[KATARIBE 28974] [HA20N] 小説『図書室通信・其の参』

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Date: Thu, 28 Jul 2005 22:45:24 +0900 (JST)
From: いー・あーる  <furutani@mahoroba.ne.jp>
Subject: [KATARIBE 28974] [HA20N] 小説『図書室通信・其の参』
To: kataribe-ml@trpg.net
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2005年07月28日:22時45分24秒
Sub:[HA20N]小説『図書室通信・其の参』:
From:いー・あーる


ども、いー・あーるです。
もそもそ書いてます。
結構火渡先輩が気に入ってるかも。
……というわけで、以前きゃらちゃやったログを見つつ、それを加工して
書いてみました。

チェック、お願いします>ひさしゃん

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小説『図書室通信・其の参』
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 登場人物
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  石雲悠也(いしくも・ゆうや)
   :西生駒高校一年生。図書委員。石化能力者。
  火渡源太(ひわたし・げんた)
   :西生駒高校二年生。図書委員。図書室の本を知悉している。
  真越倫太郎(まこし・りんたろう)
   :西生駒高校二年生。重度時間流動障害を持つ少年。あだ名はマコリン


本文
----

 時折思う。
 先輩達ってのはその権利を最大限に活用かつ濫用する人々ではないか、と。
 ……でなければ火渡先輩が、毎度毎度僕の当番に重なる筈が無い。

「莫迦言ってるんじゃないよ。こちら授業とクラブの兼ね合いからこの日を選
んでるだけだよ?」
 そう言う先輩が、速攻帰宅部であることくらいは、流石にこちらも知ってる
んだけど。
 そしてまた、どういう訳か、先輩と一緒にカウンター前に座っていると、妙
な事件が起こるような気がする。これはかなり確実に。


「あれ、この本貸し出し中なの?」
 その日は割と返却本が多く、手続きの終わった本から棚に返すように先輩か
ら言い付かったところだった。
「……はい?」
 図書室常連、だろう。何だか見たところ中学生みたいな、でもどうやら火渡
先輩と同学年らしいその先輩は、本棚の前で首を傾げている。 
「……ってそれ、禁帯出本ですが」
「でも、棚においてなくて……こないだからずっと」
「え?」
 先輩は困ったように、本棚の隙間を示す。
 確かに指一本分の隙間が、そこにはある。
「こないだって言うと、何時からでしょうか?」
「一週間くらいまえから」
 ……一体この間の図書委員、何を見てたんだ――と言いたいけど、下手する
とこちらの責任でもあるかもしれない(一週間前は僕の番だったし)。
 なんてこと思っているこちらの内心を読んだかどうか、先輩は苦笑した。
「読みたかったんだけど、誰かが借りてるのかなーって」
「すみません、すぐ探します」
「あ、はーい」

 とりあえずカウンターに戻る。先輩に報告して時間を貰わねば。
 まず返却本を片付けて、戻りかける。と。
「えと、手伝おっか?」
「え?」
「本棚さがすくらいならできるし」
「あ、はい、お願いします」

 何だか奇特な人だな、と思いつつ、カウンターに戻る。
 火渡先輩は頬杖をついてこちらを見ていたらしい。
「お、真越。何か借りる本めっけた?」
「ううん、読みたい本、禁帯出にあったんだけど、無くなってて」
「なにっ?!」

 先輩の目の色が変わる。
 流石図書室の影の主(他の二年の先輩曰く)である。

「僕と……ええと」
「石雲です、一年の」
「うん、石雲君と一緒に本探してくるね」
「頼む。真越は本の題名とか知ってるよな?」
「うん。ビルケンフェルトの『黒い魔術』」
 ……題名だけ聞くと、えらい怖い本だな。
「うーん、それ、禁帯出になってたっけ?」
「うん、確か」
「……おかしいなあ」
 火渡先輩は首を傾げる。
「な、何かまずいですか?」
「いや、その本確か、前には貸し出しされてた筈なんだけど……」
 何でまたこの先輩は、そんなことまで覚えてるかな。
「まあいいや。見つけたら持ってきて。カウンターで確認して、もし貸し出し
可能に出来そうなら、図書の先生にも聞いてみるから」
「おっけー」
「判りました」

 先輩……真越先輩、か……は、てこてこと先に本棚へと向う。
「じゃ、僕はこちらを探しますから」
「うん、じゃ、僕こっちを見るね」

 本棚の隙間、また左右に並んでた本の大きさから考えて、探している本の大
体の大きさは判る。
 こちらの棚から虱潰しに本を引っ張り出して、確認。無論背表紙に題名は書
いてあるだろうが、念のためという奴だ。
 透明のシートで包んだ、ハードカバーの本を一冊ずつ引っ張り出して、確認。
結構……はかがいかないものだ。

