[KATARIBE 28992] Re: [HA06P] エピソード『無明の天使』(編集版)

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Date: Sat, 30 Jul 2005 22:04:35 +0900
From: 月影れあな <tk-leana@gaia.eonet.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28992] Re: [HA06P] エピソード『無明の天使』(編集版)
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 ういっす、れあなです。
 続きの一部を流しますです、はい

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エピソード『無明の天使』
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屋敷の前で
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 こういった事件には人より耐性があるとは言え、ベルナデッタもただのシス
ターで、探偵ではない。人探しというものに挑戦するのはこれが初めてで、従っ
て手をつけることといえばまず沙耶子の家を訊ねるくらいしか思いつかなかっ
た。

 少女と同級の信徒から聞き出した住所にあった家は、存外に巨大な門構えを
した古い屋敷だった。表札を見て、僅かに首をかしげる。最高級の桐で拵えら
れたそれに、書かれている文字は『岩倉』。
 住所を間違えただろうか? そう思い、手にしたメモを確認しなおす。確か
にその家であるはずだった。

 狐面の男   :「どうかなさいました、シスター」
 ベルナデッタ :「ひゃッ!」

 突然に後ろから声をかけられ、ベルナデッタは思わず飛び上がった。

 狐面の男   :「?」
 ベルナデッタ :「あ、ああ。ごめんなさい、私ったらはしたない」
 狐面の男   :「この家になにか用ですかね?」
 ベルナデッタ :「あ、はい。こちら、志摩さんのお宅ではないんですか?」
 狐面の男   :「ははあ」

 その狐のような細面の青年は、得心がいったというように深く頷く。

 狐面の男   :「沙耶子お嬢さんは母方の姓を名乗っておられましたから
        :ね。大丈夫、こちら志摩沙耶子さんのお宅で合ってますよ。
        :失礼ですが、シスター・ベルナデッタ?」
 ベルナデッタ :「え、はい。そうですけど? どうして……」
 狐面の男   :「こちらの家の主人がお待ちです、どうぞお上がりくださ
        :い」

 疑問を唱える間も無く、狐面の男は扉を開き中に進んでいく。
 果たして付いて行ってよいものかとベルナデッタが躊躇していると、不意に
男は立ち止まり、振り返って言う。

 狐面の男   :「お嬢さんのことについてお話があるのではないのですか?」
 ベルナデッタ :「どうしてそれを?」
 狐面の男   :「さあ、そこまでは? 私はこの館におわすお方から、あ
        :なたを連れてくるように言われただけですから」

 にこやかな微笑を顔に貼り付けて、狐面の男は伺う。

 狐面の男   :「それで、付いて来ますか? やめておきますか?」

 そう言われては、ベルナデッタも引き返すわけにはいかない。意を決して、
玄関の門を潜りぬけた。

 狐面の男   :「結構です、それではこちらに」


蛇の穴
------
 曲がりくねった縁の廊下と、数枚の戸襖を経て通されたその部屋は、家の外
観からは思いもつかないような不釣合いな洋間だった。
 部屋の中央、豪奢な波斯絨毯に乗せて置かれたソファーの上で、ゆったりと
寛いでいた頑強な体格の紳士が一人。男に連れられ部屋に入ったベルナデッタ
を見て、颯爽と立ち上がる。

 隆作     :「初めまして、シスター・ベルナデッタ。私が沙耶子の父、
        :岩倉隆作だ」
 ベルナデッタ :「初めまして、岩倉さん。一体これはどういうことですか?」

 開口一番、ベルナデッタはこの部屋にたどり着くまでずっと引っかかってい
た疑問を口にした。
 少女の父と名乗った紳士は、ふと口元を愉快そうに歪めて、くつくつと喉の
奥で笑う。

 隆作     :「どういうこととは? さて、質問の意図を図りかねるな。
        :もっと明確に言ってもらいたいものだ」
 ベルナデッタ :「とぼけないで下さい! どうして、私がここに来ると知っ
        :ていたのですか? そして、どうして私をここに通しまし
        :たか! もしかして、あなた方は沙耶子ちゃんの失踪に……」
 隆作     :「シスター。あなたが妄想逞しくするのは構わないが、そ
        :れよりも先にこちらの話も聞いてくれんかな?」

