[KATARIBE 29073] 小説:『スカード・グラフティ Ep ○○一 後編』

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Date: Sat, 20 Aug 2005 11:28:44 +0900 (JST)
From: nagisame <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29073] 小説:『スカード・グラフティ Ep ○○一 後編』
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2005年08月20日:11時28分43秒
Sub:小説:『スカード・グラフティEp○○一 後編』:
From:nagisame


どうも、渚女です。
Ep○○一、これで完結です。
……短編というより中編の枚数になってきた(w
ではでは。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=

小説:『スカード・グラフティEp○○一 後編』
===========================================

登場キャラクター
-----------------
 キリオ・カワモヨ
    :自称エースパイロットなエセ侍。勇気を試される。
 アデレート・マジョリか
    :特攻乙女。通称アディ。危機に遭う。
 レディシア・ブラックウィドウ
    :元女海賊レディ・B。屈辱を味わう。
 緋炎槍
    :槍一本で宇宙を翔ける武人。力を試される。
 カレン・ホワイトリリー
    :精神感応のオペレーター。いつも冷静。
 パスティ・マッパー
    :魔法使いの航海士。意外と冷静。
 ゼバルト・カール・フォルクラート
    :元軍人の輸送業者。通称ゼル。友情出演。

3nd Mission 青年よ勇気を抱け
------------------------------
「どうしたんですか!」
 スカード・スパイダー号のメインデッキに滑り込んだキリオを、
 難しい顔の船長が出迎える。
 オペレーターや航海士、その他の者達は既に集まり、出航準備を
 整えていた。
「出航許可、出ました」
「捕捉はできてるだろうね」
「……すみません」
 うなだれるオペレーターから視線を外して、船長はキリオへと顔を向ける。
 その顔には、明らかに怒りの表情が浮かんでいた。
「何でアディを一人にしたんだィ!」
 デッキ内どころか、船内に響き渡るような大声が、キリオの耳朶を打つ。
 その意気に呑まれて、キリオは何も言い返せない。そもそも、まだ事情
 を理解していない。
 困惑するキリオの前に、エアディスプレイが浮かぶ。そこには、賞金首
 になっている海賊の顔写真がリストアップされている。データには、
 彼らが一つの海賊団を組織し、軍を壊滅させたとある。
 その一つに、キリオの目が釘付けになる。
「これ、あの時の」
 少し前の戦闘後、無様な海賊の顔が船員に流れてきたことがあった。
 キリオと後輩が戦った海賊の顔、それが、なぜかこの海賊団リストにある。
 そして、軍を壊滅させたという事実。これを後輩の素性と照らし合わせれ
 ば。
「残党狩り? いや、でも、アディは戦いには参加していないだろ」
「単に目をつける理由がそれだったってワケだ」
 大きく舌打ちした後、船長は何かを待つようにメインディスプレイへと
 目を向ける。
 そして、その時は来る。
「通信、入りました」
「出しな」
 ディスプレイに表示されたのは、野卑に笑う海賊の姿。
 心なしか、その顔には余裕が漂っている。その理由も、もう知れていた。
 ぐいっとこちらを覗き込んで、海賊はだらしない笑みを浮かべる。
『久しぶりだな女郎蜘蛛』
「もう一度出会えた事を、ゴミ溜めの神に感謝しといてやるよ」
 海賊の顔をキッと見返す船長だが、その視線はどこか弱い。
 ゲヘヘ、と嫌な笑みを浮かべた海賊から、画面が離れていく。
