[KATARIBE 29028] [HA06N] 小説『以心……不伝心』

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage


Index: [Article Count Order] [Thread]

Date: Sun, 7 Aug 2005 01:49:56 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29028] [HA06N] 小説『以心……不伝心』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200508061649.BAA66794@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 29028

Web:	http://kataribe.com/HA/06/N/
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29000/29028.html

2005年08月07日:01時49分55秒
Sub:[HA06N]小説『以心……不伝心』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
ねむねむです。
見返しは何となくねむねむのまましてます<だめなやつ

……勢いと居合いで書いてます。
ねづみ騒動の続きっぽく。

**************************************
小説『以心……不伝心』
=====================
 登場人物
 --------
  相羽尚吾(あいば・しょうご) 
      :吹利県警刑事課巡査。ヘンな先輩。 
  軽部真帆(かるべ・まほ) 
      :自称小市民。多少毒舌。ネズミ騒動以来相羽宅に避難。

本文
----

 ねづみ騒動よりはや10日。
 妹に、怒られた。
 尤もだな、とも、思った。

 本当に、取るものもとりあえずに逃げてきて数日、まだネズミが残っている
からと言われてまた数日。
 何度か尋ねて、何度かそう言われた。
 本当は、どっかでけりをつけて、我慢できなくても頑張るのが本当、なんだ
ろうけれども。
 居心地がいいもんだから、こうやって長々居ついている。
 でも、それは多分……迷惑なのだろうと思う。

 一人で居ることに、あたしは相当に慣れている、と、自分でも思う。そのほ
うが気楽だし、下手に家に誰かが待ってるってのは相当きついし(そう考える
と、自分がここにこうやって居るのも、不思議な気はする)。
 何だろうなあ。
 お帰りなさいと言われるのはあれだけ苦手なのに、言うのは少しも苦じゃな
いし。基本として相羽さんはこちらを放っておいてくれるんで、ご飯作りに来
てた時と、大して違わないし(あ、朝起きる時間については、多少変化があっ
たかな)。
 でも。


「『おかえりなさい』って、怖くない?」
 一度、尋ねたことがある。何せ言った本人が苦手なんである。
「どうだろうね、最初は違和感はあったけど」
 確かあの時は、鰹のたたきを前にして、うーんと暫く考え込んで。
「……案外、適応力高いらしいよ、俺」
「…………あたしは、怖いなあ」

 ぽろっとそう言ったら、相羽さんは首を傾げた。
「怖い、とは思わないけど」
「……違和感は、あるんだ?」
「ないといったら嘘だね」
「諒解」


 ふよふよと、PCの画面(仕事に必要なんで、家から取ってきた)の前をう
ろついている二匹のベタを見ながら、そんなことを思い出していて。
 ふと。
「ねえ、ベタ達」
 ん?と、二匹が振り返る。
「……ここにずっと居るのも……問題、かな」
 言った途端、二匹がひゅん、と、飛び上がった。そのまま頭上に舞い降りる
ように飛んできて、つくつくとこちらをつつく。
「どしたの?」
 あんまりわしゃわしゃやられるから、手を伸ばして二匹を捕まえて、目の前
に移動させる。
 二匹は画面の前、ばたばた動き回ってる。
「……居ていい、ってこと?」
 そう言うと、二匹は一瞬びっと動きを止めて。
 ぷくー。
 ぱたぱたぱた。
 全身で肯定の仕草。

「…………ありがとね」

 何だか、本当に判り易い。言葉一つ通じないというのに。
 なんて考えて……思わず笑ってしまう。
 ……そう考えると不便だな、人間というのは。

          **

 相羽さんが戻るのは、大概夜の九時を過ぎる。
 連絡がない場合は、大概そこらに合わせてご飯を作っておけば、まず問題は
無い。早く帰られると困るけど、まずもってそういうことはないし。
 今日も、そのくらいの時刻に戻ってきて、用意してたご飯を食べてる。
 茄子の揚げ浸しを突付きながら、相羽さんはご飯を食べている。
 冷奴を崩しながら、あたしは焼酎を飲んでいる。
 ……何だか、酔いが早い。

「……えっと、相羽さん」
「何?」
「……あたし、さ……」
 グラスを揺する。氷がころころと音をたててぶつかる。
「戻ったほうが良くない?」

 茄子の、鮮やかな濃い紫の色。
 返事が戻る前に、一瞬の間があった。

「ここに居るの、不服?」
「……いや、不服は全然無いけど」
 不服が無いからこそ、不安なのだ。
「幾らなんでも、甘えすぎだよ、あたしが」
「甘えてなんかないけどね」
 さらっと、そんな風に。
「むしろ助かってる」
 そう、言うけれども。
「……助けてないよ」

 葱の薄緑と生姜の黄色。生成りの色の豆腐。

「ここに居るほうが助かるって言ったら?」
「…………迷惑、だと思う」
 言ってしまってから、あ、誤解されるかな、と、慌てて言葉を足す。
「てか、相羽さんがね」
「迷惑とは思ってないよ」

 崩した豆腐。醤油の色。
 何だかぐずぐずにしそうになって、手を止めた。

「…………てかね」
「……うん」

 目をあげると、相羽さんはどこか見たことのある表情のまま、視線を落とし
ていた。
「……俺もできる限りのことはしてる、けど」
 ひどく、言い難そうに、何度も言葉を途切らせて。
「……また、上嶋みたいな相手や仕事で恨みを買った手合いがでてくるか」
 きちん、と、箸を揃えるような仕草と一緒に。
「正直、ないと言えない」

