[KATARIBE 29047] [HA06N] 小説・『必須条件』

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Date: Sat, 13 Aug 2005 01:37:29 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29047] [HA06N] 小説・『必須条件』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年08月13日:01時37分29秒
Sub:[HA06N]小説・『必須条件』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
肩凝ってます。
……とかなんとかいーつつ、『痛覚』の続き、ログから起こしてます。
でもまだ、途中なのです。
というわけで、後は任せたっ>ひさしゃ

**************************************
小説『必須条件』
===============
 登場人物
 --------
  相羽尚吾(あいば・しょうご) 
      :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。 
  軽部真帆(かるべ・まほ) 
      :自称小市民。多少毒舌。ネズミ騒動以来相羽宅に避難。

本文
----
「……負担にならないってことは、不可能なのかな」
 そう言うと、相羽さんは少し首を傾げたっけ。
「飯つくって弁当つくって、魚の世話と……」
 指を折りながら、そんな風に数えて。
「アイロン掛けと掃除もやってくれれば、充分お釣りくるよ」
「……あのね」

 ご飯をつくることも、掃除も。
 そんなの家政婦さん頼めば幾らでも出来るじゃないか。
 ……そう、思ったから。

「それ全部、誰かが出来ることだよ」

 あたしじゃなくても出来ることだ……って。
 それも多分、よほど簡単に。
 でも。

「それと」
「……え?」
「こやって、差し向かいでいることくらいかね」

 少し笑いながらそう言う、その言葉に嘘は全くなかったけど。
 でも。

「千夏さんなら、幾らでもやってくれただろうに」

 いや、千夏さんに限った事じゃないのかもしれないけど、あたしは彼女しか
知らないから。
 でも。
 一杯居ると思う。ご飯作って弁当つくってお風呂入れてアイロンかけて。
 そしてこうやって座って話していたい人なんて。 
 
 そして多分、あたしよりも遥かにそれらを器用にこなす人も。

 
 ネズミの害から逃げて、避難させて貰って。
 家はかなり荒らされたけど、ネズミ自体はかなり減っているらしいし。
 帰らないと……迷惑だろうなと、これは本当にそう思うのに。

『ここにいてほしい』

 ……どこまでが本音。

 
        **
 
 ヤク避け相羽、と、言われるそうである。
 強面のヤクザ達が、相羽さんを見るとすすすと避けて通るそうである。
 以前、豆柴君達、新任さん達の度胸試しの為の『尋問相手』にも選ばれて、
どうやら一番性質の悪い役をやったらしい。

 ……で。
 そういう人が、なんか……変なんである。

 ご飯食べてる間も、殆ど何も言わず。
 お風呂わいてるよ、と言っても……ただこっくり頷くだけで、声らしい声出
さないし。

「……どうしたんだろ」
 いつもは飛びついてゆくベタ達も、どうも躊躇するらしく、こちらの周りを
廻っている。
「何にもしてないよね?」
 ぷくーにぱたぱた。
 うん、あたしも何にもしてない。
「ベタ達、今日はあたしんとこで寝る?先に部屋行ってる?」
 そう言うと、二匹はしばらく顔を見合わせてから、うんうんと頷いた。
「じゃ……寝ててね?」
 そう言うと、二匹は何となくしおたれたまま、ふよふよと部屋に入っていっ
た。
 やっぱり……相羽さんが心配なんだろう。
 でも、何かあったかな。何をしたっけ。
 お皿を洗いながら考えても考えても……その理由がわからなかった。

 お風呂から出てきても、相羽さんは黙ったままだった。
 いつもがちがちに肩が凝ってる人だから、その後、しばらく揉むようにして
いるんだけど、流石に今日は……躊躇してしまった。

「…………あの」
「……ん?」
「……何か、怒ってる?」
 言いながら思う。これは怒ってるのとは違う。怒られてるわけでも、多分無
い。
「いや、怒ってないけど。どしたん?」
 だからそう言う相羽さんの言葉に、嘘は無い。
 ……ただ。
「…………なんだか、相羽さん、さっきから」
 落ち込んでるし、と、言いかけて、思わず言葉を呑む。
「……どしたん?」
 そう言ってこちらを見る表情は、ほんとに嘘が無くて。
 だから、つい。
「何か、あたし、気に障ること言った、かな」