 映し出された映像に、キリオの頭に一気に血が昇る。
「てめえ!」
『おっと、そんなことを言っていいのかな?』
 海賊の声だけが、画面の外から聞こえる。そして、画面の中には。
 かすかに聞こえる呻き声と、無残な姿。
 見ていられなくなったキリオは、ディスプレイから顔をそむける。
「くそっ」
 悪態をついても、その状況が変わるわけではない。
 得体の知れない生命体の触手に絡め取られ、口と四肢を封じられた
 少女の姿は、キリオを責めるように揺るがない。
 ひょい、と画面に顔を出した海賊の目は、どこか虚ろだった。
『いや、いいねえ、いたいけな少女が乱れる姿ってのは』
「それが生涯最後の喜びになることを、感謝しときな」
 船長の呟きには、唸るような獣の雰囲気がある。
 前ならばそれに怯えていただろうに、人質がいるためなのか、海賊は
 動じた風もない。
 その態度が、気に触った。
「おい、てめえ!」
『ああ、俺様に失礼な態度を示さない方がいいぞ?』
 海賊が指を鳴らすと同時に、ズルリ、という嫌な音が聞こえる。
 海賊の背後、拘束された後輩の縛めが、更にきつくなる。
 詰めつけられた白い肌は赤く腫れ、服は何か分らない液体でぐっしょりと
 濡れている。
 とても、見ていられない。あの海賊に屈するしかない。
 悪態もつけずに、キリオは下を向いて唇を噛む。
『そうだ、それが賢明だ。で、女郎蜘蛛さんよ』
 海賊の顔が、醜く歪む。
 これから何が起こるのか、キリオには嫌な予感しかない。
 最初に動いたのは、船長だった。
「頼む、アディを離してやってくれ」
 深々と頭を下げた船長に、しかし海賊は首を振らない。
 たりねえなぁ、と口が動くのを見て、キリオの背筋が凍った。
『それじゃ全然誠意が足りない。そうだな……』
 海賊の表情は、考える、というより、
 前々から思いついていたことを、もったいぶって言う方に似ている。
 ぱっと顔を輝かせた海賊は、船長の姿を下卑た顔で見下ろす。
『アルケニー人ってのは、腹を見せるのが服従の印だったよな』
「……」
 怒りの声も、抗議の声も、船長の口からは出てこない。
 まさか、とキリオが目を見開く先、船長が動いた。
 体を後ろに倒し、バランスを崩す。
「姐御!」
 思わず声を上げたキリオの前で、船長は仰向けに寝転ぶ。
 黒い外骨格に覆われていない腹は、生物的に蠢いている。恐らく、誰にも
 見せたくないそれを、船長は海賊ごときに晒していた。
 そう、キリオのせいで。
『ハッハァ! 鉄の女も、腹は柔いみたいだな。その体でどんだけのオスを
 誘ったんだ?』
 臭い息がこちらに匂ってきそうな海賊の声を聞いて、そして、自分の
 あまりのふがいなさを感じて、キリオの視界がぼやける。
 噛みしめた唇からは、赤い滴が垂れようとしていた。
「……これで、許してくれるかい」
 呟く船長の声は、いつもの姐御然とした雰囲気とはうって変わって、
 弱々しく震えている。その表情も、羞恥で赤く染まり、瞳には光るものも
 見える。
『そうさなあ』
 その全てを眺めて、海賊は悩む素振りを見せる。しかしもう、海賊の
 返答は、この場にいる誰もがわかっている。
 真綿で首を絞めるような時間の後、海賊は鼻でせせら笑う。
『やっぱ止めだ。この嬢ちゃんは、俺様がじっくり味あわせてもらうぜ
 ついでに、この映像は全宇宙に流してやろう、ケケケ』
「ンの野郎ォ!」
 ディスプレイに飛び出していこうとしたキリオを押さえたのは、航海士
 の手だった。
 そして、キリオ自身も、いま何をしても意味がないことを知っている。
 しかし、どうにもやるせなかった。無力な自分が悔しかった。
 だから、吼える。
「くそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
 思いの限りに叫んだ後、ディスプレイを見れば、もう通信は切れている。
 うなだれるキリオの隣で、船長が船員に助けられて体を起こし、うつむく。
 沈黙は、いつまでも続くと思われ。

