[KATARIBE 29076] [HA06N] 小説『必要と役割と』

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Date: Sat, 20 Aug 2005 20:57:00 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29076] [HA06N] 小説『必要と役割と』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年08月20日:20時56分59秒
Sub:[HA06N]小説『必要と役割と』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
以前チャットした、そのログから起こしました。
……逃げる気満々です。

***********************************
小説『必要と役割と』
===================
 登場人物
 --------
  相羽尚吾(あいば・しょうご) 
      :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。 
  軽部真帆(かるべ・まほ) 
      :自称小市民。多少毒舌。ネズミ騒動以来相羽宅に避難。

本文
----

 話しながらふと思い出した。
 そういえばそもそも、会って暫くの間、相羽さんは主張していたんだっけ。
 自分はとことん自分の死を高く……それこそ組織複数とでも引き換えに、高
く売りつけてやるのだと。

 つまり、そういう風にこの人は死ぬのだ、と。
 そういえば最初から言ってたんだった。

 友人としての付き合いの初めの初めから、それはもう組み込まれた話で、そ
れこそこちらが反論をすべきことではない。

 ……そう……判っている。
 
 判っては、いるのだ。


         **

「……しかし、今日は面白かったねえ」

 くっくっくっと、喉の奥で笑いながら、相羽さんがそんなことを言う。
 白い湿布を貼った手の周りをベタ達がひらひらと飛び回っている。つくつく
と指を突付いたり、湿布を鰭で撫でたり。

「…………何かこう、隠された人間関係がやたら露わになったね」

 濃い目に淹れた緑茶と、葛饅頭。渡した途端に、ベタ達が饅頭に飛んでくる。

「ちょいまった。あんたたちのは、これ」

 水槽の中のベタ(現役、というべきか)が一日一回、餌をやれば良いだけな
のに比べて、この二匹はまた何でも良く食べる。夕御飯の時も豆腐や御飯をつ
くつく食べるが、お菓子も結構しっかり食べる。一度なんか敵と思ったのかど
うなのか、タイヤキを穴だらけにしてしまったこともある。
 葛饅頭をお皿に置いて、二つに割る。
 ベタ達は嬉々として突付いている。

「あ、思い出した」
「ん?」 
「予約しといた質問、していい?」
 右手を挙げてみせる。相羽さんは少し不思議そうにこちらを見たが、すぐ、
ああ、と、頷いた。
「そいえば、質問か」
「うん……」

 さっきの剣道の試合。
 中村さんと本宮さんの試合で、蓉子ちゃん(言われてみれば確かに自己紹介
で『中村蓉子です』と言っていたは言っていたのだけど)が『お父さん!』と
応援の声をあげて。
 そして次の試合。その中村さんとの手合わせ。
 やります、と、手を挙げた彼女の表情には……単にその年齢の女の子がお父
さんに反発している、なんて単純ではない何かがあった。

 だから。

「中村さんと、娘さんって……何かあるの?」
 何か問題が……とは流石に言うのもはばかられる。ただ、言わなかった部分
も、相羽さんは正確に読んだようだった。
「…………ああ、まあ、ね」
 湯呑みを、置いて。
「……ちょっと色々、ね」
「道理で……」

 湯呑みに手を伸ばした相羽さんが、手を引っ込める。
 何時の間にか空になっていた湯呑みに、お茶を注ぐ。
 どうも、と、呟いて……でも相羽さんは伸ばしかけた手をそのままに、口を
開いた。
 
「まあ、俺も人のこた言えないけど」
 溜息混じりに。
「ダンナは昔っから仕事ばかでね」

 中村さんという人を思い出す。
 ……判るような気がする。

「……家庭もあまり顧みずに仕事一辺倒で……だからなんとなく前から家族と
ギクシャクしては、いた」
 それもまた、判る気がする。
「……でも、それなりにすれ違いながらもなんとかやってたんだけどね」
 相羽さんの目が、少し鋭くなる。

