[KATARIBE 29103] [LG02N] 小説『 Soul whispers 』

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Date: Thu, 25 Aug 2005 21:24:42 +0900 (JST)
From: 久志  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29103] [LG02N] 小説『 Soul whispers 』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年08月25日:21時24分41秒
Sub:[LG02N]小説『Soul whispers』:
From:久志


 久志です。

 地球伝承の小説。トラッカー&タグ回収業のゼルのお話です。
三人称ってムヅイネー

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
小説『Soul whispers』
=====================

登場キャラクター 
---------------- 
 ゼバルト・カール・フォルクラート
     :通称ゼル。辺境トラッカー、タグ回収も請け負っている。
     :元軍人。過去に恋人を事故で失った。
 ステラ・カイトス
     :ゼルの所有する輸送艦ステラ・カイトスのAI
     :かつてゼルの恋人の名前。

囁き
----

『ささやきが聞こえるのよ』

 白い指先が淡く発光するモニタの表面を撫でる。折れそうな程にほっそりし
た手が、モニタの光で透けるように光っている。

『ささやき?』

 ゼルは手にしたグラスを小さく揺らして、もたれかかるようにモニタを眺め
ているステラを見た。
 黒い薄布で作られた肌も露な黒いスリップドレス姿は、若い娘にはない成熟
した流れるようなしとやかさを感じさせる。影を落とした長いまつげの下、吸
い込まれそうな程に深いダークブルーの瞳は、光の加減で幾通りにきらきらと
光ってその奥にもうひとつの宇宙を作りだし、すらりと伸びた首から肩にのび
た滑らかな曲線に黒い巻き毛が落ちかかり、淡い光が照らしている。

『水に石を投げると、波紋が広がっていくでしょう? それと同じなの。
 波紋が広がるように、響いていくの』

『生命が危機に瀕したとき、死の恐怖を感じたとき。
 その本人すら意識せずとも、叫ぶのよ』

『魂が――恐怖の叫びをあげるの。
 たとえそれがどんなに遠くでも。
 どれほど小さな命でも、その叫びは等しく響き渡る』

『それを、私のようにささやきとして聴き取るか。
 あなたのように錘を揺らす力として感じ取るか。
 きっと私とあなたとの違いはそんなものだと思うわ』

『魂の声、か』

『ええ。
 そして、あなたが幸運の響きを無意識に感じ取って引き寄せるように。
 魂のささやきも、また感じ取る者をひきつけるのよ』

『存在を知る者を引き付ける、か。
 なるほど……興味深い』

 モニタをなぞるステラの手を掴んで引き寄せる。少しでも強く握ったら折れ
てしまいそうなほどに、細いたおやかな手。そのまま手を頬に当てる。吸いつ
くような冷たい肌が心地よい。引き寄せたステラの黒い髪を梳いて、ゼルは船
室の窓の外を見つめる。
 暗い闇の向こう。
 ステラの瞳と同じ、ちかちかと瞬く星が輝いている。

 魂の叫び。

 波紋のように。
 どこまでも。

 恐怖に怯える声が。
 今も、どこかで響いているのだろうか。


叫び
----

 人口鼓膜を振るわせる、音。

 輸送艦ステラ・カイトス号。運び屋、ゼバルト・カール・フォルクラートの
所有する船であり、つい数日前に請け負った輸送任務を終え、仕事での拠点に
している星間ステーション三角鳥居に向けて帰還する途中でのことだった。

 ひと時の淡い夢から引き戻す電子音で、ゼルは目を覚ます。
 すぐさま、直結した集音・音響制御システムが起動、音源は霊魂波紋探知機。
耳の奥にあるジャイロセンサーの正常動作を確認し、ほぼベッド兼用になって
いるコックピットゆっくり体を起こす。軽く眉間を指先で押さえて、数度目を
瞬かせる、人工水晶体のピントが絞られ、視界の前方にあるモニタに点滅して
いるメッセージを捉えた。

『微弱振動反応有』

 霊魂波紋探知。普通は届くことのない響きを聞き取り、もっとも急を要する
響きを知らせる、ステラ・カイトス号に積まれた特殊システム。
 しかし、もっぱらこの機能は救助よりもタグ回収を行う時に有効に使われる。
 断末魔の悲鳴を聞いた時には、もう助けは間に合わないのだから。

