[KATARIBE 29045] [HA14N] 小説『夢見鳥・第六章』

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Date: Thu, 11 Aug 2005 20:25:36 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29045] [HA14N] 小説『夢見鳥・第六章』
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2005年08月11日:20時25分35秒
Sub:[HA14N]小説『夢見鳥・第六章』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ねむねむです。
というわけで、今日は六章一つ流します。

 登場人物は、

・鬼李( http://kataribe.com/HA/14/C/0013/ )
  野枝実の相棒の影猫。精神年齢は野枝実より高し。
・本宮友久( http://kataribe.com/HA/14/C/0018/ )
  空間操作能力者。本宮家の次男坊。野枝実宅に居候中。
・宮部晃一( http://kataribe.com/HA/14/C/0007/ )
  強化超能力者。素直で大人しい少年。この話唯一のオアシス。

 ですね(あとは寝てたり話に出てきたり)。
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第六章:夢を見る夢、夢渡る夢
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 結果として、氷冴からの情報は限られたものだった。

「これが、夢見鳥を呼び出す為の呪符」
 すらり、と、細い手が生成りの色の紙をカウンターに置く。
「夢見鳥の受け負った仕事の内容は……そう」
 ちょっと小首を傾げて。
「五歳の女の子の目を、醒まさせること」
「五歳の?」
 友久は少し眉をひそめる。
「……で、その子供ってのは」
「それ以上は料金外」
 ぴしゃり、と、朱唇が言い放つ。
「……おい」
 幾ら何でも情報が少ない。そう言おうとして、しかし氷冴の表情から、それ
以上の追求を、友久は断念する。
「渡せる情報はそれだけ」
 そう言うと同時に、氷冴はグラスをカウンターに滑らせた。
 グラスを受け取ろうとして、初めて、友久は自分が手を握り締めていたこと
に気が付いた。
 開いた手に、夜気がひやりと触れた。
 



「夢見鳥に聞いたほうが早いんじゃないかね」
 一部始終……といっても短いものだったが……を聞いてから、漆黒の尻尾を
くるりと廻して、鬼李が提案する。その鬼李を膝の上に載せたまま、晃一は心
配そうに友久を見上げた。
「夢見鳥が話すかな」
「話す可能性、無きにしも有らずとは思うがね」
 琥珀の目が瞬いて。
「氷冴さんは、立場上言えないこともあるだろうが、夢見鳥には立場なぞある
まい」
「思い当たる節は」
「無いでも、ない」
 くう、と、耳が動いて。
「紗耶が絡むと、情報を私等に渡すことは、かなりにして相手の不利になるか
らね。氷冴さんの立場だと、口を噤む場合も出てくるだろう」
 
 これから後のことを考えるとね、と、鬼李は呟いた。
 苦い、声だった。
 晃一が、そっと黒い毛並みを撫でた。

「……それにまあ」
 長い尻尾で、感謝するように晃一の手を撫でてから、鬼李は少し首を傾げる
ようにして言った。
「氷冴さんは……昨日の段階では、知りたいことを揃えておくと言ったんだろ
う」
「ああ」
「ならば、夢見鳥から、必要な情報は得られる筈だ」
 当たり前のことのように。
「夢見鳥は、紗耶に依頼された、その内容しか知るまい。私達に関わることな
ら、紗耶は夢見鳥には告げてはいない」
「だから、尋ねても構わない、と?」
「多分」
 詭弁だがね、と、黒い猫は呟いてから、にゃあ、と、一つ鳴いた。


 
「で、呼び出すと言って、これでどうするんだろう?」
 するり、と、晃一の手元から抜け出して、鬼李が呪符をつつく。
「ああ」
 それについては氷冴から聞いている。友久は呪符を取り上げると、野枝実の
左の目に被せるように置いた。