「あの子が中学あがる前くらい、かな」
 淡々として、相羽さんは言葉を綴る。
「俺らが追ってた事件のホシの潜伏場所が割れて、捜査員二十名ばかしが駆け
つけたんだよ」
 二十名。
 捜査員や周囲の安全を考えても……やはり、かなりの人数じゃないかと思う。
ってことは。
「……その犯人ってのは余罪も多くて、相当凶悪な奴だということはわかって
た。だから、捜査員連中の意見としては拳銃を持たせて欲しいと上にかけあっ
たわけだ」
 それはそうだろう。
「……だがね、断られた」
「…………!」
「ニ三年前だったかな、どっかの事件で警官が素行不良の未成年に発砲して処
分がくだったことがあった」
 やはり淡々と、相羽さんは話し続ける。
「だからさあ、そういうのお偉いさんはぴりぴりしてたんだよ」
 ほんの少しだけ、口元を歪めて。
「……ひどい話で……みてくれにこだわったんだよ」
「…………そんな」
「もたせなけりゃ撃てないでしょ」
「そうだけど……」

 ひらひらと飛び回っていたベタ達も、今は空になった葛饅頭の皿の横にきち
んと並んでいる。鰭の先だけがそよぐように揺れているのが、何故か目につい
た。

「……そして、中村のダンナに俺も含めた連中が潜伏場所であるマンションに
向かった」
 少し苦笑して……けれどやっぱり、淡々と。
「正直ね、俺あんま覚えてないんだよ。いきなり奴が撃ってきてね、頭かすめ
てぶっ倒れてた」
「――っ?!」

 一瞬、聞き流しかける。
 だってあまりに淡々と話すから。
 こめかみの辺りが冷たくなる。視野が一瞬、砂を撒いたように霞む。

 ……撃たれた?

「……かすめただけで、たいしたこたなかったよ」
 気がつくと、相羽さんはこちらを見ていた。
 苦笑するように、口元だけを少し歪めて。
「でも、その間。銃を撃ってくる奴に捜査員連中は手をだしあぐねてた」

 無論、それで無事だったからこの人はここに居て、こういう話が出来ている。
 それは、判る。
 だけど。

 何でそんなに当たり前のように。

 ――否。
 それが当たり前である、のか……?

「……そのままだと民間に被害が出る、と」
 淡々と。よどみもせず躊躇いもせず。
 その、次の言葉を。

「中村のダンナが……身を挺して奴を止めた」

「……え?」

 相羽さんは一瞬黙って、こちらを見た。

「……って……」
「撃たれた中村のダンナは丸二日生死の間をさまよってた」
「!」

 道場での中村さんを思い出す。
 若手がもたもたしていると、周りの窓ガラスがびりびりと震えるような声で
怒鳴ってたっけ。
 強面の。そして素人のあたしですら判る見事な剣さばきの。

 ……確かに生きている、あの人が。
 かつて。

「……泣かれたよ、あの子に」
「…………うん」
「頭に包帯ぐるぐる巻きの俺の袖つかんで「お父さんは!」ってやられた」
 今度ははっきりと、苦笑を浮かべて。
「ありゃあ、痛いね」
「…………うん……」

 小柄な、可愛らしい子だった。
 大きな目の、目元が少し下がり気味で……だから見上げる目が余計に愛らし
くて。
 
「そも、しょっぱな俺が撃たれてなけりゃ、あそこまで命がけのマネをしなく
てすんだかもしれない」
「……そういう問題じゃ……っ!」
「……でも、代わりにならなくてももっと方法はあった」

 そうじゃないだろう、と、言いかけて……止める。
 多分、自分が身代わりに撃たれたほうが、楽だった……と。
 その時も思い、今も思うのだろう。
 …………理解は、出来る。

「あとほんの少しでも手当てが遅れてたら、ほんの数ミリでも弾がずれてたら
ダンナは助からなかった」
 ひどく辛そうな表情を浮かべて。
「……泣いてる奥さんと蓉子ちゃん見てさあ」
 視線を落としたまま、相羽さんはぽつりと言う。
「やりきれなかったね」
 言葉が……無い。