「……ククッ」

 凶鳥の鳴き声のごときその声に、キリオはピクリと身を震わす。
 横を見れば、船長の姿がある。その肩が、小刻みに震えていた。
 そして、爆発する。
「ハーハッハッハッハッ! なにがじっくり味わうだッ!」
 腹を抱えて大笑いする船長に、キリオはただ呆然とするしかない。
 そんな二人をよそに、デッキの船員たちは、めまぐるしく変わる
 コンソールの表示を読み取り、ニヤリ、と笑みを浮かべる。
「船長、敵艦の現在位置、捕捉できました」
「敵艦までの航路、割り出しましたよ」
 オペレーターと航海士の声に、キリオはきょとんとするしかない。
 その肩が、黒い腕にかき抱かれた。
「おわ?!」
 強く抱き締められ、キリオは目を白黒するしかない。
 顔を上げれば、さっきの弱腰なんのその、けろりといつもの表情を
 浮かべた船長がいる。
「あ、姐御、さっきのは?」
「ん? 阿呆、ありゃ演技にきまってんだろ」
 あっけらかんと言い放ち、船長はカラカラと笑う。その豪胆さに、キリオ
 は口をポカンとあけるしかない。
 本当に大丈夫なのか、というキリオの表情を見え、船長はケケケ、と意地
 悪く笑う。
「アタイが海賊だったことは、もっと色々されたからねェ」
「も、もっと、って」
「聞きたィ?」
 ニタリ、と笑う船長に、ふるふると首を振ってごまかす。この調子なら、
 全裸で船の指揮でもできそうだ。もっとも、外骨格に覆われた今の姿も、
 充分に裸なのだが。
 キリオが顔を赤くしている間に、船はもう宇宙空間へと飛び出している。
 この漆黒の空間の先に、あの海賊と、少女は居る。
「で、だ、キリオ」
「は、はい」
「特攻する勇気はあるかィ?」
 突然の質問に、キリオはとっさに答えられない。
 その脳裏に、助けを待つ少女の姿が映る。
 決断は、一瞬だった。
「特攻でもなんでもします! 自分の落とし前は、自分でつける!」
「その意気がありゃ充分だ、行きな」
 ぽん、と突き飛ばされた勢いのまま、キリオは格納庫へと駆け出していく。
 船長の言いたいことはわかっている。ここでコグモの編隊など作ったら、
 あの海賊は後輩を殺すだろう。それをさせないためには、この船の電子戦
 能力をフルに使って、敵に悟られずに近づく必要がある。そして、
 そのためには、大きなスカード号より、小さなコグモが適任だ。
「そして、俺のゼロは、誰よりも早い!」
 今まで、ここまで自分の愛機が頼もしく思えたことはない。
 最高の機体と、最高のバックアップ。あと必要なのは、本人の腕だけ。
 その点について、問題は。
「全くない!」
 根拠のない自信を体にみなぎらせて、キリオは走る。
 それが、少女を助けられる唯一の道だと信じて。


「コグモ・ゼロ、整備完了」
「よォし」
 船長席にどしりと構えて、船長は悠然と腕を組む。
 その顔に、青年の前では隠しとおした怒りが浮き上がってきた。
「あのガキには、少々お仕置きが必要だねェ、クククク」
「あ、あの、船長、ちょっと落ち着いた方が」
 航海士の声も、船長には聞こえていない。
 この船長が女海賊だった時代に生きていた者は、このデッキにはほとんど
 居ない。
 ただ、彼女が激怒したときは、誰も止めることはできなかったと、
 そういう伝説だけが残っている。
 航海士も、命の危険を考えて、席へと戻る。
 鋭く伸びた爪を噛みながら、船長はオペレーターへと目を向ける。
「緋炎からの連絡は?」
「未だありません」
 青年と少女を見守っていた男は、なぜか通信を途絶えている。今の状況
 から考えて、敵に倒されたとして間違いはないだろう。
 ただ、あの男がそれで終わるわけはないことは、船長がよく知っている。
 男のことは意識の外に追いやって、船長はディスプレイに表示された
 敵艦の姿を見る。
 ふつふつと湧き上がる怒りを隠そうともせず、船長は凄みを込めて
 ニヤリと笑った。
「受けた恩は、百倍にして返してやらないとねェ」
 不敵に笑う船長の声だけが、デッキ内に響く。
 決戦の時は、間近に迫っていた。