 すう、と、呪符が発光する。
『……鬼李』
「大丈夫だよ、晃一」

 微光。
 蝶の鱗粉に似た、細かな光。

 微光。

 …………そしてそれは、急激に伸び上がった。

 
 やせた腕。細い指。それが空を薙ぐように一度鋭く突き出される。まるでそ
の腕で不可視の卵の殻を割るように。
 肩。そして頭。もう片方の手。
 そして全身がするりとその微光の中から転がり出してくる。
 十歳になるかならずの、少女の姿のそれは、その反動で宙へと舞った。
 肩の辺りまで伸びた髪が、ふわりと光を含んで散った。

「……胡蝶」
 前足を揃えて座っていた鬼李が、静かに声をかけた。
 丁度布の翻るような緩やかな動きのまま、少女はくるりと上下を正し、その
まますとん、と、横たわった野枝実の傍らに座り込んだ。
『……あ』
 小さく声をあげた晃一を、少女は目尻の少し釣りあがった目で見やった。
「お久しぶり」

 
 夢見鳥と呼ばれ、胡蝶とも呼ばれる、この少女。
 ある少女の死ぬ間際の夢に飲み込まれる形で、異形の者と変じた……元々は、
その呼び名のとおりの、蝶である。
 他人の夢を渡り、その夢を加工し、その力を吸い取る。
 故に、着物に封じられていたのだが。


「夢見鳥」
「胡蝶、って呼んでもらえる?」
 細く尖った顔を、少女は友久に向けた。
「……わかった」
 じろっと見返して、友久は首肯した、が。
「一つ訊きたい」
 それ以上のやり取りを置かずに、少女を見据えた。
「何よ」
「奴の寝入ってる原因はお前か?」
 うーん、と、胡蝶は首を傾げた。
「まあ、そうとも言うかな」
 但し、と、小さく息を呑んだ晃一を見やって言葉を続ける。
「あたしに依頼する相手が、いたからだけどね」
 友久は小さく、息を吐いた。 
「……叶野か」
「そう。叶野の紗耶って人」
「……わかった。二つ目、聞きたいことは」

 視線を動かす。
 野枝実は眠り続けている。

「奴は、目覚めるか?」
 困ったような顔になって、胡蝶は額の横に流れた髪を引っ張った。
「それは、野枝実次第……なんだけど」
『けど?』
 心配そうに尋ねる晃一を見やって、一つ、息を吐く。
「それで、今困ってるんだけど……」
「……原因は、わかるのか?」

 尋ねた友久の顔を、胡蝶は睨み据えた。

「……原因、かあ」
 
 呟くと、一度しっかりと口元を引き結び、自分の目の前に並ぶ二人と一匹を
見やる。そしてまた振り返って、眠っている野枝実を見やる。数秒後、多少苛
立たしげに髪の毛を揺すって、また、彼らの方を向く。
 桜の花片のような唇が、ゆうらりと開いた、途端。
 指弾と共に、針のような言葉が弾け飛んだ。

「あんたがわるいっ」
「……なんでだよっ」
 行儀の悪い話だが、胡蝶の指は真っ直ぐに友久を示している。
 鬼李が、琥珀の目を数度瞬かせた。

「あんたが居るから、野枝実が諦めないんじゃないっ」
「何の話だ」
「人はどこいったって、独り。ちゃんとそう判って、野枝実は越えてきた筈な
のに……っ!」
 ぱん、と、畳を掌で叩いて、胡蝶は主張する。彼女なりに筋が通った主張…
…なのかもしれないのだが。

 が。

「話が、見えない」
 何か言い返しかけた友久を遮って、鬼李がきっぱりと声を発した。
「野枝実が独りなのは、今に始まったことじゃない。妙なところで諦めが良す
ぎるのも悪すぎるのもわかる。……で、それがどうした?」
 ぴしゃりと叩きつけられた最後の問いに、胡蝶ははあ、と、小さく息を吐いた。
「わかったわ……どこからどう答えたら良いかな」
 さて困った、と、呟いた胡蝶のほうに、晃一が乗り出すようにした。
『野枝実おねえちゃん、どうしてるの?』
「今?」
『うん』
「……多分、同じ夢を繰り返してるわ」
『夢?』
「……そこら辺から説明してもらおうか」
 鬼李が溜息混じりに口を開いた。
「あんたへの依頼は、五歳の子供を目覚めさせること、だったんじゃないのか
ね」
「そう、なるわね」
「で、野枝実には関係無い」
「……筈、だったんだけどねえ」