 言ってしまってから後悔した。
 相羽さんが少し、視線を逸らす。

「……お前さんの言葉じゃないよ」
「じゃ、何?」
「……なんとなくね」
 視線はやはり逸らせたまま。
「……少しだけ、上嶋の気持ちがわかった気がするからさ」

 上嶋。
 上嶋千夏。
 一瞬……手が彼女に刺されたところに向う。
 
「わかった気が、した……って」
 語尾がかすれるのが、いまいましい。一度口をつぐんで、言い直す。
「…………もっともだ、って?」
「……いや」
「じゃ、なんで」
 言いかけた言葉を、飲み込む。
 そうせざるをえない表情を……相羽さんは、していた。

「あの子に言われたんだよ、相羽さんが必要なの、って」
 必要。
 彼女ならそう泣き叫んだことだろう。
 あの、とても綺麗な長い髪の毛を振り乱して。
 綺麗な声を振り絞って。
「でも、俺ははっきり断った」

 思わず大きく息を吐いてしまって。
 それがどれだけ下劣であり情けないことであるか……と。
 自分でも何だか、辛くて、下を向いてしまったのだけど。

「……必要って言われて、答えられないからさあ」
「うん……」

 つい、頷いてしまう。咄嗟に情けないと思った。でも。

「って……でも、何で」
 何で、じゃあ、千夏さんのことを思い出すんだ……と、言いかけた、時。

「……俺は必要って言っても」
 ぽつん、と。
 間遠く降る雨のように。
「他の誰かができると言われたら」
「…………え?」
「お前さんじゃなくて、他の相手でいいってことかと思ったけど」

 一瞬。
 殴られるよりも痛いと思った。
 覚悟はしてた積りだけど、でも。

「…………それ決めるの、相羽さんだもの」
 言い返したら、間髪居れずに言われた。
「俺、言ったよ。必要だって」

 ……違う!
 思わず、平手で床を叩く。
 ばん、と、耳障りな音がした。

「それ、誤解してる!」

 相羽さんは黙ってこちらを見ている。

「あたしがわかんないんだよ!」
 何よりも、その視線が、辛い。

「これだけ迷惑かけて、全部頼って、ネズミの始末までお願いして……あたし
のやってることは何だ?」

 料理も。片付けも。
 洗濯だってアイロンだって、昨今外をうろつけば幾らでもそういう店がある。

「誰でも出来ることだろうが!」

 辛い。痛い。
 沈黙されるだけに、余計に。
 …………どう言えば通じるのだ。

「だから!」
 
 どう言っていいかわからないまま、ただ、言葉を荒げた、時に、
 
「何か与えないとだめなの?」

 やっぱり、ぽつん、と。

「俺は、居ればいいって言ったよ」

 その言葉も、その声も。
 何よりこちらを見ているその表情が。
 辛くて。

「……役に立ってない」
 辛いのに。本当に辛いのに。
「必要って……でも、何も出来てない」
「居て欲しいんだよ、何ができるとかじゃなくて」
 でもそれはどういう意味なんだ?
「……居ても、役に立ってない」
「役に立つ立たないじゃない」
「……でも!」
 どうして、と思う。どうしてここまで何もかも通じない。
「……千夏さんのことが、わかるって?」
「俺は必要って言っても、お前さんがそう思ってないのかと、思ってね」

 目の前が白くなった。
 それだけ……腹が立って腹が立って。

「違うっ」

 咄嗟に……手を、伸ばした。
 手、一本分の距離なのに。
 
 なんで、そんな風に。

「必要無いっていつ言った」
 返事が無い。
「いつ言ったっ?!」
 思わず耳元でそう言って……数瞬。
 淡々と静かな声で応えがあった。
「……いや、言ってない」
 きりきりと空回りしている自分のどこかを、ほどくように静かに。


*********************************

 というわけで。
 (脱兎)



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