「凶悪犯相手に体張って命賭けて取り押さえるのは、俺らは覚悟してる」
 それでもこの人の口調は、淡々としていて。
「拳銃さえあればなんとかなったとは言わない」
 この人が淡々としている限り、あたしには怒ることも口惜しがることも、そ
の権利すら無いようで。
「けど、せめて体張ってる俺らがせめて万全を尽くせるようにと拳銃所持許可
を願ったのをそんな見た目の良し悪しを理由に蹴られたってのがね」
 ……でも。
 
「…………ごめんなさい」
「べつにお前さんがあやまることじゃないでしょ」

 多分、相羽さんは、本当にそう思っているのだろう。
 ……謝ることも、多分、あたしには出来ない。

「……あの事件の後だね、中村のダンナが家を出たのは」

「でもまあ、中村のダンナが奥さん娘さんと離れて別居したのは、あの事件が
直接の原因とは限らないだろうし」
「……でも」
「夫婦のことだ、色々あっただろうしね。けど、やっぱりそれなりに引き金に
なったんだろうけど」
「…………ごめんなさい」
「……俺らが本当にあやまって欲しいのはお前さんじゃない」
 突き放されるように。
「……そん時の本部長。まあ、卜部警部殿と同じくキャリア畑の人だよ」
「でも!」

 何故、上層部がそんな判断を下したのか。 
 素行不良の未成年を撃った警官が、処分されたのはどうしてか。
 原因は。

「事件の後、一言の謝罪も非も認めず警察庁へ戻ってったよ」
 流石にはっきりと、蔑むような色が声に含まれる。
「逃げるように、ねえ」
「……何でっ……」

 逃げてどうなるもんじゃないだろう、とか。
 逃げることが出来ることと思ってるのか、とか。
 言葉にすれば陳腐すぎる、けれども。
 だけど。


「……卜部警部殿がさあ、なんで未だに県警の課長補佐なのか、知ってる?」
「…………え?」
 唐突に訊かれて、一瞬混乱する。
 卜部警部……奈々さん。彼女の顔だけがはっきりと浮かんだ、その矢先に。

「噛み付いたんだよ、先輩であるそのキャリアの奴に」
「え」
「非を認めろって、さ」

 凛とした、時にはきつめの顔立ちの。
 けれども、しっかりと筋を通すだろう……と。

「狭い世界で、おまけに先輩に向かって」
 声が、遠い。
「……そしてそいつはそれなりのポストについてる」
「…………っ」
「自分の都合の悪い事を知っててなおかつ噛み付いてきた卜部警部殿を、許す
と思う?」

 許す。
 ……一体どの面下げて、それを言ったのか。
 その先輩とやら。

「…………俺らはそれで黙ったよ」

 やりきれない、と、咄嗟に思った。
 ……思うことが、僭越であるとも……思った。

「警部殿が出世街道蹴飛ばしてでも一矢報いてくれたんだ、それ以上は俺らは
言うまいよ」
「…………だけど」
「お前さんらに非はないよ」
 だけど。
「だけどあたしたちは、知らないじゃないか」
 どう言えば良いのか。どう伝えればいいのか。
 ……伝えようと思うことすら、傲慢なのか。
「知らないことは……それで、蓉子ちゃんが泣くなら」
 のうのうと、その上に胡座をかいていた自分達というものに。
「……知らなかった者にも、責任はあると思う」
 相羽さんはただ、黙ったままこちらを見ている。
「知っても、何も出来ないかもしれないけど、だからって責任が減るわけじゃ
ないだろう」
 

 留学していた頃、あるテロリストがバスの自爆を図った。
 向こうの国では、バスの運転手は皆予備役だ。ほぼ唯一の公的移動手段(危
なくて列車も地下鉄もなかなか走らせられない国だもの)の責任者、いざとな
れば身を挺してでも乗客をテロから護る。
 その時も、だから、運転手が重傷を負いながら、それでもテロリスト達をバ
スから叩き出し、乗客を逃がしたのだ。
 当時、あたし達が住んでいた家のすぐ手前の、バス通りで。

 逃げたテロリスト達は、一本先の通りで、丁度出かけようとしていた女性と
その車を強奪した。
 そして結局、検問にひっかかり……
 ……彼女を盾にして逃げようとした。