 やんわりと。そういった態度で隆作はベルナデッタの詰問を遮る。ハッと赤
くなって、ベルナデッタは小さく咳払いをした。

 ベルナデッタ :「し、失礼しました。それで、どうして私がここに来ると?」
 隆作     :「私はそれを知っていた、その事実だけでは足りんかね」
 ベルナデッタ :「当然です!」

 からかうような隆作の言葉に、ベルナデッタの語気が一瞬荒くなる。

 隆作     :「しかし、それ以外に言いようが無い。私はそれを知るこ
        :とが出来た。無論、尋常の手段ではないがね。あなたも吹
        :利本町教会のシスターならご存知だろう。この世には科学
        :的な法則では割り切れない現象も確実に存在するのだと」
 ベルナデッタ :「――ッ!? どうしてそのことを!」
 隆作     :「我が家も代々占事を司る家系でな、そういった裏の事情
        :には聡いのだよ」

 自慢するでもなく、さりとて負い目に感じているような様子も無く、さらり
と自然に隆作は言った。

 隆作     :「それで、あなたが出てきたということは、娘の失踪には
        :オカルトの関与した疑いがあるということかね?」
 ベルナデッタ :「……はい、それでよろしければ、彼女の家出する直前の
        :様子についてお伺いしたいのですが」
 隆作     :「あれの家出についてのことか」

 あれ、とまるで物のように言った。
 一瞬、その口調に微かな軽侮の色が混じったような気がして、ベルナデッタ
は思わず隆作の目を見返す。だが、遠くを見つめるように細められたその瞳か
らは何も伺えない。気のせいだったろうか? ベルナデッタが考え込もうとす
る前に、隆作の言葉が続けられる。

 隆作     :「身内の恥を晒すようで恥ずかしいことだが、娘には酷く
        :嫌われていてね。先日も、仕事のことについて責められた
        :ばかりだった」
 ベルナデッタ :「喧嘩ですか」
 隆作     :「ああ。妻は娘が六つになる前に死んでしまってね、世話
        :は乳母に任せきりだった。私も仕事にかかりきりで、ろく
        :に構ってやることも出来なかったから。恨まれていても仕
        :方ないとは思っている」
 ベルナデッタ :「す、すみません。個人的なことを話させてしまって」
 隆作     :「構わんよ。少しは参考になったかね?」
 ベルナデッタ :「はい、ありがとうございました」
 隆作     :「あんな娘でも私の子供だ、可愛くないはずがない。なに
        :かできることがあればいつでも言ってくれたまえ。協力は
        :惜しまん」


蠢く策謀
--------
 ベルナデッタの去った後。
 隆介は鬱屈した笑いの衝動を堪えるようにワインを口に含み、その太い口元
を吊り上げる。

 隆作     :「吹利本町教会か。ヴァチカンの精鋭揃いだと聞いていた
        :が、あの様子では言うほどのことも無さそうだな。万が一
        :の安全弁程度にはなってもらいたいものだが……」
 狐面の男   :「何故わざわざお会いに?」
 隆作     :「あの手合いにはそれが一番効く」

 皮肉気に口元を吊り上げる男の目には、先ほどベルナデッタに語った時に浮
かんでいた、娘を思いやる親の痛々しい様子は欠片もない。

 隆作     :「猫廻しにも断られた今、駒は多いに越したことはないか
        :らな。放置すれば最悪、野良の能力者に狩られたというこ
        :とにもなりかねん」

 瞳に暗い炎を宿して、男は低く呟く。

 隆作     :「あれに死んでもらうわけにはいかんのだ。少なくとも、
        :奪われたものを返してもらうまではな」

 ガシャンとガラスの割れる音。
 男は癇癪を起こしたようにグラスをテーブルにに叩きつけた。語気からは呪
詛のような低い怒りの色がもれている。こぼれ落ちたワインはテーブルの足を
伝って、豪奢な波斯絨毯を容赦なく濡らしていく。
 その様子を背後から見つめる狐面の男の酷く冷めた視線には、ついに気付く
ことは無かった。


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