 ――フライトチェック、完了。
 ――機体の状態、完璧(オールグリーン)。飛行可能。
 脳裏に流れるメッセージを聞きながら、キリオは汗ばむ手を握り締める。
 今度の戦いは、船から降りての戦いになる。格闘戦の技術は持っている
 とはいえ、敵にはどんなものが出てくれるかわからない。
 しかし、キリオが心配しているのはそのことではない。
 もし、己の手であの少女が助けられなかったら。そうすればもう、己は
 ここに居る資格がない。
 その重圧感に、キリオは歯を食いしばって耐える。
 ふと、右手に布の感触があることを思い出す。顔を下に向ければ、後輩
 がくれたあのハンカチが、まだ手に握られている。
 なにげなく広げてみれば、意外と大きなハンカチだった。真っ白な表面
 は、どこかスクリーンに見える。
 そこに映るのは、何の映像なのだろうか。
 戦いの後、泣きじゃくっているあの少女か?
 着慣れない服を着て、はにかむあの少女か?
 そして、囚われの身で、必死に助けを待つあの少女か?
「違う」
 そう、違う。
 ここに映るべきは、この船に戻ってきて、いつものようにおどおどしている
 少女の姿だ。
 それを、キリオ・カワモヨが取り戻す。
「そう、俺が取り戻すんだ」
 ハンカチを畳み、細長い形にする。
 それを頭にしっかりと巻いて、きつく締め上げる。
 そして、言い聞かせた。
 自分は、サムライだ。
 サムライは、決して退かない。
 サムライは、決して逃げない。
「ヨッシャア!」
 気合は充分、整備も充分。これ以上望むことがあるだろうか。
 あとは、飛ぶだけだ。
 ――カタパルト移動、完了。
 ――発進準備、完了。
『発進許可が出ました』
「おう!」
 いつもとはがらりと違うキリオの声に、オペレーターがかすかに声を
 上げる。
 一瞬の沈黙の後。
『御武運を(グッドラック)』
 通信が切れると同時に、キリオの体に緊張が走る。
 しかし、それは悪いものではない。
「キリオ・カワモヨ」
 なぜなら、それは。
「コグモ・ゼロ、出る!」
 武者震いだから。

 ゴォォゥン!!

 カタパルトで加速された機体は、それ以上の勢いをもって宇宙(そら)
 へ飛び出しいく。
 ――IR出力110パーセント
 ――限界値超過。危険デス。
「うるせえ!」
 己が向かう先には、もっと危険な目にあっている少女が居る。
 それを助けるためなら、命の一つや二つ、捨ててやる。
 それが、サムライ。
 それが、大宇宙(おおぞら)のサムライだ。
「いけぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」
 急激に加速した機体のあちこちが、限界を示している。
 しかし、ここで止まるわけにはいけない。
 止まったら、サムライではない。
「限界は、超えるもんだ!」
 航路も障害も関係ない、ただ一直線に目的地へと向かう。
 ――前方、隕石群。
 ――危険(ワーニング)!
「問題ない!」
 本来の加速度に、こちらの接近スピードを加えた速度で、隕石群が
 こちらへと来襲する。
 それを迎え撃つのは、八本のカタナ。
 ――レーザーソード出力120パーセント。
 ――耐熱素材破損まで、想定時間20秒。
「その程度!」
 問題ない、関係ない。その思いこそが、力になる。
 機体に匹敵するほど伸びたレーザーソードが、閃いた。
 襲い来る隕石の一つ一つが。
 裂かれ。
 砕かれ。
 断ち切られ。
「たぁぁぁぁ!」
 その全てが、ほとんど一瞬の間に起こり、そして過ぎ去っていく。
 あっという間に隕石群を抜けた先に、その船はあった。
 ――敵艦、捕捉。
 ――衝突コースニ入リマス。
 それは、文字通りの特攻。全てをなげうって、敵のどてっ腹に突き刺さる。
 その覚悟は、もう決めた。
 だから、決して退かない。
「いけえええええええええええええええ!」
 ――IR出力200パーセント。
 ――機能停止まで想定時間30秒。
 そのメッセージは、もうキリオの耳には聞こえていない。
 ただ、壁のごとき外壁が、目の前に迫り。