 と。

「あれ、これ……どしたんだろ」
 真越先輩の声は、割に高い。その高い声で、多分先輩自身は呟いている積り
なんだろうけど、結構ここまできっちり聞こえたりする。
「え?」

 幾つか先の書架に向う。先輩は首をひねりながら、一冊の本を持っている。
 一目見て……この本は、変だ。
「……それ、図書室の本ですか?」
 図書室の本は、まずカバーを外してから分類用のシールを貼る。時には、捨
てるに勿体無いカバーもあるが、それでも外す(但し画集とかだと、多少扱い
は違うらしいが)。外したカバーは時々図書委員が寄ってたかって分配し、本
を保護する透明シートを貼って栞に加工したりしてる。
 ええと閑話休題。つまり図書室の本に、カバーが掛かってるわけは、無い。
 ……のに。
「カバーがかかってるけど」
 多分先輩も、そこらは判っているのだろう。不思議そうな顔をして本を見て
いる。
「新しくいれた本?」
「いえ。もしカバーつけておくことにしたとしても、分類番号はカバーの上に
張ります」
 先輩の肩越しに、本の背表紙を見る。
 やっぱり、分類番号用のシールは、無い。
 カバーも色は濃緑一色、わざわざと外さないでおく理由が、無い。
「……誰だこれやったの」

 と…………

「……っ?!」
 カバーの表紙の部分。深緑の色の中から、ふっと丸い浮き彫り様のものが浮
き上がったのだ。それはたちまち輪郭をくっきりと浮き上がらせて……
 …………目?!
「ん?」
 きょとんとしたまま本を持っている先輩の手元。丁度開いた頁から、少し黄
味がかった白い牙がしゅるっと伸びる。
「動くなっ!」
「わっ」
 先輩が本を、振り払うように落す。白い牙と血走った目を浮かび上がらせた
本は、そのまま床の上におっこちた。
 どうやら、僕の声は、この得体の知れない本にも通用したようだ。

「…………なんですかこれ」
 返事があるとは期待してなかったけど、先輩はぶんぶんと大きく首を横に振っ
た。
 見事な身体言語……と言っていいのか悪いのか。

 本を、手にとる。
 カバーの表紙部分には、目がついている。
 開いたページから、と思ったのはどうやら間違いだったようだ。丁度表紙の
横の部分から、親指程度の牙がにゅっと伸びている。
 ……どうなってるんだ、これ、本当に。
 一度本を引っくり返す。やっぱり……何かかなり無茶な具合に牙が生えてる。
 ふむ。

「…………先輩」
「え?」
「この牙折って、目を潰しましょうか」
 とりあえずこんなもんくっついた状態で、本を読むのはとても厄介だ。
「……それで大丈夫かなあ」
「牙は……折るより引き抜く、かな?」
 ちょんちょん、とつついてみる。
 歯は、案外しっかりとくっ付いている。

「でも、目は問題ですね」
 凍りついたように動かない目は、赤く充血している。
 とりあえず……こんなもんくっ付いた本を、悠長に読みたいとは思わない。
「このカバーはずせないかなあ」
 そこらはやっぱり、同感だったんだろう。手を伸ばすから本を渡したら、先
輩はまじまじと表紙の目を見てから、そう言った。
「ええと、この上の透明カバーを外すと……」
 ちょっと表紙をめくってみる。うん、カバーごと透明カバーで本体にくっ付
けてある。……というか、どうやらこれ、表紙にまず透明シートを貼って、そ
の上にもう一度紙の(というか目と牙のくっついた)カバーを載せて、また透
明シートをかけているようだ。

「うん、外せます」
 そういう意味では、下に透明シートが貼ってあるだけ、はがすのは簡単かも
しれない。
「じゃあカバーはずして、このカバーだけ処分しちゃおか」
「そうですね」
 確かカウンターのところには、カッターナイフや作業台もある筈だ。
「外して、焼きましょうか」
「そうだね」
「そうしましょう」


 並んでカウンターに戻る。頬杖をついていた先輩は、やっぱり少しだけ首を
傾げてこちらを見た。

「……図書室七不思議?」
「これがそれに当たるかどうか、ちょっと判りませんが」
「多分そうだと思うよ」
 真越先輩が、こっくりと大きく頷いてくれる。
「ふむ……ちょっと見せて」

