人である。


 ふと気が付くと、レジの横に氷我利が居た。
 すみません、と言う前に、するっとレジに入る。
 交代するよ、ということらしい。
 
 一礼して、六華はレジの前に出て……火狐を手招きした。
「?」
 とことこ、と、近寄っていった火狐の頭を、六華はそっとなでた。
「……火狐ちゃん、いい子ね」
「わたしは良い子じゃないけどなー」
「こうやって、言いに来てくれるんだもの。わざわざここまで」
 何度も撫でる。
 細く柔らかい髪が、指の間を滑る。
「えへへ。あたるちゃんもー」
「ほんとに……ありがとう、一緒に来てくれて」
 火狐の隣に立ったままのあたるの頭を、そっと撫でる。
 灰色の髪の毛は、やはり柔らかな手触りだった。

 ふと、あたるが手を伸ばして、六華の手首を掴んだ。

「帰るか」
「あ、ちょっと待って」

 つれて帰れば目的は達成。
 割と分かり易く、ある意味非常に正しいあたるの行動である。

「あ、帰る前に……暑かったでしょ、ジュースかなにか飲む?」
 買いますから、良いですか?と、目でレジの前の氷我利に尋ねる。
 店長は無言で頷いた。

「あー、のむーっ。あたるちゃんものむよねっ」
「じゃ……どれがいい?」
「ピーチネクターっ」
「はい」

 取り出そう、として六華は少しだけ手を止める。

「缶を貰う」
 六華の手首を掴んだまま、あたるがぽつりと言う。
「…………缶??」
 とりあえず、ピーチネクターを二本取り出しながら、六華が訊き返す。返事
はやはり、非常に端的ではあった。
「このまま連れて行く」
「……はい?」
 まばたいた六華のほうを、困った顔になった火狐が見上げる。
「えっとー」
「まだ、仕事中だし……ちょっと、無理」
 そっと、あたるの手に手を重ねて、ゆっくりと手を離させる。
「むにー」
「抵抗された」
「しかたないねー」
 それでもやっぱり多少がっかり、と、火狐の顔にある。
 六華は……苦笑した。
「……ごめんなさいね」

 我侭である、と、自分でも判っている。
 それでも、なお。

「あのね、これ、達っちゃんから六華ちゃんにお中元だって」
「へ?」
 手渡されたジュースのプルタブを引っ張りあけて、あたるがジュースを飲み
だしている。後生大事に抱えていた紙袋を手渡すと、火狐のほうも少し安心し
たような顔になって、ジュースの缶に口をつけた。
「……なんだろ」

 かさこそ、と、袋を開く。
 中には七分丈の袖の夏用のカーディガンとメモ紙が一枚。

「…………?」

 いかにも、普段は手書きで文字を書かない人が、久しぶりに書くような文字。
 それが並んで、伝言となって。

『落ち着いたらでいいから、帰ってきてくれたらうれしいです。あと、たまに
は食事くらいしませんか? 達大』

「おいしーねーっ」
「おいしい」
 少女達のそんな声を、どこか遠くに聞きながら。
 一瞬。
 くしゃっと六華の表情が歪んだ。
 泣きそうな顔に……そしてすぐ、苦笑へと、その表情は変わった。

「─あれ。達っちゃんのプレゼント、キライ?」
「……ううん、本当に有難うございますって、伝えてくれる?」
「むにーっ」
「わかった。皆に伝える」
「お願いします」

 ぺこ、と、六華はあたるに頭をさげた。

「じゃ、かえろっか」
「あ……」
「じゃ、六華ちゃんまたねーっ」
 ぶんぶんっ、と元気よく腕を振りながら火狐は硝子戸を元気よく開けて出て
ゆく。
「おじゃましました」
 その後ろを、よろよろとあたるがついてゆく。
「……うん、また来てね」
 硝子戸から乗り出して、手を振る。
 火狐が気が付いて、ぱたぱたと手を振った。

 火狐もあたるも、ほんとうにすぐ近くに居て。
 幾らでも顔を合わせられる、筈なのに。

 けれども、これだけ手を振っても追いつかないほどに。
 彼等は、遠い。


 きつい日差しの中で、小さな影が遠くなってから、六華は店の中に戻った。
 財布を引っ張り出して、レジの前に向う。

「ジュース二本、お願いします」
「まぁまぁ、2本くらい良いですよ」
「あ、いえ、何か申し訳無いですから……」
「気にしない、気にしない」
 苦笑する氷我利に、六華はぺこりと頭を下げた。
「……有難うございます」

 何度も謝った、と思う。
 何度も、繰り返し謝った、と思う。

 でも、有難うございます、と、自分は何度言ったろうか。
 どれほどの恩があり、どれほどの迷惑をかけていたか。
 迷惑に、ごめんなさい、と、謝ることはした。
 ……迷惑に、ありがとう、と、礼を言うことをしていたろうか。

「あ……レジ、有難うございました」
「ああ、はい」

 場所を交代して。ふと、気が付く。
 棚と棚の間、目立たない所に、小さな子供が。

「…………ね」
 何かを、小さく呟いたような気がした。
 内容は、でも、判らなかった。


 蝉時雨は硝子戸の向こうからも、倉庫のある裏手からもかますびしく響く。
 氷我利はまた店内を巡回しだす。
 六華はレジの前で、一つ息を吐く。

 まだ……日は長い。


時系列
------
 2005年8月。

解説
----
 達大の家を飛び出した六華の仕事場に、火狐達がやってくる。
 夏休みの風景の一つ。

***********************************************
てなもんで。
ではでは。
 


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