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Date: Fri, 5 Aug 2005 01:33:07 +0900 (JST)
From: 久志 <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29020] [HA06P] エピソード『蒼雅さんちのお嬢さん』
To: kataribe-ml@trpg.net
Message-Id: <200508041633.BAA64803@www.mahoroba.ne.jp>
X-Mail-Count: 29020
Web: http://kataribe.com/HA/06/P/
Log: http://www.trpg.net/ML/kataribe-ml/29000/29020.html
2005年08月05日:01時33分07秒
Sub:[HA06P]エピソード『蒼雅さんちのお嬢さん』:
From:久志
久志です。
蒼雅さんちシリーズ、続きます。
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エピソード『蒼雅さんちのお嬢さん』
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登場キャラクター
----------------
蒼雅巧(そうが・たくみ)
:蒼雅家長男、跡継ぎ息子であり梓の弟。霊鷹・秋芳を使役する。
:http://kataribe.com/HA/06/C/0529/
蒼雅梓(そうが・あずさ)
:蒼雅家長女、少々ぼんやりした姉。霊狐・穂波を使役する。
:http://kataribe.com/HA/06/C/0530/
蒼雅彬(そうが・あきら)
:蒼雅家現当主、巧・梓らの父。霊獣使いの元締め。霊虎使い。
父子の会話
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吹利郊外、蒼雅家の屋敷にて。
当主である蒼雅彬とその息子・巧が再び対面に座っている。そして当然のよ
うに双方の使役する虎と鷹がじっと傍らで控えている。
彬 :「……そうか、快諾してくれたか……」
巧 :「はい、先方はたいそうお喜びでした……しかし」
彬 :「……うむ」
口ごもる彬。
その理由は双方よくわかっている。
巧 :「いざ、姉上にお会いして、先方が失望するようなことば
:あれば」
彬 :「いや、黙って座っておれば、あれは母によく似てたいそ
:う映える子だ」
黙っていればと言う問題ではない。
巧 :「……見た目はいくらでも繕えますが、なにより中身です」
彬 :「ここは手を回し、外堀を埋めていく方向でゆくしかない」
巧 :「父上、あきらめるのは早うございます」
しかし、随分な言われようである。
姉のひとコマ
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一方その頃、蒼雅家屋敷の縁側にて。
梓 :「…………(こっくりこっくり)」
丁度、庭の木で陰がかかった縁側に座り、うつらうつらと頭を揺らす若い女。
渦中の人である蒼雅家長女、蒼雅梓その人だった。
父と弟の心配や焦りなどつゆほども知らず、太平楽にうたた寝をしている。
その傍らには梓を守るように三本の尻尾をゆらした狐が一匹したがっている。
梓 :「…………(こっくりこっくり)」
ことん、と小首が落ちてふと目を覚ます。
梓 :「あら……(きょろきょろ)……また寝ていましたのね」
穂波 :(すりすり)
さほど困った風もなく、すり寄る狐をゆっくり撫でてまたぼんやりと庭を眺
めている。蒼雅家の広い中庭はきちんと手入れされた様々な庭木と灯篭が並び、
そこかしこを走り回る霊獣達や、庭木を揺らす人ならぬモノの気配で常に満ち
ている。
穂波 :(きゅん)
すり寄っていた狐がそっと服の裾をくわえて引っ張った。
梓 :「あら、穂波、どうしましたの?」
穂波 :(裾をひっぱりつつ訴える目)
梓 :「……そういえば」
ふと、思い出す。
そういえば、大切な話があるとのことで父から呼ばれていたような気がした。
梓 :「あらあら、うっかりしてしまいましたわ」
穂波 :「きゅー」
穂波に促されるまま、のんびりと立ち上がるとてこてこと廊下を歩き出す。
一方その頃。
彬 :「梓はまだ来ぬのか」
巧 :「直にいらっしゃるはずですが……」
大切な話があるからと、後で部屋に来るように告げてから数刻。
いまだに梓は姿を現さない。
彬 :「また、どこぞで居眠りでもしておるか」
巧 :「ありえますね」
結局、梓が部屋にたどり着いたのはそれから更に三十分後だった。
悩める父