「ステラ、状況を確認」
『了解』

 輸送船ステラ・カイトス中央部に設置されているコア・キューブ(中央統制
思念装置)とゼル自身の脳を直結、霊魂波紋探知機が捉えた波紋の分析結果と
方向と波の強さから発振位置を割り出し、ノイズや不備情報を丁寧に取り除き、
精度を高めたうえで結果をモニタに出力する。

『振動発振位置特定しました』
「よし」

 特定した場所は現在地からそれほど遠くはない。

「サテライト射出。アナライザー1から3、プロテクション4から6。発振位
置に先行し、周辺状況を把握せよ。残りはプロテクション状態で待機」
『了解』

 コア・キューブ統制下の元、ステラ船体の腹部に設置された射出口が開き、
十二体の小型衛星が宇宙空間に飛び出す。
 発振位置へ向かう六対のうち、サテライト1から3はプロテクション(周囲
警戒)モードで目の代わりとして、広域レーダーで特定空域周辺の警戒および
敵性反応をサーチ。サテライト4から6はアナライザー(分析モード)モード
でプロテクションが得た情報と空域状態から状況分析および原因究明。収集し
た情報は全てコアとゼル本体にリンク、危険と判断した場合は即座にステラに
退避指示を出すようにセット。
 先行するサテライト達を見送って、軽く目をつぶる。
 視界が切り替わり、目前に一面に闇の空間が広がる。
 程なく、プロテクションを介して周辺調査情報と広域レーダーの反応、アナ
ライザーがはじき出した分析結果と予想が流れ込んでくる。

 そして、切り替わる視界。
 目の前に見えるのは、宙空に浮かぶ大小ばらばらの残骸。

「船体部品の様子からして辺境巡回の小型輸送船。戦闘を行った形跡は見られ
ない、賊の仕業ではない……他の船舶が航行した痕跡もなし。マシントラブル
か氷塊と接触したか……あるいは両方か」

 残骸は何も語らない。

 宇宙世紀とはいえ、いまだ辺境星系は未開の地だ。そんな地へ、採掘船や貨
物運搬あるいは移民として旅立つからには、常に万一のことを覚悟せねばなら
ない。ほんの一瞬の気の遅れと不運とで天国から地獄に突き落とされることも
当たり前のようにおこるのだ。

「プロテクション4・5、周囲探知を継続、タグのサーチと回収に回れ」
『了解』

 タグ回収。
 行方を絶った貨物運搬船や採掘船、はては失せ人まで。
 認識票から許可証、個人識別情報が記載されたタグを回収し、許可証を発行
している機関や運輸業者、個人の身内などに報告し、いくばくかの謝礼を得る。
 ゼルの本業は輸送業だが、このところ副業での収益のほうが多い。

「アナライザー1から3、レスキューにモード変更。生命反応を探れ」
『了解』
「プロテクション6はアナライザーにモード変更。情報共有し分析作業を引き
継げ、異常を感知したらすぐさま報告」
『了解』

 目を開けて、深く息を吐く。

 レスキュー1、生命感応 反応なし。
 レスキュー2、生命波紋 反応なし。
 レスキュー3、生命振動 反応なし。

 アナライザー6がはじき出した分析状況から、わずかながら生存反応が望め
そうな位置を再確認し、レスキュー達を移動。

 レスキュー1、生命感応 反応なし
 レスキュー2、生命波紋 反応なし
 レスキュー3、生命振動 微弱感知

 レスキュー3の位置を確認。残るレスキュー2体とプロテクション4を向か
わせ再感知。

 レスキュー1、生命感応 反応なし
 レスキュー2、生命波紋 微弱感知
 レスキュー3、生命振動 微弱感知

「……いた」

 プロテクション4が捉えた映像に映ったのは、表面が黒く焼けところどころ
に歪み、所々に破損箇所がみられる救命カプセル。

 レスキュー1〜3救命カプセル捕捉、破損状況と生命維持機能を確認。緊急
収容し、生命維持機能を継続実行。プロテクション4から5、レスキュー達を
警護しつつアナライザー6と合流後に帰還指示を出す。