 ゴッ。

 鈍い音とともに、コグモ・ゼロは敵艦に衝突した。


 意識が途切れたのは、ほんの一瞬だった。
 その一瞬の内に、キリオの頭に走馬灯のように風景が広がる。
 自分勝手な大人たちに振り回された星での生活。
 それを嫌って星を逃げ出した先にあったのは、現実という壁だった。
 ゴミクズのように捨てられた己を拾ってくれた、黒き蜘蛛姫。
 新しい生活と、どうしようもなく駄目になってしまった自分の心。
 そして、新しい出会い。
 それがすべて、一気に駆け巡って。
 もう、全てどうでもよくなった。
 目を開けたキリオの前には、半分曲がったハッチがある。
 自分が生きていることを実感する間もなく、ハッチを蹴りあける。
 地面に降り立ったキリオの心は、妙に清清しかった。
 ただ、己のなすべき使命だけが心にあり、それを為そうとする意思が
 体の隅々まで満ちている。
「これが……」
 これが、悟りなのだ。そう、心が教えてくれた。
「ギギッ!」
 その悟りを乱す存在が、現れようとしている。
 白い船内に浮かび上がるように、黒服が通路をふさいでいる。
 黒帽子の下には、どこか人工的に光る赤い目。
「ギギッ、テキ!」
 ばさり、と黒服を脱ぎ捨てた、そこには。
「キルキルキルキルキル!!」
 四本の腕それぞれにレーザーブレードを持った、漆黒のドロイドの姿
 があった。
 対するキリオの武器は、船に乗るときに装備し終わっている。
 右に三、左に三、そして、背中にニ。
 合計八本のカタナを背負ったキリオは、深々と息を吸うと、ドロイドに
 半身を向ける。その両手には、左右から抜き放ったカタナがある。
 一瞬の静寂の後。
「ギギッ!」
「フッ!」
 同時に駆け出した二人の剣が、かち合った。
 がっちりと組み合ったキリオとドロイドは、どちらも一歩も譲らない。
 そんな中、ドロイドは、疑問を示す黄色を、その眼部ランプに浮かべていた

。
「ギギ?」
 レーザーブレードは、鉄の刃など簡単に切断してしまう。
 それなのに、キリオのカタナはレーザーブレードを受け止め、更に、下
 から迫ったレーザーブレードも、カタナの鞘によって受け止められている。
 現実では、決してありえない現象、しかし。
「俺は」
 今のキリオは、キリオではなく。
「サムライだ!」
 剛力で知られたドロイドの腕が、逆にキリオに押されている。
 そのまま、膠着状態が崩れると思った直前。
「!」
 とっさに鍔迫り合いから跳びずさったキリオの肩口を、ビームが焦がす。
 壁に背を向けて顔をそちらへやれば、同じく四本の腕にビームガンを持った
 ドロイドが、こちらを狙っていた。
 ニ対一の状況に追い込まれて、キリオの明鏡止水の心がわずかに揺らぐ。
 それを待っていたかのように、二対のドロイドが動こうとし。

 ズガン!

 まるで大砲が直撃したかのような音とともに、ガンドロイドとキリオの間に
 何かが突き刺さる。
 砂埃をまき散らしたそれは、二本の足でしっかりと立つと、
 吹き出されていく空気に赤マントを揺らす。
「すまん、遅れた」
 砂埃が空気とともに吸い出され、隔壁が閉じたのか風が止むとともに、
 男は片手に手にした槍を一振りする。
 赤く染まったレイランスの穂先は、ガンドロイドをしっかりと
 捉えていた。
「緋炎槍!」
「ボン、ソードドロイドは任せた」
 言うが早いが、男は槍を構えてガンドロイドに突っ込んでいく。
 自分から的になるような真似をした男に、ガンドロイドは嬉々として
 ビームガンを放つ。

 シュバ!

 その音と共に放たれたビームは、一瞬で男に到達し。

 バシュ!

 槍の柄に当たると同時に、霧散した。
「唸るルーンは、何者をも止められない」
 くるり、と槍を回して、男はガンドロイドを睨みつける。
 それをただ眺めていたキリオは、襲いくる殺気にとっさに身を屈めた。

 ブゥン!