 火渡先輩は本を受け取ると、少し目を細めてそれを見た。
 
「まあ、七不思議のひとつ、かな……真越、これが探してた本?」
「え?あ、いや、わかんない。先に変な本だと思って見つけたから」
「ふうん……」
 
 言いながら先輩は片手で引き出しを開ける。カッターナイフを引っ張り出し
て、ちきちきと歯を出して……そして先輩はふとこちらを見た。

「石雲」
「はい?」
「これやってんの、お前?」

 言葉はかなり足りなかったけど、先輩の言いたいことは良く判った。

『これ、こうやって固定しているの、お前?』

 一瞬、何と言おうかと躊躇ったけど。

「……はい」
 正直第一。別に悪いことをしてるわけじゃない。そうは思っても、やっぱり
それなりに申告するには覚悟が要ったんだけど。

「あ、じゃ、そのまんまにしとけよ。動かすなよ?」
 
 ……見事に肩透かしを食らったというか、この先輩動じないってか……

「上の一枚だけ、はがせばいいな」
 ぶつぶつと呟きながら、先輩は手を動かす。カッターの先を二枚のシートの
間に滑り込ませ、上のシートと、それにくっついているカバーだけを取り外す。
 ゆっくり、ゆっくりと、シートを外して。
 表紙に型押しされた文字を見た途端。

「あ、これ……」
「え?」
「捜してた本だ」
「え?!」
 慌てて、文字を見直す。
 確かに、『黒い魔術』と書いてある。
「……ああ、やっぱりね」
 ぼそ、と呟きながらも、火渡先輩は手を止めない。ゆっくりと上のカバーを
はがして背表紙にまで至ると、そこにはちゃんと分類用のシールも貼ってある。

「……あ、ほんとだ」
「処理もちゃんとされてるね」

 ついでに背表紙には、禁帯出のシールも貼ってある。

「じゃ、真越、とりあえずこの本、そこで読んどいて」
 くるくると剥がしたカバーを片手に、火渡先輩は本を真越先輩に渡した。
「うん、ありがとー」

 受け取って一礼すると、真越先輩はまたてこてこと閲覧テーブルに向った。
 っと。
「あ、先輩、本探し、有難うございました」
 一礼すると、先輩はえ、と、振り返った顔をそのままほころばせた。
「僕も読みたかったし。こちらこそありがとね」
 にこにこと。
 どこか中学生に見える顔に、やっぱり人のいい笑みを浮かべて。


「……さて、石雲」
「はい?」
 振り返ると、火渡先輩が、手の中のカバーを眉を顰めて眺めている。
「ちょっと、司書室に同行せい」
「……はい?」
「図書室七不思議のうちの一つ。妖怪ブックカバー。知らぬまに本に取り付い
て擬態し、手にとるものを襲う」

 ……はい?

「見つける度に司書の先生に渡して処理して貰ってるんだけど、何ヶ月かに一
度は出てくるんだよね」
「はあ」
「ちょっと黴みたいなもん、かね」
「…………」
 これを黴に喩えるあたり、火渡先輩って豪胆というか妙である。

「って、僕も一緒にですか?」
「そうだよ?」
 ……そこまで平然として言うかな。
「だって、これを固定してるの、お前なんだろ?」
「……あ」
 そういえばそうだった。
 慌ててカバーに視点を定め、もう一度口の中で『動くな』と唱える。
 こちらに向きそうな黒目が、やはりぴたりと止まった。

「でも、ここ、無人になっていいんですか?」
「んー……ちょい待ってろ」

 言うなり先輩はとっとと前進した。早速座って本を開いている真越先輩の横
を通り、二つ目のテーブルの男子生徒に声をかける。
 ……って、あれも図書委員か。
 少し首を傾げていたその人も、少し笑うと立ち上がってカウンターのほうに
来る。名前を確かめたくて名札を見ようと目をこらしたところで、

「ほら、石雲」

 おいでおいで、と、先輩が手招きするので。

「はい」

 手元のカードだけを揃えて、慌ててカウンターから廻って先輩のほうに行く。
 先輩はもう、さっさと図書室の扉を開けているところだった。


 こんな妙なカバーを持ち込まれて、平然と処理する司書の先生のこととか。
 そもそも黴に喩えられるくらい、結構こんなもんが出てくる、この図書室自
体とか。
 色々と、何だか頭の中に疑問符は沸くけれども。

 ……まあ、そんなもんかとも思う。


 西生駒高校、図書室。
 まだまだどうやら、不思議には不足していないらしい。


解説
----
 西生駒高校、図書室の怪再び。
 真越倫太郎君に登場願いました。
 参考としたログは、以下のとおりです。

http://kataribe.com/IRC/HA07/2005/06/20050626.html#010000
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 てなもんで。
 ……でもここって、七不思議で足りるんかいな(汗)

 ではでは。



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