「ステラ。生命維持装置準備、レスキュー達の捕捉した救命カプセルを回収し
次第、即蘇生作業に移れ」
『了解』

 サテライト帰還まで。
 一刻、一刻が非常に長い。

『魂が――恐怖の叫びをあげるの』

 死を目前にして。

  果たして。

    間に合うか。


 乾いた電子音と共にモニタにサテライト帰還の表示、続けて生命維持装置起
動の合図と同時に詳細情報が映し出される。
 そこに映し出されたのは、救命ポッドに収まるにはあまりに小さな体だった。

「これは……」

 生後三ヶ月も経っていない小さな人間の赤ん坊。
 小さな体を更に丸めて、じっと目を閉じている。

「ステラ、状況はどうだ」
『生命活動状況。生命感応超微弱、生命波紋微弱、生命振動微弱、全身の過半
数の体組織が壊死寸前の状態です。蘇生確率は16%』
「頚部から生体素子注入、自己修復を最大。蘇生活動を続けろ」
『了解』

 生命維持装置の中、赤ん坊はじっと目を閉じたまま動かない。その肌は既に
土気色に染まり、生気はまったく感じられない。モニタに映し出された数値の
変異と、生命活動状況を表すグラフがしぼむように下降線をたどる。
 腕組みをしたまま思考する。

 生き延びることができるだろうか。
 救命ポッドの破損具合からいって、生きながらえたのはかなり奇跡に近い。
命はかろうじてあるとして、この様子だと体の表面組織はほぼ総入れ替えに近
いだろう。おまけに肉体年齢上しょうがないだろうが、外部端子もまだないせ
いで生体素子注入に少し手間取っている。コンマ一秒を争う中で、このロスは
かなり痛い。内蔵器官は一部クローニング可能臓器以外は人工臓器と変えなけ
れば生存は厳しいかもしれない。それか地球系外の魔術再生治療ならば、ある
いは望みはあるだろうが……

『生体素子注入完了、浸透中。組織再生を続けます』

 生命状況を示すモニタの別画面に小さな人型が表示され、生体素子を示す青
い光が全身に広がる。うまくいけば、わずかに生き残った組織を見つけ、結合
し活性化させ周辺組織もあわせて再生することができるはずだ。だが、既に完
全に死に絶えてしまった箇所にはもう手の施しようが無い。

 ゼルはかつて自分が瀕死に陥ったときのことを思い浮かべた。
 実際はその当時の記憶はなく、救出してもらったタグ回収者から聞いた話で
しかないのだが。

 ――蘇生確率15%を切ったときはもう助からないと思ったさ。
 ――だがその時、丁度うちの船に有名な人工擬体技師が乗っていてね、私に
   任せろと、死にかけたアンタの意識を一時的に人工擬体に移して、大手
   術を行ったのさ。実に見事だったよ。
 ――アンタ、自分の幸運に感謝するといい。

 自分は死の淵から生き延びた。
 しかし、時折思う。
 本当に自分は幸運だったのだろうか?

 モニタに映し出された人型の図を埋めた青い光が、だんだん薄く淡い色へと
変わっていく。節々から、だんだん青から淡い青へと変わり……白い光になり、
そして徐々に暗転していく。

『生命活動状況。生命感応反応なし。生命波紋反応なし。生命振動反応なし。
体組織のほぼ大半が壊死状態。蘇生確率0.1%を切りました』

 目を閉じる。
 そう簡単に幸運の女神は笑顔を振りまいてはくれないようだ。
 一拍置いて息を吐き、目を開ける。

「生命維持作業停止せよ」
『了解、生命維持機能停止。完全に死亡を確認』

 モニタに映し出された姿を指の背でそっと撫でる。

「運がなかったな、坊や」

 モニタの表示を切り替え、回収したタグの一覧を表示させる。

「ステラ、通信開始。タグのデータを照会する」
『了解』

 通信画面を眺め、目を閉じる。
 魂のささやきはもう聞こえない。


時系列と舞台 
------------ 
 2150年 ペルセウス腕のどこか。
解説
----
 タグ回収するゼル。微弱な生存反応を感知し回収したのは。
-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-= 
以上。



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