[KATARIBE 29019] Re: [HA06P] エピソード『無明の天使』

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Date: Thu, 4 Aug 2005 21:53:20 +0900 (JST)
From: gallows <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 29019] Re: [HA06P] エピソード『無明の天使』
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2005年08月04日:21時53分19秒
Sub:Re:  [HA06P] エピソード『無明の天使』 :
From:gallows


こんばんは、gallowsです。ちょっと前のチャットログの裏でも補完してみま
す。蛇足かなーとか思いつつ。
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[HA06P] エピソード『無明の天使』
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登場人物(追加分)
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煖(なん)
 無道邸メイド。前野の従者。

前野、桜木同盟──津海希の部屋
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 煖      :「ええ、外傷の方はほぼ……1週間もすれば完治するかと。
        :……問題は……ですね。考えうる手段は……」
 前野     :「そうか。俺は……から、指示があるまで……」
 煖      :「かしこまりました」
 
 枕もとで会話する二人の声が断片的に耳に入り、意識がまどろみから引き戻
される。前野が管理する洋館、無道邸の一室。津海希が以前間借りしていた元
自室とも言うべき部屋。家具の多くは備え付けのものであったので以前のまま
に置かれている。
 誰かが出て行き、扉の閉まる音が静かに脳髄に響く。起きなければ。無駄に
大きくクッションの効いた寝台に横たわる自分を自覚したとき、津海希は衝動
的な焦燥に駆られて跳ね起きようとした。
 体を支えようとした左腕は思うように動かずに苦痛で応える。包帯か何かで
固定されているようだった。その痛みに反射的に声をあげようとして、そこで
ようやく何があったかを思い出す。
 今や苦痛の声もあげられないのが自分であった、と。
 強引に上半身を持ち上げると壁に右手を叩きつけた。歯を食いしばって滅茶
苦茶に暴れた。すぐに気づいた煖に取り押さえられる。それでも収まらず、天
をにらみつけ声なき声で自分の軽率を呪う言葉を吐く。

 煖      :「落ち着いてください。大丈夫、大丈夫ですから」

 何が大丈夫なものか! 私はまた自分の将来を閉ざしてしまった。周囲の期
待を裏切ってしまった。大切な時間を無駄にしてしまった!
 津海希は攻撃対象を目の前のメイドに切り替え、怒声より鋭く刺さる視線を
向けた。
 煖は少し困ったような顔をしたが、困惑の仲にも笑顔を絶やさずに津海希を
胸元に抱き寄せる。そのままの姿勢でゆっくり一呼吸、二呼吸。背中を撫で付
けて落ち着かせる。

 煖      :「声は、戻ります。マスターが今そのために動き始めてい
        :ます。他の誰でもない。黒服、デジタライザー、サイクロ
        :プス、悪逆の徒、魔具製作者、沈黙する謀略、そしてあな
        :たの元執事である『前野浩』が本気で、です。それがどう
        :いう意味を持つのか。津海希さんならわかりますよね?」

 煖は子供に言い聞かせるように淡々と、それでいて不穏当な言葉をつむいだ。
その全てが前野浩という男を的確に表現している。その彼が少しも諦めていな
いのだと自分にとって姉のようなメイドが言う。ならば、ならば大丈夫なのか
もしれない。

 煖      :「津海希お嬢様は、ここでゆっくりお休みなさいませ。私
        :も私の姉も、できる限りのお手伝いはさせていただきます
        :から」

 顔を近づけ、眼の奥を覗き込むようにして言う。普段から笑顔を絶やさない
このメイドの瞳孔は、笑顔ゆえにあまり見る機会がない。その深い金色は人を
落ち着かせる。

 煖      :「では、私とマスターの診察の結果、聞きますか?」

 起きたときよりも、思い出せなかった英単語をふとした拍子に思い出せたと
きくらいには落ち着けた津海希がうなずく。

 煖      :「津海希さんは今声帯に限定して魂と肉体との接続が絶た
        :れています。応急処置としてヒーリングで連結しようと試
        :みてみましたが、欠けた部分に何かが変わりに入り込んで
        :おり適いませんでした。ところで、今の津海希さんは話せ
        :ないのみならず、対話に関する技術、知識も喪失している
        :のではないですか?」

 唐突な問いかけに津海希はしばし考える。そして唖然としてしまった。普段
寄り添っていた経験の支柱を消失している感覚。精神的に不安定になるのも当
然だ。人は何かに拠って立つ事なしに世界と向き合うことはできない。
 
 煖      :「私の精霊術の文脈ではこれ以上のことは推測になります
        :が……敵は犠牲者の技術をその礎ごと奪うために、自分の
        :構成要素を流し込んで分解を促し、そのまま技術封印の蓋
        :にもしていると思われます。津海希さんの今欠いているも
        :のは、必ずその天使の少女の元にあるかと」

 それだけ言い終わると、煖は部屋を出て行った。
 津海希はぽふんと枕に体をうずめ、目を瞑って考える。

──奪われたのならば、奪い返すしかないじゃない。

 やるべき事を言語化したとき、津海希の中にかすかな闘志が沸いてきた。
 枕元においてあったハンドバッグから手帳を取り出す。
 事件の対処のために記したメモの合間に、その後わかった情報、自分の置か
れた状況を一つ一つ埋めていく。うまく言葉が出てこない。子供のような語彙
しか操れない。それでもなんとか埋めていく。そうして、自分がどれだけ無防
備であったかをやっと理解する。
 先生は最初から止めていた。わかっていたのだ。
 そうして津海希は事件の前の桜木とのやり取りを思い起こす。
 弟子失格、きっと破門ね──そう考えると津海希の一瞬沸いて出たやる気は
通り雨のように過ぎ去ってしまった。自分は猫回しの名をどれだけ貶めてし
まったのか。その損失は? 自分はなぜ責任を背負いきれるなんて考えてし
まったのだろう。今の津海希にはどれも判別がつかなかったが、桜木はもう自
分に侮蔑の目しか向けないだろう事は想像ができた。
 それは、怖いし悲しい。

 一通り悔いて悔いてそれが思考停止に至った頃、煖が珍しいスーツ姿で戻っ
てきた。

 煖      :「桜木様……先生がお帰りになりますが、いかがいたしま
        :すか?」

 なぜ先生が? という疑問。そして叱られるのではないかという、子供じみ
た恐怖心が心を満たす。

 煖      :「マスターのお客様としてお呼びしました。マスターは津
        :海希さんの刺激にならぬようにと考えているようでしたが、
        :それは過保護というものですよね」

 そして、一人で歩けますよね、津海希お嬢様、と繋げるのだった。


時系列と舞台
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 津海希が天使憑きに声を奪われたあと。
 前野と桜木の話し合いの裏。


関連リンク
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狭間06Wiki:無明の天使
   http://hiki.kataribe.jp/HA06/?HA06P_DarkAngel
   長編エピソード『無明の天使』シリーズのtopic速報サイト。


解説
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 一度は落ち着く津海希だが、自分の状況を理解してどっぷり落ち込む。

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