 頭をかすめたレーザーブレードは、そのまま壁を切り裂いていく。
 しかし、その隙だけがあれば十分だった。
「カワモヨ流八刀術」
 刃を交差させ、ソードドロイドの胴を挟み込む。
 気合、一閃。
「鍬形鋏(くわがたばさみ)!」
「ギャッ!」
 銃弾も跳ね返す強化装甲も、サムライの技の前では紙にも等しい。
 二つに分かれて落下しようとするソードドロイドを蹴り飛ばして、キリオ
 はカタナを見る。装甲を切り裂いたとはいえ、あくまでカタナはカタナ、
 刃こぼれして使い物にならない。
 カタナを投げ捨て、次のカタナを手に取る。この一本一本が、刀匠による
 銘刀なのだが、そんなことに構っている暇はない。
 走り出すキリオの頭にあるのは、ただ一つ。
「アディ、絶対に助けてやるからな!」
 目指す敵本陣まで、あと少し。


 ドアを袈裟懸けに切り裂いて、キリオはそこへ躍り出る。
 それで使い物にならなくなったカタナを投げ捨てて、キリオは腰につけた
 最後のカタナを手に取る。

 パチパチパチ。

 気の抜けた拍手の音に、キリオはキッと振り向いた。
 限界まで簡素化されたメインデッキの船長席には、海賊がふんぞり返って、
 こちらを睨みつけている。
「よくもまあ、ここまできたもんだ」
 憎憎しげに呟く海賊は、しかし、まだ余裕を失っていない。
 その理由は、すぐそばにある。
「ぅ……」
 触手に絡まれた後輩の目が、薄く開く。
 キリオを捉えた瞳は、何かを訴えかけようと揺れ動く。
 ――逃げて。
 そう、キリオの目には映った。
 だから、キリオはきっぱりと首を横に振る。
「絶対に、助けるからな」
 決意は意思となり、意思は、力となる。
 体中が熱くなるのを感じつつ、キリオは海賊へと向き直った。

 カチャリ。

「なぁにノンキに話してんだか。てめえ馬鹿だろ」
 冷笑とともに向けられたのは、大口径のビームガン。
 海賊の腕がどれほどかは分からないが、狙いをつけられた後では、回避
 はむずかしい、その上。
「てめえが避けたら、そこの嬢ちゃんの胸が凹むことになるなあ」
 海賊にとっては、こちらの絶対的有利。負ける可能性は万に一つも
 ありえない。
 キリオにとっては、どう動いても負けになる。勝てる可能性は、
 万に一つあるかないか。
 だが、キリオは決めたのだ。
「サムライとは」
 もう決して。
「死す事」
 退かないと。
「見つけたりいいいいいいいい!」
 後ろでも横でも斜めでもない。キリオは、ビームガンの狙う射線、
 その真ん中にまっすぐ突っ込んでいく。
 その距離は、駆け抜ければほんの一瞬。カタナが届く可能性も、
 ないわけではない。
 しかし、その引き金は引かれる。

 バシュン!

「があぁ!」
 放たれたビームは、キリオへと直撃し、その体を跳ね飛ばす。
 手に持ったカタナが、中空へと飛んでいった。
 床をすべったキリオは、囚われた後輩の足にぶつかってようやく動きを
 止める。
 その体からは、かすかに煙が立ち昇っていた。
「ハン! サムライはガンマンには勝てないんだよ!」
 勝ち誇った海賊は、勝利の雄叫びを上げようと胸を反らし。

 ザクッ。

「は?」
 その音に、海賊はビームガンを持った手を見る。
 無骨なビームガンに、本来あるべきではない部品がついていた。
 それは、銃身を縦に貫く鋼の刃。
 なにを、と言おうとした海賊の口から、血が溢れた。
 顔を戻した海賊は、それを見る。
「な……」
 ビームガンと同じく、海賊の胸を貫いたカタナ。
 それは、瞬く間に海賊の魂を削っていき。

 どさり。

 海賊が倒れると同時に、動く影があった。
 額から煙を出しながら、キリオは体を起こす。
「カワモヨ流八刀術、蟷螂刺(とうろうさし)……初めて成功した」
 ほっとした表情を浮かべたキリオは、少しふらつきながら立ち上がると、
 背中のカタナを抜き放つ。

 ザン!

