[KATARIBE 29036] [HA14N] 小説『茨猫・間奏曲の一』

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Date: Tue, 9 Aug 2005 22:13:24 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29036] [HA14N] 小説『茨猫・間奏曲の一』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年08月09日:22時13分23秒
Sub:[HA14N]小説『茨猫・間奏曲の一』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
難儀者が束になってるとか何とか言われつつ、しかしまだまだ続きます。

今日は二つ流します。
まずは、間奏曲(?)の一。

*************************************
間奏曲:夢を見る者〜透耶
----------------

「おとーさん、とーやがねっ」
 高い、時には金属質にすら響く声。
「本貸してくれないのっ!」
 だってさっきおねえちゃんが、もってきたのに。
 こんなの面白くないって。
 紗耶おばちゃんから、もらった本なのに。
 いま、あたしが読んでいるのに。

「透耶、そうやってお姉ちゃんに意地悪したら駄目だろう?」

 おとうさんは、絶対におねえちゃんの味方なんだ。
 絶対に言うこと聞いてくれないんだ。
 
「貸しておあげ」
「……や……」

 どうしてそう、わがままなんだろうって、おとうさんは言う。

 おねえちゃんにゲーム貸してって言って、貸してくれなくてもおとうさんは
怒らないのに。
 おねえちゃんが貸してくれないって言っても、今おねえちゃんが遊んでるん
だからって言うのに。

 おねえちゃんは、ちゃんとそのこと知ってるから。
 おとうさんが必ず味方になってくれるって知ってるから。

 ……知ってるから。
 ずるい。

「ほら、おねえちゃんにも貸してあげなさい」
「だ、だって、今、読んでるの、あたしが読んでるの」
「でも透耶の読むのより、おねえちゃんのほうが速いだろう?読んだらすぐに
返してあげるよね、咲夜?」
「うんっ」

 ……うそだ。
 おねえちゃんは、本を返してくれない。
 おとうさんには、そう言うのに。

「ほら透耶」
「やっ」

 本を抱えて。逃げる。
 自分の部屋、自分のベッドに。
 
「おとうさん、透耶がっ!」
 きんきんした声。
 
 みんな、言う。
 おねえちゃんは可愛いねって。すごく可愛いねって。
 でもおねえちゃんの声は可愛くない。
 
 
 ……おねえちゃん、嫌い。


    ****


「あーのね、義兄さん」
 呆れたような顔で、紗耶が言う。
「ほんとに子供のこと、知っても無いんですね貴方は」
 つけつけと言われて、男性の顔が流石に歪む。それには構わずに紗耶は尚も
言葉を続けた。
「そも、あの本はあたしが透耶にあげた本なの。なんでかって言いましたらで
すね、咲夜に欲しいかって聞いたら、本なんてつまんないって言ったからなの」
「いやでも、ほら、子供は、自分の持っていないものを欲しがるだろう」
「ってことは、咲夜が本を欲しがったのは、透耶への嫌がらせか嫉妬ってこと
ですよね、義兄さん?」
 いやに丁寧な言葉が、それ相応の敬意を示していないことは、双方共に周知
のことである。
「あのね、あの時あたしは二人連れて、プレゼント買いに行って、透耶には本、
咲夜にはゲームを買ったの。で、帰りがけの車の中で、二人が喧嘩しだしたの
よ。原因知ってます?」
「……いや」
「咲夜が、透耶の本をひったくったから」
「…………確かに……あの子は多少わがままだが」
「異常なくらいのわがままなんですよ」

 憐れむように男を見やると、紗耶は言う。

「咲夜は確かに、姉さんに似てますけどね。だからって猫かわいがりするこた
ないでしょう?」
「まさかそんなことは」
「してんじゃないですか、現に」

 咲夜と透耶の母親、こと、紗耶の長姉であった女性は、透耶を産んでまもな
く亡くなった。彼女もまた『叶野の家の鬼女』と言われる特徴の持ち主であり、
それが彼女の生命を縮めた一因であるのも事実である。故に、この男が、妻の
生命を(結果として)縮めた透耶を疎み、妻と同じ顔と体質を持つ咲夜を偏愛
するのに、理由が無いわけではないのだが。

 が。

「咲夜にさっき聞きましたよ。貴方が透耶に言った言葉を」
「そんなに厳しくは怒ってないっ」
「何言ってるんです、わがまま呼ばわりして。それも咲夜の目の前で」

 咲夜という子が、根っからの悪い子だとは、紗耶には思えない。むしろこの
父親の元で、割に素直に育っているほうだと思う。
 でなければ、彼女とて、『叶野の家の鬼女』を叱るのに、一苦労したことだ
ろう。