 上嶋。上嶋千夏。
 何となく一瞬、刺されたところが痛むような気がして、手をやった。

「…………やっぱり迷惑してる?」
「いや」
 こういう時この人は、表情を変えない。
「だからね、できる限り目の届くとこにいて欲しいんだけど」

 言葉に詰る。
 確かにあれは彼女が悪いんだけど、でも確かにこちらにも油断があったから。

「…………迷惑なら…………」
 この人に迷惑なら。それだけは嫌だから。
「そうしたほうが、いい、のかな」
「……俺に迷惑とかじゃなくて、お前さんに迷惑をかけるほうが、俺にはキツ
イからね」
「迷惑は蒙ってないよ」

 何となく片帆の顔が浮かぶ。
 あの子だったら何て言うだろう。

「……たださ」
「何?」
「…………やっぱり相羽さんには、迷惑になると思う。あたしがここに来てる
のって」
「必要って、いったよ?俺」
「……誤解されるよ?」

 言いながら、何だか悲しくなった。
 もしあたしが男だったら。
 多分躊躇無くここに居るだろうし、案外平気で居候しているかもしれない。
 無論それで問題解決したとはとは思わない。でも。

「哀しいかな、あたしも一応は、戸籍上女性なんで……誤解されるよ?」
「その場合、誤解されて困るのそっちだと思うけど」
「…………」
 この人の無表情は、それにしても変わらない。
「……でも、それでもお前さんがよければ」

 よければ。
 ……よければ……?
 よい、と、思うことが、相羽さんには出来るのか?

「……相羽さん、じゃ、あたしがここに来た時の、相羽さんの蒙る『損』を三
つ数えてみて」
「……俺のこうむる損、ね」

 初めて相羽さんの表情がはっきりと変わった。箸を置いて、困ったように視
線を逸らす。

「部屋でタバコが吸えない」

 …………はい?

「お前さん苦手でしょ」

 ……あ、そいえば。
 相羽さんは時折煙草を吸う。決してヘビースモーカーじゃないし、一度に1
本2本、という単位らしいんだけど、残念ながらこちらの喉がどうも弱いので
ついつい匂いを嗅ぐと咳き込んでしまう。一度それやって、えらい心配された
のはつい最近だ。
「……これくらいかね」
 いや、そうじゃなくってさ……

「何より、相羽さんが貰い遅れになるでしょうっ!」

 言ってみて、ふと。
 結構、それは問題だよなと、思った。

 千夏さんと会った時に、思った。自分は相羽さんにとって、とことん女性と
は思われてないんだろうな、と。だからこそ、この人はあたしを友人として遇
し、故にこの人の家に上がり込むことも許されているんだろうな、と。
 と、いうことは反対に。
 相羽さんがもしも家族を増やすとしたら、やっぱり奥さんだろうなとか。
 それなら、自分がここに居るのってとてつもなく矛盾だよなとか。
 
「別にねえ」
 うーん、と、相羽さんは考え込む。
「……何」
「そも、そういう考えはなっからなかったから」
 それって親不孝(人のこと言えないとか言うな)。
「でも、あたしが、いやなんだよ」

 好意に甘えることってのは、そら必要だとは思う。それしか出来ない場合も
あるとは思う。だから全て悪いとまでは、思いたくない。
 だけど。

「相羽さんの好意に甘えるのが」

 ふっと思った。今日の夕ご飯、蟹とかにしときゃ良かった。
 そしたら多分、沈黙する度に視線の先を選ぶ必要が無い。

「好意に甘えるとかじゃなくてね」
 それでもやはり、相羽さんの表情は変わらず。
 本当に微塵も……変化なく。

「ここにいてほしい」

 ぽつん、と。
 ……なんでそんなことを。

「俺がね」

 なんでそんなことを、この人はさらっと。
 何でも無いように言うんだろう。

「相羽さん、それ、どれくらい続く積りで言ってる?」
 だから、思わず。
「三ヶ月?半年?一年?」
「期限なし」

 本当に。
 何かの嫌味って思うくらいに間髪居れず。

      **

 考えとく、と、言った。
 そうして、と、言われた。

 お風呂沸いてるから、どうぞ、と言った。
 うんそうする、と、言われた。


 お皿を集めて洗って、重ねて拭いて。
 ……ふと。

 多分、相羽さんには何一つ通じてないんじゃないかなって。
 何だかわからないけど、そんな風に。

「…………」

 全て何も変わらず。
 全て何もわからず。

 ……相羽さん。
 あたしは、何でここにいるんだろうね。
 ネズミも居なくなった、今の今。

 半分、と思った。
 この人は自分の半分だ、と。
 そして……思う。
 それだけ、なんだろうな、とも。
 ……偉そうなことを言って、最終的に迷惑だけかけている現状を見るに。
 
 気がつくと、何だか心配そうに二匹のベタが周りを飛び回っている。
 どうして。

 どうしてこのベタの言葉が判るほどにも。
 人の心は、判らないんだろうね。


時系列
------
 2005年7月上旬。ネズミ騒動よりしばし後。

解説
----
 本音を言えば、多分真帆にここに残って欲しい先輩と。
 本音を言われても、さっぱり判ってない真帆と。 
 そういう一場面です。
*************************************************

……………ええとてなもんで。
 ではではっ(脱兎っ)






 ---------------------------------------------------------------------
http://kataribe.com/ 語り部総本部(メインサイト)
http://kataribe.com/ML/ メーリングリストの案内
http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/ 自動過去ログ
Log:	http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29000/29028.html

    

Goto (kataribe-ml ML) HTML Log homepage