 結果。三名死亡。
 二人のテロリストと、盾にされてしまった彼女と。

 彼女の家族にしたら遣り切れない話だろう。翌日大学に行ったら、言葉の碌
に出来なかったあたしにも判るくらい、その話題をクラスの皆が話していたの
だから。
 だけど。
 だからといって、彼女を撃った……撃たざるを得なかった警官達が、そして
その上司達が処分されたとか、そういう話は無かったと思う。
 日本だったら、絶対誰かが首を飛ばされてるね。
 そう、留学生の間で話しながら……ひどく情けないと思った。
 
 
 悪いのは犯人。
 だけど、犯人を、たとえ偶然にでも下手に傷つければ、この国では大騒ぎに
なる。
 もしものことがあって非難されるかもしれないから、と、上層部が銃を持た
せなかった。そりゃその判断は間違えていたろう。
 でも、間違えさせた、その原因は。

 ……だから。

 (皆の責任は無責任)
 (そんな単語が、同時に頭の中を巡る)
 (……その無力さと情けなさと)


「……こればっかりは、俺らがしゃしゃりでることじゃないよ」
 俺ら、と、相羽さんは言う。
 本当は……しゃしゃりでる筋合いにないのは、あたしだ。
「…………そうだけど……っ」
 目蓋が熱い。
「……いい子だよ、あの子は」
「うん」
「ダンナだってさあ、本当に大事にしてるんだよ」
「……うん……」

 お手伝いします、と、ぱたぱた駆け寄ってきた姿。
 大丈夫ですか、立てますか、と、慌てて飛んで来てくれた姿。
 お父さん、と……咄嗟に叫んだ、声。
 色んな矛盾があったにしても、本当に愛されて育てられた子なのだ、と。

 ……わかるから。

 握った拳の持って行きようが無いまま、床に擦り付けた。

「しょうもない頑固者なんだよね、俺がいうこっちゃないと思うけど」
「…………うん」
 一瞬、笑いそうになる。
「相羽さん、言えないと思う」

 遣り切れない話だ。
 だけど遣り切れないと、そんなことを安穏としてたあたしがどうして言える。
 握り拳の関節を、床に擦り付ける。
 遣り切れなさを言葉に出せない、それならば痛むほうがいい。
 安穏と、何も見なかった奴に。
 何を偉そうに、言えるものか……っ

 と。
 手が、伸びて。
 拳を抑えられる。
 ことさらに力を入れているようには見えない。
 けれどもきっちりと、動きを止められている。

 屋根の上の、昼寝をしている野良猫。
 守られていることに気がつかないほど、傲慢なままの。
 ……だから。もう、何だか。
 笑うしかなくて。

「同じことやるよね、相羽さんは」
「…………」
「正しい、それ」

 会ったばかりの頃に、幾度も聞いた。二階級特進するくらいに組織巻き添え
に出来るなら、死んで構わない、と。
 無論のこと、この人達を無為に傷つけることは許されない。たかが面子、た
かが地位を失うかどうかくらいで、この人達を危険に晒すことは許してはいけ
ないと思う。

 でも。
 たとえそうであっても、この人が職務を全うしようとするならば。
 あたしには止める理由も権利も無い。
 相羽さんは、正しい。
 だから肯定すべきだ、と、思っているし判っている。
 判っているのに。


「…………今になってさあ、わかるんだよ」
 ぽつん、と。
「泣かれたくないな、って」

 その言葉が……痛くて。
 殴られるように、頭から血の気が落ちるほどに、痛くて。


 抑えられてないほうの手を握り拳にして、咄嗟に目を抑えた。
 痛いのは無論だ。泣くのは一方的にあたしの弱さだ。理は相羽さんにある、
泣かれたくないのは当たり前で。
 ……ここで泣くのは、卑怯だ。そう、判ってる。

 ふっと。
 手を掴んでいた手が離れて。
 代わりに抱き寄せられる。
 何度も、頭を撫でる手。


「……いや、正しいと、思う。思ってる」
 情けない、と、思う。
「相羽さんも正しい。中村さんも、正しい」
 この人の前で、泣く権利はあたしには無い。まして宥める手間をかけさせる
のは尚更に。
 あたしが、間違えている。それは、判っている。

