[KATARIBE 28979] [HA06N] 小説『佐上雑貨店にて』

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Date: Fri, 29 Jul 2005 01:29:07 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28979] [HA06N] 小説『佐上雑貨店にて』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年07月29日:01時29分07秒
Sub:[HA06N]小説『佐上雑貨店にて』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
最近引っ込み勝ちだった、六華の話です。
……こいつもちゃんと書かないとなあ(うぐうぐ)
氷我利さんをぼこすかお借りしました>きしとん。
台詞等、チェックお願い致します(礼)

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小説『佐上雑貨店にて』
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 登場人物
 --------
  六華(りっか)
   :元花魁の冬女。現在様々あって、一人立ちを目指し中。
   :この話の語り手。
  佐上氷我利(さかみひがり)
      :雑貨屋さんの店長代理、背中にでっかい本を背負ってる人

本文
----

 自分の考えの甘さとか、これだけ長く生きる間にすっかり忘れてしまってい
たこととか。
 そんなことを。
 アルバイトに行く道すがら、歩きながら考えた。


「宜しくお願いします」
「こちらこそ」

 氷我利さんという人は、何となくひょろんとした……と言って言葉が悪けれ
ば飄々とした人で、その割に常にやたらに大きな本を背負っている人でもある。
 大型リュックほどもある本は、この人にはかなり負担かと思うのだけど、で
も見たところ苦にしているようではない。
 慣れているのもあるだろうし……恐らく案外そういうことに構わないのかも
しれないな、と、ふと。
 このアルバイトについても、ゆっきーさんの紹介一つで納得して下さったよ
うであるし。
 ……考えてみれば、本当に有難し。

「じゃ、実際の仕事ですけど、レジはここで」
「はい」
「打ちかた……は、慣れてもらうしかないかな。あと値段と、どこに何が置い
てあるかも」
「はい」

 がんばってね、六華さん!と、応援の言葉と一緒に美絵子さんが持たせてく
れたお弁当。鞄の上から、一度それを撫でて。

「あ、荷物、こちらに置いて下さい」
「あの」
「こっちだと涼しいから」

 お店の中も、結構涼しいのだけど。

 硝子の引き戸の外を、箒で掃いて、水を打って。
 その後、倉庫のほうから幾つかの台を持ち出して。
 日に晒しても大丈夫な品物を、そこに置くのだと氷我利さんは言う。

「といいますと?」
「たとえば、スコップとか、火バサミとか」
「……ああ、はい」
 確かに、直射日光の下で、スコップが変質したら……それは商品としては、
かなり困ると思う。
「一人でこの台を出すのは無理だから、僕が居ない時は誰かに手伝わせるよう
にしておきます」
「あ、有難うございます」

 モノに憑いた、思いや執着。
 モノ自体をいつのまにか擬人化してゆく、人の性。
 多分、そんな風にしていつのまにか人とも化すようになったモノ達が、ここ
には大勢居るのだと思う。
 きちんと秩序を守る子達は、それなりに自由に動くことが出来るのだ、と。
 そんな風に、聞いた。


「今日は、僕も居ますから。レジの練習と、あと商品の位置を見といて下さい」
「はい」
「あ、あと、品物が無くなってたら……チェックお願いします。こちらのノー
トに」
「あ、はい……」

 結構やっぱり、忙しいのかな、と、思ったのだけど。
 どうやら表情を読まれたらしく、ここあんまりお客来ないんです、と、氷我
利さんは苦笑しながら付け加えた。

 硝子戸の中も外も、ほんのりとセピアの色に染まっている。
 長い長い時間が凝ったような、細かい埃がさらさらと舞う。
 
 開店時間が過ぎてから10分ほどして、お客さんがぽつりぽつりと入ってき
た。結構時間をかけて品物を選び、そしてレジへとやってくる。

「あ、新しい人?」
「はい、宜しくお願いします」

 そんな月並みな挨拶もまた、ゆったりと流れるように聞こえる。

 ゆったりと、ゆらりと。
 レジのキーを叩いて、おつりを確認して。
 
「覚え、早いですね」
「え、そうですか?」
「良かった、助かった」

 そんな会話。


 何が許せなかったのだろう、と、考える。
 誰が許せなかったのだろう、と、考える。

 雪野の名しか持たなかった頃にも、身請けしようとしたひとは居た。けれど
あたしは何を対価として渡せば良いのか、心得ていた。

 生きるには対価が必要である。
 そのことをすっかりと忘れていた自分への不甲斐なさ。忘れさせていた達大
さんへの……ある意味での八つ当たり。
 けれども、対価を要求されないほどに、自分には力が無かったか。
 そう、思い知らされることは……やはり、辛い。


 からから、と、硝子戸を引きあけて、お客さんがやってくる。
「いらっしゃいませ」
 声をかける。
「あどうも……バイトさん?」
 後半は氷我利さんに向いての言葉である。
「はい、今日から入ってもらってます」
「あそう」
「宜しくお願いします」

 挨拶して、レジを打って、お客さんの様子を眺めて。
 自分に価値があるかどうかは、わからないけれども。
 無為に過ごしている不安は、確かに今は……無いと思う。

 
 このようなこと、贅沢かもしれませぬが。
 しかしそれでも。

 ……この世でも身請けされていたのかと。
 そのことを、知らされもしていなかったかと。

 少し……辛うございましたよ、達大さん。


「えーと、六華さん?」
「あ、はい?」
「今、お昼だし、お客さん居ないから、今のうちご飯食べてもらえるかな」
「宜しいんでしょうか、先に頂いて」
「うん、どうぞどうぞ……そっちの居間で」
「……有難うございます」

 上がり口で靴を揃えて。
 置かせて貰っていた鞄から、お弁当を出して。


 (がんばって、六華さん)

 正しいのか正しくないのか。
 そんなことは今のところ、わからないけれど。

 けれど。
 あとしばらくこのまま、頑張ろうと思う。
 頑張ってみようと、思う。


時系列
------
 2005年7月上旬。

解説
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 ネズミ騒動から始まった、六華の『目指せ、一人立ち!』の第一歩。
 佐上雑貨店でのアルバイトの初日の風景です。

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 てなとこです。
 ではでは。





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