 あ、そこらから説明したらいいのか、と、呟きながら、胡蝶は片膝を立てた
少々伝法な格好になった。
 がりがりと、長めのおかっぱの髪をかきむしる。
「ちょっと……厄介で」


 五歳の子供が、夢から醒めなくなった。
 紗耶は、その子の夢を醒ますことを、胡蝶に依頼した。
 ただ、その為には着物に封じられた胡蝶と繋ぎを取る必要がある。その為に
野枝実は利用された。
「じゃあ、あの着物を紗耶が着たら」
「……うーん……まあ、相性もあるんだけど、紗耶が眠りっぱなしになった可
能性は0じゃないわね」
「野枝実は、じゃ、巻き込まれただけか?!」
「はっきり言えば、そーなる……でも!」
 ちょっと待て、と、右手を盾のように友久の前に突き出してから、胡蝶は話
を続けた。
「でも、確かに野枝実は、必要になったと思う……というより、今も必要なの」
「……理由は」

 問い詰める声に、胡蝶は視線を横に流した。

「孤独」
「?」
「というか……一番最初の、孤独の記憶……かな」
 ぴくり、と、鬼李が、耳をそばだたせた。

「自分から眠っちゃうって、それなりの理由があるわけよ」
『うん』
 素直に晃一が頷く。
「だから、ただ起こすったって、その理由をどうかしてやらないといけない。
もっと言っちゃえば、説得出来る人が必要でさ」
「それが、野枝実だったわけか?」
「その筈、だったんだけど」
 がしがしと、癪に障るのを分散させようとするように、髪の毛を引っかきむ
しりながら胡蝶はぼやく。
「というか、本当は野枝実は、とうの昔にそんなところ越えてきてるのよ。だ
から本人がそう言ってくれれば、それはそれで透耶も目が醒めるのにさ」
「透耶?」
「ああ、その五歳の子」
 五歳の子、と、晃一がちょっと首を傾げるようにする。
 鬼李が苦笑するように、小さく鳴いた。
「まあ、そういうわけで……野枝実の協力は結果として必要だったから、巻き
込んだ甲斐は、あったんだけどね」
「……詭弁」
「ま、そうかもね」
 短い声に、胡蝶は間髪を入れずに応じた。
 嘲るような声だった。

「しかし、確かに」
 暫く考え込むように黙っていた鬼李が、小首を傾げた。
「私も、その話を直接聞いたわけじゃないが……野枝実がそんなところ、とっ
くに越えてきているってのは、わかる。そして越えられる、と、言い切れるの
もわかる」
 うん、と、胡蝶が頷く。
「じゃ、何が問題だ」
「だから、それが問題なのよ」
 憮然として少女の姿の異形は言い返した。
「それって何が」
「越えないのよ、野枝実ったら。もう堂々巡りを何遍やってるか」
「…………?」
 またもやすっ飛び出した話の筋を掴めないまま困惑する聞き手に構わず、少
女はまた、ぱん、と、平手で畳を叩いた。
「越えられないのが、あんたのせいなんだからねっ!」
「……俺のせいかよ」
「それ以外の誰のせいよっ」
「……だーかーら」
 延々と続きそうなやり取りに、鬼李が割って入った。
「越えない、ってのは、どういうことだ?」
「だから。夢の中で、ちゃんと昔越えてきたところを越えないのよ」
「……申し訳無い」
 後ろ足で、耳を二三度こすってから、鬼李は溜息混じりに言った。
「もうちょっと、具体的に言ってもらえないかね」
「うーん……」
 