「……咲夜にはね、よっく言っときましたよ」
「何を」
「そのまんまなら、叶野の家を継ぐなんてあたしが許さないってね」
「……おい!」
「当たり前でしょう。透耶にだって、同等の権利がある」
「でもあの子は、普通の子だろう」
「ちゃんと前例あるんですよ。叶野の家に、一人も鬼女が居ない代だってあっ
たわけですし、居ても家を継ぐに足りない場合もあったし」
「足りているじゃないか」
「今の透耶見てそれ言いますか」

 流石に黙った男を見て、紗耶は唇の端を吊り上げた。
 笑いというには、あまりに厳しい表情だった。

「義兄さん。貴方がこれ以上二人を差別するようならば、あたしは早速にも透
耶を跡取にします。良いですね……って」
 ああ、と、念を押しかけた自分を笑うように。
「駄目って、貴方に言う権利は無いんですけど」

 
 叶野の家の鬼女……と、その昔呼ばれていた存在がある。言わば遺伝病の一
種とも言えるのだろうが。
 叶野の家に生まれる女性達。本家直系では五割以上の確率、分家であれば二
世代に一人の割合で生まれてくる彼女達には、痛覚が無い。
 触覚については、ある。腕に埋まるカッターの刃の触感を知覚することは出
来る。けれどもそれが痛み…不快なものである、と、認識できない。しかし治
癒力については、一般の人々と変わらない。
 これは、生存本能から考えれば、非常に不利な特徴である。痛みを痛みとし
て知覚できず、自分の体がどれほど危ない状態であるかを判断できない。
 実際、咲夜と透耶の母親が亡くなったのは、自分の体の不調に、手遅れにな
るまで気が付かなかったせいである。故に、父親が、同じ体質を持つ咲夜を案
じるのは、ある程度までは正しいとも言える。
 但し。
 理由の大半が、そうでないところが……問題では、ある。

 どういう訳か、痛覚の無い女達は、ごく小数の例外を除き、際立った美貌の
主でもあるのだ。虹彩と瞳の区別がつかぬほどの漆黒の目、長く艶やかな髪、
陽光の元でも白いままの肌、絶妙な目鼻の配置。
 紗耶の長姉もまた、その特徴を持っていた。
 そして咲夜もまた。

 透耶は、鬼女の体質を持たない。
 公平に見て、透耶は平均より充分に上の容姿を持っている、と、紗耶は思う。
但し姉が姉である。どうしても比較すれば、透耶の容姿は落ちる。何より咲夜
の容姿は、その母親にそっくりなのだ。



(性格は、透耶のほうが似てるんだけどねえ)

 義兄を凹ませてから自分の部屋に帰り、当たり前のように酒瓶を引っ張り出
す。グラスを引き寄せながら、紗耶は苦笑した。

(咲夜ってば次姉の性格によく似てるし)

 長姉、次姉共に、鬼女の体質を継いでいた。故に二人とも標準を遥かに越え
た美貌だったのだが。
 ただ、三人の姉妹が一緒にいると、次姉が全ての視線を独占した。
 そういう……美貌だった。

(そうなっちゃうのかなあ……)

 うーん、と、苦笑しながら酒を注ぐ。
 長姉は、どこかおっとりとした性格だった。実際に紗耶も、次姉に苛められ
た分、長姉には可愛がってもらった記憶がある。
 けれども次姉との関係といえば。

(五歳までは、徹底的に苛められたもんねえ)

 微かに紗耶の表情が歪む。
 五歳。今の透耶と同い年の頃。

 ……だからこそ、今の透耶の、眠り続ける理由も、その絶望の深さも、理解
出来ないではないのだが。

 鬼女の家に生まれる、鬼女以外の女性。
 もしくは……鬼女以上の、女性。


 グラスに乱暴に注がれた酒を、これまた乱暴に紗耶は飲み干す。
 飲み干すには勿体無い酒である、と、頭の隅では理解している。
 酩酊感は、流石に味わうことが出来る。
 けれども……そこに達するまでには、かなり酒が必要であるのも確かである。

「……夢見鳥」
 空になったグラスを持ったまま、紗耶は小さく呟いた。

「透耶を、助けて」 

*********************

 うーん、おかしい。
 みんなとても素直なのに(むぅ)

 とりあえず、次また流します。




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