 最初の一太刀で口の縛めを解くと、後輩は勢いよく息を吸おうとする。
「ごほっ」
「落ち着け。ちょっと待ってろ」
 急きこむ後輩を捕らえている触手を、キリオは次々と切り裂いていく。
 すべての縛めを解かれた後輩は、一歩前に進もうとし。
 そのまま、力なく倒れこんだ。
「おい!」
 とっさに抱え込んだキリオの腕に、ぞっとするほど冷たい感触が
 伝わってくる。
 温めなければ、そう思ったときには、後輩を抱きしめた後だった。
 耳元にかかる後輩の吐息だけは、まだ暖かさを保っている。
「こわ、かった、です」
「もう、大丈夫だからな」
 怖いことはもうなにもない。そう言うように、背中をさすってやる。
 腕の中で震える後輩は、とてもはかなく、弱弱しい。
 守らなくてはいけない存在。
 そう、キリオは感じた。
「もう、大丈夫だからな」
 再び囁いて、キリオはその華奢な体を離さないように抱きしめる。
 23年生きてきて、初めて出会った庇護者は、ぐずぐずと泣いていた。


「いてっ」
「動かないでください」
 顔をしかめるキリオの額に、オペレーターは治療スプレーを吹きかける。
 元海賊船だけあって、スカード・スパイダー号には治療設備が整っている。
 キリオの背後の治癒カプセルには、後輩が眠っていた。
「こら、痛くなるようにしてるだろ!」
「気のせいです。ビームガンを当てられて、この程度で済んだことを船長
 に感謝することですね」
 ピシャリ、といわれて、キリオは黙り込むしかない。
 あの時、海賊のビームはキリオの額に命中した。
 そのまま頭が吹き飛ばされなかったのは、あのハンカチのお陰だ。
 耐ビーム加工、それも強力なものが施されたそれがなければ、キリオは
 今頃ここには居なかっただろう。
 しかし、痛いものは痛い。
「ああ、くそ、痛えぞ!」
「それだけ口が動けば大丈夫ですよ」
 わめくキリオと、それをたしなめるオペレーター。
 その背後で、プシュ、と気の抜けた音がした。
 音に気づいた二人は、そちらに振り向き。
「おはよう」
「おはようございます」
 二人にみつめられ、少女は目をぱちくりとさせ。
「……おはよう、ございます」
 呟いた少女は、ニコリ、と微笑を浮かべた。


「レディ、おつかれさん」
「アタイは別に働いちゃいないよ」
 船長室に現れた友人に、船長は気のない返事を返す。
 蜘蛛型のミニマシン――CHIGUMOがグラスを用意し、船長が
 ラベルのかすれたウイスキーを注ぐ。
 友人は、テーブルにホロシートを置いてからグラスを手に取る。
 手配書に記された海賊の内、二つに“END”の表示がされていた。
「“メカニクル・ブラザーズ”と“プアガンマン”。二人分の賞金は
 もらったか?」
「あァ。アディの機体の足しにでもするよ」
 ニヤリ、と笑いながら、船長はホロシートを睨む。
 そこには、まだ別の海賊たちの姿が残っている。
 それらすべてを倒さなければ、あの少女に幸せは訪れない。
「アタイたちは、やるだけのことをやるだけさ」
「それがいいだろう。それと」
 友人の手が、ポーチからデータチップを取り出した。
 ん? と怪訝そうな顔をする船長に、友人は珍しくニヤリと笑う。
「全宇宙に流してほしいか?」
「どこに潜んでやがったのかィ」
 苦笑と照れが混じった表情を浮かべる船長に、友人はクスクスと笑う。
 その手が、データチップを握りつぶした。
 これで、全て終わり。
「じゃ、飲むかィ」
「ああ」
 グラスを持った船長は、少し考えるそぶりを見せる。
 しかしやがて、いつになく優しい微笑を浮かべて、グラスを揺らす。
「あのまだ年若い子供たちの前途に、乾杯」
「乾杯」

 カラン。

 かち合ったグラスの中で、氷が明るく音を響かせた。

時系列と舞台
------------
『スカード・グラフティ 中編』の後。

解説
----
 名誉を忘れた海賊と対決する面々。
 青年は、武士道を貫く。

-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=-=
本当は昨日書き上げるつもりだったのですが、いやはや(。。)
ちなみにEp○○二は未定。ネタくれ(ぉ

それでは。
渚女悠歩


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