 ちょっと困った顔になって、胡蝶は目の横をこすった。

「野枝実だって、話されたい内容じゃないと思うんだけど」
「必要な部分だけでいいから」
「……うん」
 ちょっと待って、と、呟いて、数秒の間胡蝶は黙ったが。
「……ええっとね……まあ、野枝実も、五歳の頃に思いっきり人から突き放さ
れる目にあってるわけ」
 と、続けた。
「それで」
「そこで、でも、本当ならば野枝実は、それで良し、と思ったのよ。諦める、
それならそれでいいって」
 そうだろうな、と、小さく鬼李が呟いた。
「ところが、今度じゃあ、夢の中でそれを再現してみたら、そういかないの」
「……って」
「どうしても諦めたくないって、泣くのよ、野枝実」
 おねえちゃん、と、晃一が呟いて下を向いた。
 その頭にぽん、と、手を乗せながら、友久は胡蝶を見据えた。
「で」
「だからあんたが悪いんじゃないっ」
「……俺が原因だとでも言いたいのかっ」
「言ってんじゃないさっきからずっとっ!」
 ぱん、と、白茶けた畳の表が鳴った。
「あんたが半端に野枝実を信頼させるから!半端に手を出してくるから!」
「ちょっと待て」
 鬼李が割りこんだ。
「半端なのは、別に友久のせいじゃないだろうが」
「そんなもん知らないわよっ!」
「おい……」
「でも、実際に、一度は納得したものを、野枝実ってば今じゃ納得してない」
 ぱん、と、畳を叩きながら。
「お陰で夢が終わらないっ」
 
 鬼李が溜息を漏らす。
 晃一がひどく辛そうに空を見上げる。

「納得してないってのは、わかったけどなあ」
 やり切れないものを吐き出すような口調でそこまで言ってから、友久は口調
を改めた。
「それが中途半端なんだ、奴は」

 諦めない、と、泣くという。
 それでも本当に諦めないと、もし決めたならば。
 本当に野枝実が決めることが出来るのならば。
 夢の堂々巡りは止まりはしないだろうか。

「諦めねえなら、諦めねえ。納得するなら納得する、で、きっちりできねえか
ら、堂々巡ってんだろうが」
「そうよそうそう!」
 得たり、とばかりに胡蝶は頷いたが、
「だーかーら!あんたが悪いんじゃないっ!」
 そっちに落とすか、と、鬼李ががっくり首を折る。
「……どうあっても俺を諸悪の根源にしたいらしいな、お前は」
「だって諸悪の根源じゃないの」
「……諸悪の根源がどうこうは、いいから」
 放っておけば何度繰り返すかわからないやり取りを、呆れ顔で眺めていた影
猫が、二人の間に割って入った。
「まず訊きたい。野枝実の夢を、全て止めることは、出来ないのか?」
「全てって……ああ、野枝実を夢から醒めさせるってこと?」
「そう」
「……うーん……」
 少女は顔をしかめた。
「堂々巡りを始めた時点で、野枝実自身が夢に執着してるから……今更夢を終
わらせるってのは、難しいわ」
「無責任な話だな」
「だってこうなるとは思ってなかったんだもの」
 だから無責任なんだ……と、恐らく最低二名は突っ込みを入れそうなことを、
異形の少女は堂々と言ってのける。はあ、と、ことさらに溜息をついてから、
影猫は小首を傾げた。
「ならば、余計に」
「なによ」
「野枝実の堂々巡りを止めるほうが、先じゃないのか?」
「……確かに」
 ふん、と鼻を鳴らして、少女が黙った。

「……それで」
 暫くの沈黙の後、友久が口を開いた。
「奴の夢へは、いけるんだな」
「うん、一応」
「一応?」
「一人だけ、ってこと」
 ああ成程、と、鬼李が一つ頷く。
「あっと……鬼李は、入らないでね。影猫を夢の中で保護する方法って、あた
しもわからないから」
「……とすると」
 きろり、と、琥珀に金の混じった目が動く。
「どっちか一人。夢、見てみる?」
 上目遣いになって、少女が囁いた。

