[KATARIBE 29085] [CHN] 小説:『求道者の場合』

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Date: Tue, 23 Aug 2005 05:43:33 +0900
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Subject: [KATARIBE 29085] [CHN] 小説:『求道者の場合』
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 ぱらでぃんです。

 いつもの星呑み関連とは目先を変えて地に足のついたものを書いてみました。

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小説:『求道者の場合』
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「銀よ」
 薄れ行く意識の中、彼は師を感じる。
「それになれ」

 しかし本能に近い領域まで叩き込まれた確認癖が画面に映る船体の損傷や彼
我の距離を確認し、それと連動するように意識が無理矢理に急浮上する。
 横腹に思い切り力がかかったからか押し出された吐瀉物を吸引する音に混じ
り、母船からの通信が垂れ流されるが彼の本能はそれを不要な情報と判断する。

 師匠が動く。目前には彼の前にあるのと同じ宇宙船の装甲板。
 そのまま指をつき、上へ。
 指が離れた瞬間、それは真っ二つに割れていた。

 自動制御の光は最低限必要な生命維持機能のほかは灯っていない。通常の安
全基準なら分泌されるはずの鎮痛剤も。
「まだ、いけるか」
 画面に表示されたいくつかの事柄を確認しつつ攻撃系に繋げた滑跡装置の軟
体をほぐしながら手の無事を確認し、痛みで顔を歪ませて笑う。

 師は言った。
「氣を通わせよ」
 師は続ける。
「そして、透せ」

 止めを刺そうとしているのか、再び突撃してくる巨鯨と小舟の距離が縮まっ
ているようであるが、操縦座に警報は響かない。船は電脳の縛めを解き、その
中に座した彼のとても近くにある。
「覚えた。からなあ」
 軟体の中で指を下げると、連動して艦首の衝角が微妙に動く。
 頭から向かってきたその刹那、指を上へ。
 生体回路で構成された戦闘系が情報と共に氣を伝達し、怪物の顎ごと衝角を
跳ね上げる。

 この状態でも開いていた非常用回線が母船から送られた目標の沈黙を告げる。
「回収頼む」
 復帰させた自動制御が分泌してくる鎮痛剤の効果でそのまま眠りに落ちる。

「あがりは、これだけか」
「旦那の船修繕したらほとんど飛んできましたぜ」
 薄ぺらい封筒を見ると、嫌味そうに船長が言う。
「今回限りだ。船と金持ってどこへなりとも行ってくだせ。こちとら銛撃ち探
しで忙しいんだ」
 払いのける仕草で触手を振りながら船長は格納庫の扉を開けさせる。
「世話になった」
「あっしゃあ二度とごめんだ。この疫病神」
 罵声を背に受け、銀色の船が港の空を滑る。
「師匠」
 久しぶりに見た大気の空の色は、あの星のような橙色。
「まだまだ精進が足りぬようです」

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