「どうにもね、俺ら莫迦だから」
 それでも、そんな風に。
「仕事以外だと、とことん駄目なんだよね」
「…………でもそこで、他を全部忘れて走るから、相羽さんだよね」
 数瞬の沈黙が、あった。
「……俺は、さあ」
 ゆっくりと、そんな風に言う。
「……もう、放り出して走ること、できないから、さ」

 必要だ、と言われた。
 多分それは、今でも同じなのだろうとは思う。
 だけど、その『必要』とやらが相羽さんの走るのを邪魔してたら、それは。

「ごめんなさい」
 言ってしまってから、後悔する。謝るな、とも良く言われるんだった。
 何も出来ないのに謝るだけなら……確かに。
 謝る価値は無い。

「……だからね」
 謝るな、とは、相羽さんは言わなかった。
 でも、次の一言は……きつかった。
「その分俺のこと蹴っ飛ばしてやってよ」
 一瞬、声が出なかった。
「…………きっついな」
 
 確かに、そう言ったのはあたしのほうだ。
 だけどそれ……今、言うかな、この人はっ!

「厄介なのに関わったよね」
 苦笑混じりの声が言う。
「厄介だよっ」
「後悔してる?」
「………………っ」
 咄嗟に、自由になる手を振り上げて、下ろす。
 肩口に、拳が当たったのが判った。

「……いて」
「根性悪っ」
「きついねえ」
 やっぱり笑い混じりに、そう言ってくれるけど。

「…………約束だから、蹴っ飛ばすよ」
 言った言葉は取り消せない。約束は消えるものじゃない。
「だけど!」
 ふと、思う。
 あたしはこの人の家族じゃない。
 ならば、家族である中村さんの奥さんや蓉子ちゃんは、どう思ったことか。

「…………相羽さん、それってさ、あたしに、相羽さんが死ぬ方向に蹴っ飛ば
せってことだよ?」

 一瞬。
 そして、のろのろと息を吐く、気配と。

「……それでも、俺が走らなきゃ、さ」
「知ってる」
 必要だ、という言葉の意味。
 この人の走ることを留めるなら、あたしには必要たる価値すらない。
 ……でも。

「それでも蹴っ飛ばせって言うなら、死ぬことだけは許さない!」
 我ながら、無茶を言っているものだ……と、どこか片隅で思っている。
 それでも。
「……死なないよ」
 何でそう言い切れる。
「多分、中村さんも言ってるだろうね、自分は死なないって」
「だろうね」
 当たり前のように、あっさりと。

「信頼、してる」
 相羽さんが優秀な刑事だってことは知ってる。充分に有能なことも知ってる。
「してるけど」
 
 でも、撃たれている。
 でも、銃さえ持たされないまま、犯人の前に出ることがある。
 どれだけ有能でも、どれだけ死なないと言っていても。
 ……なのに。

「絶対、死なない。賭けてもいいよ」

 嘘つくな、と思った。何を賭けるんだ、とも思った。
 でも、嘘でも何でも。

 本当になってくれればいい、と……思った。

         **

 必要、と。
 立てなくなった時に、後ろから蹴飛ばす為に必要、と。
 ……そうであるなら、あたしはこの人が走れるようにせねばなるまい。
 望むように走ることが出来るように。
 
 何も構わず走ることが、相羽さんという人の本性であるならば、その邪魔を
しては『必要』の言葉にもとる。
 
 つよくなりたいと思う。
 遣り切れないほど何一つ出来ないのなら、せめて足を留めない程度には。
 その、程度には。


時系列
------
 2005年夏休み中。エピソード『道場へ行こう!』の直後。

解説
----
 必要であること。またその為の役割。
 とりあえず、真帆からの視点ではこうなるようです。

*******************************************

 なんかこう。
 少なくとも、真帆の視点だと、畳に短刀ぶっこんで仁義切ってる気分になるんですが。

 ではでは。

 


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