「野枝実の悪夢を」

『僕、見るっ!』
 途端、弾け飛ぶ勢いで、立ち上がったのは少年のほうである。
『野枝実お姉ちゃんを助けるって、言ったんだから!』
「……あらら」
 ちょっと毒気を抜かれた呈で、胡蝶は目を瞬かせた。この異形の少女にして
は、妙に人の良い……どこか困ったような顔になって、後の二人を伺う。
「って言っても……ねえ」
「……晃一には……ちょっと……」
 胡蝶から晃一へ、そして友久へと、不安げに。
 金色の目が動く。
「……俺が行く」
 立ち上がった少年をそっと手で抑えるようにしながら、友久が言う。
「それがいい」
 露骨に安堵する様子を見せた影猫と少女を見やって、晃一のほうは流石にふ
くれた。
『……僕だって……大丈夫なのに……』
「それは、そうかもしれないが」
「でも、多分こっちのほうがもっと大丈夫だと思うのよ」
 こっち、と指し示されて、友久のほうもむっとはしたが、その意見自体には
賛成であるのは確かである。
「ちゃんと、連れて帰るから」
『…………』
 不意に、少年の顔がくしゃんと歪んだ。慌てて膝に飛び乗った鬼李を両手に
抱えるようにして、小さく丸くなる。
 声にならない泣き声が、伏せられた顔からこぼれた。
「……大丈夫だ」
 声と共に、大きな手が晃一の頭に触れ、そっと撫ぜる。
「鬼李と一緒に……呼んでいてくれ」
『…………うん』
 泣き声混じりに、それでもそう答えた晃一の頭をもう一度だけ撫でると、彼
は身を起こして胡蝶を見据えた。

「……何が出来るかは、ともかく」
 青の、空間を歪める力を持つ目を、相手に据えて。
「あきらめさせるなり、納得させるなり」
 少女は、動かない。
「……手、だすことは出来るんだろ」
 視線の先で、凍ったように動きを止めていた少女は、つ、と目を逸らした。
 肩の辺りをかする髪の毛が、つかの間鱗粉に似た光を散らした。

「…………諦めさせなさいよ」
「…………」
「だって、本当に!」
 
 不意に少女は激昂したように大きく身を翻し、声を放った。

「野枝実は、諦めたんだもの、一度は!」

 少年が弾かれたように、泣きはらした目を上げる。
 青年は微動だにせず、ただ少女を眺めている。
 握った拳をゆるゆると開いて、少女はまた沈み込むように肩を落とした。

「……ともかく」
 静かに、友久は繰り返した。
「奴のとこ、つれてってくれ」
「…………」
「全て、それからだ」
「……わかった」

 吐き出す息で答えを紡ぐと、胡蝶は一旦俯き……そしてゆるゆると顔を上げ
た。

「じゃあ、寝て」
「野枝実の呪符は?」
「そのままで良いわ。友久、だったわよね?」
「ああ」
「じゃあ、寝て。あんたの夢から渡る」
「……夢?」
「安心しなさい。あたしが夢を見せてやる」

 とにかく寝転がって目を閉じろ、と、言う。
 素直に従い、目を閉じる。

「晃一君、鬼李、ちょっと向こうに離れてて」
 静かな声がそう命じるのが聞こえる。
「私達はどうしていればいい?」
 落ち着いた声が、尋ねる。
「野枝実とこいつ、見といて。見守っておいて」
 微かに硬いものが、少女の声の中にある。
「それが……戻ってくるのに一番役に立つから」
『……うん、わかった』
 少年の、細い、声。
「さて、それじゃ……」

 不意に、つう、と、額を冷たいものが滑った。
 胡蝶の指、と、咄嗟に思った。


 ……そして崖から落ちる勢いで、友久の意識は途切れた。


***********************

 てなもんです。
 ではではです。




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