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お小言十分、見合いの話五分その間に居眠り五分で、ようやっと目的の話を
終わらせて。
彬 :「…………(はぁ)」
梓 :「ええと、お話はおしまいですの?」
巧 :「姉上……失礼ながら、ご理解なさっておいでですか?」
梓 :「はい、たぶん」
たぶん、じゃなくて。
一瞬、めまいを覚えつつもう一度かんで含めるように説明する巧。
巧 :「……と、言うわけで。この度、弧杖家のご長男魎壱殿と
:のお見合いをすることになったわけです」
梓 :「まあ、そうでしたの」
あなたの縁談ですよ。
巧 :「……姉上、しっかりなさってください。見合いまであと
:幾日もないのですよ?しっかりなさってください」
梓 :「はい、わかりました♪」
たぶん、わかってない。
彬 :「なんとかまとまってくれんかのう(ため息)」
巧 :「姉上……霊獣使役以外は、呪術も体術も身につけておら
:れませんから……」
彬 :「……何もないところで転ぶ、家事はてんでダメ、道には
:かならず迷う、放って置くとどこでも寝る……ああ、どこ
:へ出しても恥ずかしい……(うう)」
巧 :「……父上、本当にこの縁談を進めるおつもりですか?」
彬 :「普通の家庭にこそ、とてもではないがこの有様では縁談
:を組めぬ、せめて術系のやんごとなき家ならば、使役能力
:に免じて多少の不備は目をつぶってくれるかと……」
巧 :「ですが、せめて見合いの席でボロを出さないですむよう
:体裁だけでも整えておかなければ」
彬 :「たとえ見合いの場を乗り切ったとて、いずれボロは出る。
:それまでなんとか外堀を埋めていく方向で
家の発展うんぬん以前、貰い手があるかどうかの方が切実なようだ。
梓 :「お父さまと巧がなんだか大変みたいですねえ」
だからあなたのことです。
巧 :「……姉上、ご自分の縁談なのですよ?(汗)」
梓 :「あ、そうですね♪宴会です」
巧 :「……姉上」
宴会のところまでしか聞いていなかったのだろうか。
思わず全身から力が抜けそうになる巧だった。
巧 :「姉上、此度の宴席はただの宴会ではありません。きちん
:とお相手のお方とお話をして先方に気に入られる よう、
:きちんとなさいませ」
梓 :「ええと……なにを?」
巧 :「…………」
彬 :「……梓よ、せめて人並みに父を安心させておくれ」
梓 :「はいっ」
巧 :「……(姉上、わかっておられませんね)」
彬 :「……(梓、少しは父の気持ちもわかっておくれ)」
脱力する弟と、娘の行く末を案じる父をよそに、当の本人・梓は太平楽その
ものだった。
外堀を埋めよ
------------
梓が部屋を辞して、再び、父と息子が対面にすわり渋い顔をする。
無論、悩みの種は双方同じ。
彬 :「巧」
巧 :「はい、父上」
すっと顔をあげて真っ直ぐに父を見詰める。
彬 :「確か弧杖家の長女がお前と同い年であったな」
巧 :「弧杖家ご息女の……珠魅殿でいらっしゃいますね」
彬 :「巧。それとなく珠魅殿に接触し、魎壱殿の趣向などを聞
:きだせぬものか?」
一瞬、眉をぴくりと動かす。
巧 :「それは、構いませんが。根本的な問題のほうに目を移す
:べきではありませんか?」
彬 :「……目を移して今からあの娘が矯正できると?」
巧 :「……情報収集に力をいれます(ため息」
深々とため息をつく父子。
ふと、廊下からぱたぱたと足音が聞こえてくる。
ひょっこり顔をだしたのは、淡い草色の振袖を羽織った梓だった。
梓 :「お父さま、いかがですかー?」
彬 :「おお、梓。似合うぞ」
流れるような茶色がかった長い髪、穏やかに微笑む顔は黙って立っていれば、
なかなかの美女で通るだろう。
梓 :「うふふ、嬉しいです〜」
くるり、と着物をみせようとして。
SE :ずでっ
こけた。
というか、何もないところで何故こける。
彬 :「あ、梓っ!」
巧 :「姉上!大切な見合いの前に!怪我でもなさったらどうし
:ます!」
梓 :「……い、いたいです」
巧 :「姉上、しっかりなさってください!お怪我は?」
彬 :「……なんとかまとまってくれんものか……」
父と息子、ふたつの深い深いため息が重なった。
時系列
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2005年7月末
解説
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蒼雅家にて。わかってない姉、梓と。悩む巧と父。
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つづく
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